企業の成長を加速する
ポストコロナの
「サーキュラーエコノミー」

PROFESSIONAL

  • 丹羽 弘善 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 
    アソシエイトディレクター

  • 加藤 彰 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー
    Monitor Deloitte

加速か、逆行か――ポストコロナのサーキュラーエコノミー

20世紀後期に発展した「高」炭素社会は、地域ごとに分散していたエネルギーを移送可能エネルギーへ変えたことで、生産と消費を高速回転させてきた。消費を促すためには、製品計画的に旧式化させる必要があり、この高速回転により気候変動が起き、とてつもない規模の廃棄物が生み出されてきた。2018年の世界銀行レポートでは、2050年までに世界の廃棄物は現在のレベルより70%増加すると報告している*1。

こうした背景下で、世間ではプラスチック製品などを減らし(リデュース)、再利用(リユース)、再資源化(リサイクル)の3Rを進める動きが活発だが、そもそもリサイクルに関わる困難の多くは、ほとんどの製品がリサイクルできるように設計されないまま生産されていることから起きている。

リサイクルの難しい食品も廃棄量の規模は大きい。日本でも農林水産省と環境省の平成29年度推計で、年間約2,550万トンの食品廃棄物などが出されている*2。廃棄される食品を育てる・生産するために資源が使われ、そして廃棄された後はその洗浄のために水が廃棄されていく。

21世紀になり、これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄の社会経済システムからの脱却が図られ、サーキュラーエコノミー(Circular Economy:循環経済。以下、CE)に注目が集まるようになった。CEは3Rの概念に、最初から再生・再利用しやすいモノを作る「エコデザイン」や、シェアしたり譲ったりしてモノを無駄なく使いきる「ファンクショナル・エコノミー」といった新しい概念を加えたものである。より巨視的に、製品と資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の最小化を目指す経済社会を指す。

「コロナショックを経て、CEを巡る議論はより一層活発化しています」と、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 アソシエイトディレクターの丹羽弘善と、同マネジャーの加藤彰は口をそろえる。丹羽はパブリック・セクターに所属し、気候変動関連のシステム工学・金融工学を専門とし、政策提言、企業向けの環境経営コンサルティング業務に従事。加藤はモニター デロイト(戦略部門)に所属CE、ジェンダー、教育などの社会課題(SDGs)を起点としたグローバルの新規事業戦略立案・実行支援を多数経験してきた。両名がそれぞれのスペシャリティを基盤に、ニューノーマルにおいてCEが必然である理由、そしてデロイト トーマツ グループが果たすべき役割を語る。

世界経済のサーキュラリティ(循環性)はわずか8.6%

新型コロナウィルスの感染拡大により、私たちのライフスタイルは大きな変化を迫られた。「ワンウェイプラスチックの消費を抑える動きから一転して、エッセンシャルな使い捨てプラスチックの需要が海外、そして日本でも拡大しています。海外ではプラスチック使用に関する規制を緩和する動きも見られ、プラスチックごみの量が増加するのも国内外で共通する傾向です」と丹羽が指摘するように、CEに逆行する消費行動もその一つだ。感染リスクの問題からリユースの意識が薄れ、所有が合理的であるとみなすマインドの揺り戻しもある。

丹羽 弘善 / デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 アソシエイトディレクター

丹羽は「コロナショックからのレジリエンスも含め、CEとは何かが問われるようになってきている」と、パンデミックを経て、新たなCEのありようが模索されている現状を指摘する。CEがどれだけ浸透しているかを測る上でサーキュラリティ(循環性)という尺度が使われることが増えている。例えば、世界経済人会議(WBCSD)は企業のサーキュラリティを測る指標(サーキュラートランジション指標)を提唱。これは「投入されるサーキュラー素材の割合(=サーキュラーインフロー)」と「創出されるサーキュラー素材の割合(=サーキュラーアウトフロー)」、「回収不能になった資源や廃棄物(=リニアインフロー/アウトフロー)」をパフォーマンス指標とする*3。2020年1月、ダボス会議で発表されたレポート(Circularity Gap Report)では世界経済のサーキュラリティは8.6%に留まり、2018年の9.1%から後退しているという指摘もされた。2050年までに100%のサーキュラリティ実現を目指すオランダのように、既に25%近いサーキュラリティを実現している国もあるが、人口が増え資源消費量も増大する世界経済全体でみると、CE実現に向けた変革は思うように進んでいない。気候変動がグローバルに問題となっている今、国際社会や資本市場は企業に対し、サステナビリティを中心に据えた経済における「Build Back Better (より良い復興)」への転換を強く求めている。しかし、CE型のビジネスモデルは、特に企業においてはビジネスモデルの転換を要する中長期的な事業として位置付けられがちであり、しかも、コロナのような危険因子が周知され、消費者も含め社会全体でサーキュラーな選択がマイナスに受け止められかねない状況にもなっている。そのため、税制などを通じた政策的な介入が必要という指摘が以前からあった。

