日本のスマートシティに
グランドデザインを生み出す
"4つの「結ぶ」"

都市化が進むこの世界で

スマートシティのコンセプトは2010年ころから世界中に広がった。2050年には世界人口の7割が都市に住むともいわれている。その結果、さまざまな課題も生まれ、それを解決する挑戦が世界中で行われている。最近の事例としては、2019年にAlphabet社傘下のSidewalk Labsが発表した、カナダのトロントにおけるウォーターフロント再開発マスタープランがある。これは、「21世紀の都市生活の新しいスタンダードを創る」ものとして、技術はもちろん、都市デザイン・建築術・政治的プロセス・財務計画といった都市計画の各要素において最先端の知見が詰め込まれている。これは、スマートシティにおける大企業主導型の典型だろう。

もう一つの類型が、国家・自治体主導型だ。中国では政府が次世代人工知能発展計画におけるスマートシティ領域の担当にアリババグループを指名し、例えば杭州では道路の運行状況をリアルタイムに検知し、信号の点灯時間を自動制御することで渋滞を大幅に削減するなど成果を出している。

このように、部分的な課題解決の積み上げではなく、都市全体のグランドデザインを描き、強いリーダーシップを取ってスマートシティを推進する事例が出てきたのが最近の大きな特徴だ。しかし、日本ではこの2つの型を用いることは難しいともいわれている。

理由は、日本固有の課題が2つあるからだ。

1.都市の持続可能性の危機を招く、成熟先進国型の多くの社会課題を抱えている
2.社会的風土として一極型トップダウンリーダーシップが成立しにくい

1については、超高齢化や大都市圏への人口流出など都市の持続可能性の危機を招く成熟先進国型の社会課題を多く抱えているため、単なるスマート技術の導入だけでは達成できず、複数の絡み合った問題に向き合う必要がある。また、都市部だけでなく周辺部も含めて解決策を検討しなければいけない。

2については、スマートシティ実現には、自治体・企業・市民などの個別の取り組みを一つのグランドデザインにまとめる推進者が不可欠だが、大企業主導型や国家・自治体主導型のような強力なリーダーシップは日本では馴染みづらい。日本人なら誰もが納得できる状況だろう。

日本は都市のあり方を変える技術があり、それを支える資本もあるのに、実装や事業化が進んでいないともいわれている。こうした背景の下、大企業主導型、国家・自治体主導型ではなく、日本に求められるのは「調和型(ハーモニー)」のスマートシティづくりだろう。異なる価値、都市と資本、人と人、都市とデータ。これらがつながり合う、スマートシティ。そこには強力なリーダーシップは必要なく、新しいコンセプトと、そのコンセプトを実現するためのフレームワークやアプリケーションが存在する。

日本には強力なリーダーシップが馴染みにくい分、調和型を実現させるために、各ステークホルダーをつなぎ、テクノロジーと旧来の仕組みを組み合わせて新しいシステムをつくり出すといったカタリスト(触媒)の存在は必要不可欠だ。技術や資本もあるのに、実装や事業化が進まないというパラドックスを解決するためにも、誰かがカタリストとなって変化を起こさなくてはならない。

4つの「結ぶ」が描くスマートシティ

デロイト トーマツ グループが目指すのは、この調和型スマートシティづくりに不可欠なカタリストの役割を果たしていくことだ。そのためには、異なる専門分野のメンバーを共通のビジョンと目的意識のもとに巻き込み、一体感のあるチームをつくり上げる必要がある。その手法が、「4つの『結ぶ』」というコンセプトだ。

デロイト トーマツ グループが提唱する調和型スマートシティのコンセプト「4つの『結ぶ』」

「4つの『結ぶ』」を左上から見ていこう。「異なる価値を結ぶ」では経済的価値だけでなく社会的価値も見えるようなデザインをしていく。これまで定量化しづらかった都市や地域の魅力を、IoTデバイスなどを用いて定量化し見える化することなどが含まれる。

次に左下の「都市と資本を結ぶ」では、都市を持続可能なものにするために、現在の都市が有する「価値」に対する投資が持続的になされる仕組みを構築する。例えば、社会的価値に投資をしてくれるソーシャルファイナンスを含む資金供給を、公共セクターや民間セクターからの通常の資金供給と組み合わせて実現することが考えられる。

これまで、まちづくりの課題の一つとして、ファイナンスの存在があった。例えば、京都の町家などは歴史的な意味合いも含め社会的価値は高い。これを改修してホテルにすれば、世界から注目を集める。しかし、不動産事業向け融資だと国内銀行の多くは不動産の担保価値を見て融資の可否を判断する。町家のような古い建物の場合、担保価値がほとんど無く、多くの銀行は融資に二の足を踏む。経済的価値だけで判断するのではなく、社会的価値に対する視点も併せ持つことで、こういった課題の解決も考えられる。

