金融業界、AI利活用の
促進が競争力の源泉へ

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“責任あるAI”を実用化し、ベネフィットを享受するために
テクノロジーがもたらす金融イノベーション

2020年2月20日、「デロイト トーマツ金融ビジネスセミナー2020」がデロイト トーマツ グループ Greenhouseからライブストリームで発信された。6度目の開催を迎えた本セミナーは、「Responsible Innovationへのロードマップ」をテーマに、デロイト グローバルと世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)による共同レポートを紹介。金融機関がビジネスにAIを導入することに伴うリスク、そのリスクを軽減するための戦略について解説している。金融業界がAIによって大きな変革を遂げつつある今、Responsible Innovation――責任あるイノベーションへのロードマップはいかにして描かれていくのか。デロイト トーマツ グループ デロイトアナリティクス パートナー 神津友武は、「Data/AI:協調の時代」というアジェンダで、AIの実用化がもたらすビジネス価値の創造、そしてAIならではのリスクについて、最新サーベイの結果と合わせて考察した。

デロイト トーマツ グループ デロイトアナリティクス パートナー 神津友武

AI市場がグローバルに急拡大する中、
これまでと異なるタイプのリスクも出現

グローバルでのAI市場規模は拡大の一途にあり、2017年には7,000億ドルの市場が2025年には6.4兆ドルへ、年平均で30%超という急成長が見込まれている*1。AIを業務にいち早く活用することが中長期的に大きな利益を生むのは論を待たない。その中で見逃せないのが「未知のリスク」だ。神津は「AI技術がビジネスに実装される中、これまでと異なる性質のリスクに向き合い、対処していく必要があります」と述べ、「プライバシー侵害」「不公平な判断」「不透明な判断根拠」「敵対的事例」「契約トラブル」というAIならではのリスクを挙げた。

知らぬ間に第三者のプライバシーを侵害してしまう「プライバシー侵害」、ノイズを含んだデータで学習したモデルを利用することで誤判断を下してしまう「敵対的事例」、ディープラーニングの学習済モデルの所有権で外部委託先と軋轢を生む「契約トラブル」。そして、海外では「不公平な判断」が、日本では「不透明な判断根拠」が事例として紹介されている。

●不公平な判断
米国は刑務所の収監者数が世界一多く、裁判を効率的かつ安全に進めるため、AIで再犯率を予測するリスク評価ツールを採用している。しかし、AIは過去の犯罪データを用いて評価するため、さらなるバイアスを生み出す悪循環につながる可能性が指摘されている。

●不透明な判断根拠
公正取引委員会は、プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業に通販サイトやスマートフォンのアプリストアの検索結果、広告枠の説明の開示を求めた。運営者であるプラットフォーマーが検索結果の表示順位、広告枠を故意に操作すると独占禁止法に抵触する恐れがあるからだ。

AIの利活用が進む中、ビジネスの現場ではAI固有のリスクとも向き合わなければならない。この現状を踏まえ、神津はデロイト トーマツ グループが日本に拠点を置く企業の全業種・全部門に対して実施した調査結果を紹介した。これは日本企業ではAIの利活用に向けた取り組みがどれだけ進展しているのか、AI固有リスクとして認識されているものは何かを探った調査である。このサーベイからは、次に挙げる4つの示唆が得られた。

1. 半数を超える回答者がAIの利活用を開始している
2. PoC(概念実証)を実施した回答者の7割が本番運用に至っており、6割はビジネス目的も達成できている
3. AIに対する投資規模が大きいほどビジネス目的を達成する可能性が高まる
4. AI固有のリスクは認識されつつあるが、対応方法はいまだ明確ではない

