2022/5/31

不確実性の時代、コンサルタントは「専門」だけで生き残れるか?

不確実性の時代、組織はどう変わるべきか

── 池崎さんは、コンサルタントとしてコーポレート組織の変革を担われています。キャリアとしては、財務会計のアドバイザリーから始まったんですか。
 はい。私は2014年に新卒でデロイト トーマツ コンサルティング合同会社(以下、DTC)に入社して、2年目からFinance & Performanceという組織に所属しています。
 この組織では、企業の経営戦略や財務会計を担う組織をお客様に、目指す将来像の策定から業務・システムの構築まで幅広く取り組んでいます。
 昨今で言えば、ERP(Enterprise Resources Planning)導入などDX関連もありますが、経営管理、人財育成、シェアードセンターの設立など、テーマは多岐にわたります。
 そこで経営管理やERP導入などのプロジェクトに携わりながら、関心を持っていたコーポレート全体の改革や組織変革にも取り組んできました。
── 多くの企業がDXに取り組んでいるなかで財務会計のデジタル化を手がけてこられた。そこからコーポレート全体の変革へはシームレスにつながっていたんですか。
 もちろん俯瞰的に見ればつながってはいるものの、実際にプロジェクトで行う業務としてはギャップがあります。財務会計はコーポレート組織においても重要な機能ですが、その全体のトランスフォーメーションとなると、もうひとつ上のレイヤーの議論が必要です。
 DTCでは、DXを「Business Transformation with Digital」と表現しています。
 企業が最終的に目指すのは、ビジネスモデルや組織全体を時代の変化に適応させていくこと。財務会計プロセスのデジタル化がボトムアップの基盤づくりだとすれば、コーポレートの変革はトップダウンの意思決定がカギになりますし、双方を両睨みでとらえることが重要です。
── そうした組織の根幹に関わる変革を、なぜ外部のコンサルタントが担えるのでしょうか。しかも、構想を描くだけでなく、現場を動かさないといけないわけですよね。
 そうですね。変化するためには志も大事ですが、上位のパーパス(存在意義、目的)だけを抽象的に語っても、具体的な実務上の変化に落とし込めなければ人は動きません。
 さまざまな人の行動変容を促して組織に変化を起こすには、それぞれの現業を少しずつ楽にして、そのリソースを新たな業務にシフトする。この繰り返しです。
 一方で、現場や個別の専門性を重視しすぎても局所的な最適化にとどまってしまう。この抽象と具体のバランスが難しいんです。
 組織の形態を変えたり新しいシステムを導入したりすることで、企業が目指すコーポレート変革を実現する。そのために、われわれは外部の視点を交えて経営から現場までを一気通貫でつなぎ、実行していきます。伴走者として包括的かつ主観・客観を織り交ぜサポートすることが、コンサルタントの役割だと考えています。

分化する専門性を、つなぎ合わせる

── コンサルタントは、特定の専門性を持って企業経営の相談役になるわけですよね。会計や法務であればわかりやすいですが、コーポレート全体となると求められる知識も広範になりそうです。
 そうですね。今は経営環境自体が大きく変わりつつあるので、われわれのクライアントである企業が目指すコーポレートのあり方も、コンサルタントの役割も、それに合わせて変化しているのだと思います。
 私は財務会計領域からキャリアをスタートしましたが、実際にプロジェクトを推進すると、財務会計に関する知識にとどまっていられないんです。
 例を挙げると、今担当しているプロジェクトのなかには、当社のM&Aユニットが主になり、私が所属するFinance & Performanceユニットなどの他部署と連携しながら大規模なコーポレートの構造改革を支援するものもあります。
 そういったケースでは、議論の内容もファイナンスだけでなく、人事やIT、法務、ESGやサステナビリティ経営にまで及びます。当社のプロジェクトメンバーも、領域を越えてコラボレーションし、コーポレート全般の改革にコミットします。
 非定型の業務も多く、既存の職域からはみ出なければいけないことも多々あるのですが、これと似たようなことに、今多くの企業が直面しているのではないでしょうか。
── そうですね。縦割りの構造ではうまくいかないことが、いろいろな業種で増えていると思います。
 これまでの延長線上に未来があるのなら、それぞれの専門性を追求し続けることで企業の競争力を強化できます。ただ、社会構造や経営環境の変化が加速し、変化の質も多様になっていくなかでは組織にも人にも柔軟な対応が求められます。
 それを実現できる組織のあり方を、多くの企業が模索しています。私たちが取り組んでいるのは「専門分化組織」からの脱却であり、各人が専門性を活かしながらも自律的に考え、行動し、連携できる「生物的組織」への変革。それを構想するだけでなく、実行に移すための支援です。
── この対比はわかりやすいですね。ただ、ここに書かれている生物的組織は、適応力やレジリエンスが高まる一方で、効率は下がるように思います。
 そうですね。私自身がERP導入にも携わってきた経験からも、どちらか一方だけでうまくいくものではないと感じています。
 専門分化型組織は、効率的に物事を進める点では非常に優れた組織形態です。大企業のビジネスにはいくつもの機能が必要であり、特定の領域に専従して遂行するべきことは絶対にある。その効率化や改善も、われわれコンサルタントの仕事です。
 ただ、これまでの時代は、今と比べるとまだ正解が見えやすかった。将来を見据えつつも目先のことに重心を置き、DXなどを通じて効率化に努めることが優先課題であり、その取り組みにより企業成長に寄与することができていたんです。
 しかし、昨今では経営課題が複雑化し、ひとつの領域だけでは解決できない難題も増えています。現場の改善の前に、そもそもの課題を設定し直し、その課題に対して自社が何をするべきなのかを複合的に考えないといけない。
 私たちが今見据えるべき目標やゴールは、とても抽象的かつ不確実な中長期の先にあります。個人や部署の仕事を最適化するだけでなく、コーポレート全体、企業や社会のことも思考しながらトライ&エラーを繰り返していくしかありません。
── そのために、自律性や柔軟性などの生物的要素が必要なんですね。
 これからの組織のあり方を「生物的」と表現したのは、社会も組織内部の環境も絶え間なく変わり続けていくことが前提になるからです。そうなると、これまでの専門分化型の組織や人材に加えて、領域を飛び越えて課題を設定し、解決に導いていくことを課せられる。
 とらえようによっては非効率ですが、私は今のような時代に企業が持続的に成長するあり方を考え、一人ひとりにより生物的な行動変容を促すことに関心を寄せています。
 組織論の専門家になりたいわけではないけれど、「不確実な時代において、コーポレートはどうあるべきか」が私にとっての究極的な問いなのだと思います。

