2022/6/29

国境を越え、世界を変える「ビジネス力」の養い方

個々の「思い」が、国際プロジェクトの起点に

── おふたりはアジアやアフリカでのビジネス開発支援に加え、2021年からはスイスに本部を置く国際機関に出向し、国際的に活躍されています。これまで手がけたなかで印象深いプロジェクトは?
原元 私は途上国でのビジネス開発支援のプロジェクト、特にモロッコでの仕事が印象に残っています。
 モロッコは約3000kmにわたり海岸線が広がっていることから、漁業が盛んです。しかし、冷凍・冷蔵の技術や冷蔵しながら魚を運ぶ仕組みがないために、良い魚が獲れてもそれがうまく流通せず腐らせてしまうという課題を抱えていたんです。
 そこで、JICA(国際協力機構)の中小企業・SDGsビジネス事業支援のスキームを使い、日本企業の優れた冷蔵技術、コールドチェーンの仕組みを現地に展開して、物流基盤を整える実証事業を計画・実行しました。
 まだまだ、軌道に乗ったとはいえませんが、これが広がっていけばモロッコの漁業がより盛んになり、漁師さんなど関係者の所得も上がる。モロッコ政府や日本政府、さまざまな企業も巻き込み、社会全体にインパクトを与えられるかもしれない、DTCらしいプロジェクトだと思います。
濵田 私が思い入れ深いのは、出向している国際機関で手がけているスマートシティのプロジェクトです。
 具体名は伏せたいのですが、スイスに本部を置く国際機関が主導する形で、2019年に発足した都市間コミュニティを国内外で構築・展開していくとともに、世界中の都市に向けて掲げている、テクノロジーガバナンス向上のモデルとなるポリシーを世界に拡大していくことがミッションです。
 特に、日本国内のコミュニティの運営・拡大に加え、同じような課題を抱えるインドやラテンアメリカ、東南アジアなどの国・地域にも展開し、スマートシティの事例などを共有していくことがDTCの役割です。
 例えば、日本は少子高齢化に伴い、特に地方の人口が減少し続けています。そこで、地域課題を解決するためのテクノロジー活用や、アクセシビリティやインクルージョンなどを軸にした、誰にとっても住みよいスマートシティが解決策として期待されています。
 課題先進国とも称されるこうした日本の取り組みは、いずれ同様の課題に直面するであろう世界の国々からも大きな関心が寄せられているんです。
 私は日本の地方都市におけるスマートシティのプロジェクトにも携わっているので、国内の実例をもとに、他国にも展開できる汎用性の高いモデルをつくれないかと考えています。
── それぞれ世界を舞台にしたスケールの大きなプロジェクトですが、おふたりはどんなきっかけで国際的な課題に関心を持つようになったんですか。
濵田 私は長崎県出身で、日本の地方都市からどんどん人がいなくなり、街を維持することが困難になっていくリスクに危機感を抱いていました。DTCに入社を決めたのも、率先して社会課題を解決していくことに目を向けている会社であると感じたからです。
 入社後、しばらくは観光産業を中心に、官公庁や民間企業の新規事業戦略の立案をサポートする仕事をしていましたが、入社3年目の東南アジアへの出向を機にスマートシティにおけるモビリティサービスを検討するプロジェクトに出会い、徐々に学生時代から関心を持っていた地域課題の解決に正面から取り組めるようになってきたように感じます。
原元 私も学生時代から国際協力や開発について学び、JICAでインターンをしていたこともあり、途上国の支援に携わりたいという思いを持っていました。
 入社1年目は民間企業におけるITのプロジェクトにアサインされましたが、3年目くらいに自分で手を挙げて、先ほどのモロッコの案件やウガンダでのソーシャルビジネス開発案件などに携われるようになったんです。
モロッコのプロジェクトに携わり始めた頃、前列左が原元さん。
── 入社3年目で自身の注力テーマや領域を設定するって、難しくないですか。
濵田 いや、実際はそこまでスマートな道筋ではなく、もっと点々と、いろんなことをやっています(笑)。
 ただ、やりたいトピックのど真ん中ではなくても、そのプロジェクトを通じて少しでも自分が成長できるポイントを見つければ、それは知識や知見として身についていく。
 そうやって流されているうちに、気がつけばここにいたという感じなんですよね。原元さんはどうですか?
原元 私も同感です。もちろん自分の意志は携わる案件や仕事に反映されていますが、上司がメンターとなって私が中長期的にやりたいことを引き出してくれたり、ある程度自信がついて自分のやりたいことをまわりに発信できるようになると、それをキャッチして案件づくりをサポートしてくれたりと、要所で支援してもらっています。
 濵田が出向していた東南アジアにも「SEA(South East Asia)」という日系企業を対象としたコンサルティングサービスを提供するユニットや、途上国でのビジネスを支援するチームがあり、さまざまなことにチャレンジできる環境が整っています。
 また、デロイト グローバルは、私たちが出向している国際機関との間で20 年以上にわたるパートナーシップを締結しています。そういった縁があって出向の機会をもらえるなど、環境的にもチャンスに恵まれていました。
濵田 DTCでは、毎年期初に評価者やコーチとゴールセッティングを行っていて、今年はどんな方向に進みたいか、3年後にどうなっていたいかを話し合います。
 すぐに希望するプロジェクトにアサインされるのは難しくても、少し先の未来にそういう案件を持てるように調整してくださっている方々に支えられています。

