デジタル経済加速で求めら
れる経営戦略としての
「税務戦略」

グローバリゼーションの奔流で打ち勝つための「税務」戦略

日米貿易協定の発効、米国のTPP離脱、NAFTA再交渉といった通商関連のニュースがヘッドラインを賑わせている。それらのファクターが自社に与える影響を把握している日本企業はまだ少ない。しかし、デジタル経済が加速する中で地理的なボーダーは消滅し、電子商取引を行う企業は国際税務の前線に立っている。そこで重要性を増すのが、税務を視野に入れた巨視的な経営戦略だ。グローバル化に伴って各国政府の税制改正、デジタル経済に即した明確化がダイナミックに進み、課税の仕組みが複雑になる中、経営戦略の段階から税務戦略を組み込まない企業が大きなリスクを負うのは明らかだ。

「日本企業が今後もグローバリゼーションに打ち勝っていくためには、タックスのプランニングとマネジメントが不可避になります。税はコストとコンプライアンスという2つの視点でマネジメントする必要があり、経営層はその意識を持たなければいけません」と、国際税務の最前線にいるデロイト トーマツ税理士法人パートナー 溝口史子は言う。彼女は35名から構成される多国籍チームのリーダーとして、この課題に取り組んでいる。

日本企業が世界的な成長を今後も持続させていくためには、グローバルなバリューチェーンの構築、またはそのバリューチェーンへの介在は避けられない。グローバルなバリューチェーンによって自社の商品、サービスの価値を最大化する。あるいは、他社の商品やサービスのバリューチェーンに自社を組み込む。この選択肢のどちらかということだ。

プランニングから織り込むべきタックスの視点

まず、グローバルなバリューチェーンの構築において求められる視点とは何か。それは「プランニングの段階で関税や付加価値税(VAT)・消費税の視点を盛り込んでおくことです」と溝口は提言する。国境を越えた財の移動にかかる関税はもちろん、デジタル経済が拡大する中、国境を越えた電子サービス・取引に課税される付加価値税(VAT)・消費税のインパクトは増す一方だ。

溝口史子 / デロイト トーマツ税理士法人 間接税サービス パートナー

関税はHS条約で義務づけられた品目表を基に製品ごとに「HSコード」を採番し、このHSコードによって税率などが定まる。スムーズな通関手続きには正しいHSコードの採番が欠かせないが、日本企業はこのコードの管理が徹底できておらず、データとして管理していないケースも往々にして見られるという。

「HSコードが品目表と合致していなかったり、当該国の関税当局に事前照会をしていなかったため、通関手続きが滞ったり、輸入自体がストップしてしまったりすることが起こり得ます。この点で、関税はコストではなくリスクにもなり得るのです。HSコードは一義的ではなく、製品の素材で分類する場合、親製品から分類する場合など、関税当局によってある程度恣意的に決定されることもあります。HSコードを管理しきれていない場合、通関時のリスクが高まるのは当然のことでしょう」

デロイト トーマツではデジタルツールを活用し、品目分類の自動化・効率化・適正化を支えている。その一つとして、溝口は品目分類(HSコード採番)サポートツール「Trade Classifier」をベルギー人のエンジニアと共同で開発した。これにより、グローバルなバリューチェーンの構築に寄与する関税減免メリットの最大化、コンプライアンスリスクの最小化を目指す。

国際取引では付加価値税(VAT)・消費税がコストになる

関税と並び、付加価値税(VAT)・消費税への目配りが欠かせない背景には、各国の税収が法人税から消費に対する付加価値税(VAT)や消費税などにシフトしているという世界的なトレンドがある。日本の消費税も、2018年の消費税収はバブル期の法人税収に匹敵する。そこで問題になるのが、「付加価値税(VAT)・消費税は国際取引ではコストになる」という視点だ。

「付加価値税(VAT)・消費税は中立性の原則がありますが、国際取引においては、事業者に対して必ずしもコスト的に中立ではありません。OECDのガイドラインを参照しても、『非居住者に仕入税額控除を認めるかどうかは行政コストと脱税リスクを鑑みて各国が選択すること』と明記されています。つまり、税の徴収コストを考慮して、非居住者、つまり国外の事業者には仕入税額控除を認めないケースも多々あります。日本企業がグローバルな立場で経済活動をしていく上で、意識しなければいけないポイントになるでしょう」

また、デジタライゼーションの進展とともに付加価値税(VAT)・消費税の課税アプローチも変化を遂げてきた。付加価値税(VAT)・消費税は多段階一般消費税でサプライチェーンの全ての取引に課税されるが、最終的には消費への課税を目的としている。これまでは執行の難しさから役務提供者が非居住者の場合、課税されないケースも多かったが、越境ECが拡大するにつれ、世界各国は税制の改正、基準の明確化を推し進めてきた。

「各国はさまざまな課税方法を選択できますが、B2Bサービスは『納税責務を課税事業者に転嫁する』リバースチャージが一般的です。むしろ、課税事業者が相手ではないB2Cサービスでは、域外事業者となる日本企業もコンプライアンスにかかる負担の増大が懸念されます。欧州は制度も統一され申告もワンストップショップ制度が存在しますが、アメリカであれば、州ごとにセールスタックス(売上税)の制度は異なります。その国、地域における付加価値税(VAT)・消費税、税制の動向を注視していく必要があります」