ポストコロナに日本企業が生き残るために、CEが必然である理由

こうした指摘に先んじて動いているのは欧州だ。欧州においてCEが企業の生き残り策として注目される背景には、低成長時代におけるサステナビリティ企業への高い投資機運があり、コロナ禍を経てその流れはいっそう加速している。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は国際アースデー発表のメッセージにおいて、パンデミックを「より良い経済復興(build back better)」の機会にするべきとし、公的資金による救済の条件として企業にグリーン雇用の創出や持続可能な成長へのコミットメントを提案した。

また、国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN:運用額約5,800兆円)は4月23日、配当や役員報酬の削減をしてでも従業員の解雇を回避するべきとする企業向け書簡を公開した。加藤曰く、「平時に自社の成長を支えてきた労働者を、有事の際に企業側がどう扱うかにこそ、その企業の長期的な成長性が表れると投資家が判断した格好」だ。

2020年3月に欧州委員会は、CEを加速させる行動計画「Circular Economy Action Plan」を発表。同5月にはコロナショックからの復興を目指す資金を含む「次世代復興基金」を創設。これは、2010年に欧州連合が掲げた経済についての10年戦略「欧州2020(Europe 2020 Strategy)」の主要な取り組みの一つとして、「EUの資源効率化に関する取り組み(Resource Efficient Europe)」を挙げて以来、環境に関連した経済・技術・社会制度面での世界市場での主導的地位を確保するために、CEを長期的戦略として位置付ける欧州政府主導によるCEの競争戦略化、そして国際標準ルールメイク化の動きである。既に、2018年にフランス規格協会(AFNOR)が欧州のCEの取組みを国際標準化するべく、ISOでのCEマネジメント規格標準化を検討する専門委員会設置を提案しており、EU主導でCEが国際ルール化(ISO規格化)されようとしているのだ。今までの「良いもの」を作ればよかった時代から、CEに関わる国際ルールに沿ったモノづくりをしなければ売ることもできなくなる時代へなろうとしている。

加藤 彰 / デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー Monitor Deloitte

上述の動きに加えて、「コロナ前からのグローバルの民間企業による潮流も見逃してはいけません」と加藤は語る。いち早くCEへの移行を促す中心的な役割を担っていた、CE推進団体である英エレン・マッカーサー財団 および同財団が運営する企業間や業界間の連携を目指すイニシアチブCE100(Circular Economy 100)は、7月に50のグローバルリーダーによる「CEに特化した経済復興の声明(Build Back Better with Circular Economy)」を発表した。さらには、GAFAMもコロナ前から競争優位性を高めるためにCEに着手していたが、現在もその勢いは止まらない。GoogleによるAI×CEの取り組み、Appleによる自社製品のリバース・ロジスティクス強化、7月にはAmazonがついにエレン・マッカーサー財団に加入し、自社の中心事業であるEコマースのサーキュラー化を加速し、Microsoftも「Microsoft Circular Center」の施策を推進中だ。Rubicon Global、Apeel Science、Optoro、AMP Robotics、Miniwizなどの先進「サーキュラー・スタートアップ」は、「コロナだからこそ」の事業およびブランディング強化を即座に行った。グローバルで最大級のCE イベントであるWCEF(World Circular Economy Forum)では、2020年10月に「39の世界を変えるサーキュラーエコノミーソリューション(39 Inspiring Circular Economy Solutions Around the Globe)*4」として世界中で先進的なビジネスモデルを表彰した。その中心を担うフィンランドの半官半民ファンドのシトラ(Sitra)の想いとしては、今こそアクセルを踏みたい、という意図がある。

加藤は「欧米と比較すると、日本では『公論』によるうねりはまだ見られませんが、その原因の一つは、他社に先んじてまずは大義を掲げる『ファーストペンギン』の少なさにあります」と、上述のような欧州を中心とした流れを受けて、日本でもCEの促進に向けた制度作りや、大義を掲げた議論の本格化が加速することを期待する。「ここ1年だけでもグローバルで300社以上のCE企業を見てきましたが、大きな傾向として2030年、2050年という時間軸を見据え大きな目標を掲げると、それに『着火』されて産官学を問わず先進プレイヤーが集まってきます。その結果『公論』と、それによる社会の制度検討や市場形成、ビジネスの拡大が進む好循環を生み出すことができるのです」。