課題を削り出し、解決策を考え抜く

── コンサルタントがどんな仕事をしているのか、イメージを持ちにくい人もいると思います。おふたりの場合は、プロジェクトのなかでどんな役割を担っているのでしょうか。
原元 例えばモロッコのプロジェクトでは、大きく分けて「調査」と「実証事業」という二つのフェーズがあり、私は主に実証事業を担当しました。
 具体的な役割としては、実証を円滑に進めるための現地政府との交渉や協議。ここはコンサルタントとしてのバリューを最も発揮できた部分ではないかと思います。
 ほかにも、これからビジネスを展開していく上で、どんなモデルを構築していくのか、そのためにはどんなパートナーと組めばいいのかといった戦略や、具体的なビジネスモデルの策定などに従事しました。
濵田 私の場合、これまで関わったプロジェクトで多かったのは、クライアントの課題を明確化するところから一緒に考えていくようなケースですね。
 お客様によっては何かしら解決したいこと、やりたいことはあるものの、それを具体的な課題として定義できていなかったり、どこから手をつければいいかわからなかったりすることがあります。
 そこで、まずはその課題を丁寧に洗い出し、解決策を提案したり、一緒に考えたりするのもコンサルタントの仕事です。
原元 コンサルティングファームにはさまざまな知見を持った人や企業のネットワークがあるけれど、自社製品があるわけでも、独自の商材を持っているわけでもありません。
 だからこそ、中立的かつ幅広い視点で解決策を考えることができる。ひとつの課題に対し、「あの企業の、こんなソリューションも使えるんじゃないか」「このビジネスとこのビジネスを組み合わせれば、課題を解決できるんじゃないか」というように、事業会社よりも俯瞰的に物事を捉えることができるのではないかと思います。
── 原元さんがいま取り組んでいる課題はどんなものですか。
原元 私が関心を寄せている途上国支援の領域で、いま最も問題意識を持っているのは、「教育」。特に、教育と労働市場がつながっていないことです。
 つまり、現在の労働市場が重要視しているスキルや人材のニーズを、教育側が把握しきれていない。言葉を選ばずに言うと「将来、あまり役に立たないこと」を教えてしまっているんです。
 例えば、学校で裁縫の技術を学んでも、いざ社会に出てみると裁縫はすべて機械化されています。アパレル業界では裁縫の技術よりも、コンピューターを使ってミシンをコントロールできるスキルや、工場全体のプロセスをマネジメントする力が求められるわけです。
 こうしたミスマッチをできる限り少なくするために、日本の企業も巻き込みながら、教育と労働市場をシームレスにつなぐことができる仕組みを考えています。
 現地調査とビジネスモデルの策定を終えたところで新型コロナウイルスが流行したため中断していますが、日本のミシンメーカーがインドに裁縫工場と職業訓練校をつくりたいと言ってくださっているので、これはいずれ実現させたいと思います。
 もうひとつは、日本の高等専門学校のようなモデルを海外に持っていくこと。日本の高専では中学を卒業してから5年間、みっちりと技術を習得します。卒業後は即戦力として働けることはもちろん、自分で起業するケースもある。
 これは、海外から見ると教育と職業がうまく結びついた理想的なモデルで、このようなモデルを途上国に展開していきたいと考えています。
 まずは高専設立の案件を通じて日本の高専についてインプットしながら、どのように途上国に展開できるか検討を進めているところです。

世界を変えるため、コンサルタントに何ができるのか?

