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集団免疫だけがCovid-19の解決策ではない

いつ機能的な日常へ戻れるか CEOが理解すべきポイント

March 2021

機能的な日常への道のりを組み立てる

人口のかなりの割合が、感染症とその変異体に対して免疫を獲得した状態(集団免疫)に達すると、感染症は実質的に沈静化していきます。しかし、今日の経営陣にとっては、集団免疫はCOVID-19の終焉を意味するわけではありません。より広い意味でのゴールは、パンデミック後の市場と経済の再興です。

本冊子では、経営陣に、いつ市場や経済が正常に機能する状態へ戻るのかを考察するためのフレームワークを提案しています。機能的な日常(functioning normal)とは、経済・社会活動の新たな基準/均衡が確立されたうえで、感染症が十分に管理されているという人々の信頼度合いを基に定義されます。感染者の割合、ワクチン流通の程度、政府補助金等の定量的に識別できる指標に加えて、経済または市場が新しい正常に機能する状態に戻れるかどうかは、パンデミックによって大きく制限されてきた国民が如何に今後の見通しについて信頼を置いてくれるか、にかかっています。

機能的な日常では、人や物は国境を越えてより自由に移動できますが、パンデミック以前よりも厳しい規制上の制限(例えば、ワクチンパスポート)を課せられる可能性があります。人々は友人や家族を訪れたり、店で買い物をしたり、レストランで食事をすることをより快適に感じることが出来るでしょう、しかし一方で、まだ大人数が集まる場で交流することに消極的な人もいるかもしれません。従業員は職場に復帰しますが、仮想環境での業務実施が既に実証済である為、以前ほど頻繁に職場に通勤する必要もないでしょう。さらに、世界経済は回復し失業率は改善しますが、パンデミック前の水準に戻るには長い時間がかかるかもしれません。1

集団免疫だけがCovid-19の解決策ではない

人々の信頼に影響を与える4つの要因

組織、ビジネス、相互関係における人々の信頼は、機能的な日常を実現するための重要な前提条件です。免疫、治療、政策、社会的な慣行の4つの要因は、総じて人々の信頼を築く上で大きな影響を与えます。このセクションでは、経営陣が各要因を分析するためのフレームワークを提供し、それが感染症の抑制にどのように寄与し、ひいては市場が回復するに足る程度、いかに人々の信頼を取り戻せるか寄与するかを評価します。

各要因の「注視すべき指標」と題されたセクションでは、経営陣が、関連する市場や地域が機能的な日常を取り戻しつつあることを予測するための指標を示します。これらは単なる指標であり、相互に排他的なものでも、完全に網羅的なものでもありません。そして、機能的正常に戻るためにすべての指標を満たす必要はありません。また、以下の分析及び指標は、変異種(突然変異)に関する現在の理解に基づくものですが、変異種の進行は予測不能であるため、フレームワークに重大な影響を及ぼす可能性があります。

我々の分析は、世界中の市場の感染率を予測できるカスタマイズ可能な早期警告システム「デロイトシナリオモデリングとリソースツール(D.SMaRT)」を通して、複数のシナリオを実行することによって強化しています。D.SMaRTのモデルは、グループ間の相互関係を分析し、予測動向をワクチンの可用性、コンプライアンス、及び、有効性と重ね合わせることで、感染拡大の自然科学的な動向を予測し、組織が将来生じるかもしれまいCOVID-19の爆発的感染の可能性を特定し、それに備えることに役立ちます。

1. 免疫/感染率:

機能的な日常にたどり着くため、また人々の信頼を取り戻すためには、パンデミックを制御および抑制する必要があります。この抑制には、特にリスクの高い集団の中で、感染症に対する広範な免疫と感染率の明らかな減少が必要です。人口のうち最も感染リスクの高い年代が予防接種を受けている場合、感染件数はそれほど急速に減少しないとしても、入院者数と死亡者数は減少する可能性があります。重篤者や死亡者数が減少すると、感染が抑制されなくても、機能的な日常に戻る可能性があります。したがって、感染症予防に効果的なワクチンは、全体的な効果が予想よりも低い場合でも、重要な抑止力となる可能性があります。

医療関係者の一致した見立てによると、人口の約80%がワクチン接種や自然感染によって免疫を獲得すると、このコロナウイルスの対する集団免疫を獲得したといえます2。しかし、免疫獲得の程度を追跡することは困難です。初期の検証結果では、既存のワクチンが変異種(突然変異)に対してあまり効果的ではない可能性を示していますので、最初のウイルスに対する80%の免疫は、変異種を含む現時点での80%の免疫を保証しない可能性があります。さらに、集団免疫の基準値は、自然感染再生産数として変化し、R0またはR-naughtと称されており、新しい変異種の場合は増減します3。ここでいうR0は、感染者が治療せずに感染させる平均的人数です4