変容するビジネス環境を生き抜く力

── DTCにはさまざまなコンサルタントがいますが、池崎さんがこれまで身につけてきた「エッジ」って何だと思いますか。
 実は、その質問が一番難しかったりします(笑)。
 もちろんコンサルタントなので、私であれば「財務会計」のような専門性で価値を発揮していくことが本流です。社内にはあらゆるテーマに関する深い知見や経験を備えたコンサルタントやパートナーもたくさんいます。
 でも、私自身の実感を正直に話すと、DTCにいたからこそ強みとなっているのは、ひとつのエッジの深耕だけにとどまらず、領域横断的に知識と経験とネットワークを拡げ、それらをつなげられたことだと思うんです。
 たとえば私は財務会計のトレンドや業務・システムを理解していますが、実際に伝票を起票した経験はありません。
 その代わり、ERPを導入する案件であろうと、組織構造を改編するプロジェクトであろうと、一通りを経験しそれらの連関を深く考えたことがあるから、財務会計を中心にどこを見ればよいか、何が成功の要諦で課題なのかがわかります。
 現場や経営がどんな課題を持っているのか。どのようにプロジェクトを進めていけば、固有の課題を洗い出し、解決に導けるのか。個別の問題にぶつかって専門的な知見が必要になったときに、誰に頼ればいいのか。
 こういう勘所を得て経営コンサルティングにおけるサバイバル力を身につけられたことが、DTCに入ってよかったと感じるところです。
── 経営コンサルティングにおけるサバイバル力。それも、生物的なスキルですね。
「サバイバル」は抽象的な言葉ですが、わりと当を得ている気がしますね。
 多くの事業や組織を抱える企業のなかでプロジェクトを推進すると、予想もしなかったことが次々に起こります。もちろん、予想しうる限りの解を自分なりに持っておかなくてはならないけれど、自分一人の知識では到底カバーしきれないイレギュラーが発生します。
 そのときに拠り所になるのは、これまでに手がけてきたプロジェクトの経験と、ユニットを横断して協力し合った社内外の人たちとのネットワークです。こういうコラボレーションが生まれやすいことは、DTCの組織文化だと言えるかもしれません。
 最初から枠にはめて考えるのではなく、何がクライアントにとっての最適解なのかを毎回真摯に考える。そうすると、自分の領域を越境してでもやりたいという想いが乗るから、コラボレーションも生まれるし、人が動く。情熱を持った人が、まわりを巻き込みやすいカルチャーがあると思います。
── コンサルタントって理詰めなイメージがありましたが、意外とエモーショナルです。
 結局、人を動かすエネルギーは、危機感や期待感、そして一体感みたいな感情なのだと思います。組織を変えるには、外科的な構造改革だけでなく、変革を主導する方々が信念を持ち、それに人々の感情が共感するかどうかが大事なのではないでしょうか。
 私がこの会社で見てきたことは、世の中の課題は細部に入り込むほど複雑に絡み合っていて、さまざまな人と意見を出し合いながら、その都度新しい解決法を探るしかないということです。
 あるべきコーポレートの形は企業によってさまざまですから、たとえ同じような課題が入り口にあったとしても、データ基盤を整えることから始めたり、上位にあるべきパーパスをディスカッションすることから始めたりと、打ち手はそれぞれ異なります。
 その課題を設定し、さまざまなHOWを探すところから企業の変革に関われることが、私にとっての、この仕事の醍醐味です。DTCのなかに複数のファンクションがあることは非常に重要で、それぞれが目の前の課題を解決するために経験や知見を持ち寄り合う。この環境にいられることを、有難く思っています。
NewsPicks Brand Design制作
※当記事は2022年6月17日にNewsPicksにて掲載された記事を、株式会社ニューズピックスの許諾を得て転載しております。