── 課題へのアプローチの仕方を聞くと、グローバルビジネスも少し身近に思えてきました。
濵田 そうですよね。私自身、世界経済のような壮大な話を語るには実力も経験も足りません。でも、これまで手がけてきたパブリックセクターでの経験や、地元の地域社会に対して抱いている課題感とつなげて考えることならできます。
 そうやって「考えること」が、コンサルタントの仕事なのだと思いますね。
── 国際的なスキームやルールをつくる仕事だと思いますが、世界経済を動かしている実感はないんですか。
濵田 いえ、謙遜ではなく、国際的な場で自分が「プロジェクトを動かしている」と感じたことはありません。というのも、どの案件も自分ひとりの力どころか、一企業の力では成し得ないものばかりだからです。
 出向している国際機関のような場で議論をすると、一つ一つの会話の熱量が高く、内容もとてつもなくハイレベルです。いま世界ではこういうことが議論されているのか、こんなことを考えている人がいるのかと、最先端のイシューを知ることができる。
 自分も何かを返さないといけないとは思いますが、慢心せず、謙虚に学ぼうという気持ちのほうが強いです。
── 国際的な枠組みや途上国支援に関わるには、民間企業だけでなく行政やソーシャルセクターなどさまざまな組織がありますよね。DTCを含めたビジネスセクターにできることはなんだと思いますか。
原元 国際協力に携わるためには、主に3つのアプローチがあると考えています。まずは国連や世界銀行のような国際機関。ここは主にルールメイキングをするところです。
 次に、途上国で草の根的な活動を主とする国際NPOやNGO。現地の人たちと汗を流して井戸を掘ったり、学校をつくったりといった活動に従事する組織です。
 そして、最後がビジネス。事業やサービスを国や地域に実装し、経済を循環させることで社会生活を向上させるアプローチです。
 私は学生時代から、この3つのアプローチすべてを使って、国際協力に携わっていきたいと考えていました。そこで、まずはどこから経験しようかと考えたときに、とりあえず、一番しんどそうなビジネスから始めようと(笑)。
 最初にどこから入るかを考えたときに、ビジネス領域、特にDTCのようなコンサルティングファームで身につくビジネススキルは汎用性が高く、ほかに転用しやすいと思えたんです。
── 具体的に、DTCで働くことでどんな知見やスキルが身につきましたか。
原元 例えば論理的に物事を考えたり、物事の本質を捉える力。そして、具体的な解決策を提示するスキルなどですね。これらはコンサルタントに限らず、どの業界、どの職種にも活かされるものだと思います。
濵田 私もそう思います。私の場合は、数十年先を見据えた際に地方の生活をどう維持していくかに関心があるんですが、新しいサービスやテクノロジーによって生活が便利になり、いまある課題が解決されていくことはなんとなくイメージできるかと思います。
 でも、最終的にそういった解決策を実行できるかどうかは、まずやってみることができるか、失敗を許容することができるかにかかっていると思うんです。
 それを少しでも前に進めるためには、小さくてもいいので成功事例をつくり、そこから得たデータ等を活用しながら「人を動かすスキル」が役に立ちます。
── 汎用的なコミュニケーションスキルですね。
濵田 そうですね。人口動態を見ても世界経済の再編を見ても、現実に変化は起こっています。でも、地方へ行けば行くほど、新しいテクノロジーへの許容度は下がっていきます。
 これまで人が担っていたサービスが、機械に置き換わることが怖い。個人情報をどう扱われるのかがわからず、不安に感じる。そのリスクを正しく認識することはとても大事ですが、リスクばかりが注目されてしまうと、ポジティブな変化を起こせなくなる可能性があります。
── その問題はどうやって乗り越えられるでしょうか。
濵田 私は行政の方々とのプロジェクトが多いので、市民の方とのコミュニケーションの重要性を日々感じています。行政サービスにせよ、医療やモビリティの仕組みにせよ、何かひとつ成功モデルができると、発信や説明がしやすく、許容度が上がってくる。
 このモデルを行政だけでなく、地域の企業や住民が一体となってつくっていくことが、いま求められていると思います。
原元 まだスマートシティのような新しいまちづくりの成功モデルはどこにもないと思うんですが、日本には、住民の方とのコミュニケーションをうまく取っている自治体が多いと思います。
デロイト トーマツ グループでは、世界各国にエキスパートが在籍。監査/税務/コンサルティング/ファイナンシャルアドバイザリーなどを専門とする組織や法人が連携し、クライアントの課題解決にあたる。
 地域のコミュニティのなかで住民が何に悩んでいるのかを聞き取り、解決策を導いていく。その手法は海外からも興味を持たれやすく、日本が注目されていることのひとつです。
濵田 先日、インドのメンバーと話していたら、日本は超高齢化社会のアクセシビリティやインクルージョンをどうやって実現していくのか、と。課題先進国である日本が少子高齢化の先で住みよい街を設計し、解決していく方法に興味があると言われました。
 課題があることは決してマイナスなことばかりではなく、それを好機と捉えて新しいモデルを生み出せば、もしかするとほかの国の役にも立つかもしれない。その変革のために、世界各国からさまざまな知見を集められるところが、グローバルファームの強みです。
原元 本当にそう。私たちの仕事には、ときには前例がなく、新しい産業領域を生み出すような挑戦もあります。
 例えば私の場合だと、他国の教育事情について調べたいときに、メンバーファームのなかに専門チームがあることを知って、勉強しに行かせてもらったりとか。
 たとえDTCに専門チームが立ち上げられていなかったとしても、150以上の国や地域に拠点を持つデロイト トーマツ グループを当たれば、かなりニッチな専門家でも見つかります。
濵田 私たちも各国のメンバーからのサポートを受けて、自分たちの取り組む課題に向き合っています。そうやって考え、経験したことを世界にも発信していけるようになりたいですね。
NewsPicks Brand Design制作
※当記事は2022年6月29日にNewsPicksにて掲載された記事を、株式会社ニューズピックスの許諾を得て転載しております。