「政府主導で循環世界の設計が進む欧州の現状は、日本企業も注視していくべきでしょう。民間主導でのCE推進にはやはり限界があり、政策的な後押しが求められるからです。取り組みへの遅れが目立っていた日本ですが、中央環境審議会(環境省)、産業構造審議会(経済産業省)で複数の委員会が動いています」と丹羽が指摘するように、日本でも制度設計の動きが進み始めた。2020年5月には経済産業省が「循環経済ビジョン」を発表し、CEへの移行を推奨している。日本も欧州同様、政府がCEをESGの取り組みとして明確に位置づけ、投資の呼び込みを行い、企業のモチベーションを上げ、大義を掲げる気運が高まってきた。

デロイト トーマツ グループは、環境省・循環経済ビジョン共催の「プラスチック資源循環戦略ワーキンググループ」に関する事務局として 、プラスチック資源循環の高度化に向けた議論、具体化に向けた支援を行っている。ここでは、冒頭にも挙げた製品設計時の段階でリユース・リサイクルを可能にすることを目指すなどが方向性として掲げられている。他方で、こうした動きを企業側が把握していなければ公共調達から外される懸念もある。そこで、モニター デロイトでは、CSV/Sustainability戦略に特化した専門チームが中心となって、グローバルのファームと連携しながらCEを盛り込んだ長期戦略構築のプロジェクトや海外先進企業とのアライアンスを提案するなどし、日本企業に対してグローバルのベストプラクティスを含む豊富な知見に基づき、CEへの戦略的な対応の強化を促してきた。

丹羽が「気候変動が無視できない問題になる中、脱炭素・脱化石燃料の観点でもCEが強くリンクします。各種資源や鉱物の枯渇も視野に入る中、原材料の調達はますます困難を極めていくでしょう」と指摘するように、気候変動がもたらす地球規模での環境の変化により、大量生産・大量廃棄の従来型成長モデルに限界がきていることは直視すべき現実だ。コロナショックによってインフラ、グローバルサプライチェーンが機能不全を起こしたこともあり、ポストコロナを経たニューノーマルの時代に向かって、社会、企業の長期戦略にCEを組み込むことは必然となる流れがさらに加速するだろう。丹羽は、日本企業の取り組みに「社会の成長と自社の成長がリンクし、サステナビリティが一致することが理想的です。CEを前提とすることで、企業と社員が一丸となって社会課題の解決に臨めるようにもなるでしょう」と未来を見据える。

ニューノーマルの消費社会を変える「Future Tech」

CEを推進するためには領域を越えた俯瞰的な視点と実行力が必要となるが、その一つとして注目されているのがブロックチェーン、ケミカルリサイクル、UV消毒などの「Future Tech」である。丹羽が「ブロックチェーンによって廃棄物の動きをトレースしようという試みは欧米の企業が取り組みつつあり、銀や金、プラスチックへの活用が報告されています」と現状を語るように、ブロックチェーンを活用した資源の利活用を促す取り組みは各国で進められている。資源のトレーサビリティを高め、リサイクル可能な資源の無駄な廃棄を防ぎ、バリューチェーン内で有効に利活用していくことが期待されているのだ。

Future Techの一つであるケミカルリサイクルとは、使用済みの資源を化学的に処理し、製品などの化学原料としてリサイクルするもの。衛生的に問題を抱えるあらゆる素材のリサイクルに寄与する技術だ。この技術のCO2排出削減効果をデロイトが推計したところ、国内で焼却されるペットボトル(輸出制約に伴うものも含め)を全てケミカルリサイクルした場合、削減ポテンシャルは実に約105万t-CO2にのぼった。これは廃棄物焼却由来CO2の約10%に相当するスケールである。

ケミカルリサイクルでは、国内における注目すべき取り組みも見られる。食品用包装材に活用したユニチカの事例だ。同社はケミカルリサイクルによる再生資源を活用したナイロンフィルム、ポリエステルフィルムを開発した。従来の環境配慮型プラスチックフィルムは、石油由来のフィルムに比べ、機械特性や衛生面の問題から食品用に推奨できないという問題があった。ユニチカは先端のケミカルリサイクル技術により、再生材料の利用比率50%以上を実現。両フィルムの生産をスタートさせている。

そして、紫外線で新型コロナウィルスを不活性化・消毒するFuture TechがUV殺菌である。リユース、シェアリングの対象となる機器を消毒し、人々の嫌悪感を払拭。 コロナ禍で逆行しつつあったCEの流れを戻し、再加速させる期待がある。光源にLEDを用いることで省エネに寄与するなど、CEにふさわしいFuture Techの一つだ。

