教育と研究の両輪で連携し、成果に結ぶ事例をもっと増やしていきたい ブックマークが追加されました
デロイト トーマツ サイバーでは、早稲田大学に対してサイバーセキュリティの専門家による寄附講座を提供しています。本シリーズ(全3回)では、本寄附講座の意義について早稲田大学のご担当者へのインタビューと、受講者であり、現在はデロイト トーマツ サイバーでサイバーセキュリティの専門家として働くメンバーへのインタビューの模様をお届けします。
寄附講座は、大学のカリキュラムだけではカバーしきれない話を聞くことができる貴重な機会です。普段なかなか聞けない生々しいお話を聞くこともできますし、録音しない前提で裏話もしていただけるので、学生たちの刺激にもなっています。
大学としては、そういった機会を学生に提供できてとてもありがたいと思っています。
寄附講座自体はかなり以前から行っており、20年以上に亘ってご提供いただいている企業もあります。全学合わせると30社ほどの企業や組織の方々にご提供いただけています。
森 達哉/Tatsuya Mori 早稲田大学 基幹理工学部教授
いろいろな企業や組織の方々から、ビジネスやマーケティング、法制度といった実務経験に基づいた授業を提供いただけるというのが一番のポイントになります。
デロイト トーマツ サイバー(以下、デロイト)さんにご提供いただいているサイバー寄附講座に関してはトライアルを含めて3年ほど継続して提供いただいています。
デロイトさんは、本学だけでなく、他大学でもサイバーセキュリティのトレーニングなどを提供されています。知り合いと話しているとき、たまたま話題になり、デロイトさんから「早稲田でもやってみないか」というお話をいただいたので、トライアルを実施することになりました。
トライアルに参加した受講生にインタビューをしたところ、とても評判がよかったので、学内で審議する際に学生からの声を伝えると、全会一致で講座を開設することに決まりました。そういった経緯で、サイバー寄附講座が始まったんです。
我々の学科は情報通信系ですが、メニューとしてサイバーセキュリティに関する科目が少ないという課題がありました。これまで暗号技術に関する内容の講義は提供してきましたが、短期間で変化するサイバーセキュリティの内容を講義の中で教えていくということは簡単ではないんです。
寄附講座では、サイバーセキュリティの現在の状況や、どういった会社がサイバーセキュリティを仕事にしているのかなど、現場の声を伝えていただいています。
例えば「軍事戦略としてサイバー戦を含んだハイブリッド戦争がある」というような最新のトピックを使ってセキュリティの解説をしていただいています。こういう話を聞いた学生は、セキュリティを知ることはとても重要で、さまざまな領域で求められているということを理解できたようです。
セキュリティの重要性は学科としても認識しているので、それを提供できる講座は非常にありがたいと思っています。
この寄附講座を受講した学生の中から、サイバーセキュリティ関連の会社に就職したというケースもあります。学生にとって、とてもいい機会になっていると感じています。
基本的に、学部3年生向けに設置している講座となりますが、大学院生も受講できます。学部などの制限は設けておらず、文学部や政治経済学部、商学部など幅広い学部から受講するケースもあります。本当に幅広い学生が受講しています。
おっしゃるとおり、セキュリティ自体、かなり幅が広いですね。ハードウェアやテクノロジーに留まらず、人間の心理なども関係していますからね。そのため、心理学に興味がある学生がサイバーセキュリティを学ぶというケースもありました。
サイバーセキュリティは、社会や法制度などにも大きな影響を与えます。寄附講座でも、その辺りのことも含めて幅広い話題が取り上げられています。
受講生からは、「リアルな話なセキュリティの話が聞けた」「監査法人から見るサイバーセキュリティの考え方を知ることができてよかった」「弁護士とか新聞記者などが様々な方のサイバーセキュリティについて考え方を知ることができた」というように、多くの意見が集まっています。
アンケートを見ると、大学の教員からでは聞けないような話が聞けてよかったという声が圧倒的に多いですね。やはり、実際に実務されている方の体験は迫力があるので、それが評判につながっているのだと思います。
この寄附講座は、教員からの評判もいいんです。ネットワークは非常に広範囲に亘る話題なので、ソフトウェアやネットワークなどを研究している先生方にとってもとても重要な要素となっています。
餅は餅屋ではないんですが、常にアップデートされるセキュリティについて詳しい講座があることで、先生方が自身の授業や研究に集中しやすい環境が作れているという部分もあるのです。
「質問」しやすくするために、オンラインで質問できる仕組みを用意しました。オンラインで質問すると、それに対してリアルタイムで回答が返ってくる。普段聞けないことや質問のフィードバックがあるのもよかったんだと思います。
ほかの講座では、ここまで活発に質問がやりとりされることはありません。学生が質問するには、前提として講座の内容に興味がなければなりませんし、内容が理解できないと質問することもできません。学生が興味を持って、質問したいと感じられることも重要です。それだけ講座の内容がわかりやすく、自分の身に置き換えて考えやすかったのだと思います。
実際に質問した学生は、その質問や回答を自分自身の知識として蓄積していったと思います。レポートの課題を見ると、講座の話を受けて考えたことなどが反映されていました。
通常、学生は同じ授業を何度も受けることはありませんが、この寄附講座については、毎年受講しても価値があると感じています。私自身、毎年全ての授業を拝見していますが、それぞれの講師の方が内容を変えてくださっています。今年と来年とでは状況も違いますし、トレンドも変わっていきます。その時々の情勢に合わせた内容を入れていただけているので、非常にありがたいと感じています。
この講座は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けてオンラインに切り替わりました。それ以降、全てオンラインで実施されています。今後の情勢を見ながら、対面で行うことも考えています。対面だともっと迫力が感じられて、学生たちにいい影響を与えられるのではないかと思っています。
グループディスカッションなど、学生が能動的に参加できる形も模索しています。この辺りについてはデロイトさんとも企画を練っています。
あと、早稲田特有の環境ではあるのですが、留学生が多いということにも配慮したいなと思っています。英語で学位が取れるプログラムも用意しているため、そういった学生も参加しやすいように、英語での講座もあると面白いかなと考えています。このあたりについてもデロイトさんと相談していきたいですね。
大学で学んだ基礎知識が社会でどのように活用され、実装されているのかということを具体的に知るということは、一生懸命学んでいる学生の励みになり、とても重要だと感じています。
企業も大学をうまく活用してほしいですね。例えば、デロイトさんに就職した卒業生が、博士号を取得するために社会人博士として私の研究室に戻ってきました。このような取り組みは、学生や大学、企業それぞれにとってメリットがあると思っています。
学生にとってはキャリア形成につながりますし、我々も研究が進む。会社での経験を積むと、新しい視点で研究テーマを持つことができるんです。大学の中ではなかなか気がつかない視点や本質的な部分を理解した上で、研究成果を博士論文としてまとめることもできるでしょう。
このように、教育と研究の両輪で連携できるという状況を作り、成果に結びつけていく事例をもっと増やしていきたいですね。そういった意味でもデロイトさんにはとても期待していますし、我々もその期待に応えたいと思っています。