右上の「人と人を結ぶ」はコミュニティの生成だ。スマートシティを構築するのも、運用するのも結局は人が重要になってくる。官民が連携することはもちろん、セクター間の垣根を越えてつながり合うことも重要になる。例えば、地域を変える時に求められる人材は、ビジョンのあるリーダー、それを補佐する実務レベルの担当者、そして地元の有力企業の3つが組み合わさることといわれているが、その組み合わせには行政だけでなく民間との共同で組成する、従来の民営化や民間委託、PFIとは異なる官民連携がなされていたり、セクター間の垣根を越えてつながり合っていたりすることも多い。

また、ビジョンだけでは事業化はできない。ビジョンを形にする実務レベルの担当者がいて、それを支え、民間をまとめる地元の有力企業という三者の重要なステークホルダーが、スマートシティを加速させる。

最後に右下の「都市とデータを結ぶ」は、都市OS(オペレーティングシステム)とセキュリティだ。これまで定量化しづらかったものが、スマートシティにおいて、IoTデバイスを経由することでデータが取得できるようになる。その取得したデータをAIなどで分析することで、リアルタイムに都市をアップデートしていくことが可能になる。これまで都市といえば、再開発を数十年ごとに繰り返すのが一般的だったが、これからは都市OSをベースにスマートフォンのアップデートのように日々、改善していくことができる。一方、全てがつながり合うということは、サイバーセキュリティに対する対策を十分に講じる必要も出てくる。何か一つセキュリティで問題があれば、つながり合う世界(コネクテッドワールド)では他に影響を与えてしまう可能性も高く、それは全体のエコシステムを破壊しかねないリスクにつながるからだ。

都市における「アップデート」の重要性

建築界のノーベル賞ともいわれるプリツカー賞を受賞したアレハンドロ・アラヴェナは、集合住宅のユニットの基礎とコンクリートのフレームを築いたまま、残りを未完成にしておくことで、居住者がそれぞれのユニットを自分たちに合うように完成できるデザインにした。いわば、住民に集合住宅のアップデートを委ねたのだ。

都市もそうだが、建築も他に流通するものと比べて耐用年数は比較的長い。そのため先を想定して設計する必要がある。ところが、最近は少しの先も見えづらい。少子高齢化やITによる働き方の変化など、今まで想定外とされてきたようなことが常態化している。こうなると、何かを建築したり開発したりするのも「ずっと先まで変えずに大丈夫な建物はこれ」とは言いづらい。

そこでアラヴェナのような建築家たちは、先が見えない現代らしい建築手法を生み出した。その一つが、未完成を意識したデザインの徹底だった。この考え方は、ソフトウェアにおけるオープンソースプロジェクトに近く、事実、アラヴェナは建築の図面を公開して誰でも使えるようにしている。ベースとなる考えを公開して、時代に合わせて進化していくように仕向けているのだ。

これは、都市のアップデートにも通じるものがある。先が見えない不確実性の高い時代だからこそ、ベースとなるものは将来を見据えた拡張性を持ちながら、常にアップデートできることを意識する。

「4つの『結ぶ』」は相互につながり合う。ソフトウェアの考えで例えるならば、「異なる価値を結ぶ」はソフトウェアの設計書、「人と人を結ぶ」はできあがったソフトウェア、「都市とデータを結ぶ」はソフトウェアを動かすOSで、「都市と資本を結ぶ」はOSの中核たるカーネルといったところだろうか。

カーネルはOSの中に存在し、システムのリソース、ハードウェアとソフトウェアのやりとりを管理する。ここでのカーネルは、ファイナンスがスマートシティにおけるさまざまなやりとりの架け橋となる意味合いで例えた。どんなに設計図が美しくても、熱意ある人がいても、ファイナンスがなければ スマートシティは絵に描いた餅になってしまう。

4つの「結ぶ」を実現するフレームワーク作りをする

スマートシティは内包するテーマが多く、横断的な知見を一貫して提供できる組織体でないと、まとめあげることは難しい。デロイト トーマツ グループは、カタリストとして「4つの『結ぶ』を実現するためのフレームワーク作り」を提唱している。このフレームワークによって、「都市のあり方を根本的に変える技術も、それを支える機運も資本も十分にあるにも関わらず実装や事業化が進まない」といったパラドックスを抱える日本の構造的課題を打破していく。さらに、日本だけに限らず、世界中のどのような場所でも調和型のスマートシティを円滑に構築していくことを見据え、グローバルのデロイトと共通のイニシアチブである「Future of Cities」を掲げて日々取り組んでいる。

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