丹羽が「CEは循環型経済であり、出したものがどこへ行くのか、どんなかたちで還ってくるのかを可視化するトレーサビリティも重要になります」と説明するように、CEにとってデジタルテクノロジーの活用は必然の流れとなる。デロイト トーマツが戦略的アドバイザーとして協力する独化学メーカーBASFでは、プラスチックのサーキュラー化プロジェクト「reciChain」の試験運用をカナダ支部で開始した。リサイクルプラスチックのトレーサビリティを高めることで、再生材の構成などの重要な品質情報を取引業者間で可視化することや、プラスチックの不法投棄を未然に防ぐのが狙いだ。

加藤は「グローバルの動きを見ると、非接触型経済(Contactless Economy*5)に関連するFuture Techも重要です」と話す。モニター デロイト APACの調査によると、過去の金融危機、経済危機などとコロナ禍による危機が異なるのは、社会経済において、5G、クラウド、AIなどによるデジタル化が飛躍的に進んでいることである。新しい生活様式が求められる中で、非接触型でのシェアリング、中古売買、さらにはリサイクルのため回収方法などの事業機会も出てくるはずだ。

CEは世界のソリューションになる

CEに取り組む企業のサポートに際し、加藤は「個人としては"理不尽さをなくしたい"という原点が、CEに関する企業支援のドライバーになっています。例えば、CEが達成できなかった際に最も被害を受けるのは、新興国/途上国の方々など弱い立場にある人たちになりますし、コロナを機に業界のエッセンシャル・ワーカーにもスポットライトが当たりました。CSRとして見られがちなCEですが、GAFAMのようなグローバルプラットフォーマーもCSVとしてCEに取り組んでいます。企業によって取り組みに濃淡はありますが、取り組んでいる企業は今こそ加速すべきです。今やらなければ企業の成長力を削ぐことにもつながりかねません」と、喫緊の取り組みの重要性を述べる。

20年来、気候変動をテーマに企業の戦略支援、政府の枠組み策定に携わってきた丹羽も「資源循環を掲げるCEは、人類共通の大きな課題になっています。企業活動にも不可欠なソリューションでしょう。しかし、企業単体で向き合うには限界があります。他社、地域行政と連携してCEに取り組み、今回のパンデミックのような事態にも対応できるレジリエンスが求められるでしょう」と提言する。

彼らが所属するモニター デロイトの取り組みの一つに、小田急電鉄の社会課題を起点とした次世代事業開発プロジェクトがある。同社が長年取り組んできた街づくり事業とも親和性の高いCEを、優先度の高い新事業の一つとして促進。この問題をどうしていくか? この深掘りをしていくために、世界中のスタートアップ企業の情報を収集したデータベースを持つモニター デロイトは、パートナー企業としてアメリカのスタートアップで、ユニコーン企業であるルビコン・グローバル社を抽出、日本でもCEを実現するという大義の下、アライアンスを実現させた。丹羽の話す連携の一つだ。

コロナ禍により、経済をはじめさまざまなシーンが大きな転換期に直面している。ニューノーマルへの突入に直面する今、社会、そして企業活動も変容を迫られているが、両者にとって必然となっているのがCEであり、ビジネスとしての勝ち筋も実はここにある。

デロイト トーマツ グループは制度設計サイド、企業の戦略支援サイドでCEに関する知見、ベストプラクティスを蓄積してきた。今後もグループとしてCEを据えたビジョンや戦略の提案はもとより、事業創出に至るまでクライアントに寄り添い、よりサステナブルな社会、よりよい社会の実現にワンファームで取り組み、貢献していく。

<関連記事のご紹介>

サーキュラーエコノミーのニューノーマル
さまざまな取り組みが軌道に乗り始めた矢先、コロナショックにより大きな転換期に直面している。従前、現在、そこから想定される将来の予測から、ポストコロナの世界におけるCEの新たな形を解説する。

デジタルを徹底活用した新たな経済成長モデル
大量生産・大量消費のリニア型経済モデルから、サーキュラー型のビジネスモデルによる提供価値、そしてまちづくりについてスマートシティ観点で解説する。

※1 https://www.worldbank.org/ja/news/press-release/2018/09/20/global-waste-to-grow-by-70-percent-by-2050-unless-urgent-action-is-taken-world-bank-report

※2 http://www.env.go.jp/press/107969.html

※3 https://www.wbcsd.org/contentwbc/download/10399/155507

※4 https://www.sitra.fi/en/projects/inspiring-solutions/#39-solutions

※5 https://www2.deloitte.com/gu/en/pages/strategy/articles/contactless-economy.html

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