グローバルなバリューチェーンに介在するために

日本企業が取り得るもう一つの選択肢は、「グローバルなバリューチェーンへの介在」だ。この場合、地理的優位性とグローバルに対応しえる発達したロジスティクス機能を提供できる国が優位に立つ。その典型がドイツだ。世界銀行のロジスティクスパフォーマンスインデックス調査で1位に輝いた*1ロジスティクス機能に加え、周囲を先進国に囲まれた地理的な優位性、ものづくりの先進国として長らく培ってきた高度な技術力も強みだ。

日本はというと、2016年の調査では12位と低迷していたが、2018年には5位に躍進。ドイツら上位国に並ぶポテンシャルを徐々に発揮しつつある。溝口はドイツで2001年から15年にわたって勤務(うち2008~2012年は日本駐在)し、ドイツの実情を目の当たりにしてきた。さらに、帰国してデロイト トーマツに参画した2015年以降は日本がランキングを上げてきた時期とも合致する。ドイツ、日本での知見を生かし、グローバルなバリューチェーンへの介在を目指す企業にどのような提言をしているのか。

「グローバルバリューチェーンへの介在には、近隣諸国との関係が大きな影響を与えます。日本は地政学的には圧倒的に不利な場所にあるため、ロジスティクス機能の向上にはあらゆる施策を実行する必要があります。他方で、サイバースペースであれば、この地政学的な不利は覆せるかもしれません。製品の企画や設計などのやりとりは今ならオンラインでも可能ですし、そもそもサイバースペース内のサービス提供であれば、場所を選びません。関税はグローバルバリューチェーンで財貨が国境を超えるたびに課税されます。グローバルバリューチェーンに介在したい企業に求められるのは、関税などの税についてコスト感覚を持つことです。例えば、年間の関税支払額を即答できる日本企業の経営者は少ないのではないでしょうか? 関税はトップラインにかかるものですから、グローバルバリューチェーンで物を売っていく上では大きなコスト要因になります。関税というコストを原価に紛れさせず、明確に把握し、管理していく。これがスタートラインになるのではないでしょうか。コストとリスクを明確にした上で、経済連携協定を活用し、コストの削減を図る必要があります」

チームに望むアントレプレナーの意識

溝口は日本企業に「プラットフォーマーとして世界に打って出てほしい」と強く期待している。高度なものづくり技術、長く磨いてきたブランド力を生かし、プラットフォーマーとしてもグローバルに展開していく――その雄飛に期待を込め、国際税務という分野でサポートに尽力してきた。

「私たちのチームは日本を代表するコンテンツメーカー、メディアなどの日本企業を支援していますが、サイバースペースが広がりを見せる中、プラットフォーマーになってほしいという思いがあります。既存プラットフォーマーに30%のコミッションを払って各国でコンテンツを売るのではなく、自らがプラットフォーマーとして立ち、グローバルなビジネスを展開していってほしい。より高付加価値な製品、サービスを創造し、世界に売り出すポテンシャルが日本企業にはあります。ビジネスの構想段階から税務戦略を織り込み、仕組みとして構築していく。そのアシストを私たちチームが担っていきたいと考えています」

インド、中国、ドイツ、日本など多国籍な間接税サービスのメンバー

溝口のチームが提供するサービスは、日本企業がグローバライゼーションの奔流に押し流されず、変革にアジャストしていくためのサポートに他ならない。溝口自身も、そしてチームも不断の変革を志向し、使命感を持って取り組む。チームに期待するのは「オーナーシップを持った人材」の存在だ。

「メンバーに求めるのは、サポートするクライアントに対して当事者意識を持つこと。そのため、私のチームの採用基準はアントレプレナー意識があるかどうかです。他人事のマインドでは、クライアントの課題に共に臨むことはできません」

主体的、自律的なサポートの遂行に主眼を置いてスキル、ナレッジが培われていく。チームビルディングでは、「物事を成し遂げられるのは『気力』『体力』があってこそ」という持論も身を持って証明している。溝口は社内でプロトレーナーに指導を仰ぐ「ランチタイムエクササイズ」を自ら企画、提案して健全な体力養成を実践してきた。最初は税理士法人内で実施されていたこの試みも、現在はグループ全体の取り組みとして広がり、部署を横断したコミュニケーションプラットフォームとしても機能し始めている。スモールスタートから橋頭堡を築き、好循環を横展開につなげていく。これも溝口流のリーダーシップのあり方だ。

プロフェッショナルとしてチームメンバーにアントレプレナーシップを求める溝口は、日本企業の経営層には「明確なオーナーシップ」を期待するという。より効率的、効果的な改革はサイロ化した組織からではなく、縦横無尽な横断的取り組みから生まれる、という信念があるからだ。

日本企業がグローバリゼーションに打ち勝っていくためには、税務を管理部門が個別に担当するのではなく、経営戦略の一環として捉え、サプライチェーン、IT、税務などの部門を超えて横断的に取り組むことが不可欠である。企業をサポートする溝口、チームメンバーもグループ全体のプロフェッショナルと連携し、さらに各国のネットワークもフルに活かしながら、日本そして現地から企業をサポートしていく。

*1 https://lpi.worldbank.org/international/global

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