我々の分析は、特定地域において80%の免疫基準値を超え、ワクチンがまだ既知の変異種に対して少なくとも50%有効である場合、この地域が潜在的に、機能的な日常に浮上する可能性があることを示唆しています5。同様に、米国疾病管理センターとハーバード大学は、十分なウイルス抑制の指針として、ロックダウンをせずに、一日に10万人当たり1人以下の新規感染者数を目標として設定しました6

注視すべき指標:免疫/感染率

  • 人口の80%以上が自然免疫を持っている(以前に感染していた)および/または予防接種を受けている
  • 重篤者や死亡者数の抑止にかかせないワクチンの有効性を50%未満に低下させる変異種(突然変異)がないこと
  • 1日の新規感染者数が、人口10万人に対して1人を下回ること7

2. 治療

ワクチンと自然免疫は感染率を減らすことに役立ちますが、治療はCOVID-19の罹患率と死亡率を最小限に抑え、人々の懸念を緩和し、組織的な対応において信頼を構築することに役立ちます。例えば、最近の臨床試験からの予備データは、モノクローナル抗体治療が予防として有効である可能性を示しています8。他の臨床試験では、複数の薬剤の組み合わせが、重症度、入院、および死亡率を減少させる可能性を示唆しています9。我々は、一地域で、典型的な治療を受けている全対象患者のバイナリオプションを、治療を受けて患者がいない場合と比較して、モデル化しました。複数の治療法を活用し、採用することにより、ICUの病床占有率が3分の1減少し、COVID-19による死亡が50%減少しました10

治療に対する直接的な尺度はないのですが、我々は死亡率およびICU占有率のような相関関係を介して間接的に治療の効果をモニターしています(「注視すべき指標」参照)。これらの変数は免疫の状況にも関連している可能性がありますが、治療的な医療の有効性に関する指標となる情報を提供していると言えます。

注視すべき指標: 治療

  • COVID-19による入院期間が4週間連続で減少している
  • 感染症の発生率を減らすための入手しやすく、かつ、有効な経口治療薬の開発されている(参考値としては、過去12か月の人口10万人あたりの死亡者数は1.8人以下であること11
  • 入院死亡率を80%削減する治療法が承認され普及している

3. 政策:

決断力があり、かつ協調的な政策決定は、ウイルス発生への即時対応と長期のワクチン接種への取り組みの両方において、COVID-19の蔓延および感染力に大きな影響を与えることが示されています。例えば、パンデミックの初期には、ニュージーランド、フランス、スペイン、ドイツ、オランダのすべての国々で早発のロックダウンと社会的距離制限が課され、90日間で1.5未満の再生産数(Rt)をもたらしました。これは、封鎖が実施されなかったスウェーデンの4.4という非常に高いRtとは対照的です12。米国の対応は、各州が不均一な対応方針を採用したために混乱し、その結果、同じ期間にRtが4.9に至り、感染の進行を遅らせるための協調的な政策の重要性が強調されました。ドイツの研究においても同様に、マスク着用義務が新しい感染者数を45%減少させたことを明らかにしています13


前述の「免疫」セクションで説明したように、総人口の大部分に迅速にワクチン接種をすることは、機能的な日常にたどり着くための重要な手段であり、政策決定は、ワクチンを単なる願望から身を守る武器に変える上で大きな役割を果たします。

効果的な政策は、感染曲線を平坦化し、ワクチン接種を促進する最も効果的な方法を特定し、そして最終的に、市場が機能的な日常に至るための、制限緩和の適切な時期の見極めに不可欠です。統一された政策が確立され実施されている地域を特定することは、その地域が機能的な日常に至る準備ができているかどうかを評価するのに役立ちます。同様に、政策の制限が緩和された際の入院率を追跡すると、ウイルスが適切に抑制されたかどうかを判断でき、もしくは、市場が時期尚早に制限を緩和され、まだ機能的な日常に達していないのではないかという判断をすることにも役立ちます。

注視すべき指標:政策

  • リスクアプローチによる陽性検査、追跡調査、および検疫が、標準化された施策として一律に実施されている
  • 政府機関によって効果的に予防接種が促進および展開される
  • 社会的な制限が解除されても、特定の地域で30日以上の入院が増加しない

4. 社会的な慣行と共通認識:

ワクチンや治療が利用しやすくなるにつれ、マスク着用の遵守、ソーシャルディスタンス、自己のリスク/免疫に対する共通認識など、社会的な慣行や共通認識が、引き続き極めて重要な役割を果たします。COVID-19に感染している人の80%は軽度から中等度の症状、もしくは無症状ですが14、非薬物的な社会的な対策を、特に感染リスクの高い集団においてウイルスの封じ込めを成功させるために継続する必要があります。ロンドンのThe imperial Collegeの調査によると、COVID-19感染の65%は20~49歳の個人から発生しており、危険にさらされているグループを保護するための広範囲な法規制の重要性を示しています15