昨今のAIブームも追い風になって利活用が進み、PoCを実施したうち6割がビジネス目的を達成し、一定規模の投資によって成功の可能性が高まるなど、日本企業でもAIは着実に普及しているように見受けられる。この調査結果を踏まえ、神津は「グローバルに比して、国内ではPoCなどの具体的な取り組みが進んでいるとは言えませんが、一部の先進的な企業は着実に実績を挙げています。業界では金融業、医療・医薬業界の取り組みには目を見張ります」と指摘。確かに、他業種と比較すると金融業界はAIへの投資、組織体制も大規模に推し進めている。PoCの実施、本番運用の実施、ビジネス目的達成という3項目はいずれもトップである。リソースの集中においても、アクションのスピード感でも、AIの利活用でも先んじるのが金融業界だ。

適切なデータ共有のリスクが障壁になる金融業界
ここでも先端テクノロジーがブレイクスルーになる

同セミナーに登壇した有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 金融インダストリーリーダー パートナー 神谷精志はデロイト グローバルとWEFによる共同レポートを紹介し、金融業界におけるAI利活用の取り組みについて言及した。神谷は「2018年度のレポートでは、テクノロジーが金融サービス業界に根本的な転換をもたらすことを示唆しました。しかし、その機会を切り拓いていくペースが予想よりも遅いという懸念にも言及しています」と指摘。2019年度の調査レポートでは金融業界が「なぜAIの理由をためらうのか」を明らかにし、近い将来の重要課題、中長期的な転換に取り組むための新たな枠組みを提示している。

有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 金融インダストリーリーダー パートナー 神谷精志

金融業界がAIのさらなる利活用にためらいを持つ理由の一つは、新たに浮上した「適切なデータ利用」のリスクである。データを広範に共有することで顧客はより質の高い商品、サービスにアクセスできるようになるし、金融機関も意思決定システムが充実する。広義ではイノベーションが活発に進むなど、大きなメリットがある。一方、データ共有では「顧客のプライバシーの侵害」「プライバシー関連規制への抵触」といったデメリットも無視できない。新たな価値を創出する期待に満ちながら、プライバシーやコンプライアンスにおける義務によってデータ利用は制限されてきたのだ。

しかし、神谷は「金融システムにおいては、金融機関、AIプラットフォーム、業界コンソーシアムなど、さまざまなプレイヤーがプライバシー強化技術(以下、PETs)の可能性を模索している」と言及。データセットにノイズを付加することで第三者のデータ復元を防ぐ「差分プライバシー」、データ自体を共有せずに分析モデルを生成し、その知見を共有する「フェデレーテッド分析」など、PETsと総称される新興テクノロジーの開発が進んでいることを紹介した。

WEFレポート2018年度版では遅滞気味であった金融×AIの取り組みだが、ここでも先端テクノロジーがブレイクスルーとなる。PETsはデータ共有のあり方を根本から変容させ、金融におけるAI利用をダイナミックに進めていくだろう。

3つのポイントでAIの利活用を促進
中長期的な競争力の源泉に

金融業界における先端テクノロジー活用の動きがWEF共同レポートによって鮮明になった。神津も「AIを利活用するためには、投資と人材を確保し、具体的な活動をいち早くスタートすることが肝要だ」と述べる。そこでは、ディフェンス策の充実も欠かせない。導入のポイントとして挙げられるのは「攻めと守りのバランス」だ。神津が指摘する通り、「投資対効果が見えやすいため攻めの取り組みに偏りがちだが、先述したAI固有のリスクがあるため、守りの取り組みにも目を向け、バランス良く推進する」戦略が重要になってくる。

各部門に散在する予算とAI人材を集約することで、案件を戦略的に取捨選択できるようにもなり、質の高いPoCが企図できるようにもなるだろう。AIを中長期的な競争力の源泉とするためには、「投資と人材の確保」「具体的なアクションの速やかな開始」「攻守のバランス」が肝要なのだ。

今後もデロイト トーマツ グループはWEFとの連携を通し、日本企業のAI利活用、そしてAI固有のリスクへの対応を提案していく。

*1
Deloitte China 「 Global Artificial Intelligence Industry Whitepaper 」( 2019)

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