ロックダウンやその他の制限措置などの政策に加えて、社会における日常的な慣行を個々人が遵守することは、機能的な日常のために重要です。定期的にマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを守る人は、そのような行動をとらなかった人に比べてCOVID-19に感染する可能性が10分の1であることが判明しました16

UCLA Fielding School of Public Healthが最近実施した調査によると、マスクのほぼ全世界的な着用とソーシャルディスタンスがなされれば、それによってCOVID-19 再生産数がほぼゼロになり、米国のGDP17が約1兆ドル増加する可能性があるとのことです。さらに、感染率については、厳しいマスク着用要請と遵守が求められてる国に比べて、規制がない国では7.5倍高くなりました。18上記のように、COVID-19感染率を抑制し、ワクチンを広げるには重要な政策措置が必要ですが、目標とする免疫学的基準値に到達するには社会的な慣行や共通認識が不可欠です。

注視すべき指標:社会的な慣行と共通認識

  • 人口の少なくとも65〜80%がワクチン接種を希望している(ただし感染率が高いために自然免疫率が高い地域では、集団免疫に到達するためにワクチン接種を受ける必要のある人口割合が少ない場合があります)
  • ソーシャルディスタンス、マスク着用、及び、手洗い政策を伴った広範囲なパブリックコンプライアンスが機能している
  • 陽性検査および追跡調査実施が普及している(およびそれを管理する仕組みもある)

ビジネスリーダーが検討すべき6つの重要なアクション

暫定的に経営陣が信頼を築き、新たな機能的日常に向けて組織を位置づけるために実行できる具体的なアクションは以下の6つです。

 

  1. 関連する市場において前述した4要素をそれぞれモニターし、ポジティブな基準値に達したときのためのプレイブックを作成します。プレイブックとは、経営陣が重要な変数をモニターしている間、ある一定の基準値に達した際に実行する手順を記述したものです。プレイブックを用意しておけば、例えば、ソーシャルディスタンスの促進を容易にし職場復帰ポリシーを明確にするためのワークスペースを再設計等もすることができるかもしれません。このようなプレイブックに基づく活動は、新規感染者数の割合が基準値以下である場合など、特定の基準が満たされたときに有効です(例えば米国のCDCとハーバード大学は、10万人あたり1人の感染者が十分な感染封じ込めに達した指標であることを示しています)19
  2. 従業員の心身の健康に注力します(そして投資します)。 1月、デロイトとフォーチュンは、グローバルフォーチュンCEOコミュニティで125人を超えるCEOを対象に調査を行いました。 ほぼすべて(98%)のCEOが、COVID-19が終焉した後も、従業員のメンタルヘルスと福利厚生が引き続き優先事項であるという認識で一致しました20。CEOは、従業員の3分の1以上が1年後も在宅勤務を続けると予想しています21。変化する環境、継続的なコミュニケーション、および予想される投資を鑑みて人事施策と手続きを見直すことは、感染率が低下していても、従業員を支援するために重要です。
  3. ワクチンプログラムの受け入れを促します。経営陣は、従業員のワクチン接種強化に役立ついくつかの方策を実施できます。まず、経営陣自らがワクチン接種をすることで、従業員への接種を促進することができます。そして、地域および国のガイドラインに従ってワクチン接種を受けるためのフレキシブルな有給休暇など、障害を取り除く方策を確立できます。
  4. パンデミック後の世界における未来の働き方(future of work)を再構築します。経営陣は、未来の働き方(future of work)を温かみのあるものにすることにより、組織が機能的な日常に成長するように検討を行っています。望まれる機能と結果を特定するために業務を再設計します。テクノロジーを活用して従業員を支援し、労働力に活力を与えます。そして、効果的なコラボレーションとチーム活動を推進しながら、バーチャル環境における様々な変化と向かい合うことができます22
  5. 長引くCOVID-19に対応する規制に対するシナリオプランニングを実施します。特定の市場が比較的早く機能的な日常に戻るかどうか、COVID-19(および変異種)の影響が、不均一な回復、または長期の不況につながるかどうかを今、見極めるのは時期尚早です。そして、ビジネスリーダーが現在行っている短期的な意思決定は、長期的な組織の持続可能性に影響を与える可能性があります。この意思決定を支援するために、デロイトは最近、リーダーの指針となる2021年の戦略、財務的、および運用計画の4つの経済事例のシナリオをリリースしました。それぞれのシナリオは、想定される経済的影響に応じた潜在的な将来の状況を説明しています。そして、これらは、さまざまな条件下で起こり得る想定上の可能性を説明し、計画を策定するうえでの議論と慎重な対応のため枠組みを提供します。
  6. レジリエントな(危機対応力の高い)組織を構築します。COVID-19危機の中で、経営陣は次の3つのフェーズを見据えています。1.差し迫った危機とロックダウンへの対応段階、2.これまでとは異なる働き方を確立することにより、最初の対応から回復する段階、3.そして最後は機能的な日常の世界での成長段階です。レジリエンス(危機対応力)とは、そのような混乱の前、最中、危機後であっても成長する能力です。レジリエントな組織は、直面するすべての主要な混乱に対して、対応(Response)、回復(Recover)、および成長(Thrive, RRT)を迅速かつ効率的に繰り返します。従って、レジリエントなリーダーは、COVID-19危機から学んだ教訓を取り入れて、将来の混乱に備えてRRTを推進するためのさらなる組織力を養わなければいけません。

結論

我々は、多くの人が予想していたよりも長い間、このパンデミックとそれに伴う経済的な影響に対応しなければいけません。我々が経済的安定への回帰を期待し、切望する一方で、危機対応力の高いリーダーは、市場が機能的な日常に戻った時に備えて、今現在の、この延長された時間枠を、これから何が起こるかを予測したり、そのための計画を立案したりする機会としてとらえています。免疫、治療、政策、社会的な慣行の4つの要因すべてにわたる主要な指標を注意深く見守ることで、市場が経済的および社会的活動が、新しい基準/均衡を伴って、いつどのように浮上するのかを知ることができます。

End notes

For four economic cases to use in strategic, operational and financial planning, refer to The world remade: COVID-19 and beyond: 2021 scenarios for resilient leaders.

2 Pedro Mendes, “How many people need to get a COVID-19 vaccine in order to stop the coronavirus?” The Conversation, January 5, 2021.

3 Haley E. Randolph and Luis B. Barreiro, “Herd Immunity: Understanding COVID-19,” Immunity, May 2020, no. 52.

4 Anders Gunderson and Liana Woskie, “Understanding Predictions: What is R-Naught?” Harvard Global Health Institute, February 7, 2020.

5 Per consensus of medical doctors on Deloitte staff.

6 “Key Metrics for COVID Suppression,” Harvard Global Health Institute, July 1, 2020.

7 “Key Metrics for COVID Suppression,” Harvard Global Health Institute, July 1, 2020.

8 Matthew Herper, “Eli Lilly says its monoclonal antibody prevented Covid-19 infections in clinical trial,” STAT, January 21, 2021.

9 Victoria Rees, “Baricitinib and remdesivir reduce time to recovery in COVID-19 patients,” European Pharmaceutical Review, January 18, 2021.

10 Per Deloitte D.SMaRT analysis.

11 “Influenza: National Center for Health Statistics,” Centers for Disease Control and Prevention, accessed February 3, 2021.

12 Bruno Mégarbane, Fanchon Bourasset, and Jean-Michel Scherrmann, “Is Lockdown Effective in Limiting SARS-CoV-2 Epidemic Progression?” Journal of General Internal Medicine, January 2021: pp.1-7.

13 Timo Mitze, Reinhold Kosfeld, Johannes Rode, Klaus Wälde, “Face masks considerably reduce COVID-19 cases in Germany,” Proceedings of the National Academy of Sciences, December 2020, vol. 117, no. 51.

14 “Interim Clinical Guidance for Management of Patients with Confirmed Coronavirus Disease (COVID-19),” Centers for Disease Control and Prevention, December 8, 2020.

15 The Imperial College COVID-19 Response Team, “Age groups that sustain resurging COVID-19 epidemics in the United States,” Science, February 2, 2021.

16 “ Rapid Real-time Tracking of Nonpharmaceutical Interventions and Their Association With Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2) Positivity,” Clinical Infectious Diseases, September 2020.

17 Lauren Ancel Meyers, “An evidence review of face masks against COVID-19,” Proceedings of the National Academy of Sciences, January 2021, vol. 118, no. 4.

18 Lauren Ancel Meyers, “An evidence review of face masks against COVID-19,” Proceedings of the National Academy of Sciences, January 2021, vol. 118, no. 4.

19 “Key Metrics for COVID Suppression,” Harvard Global Health Institute, July 1, 2020.

20 The Deloitte Chief Executive Program, “Fortune/Deloitte CEO Survey: January 2021 highlights,” 2021.

21 The Deloitte Chief Executive Program, “Fortune/Deloitte CEO Survey: January 2021 highlights,” 2021.

22 “From survive to thrive: The future of work in a post-pandemic world,” Deloitte Insights, January 28, 2021.

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