海外勤務に「挙手制」導入
デロイト トーマツが目指す、世界で輝くグローバルタレントの育成
デロイト トーマツでは海外赴任を通して自己成長を遂げるメンバーが多くいる。アムステルダムで国際税務に従事した村上や、アメリカで監査現場責任者として活躍した鶴田もその例だ。これらの赴任は彼らを大きく成長させた。そのような海外での活躍機会を自ら掴むことができる「公募制度」がスタートした。

PROFESSIONAL
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中村 佐恵子 デロイト トーマツ グループ合同会社 HR企画 マネージングディレクター
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村上 太一 デロイト トーマツ税理士法人 ITMA東京 シニアマネジャー
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鶴田 侑子 有限責任監査法人トーマツ HU)1-4米国監査基準 マネジャー
目次
日本人として、海外で働くということ。
「日本とはまったく違う働き方を求められます。だからこそ大きく成長できたと感じます」
デロイト トーマツの村上太一は当時をそう振り返る。村上はデロイト トーマツの税理士法人に入社後、アムステルダムのオフィスで国際税務のプロジェクトに携わった。彼の主たる仕事は、日本企業が欧州へ進出する際の全方位的な支援。そのため、カバーする領域も幅広い。
「いわゆる通常のオペレーションではなく、あらゆる相談に対応する必要があるため、アムステルダムのオフィスにいるさまざまなプロフェッショナルに相談する必要がありました。業務を円滑にしていくには、自分はこういう取り組みのために・日本から成果を出すためにやってきたという情報発信もしていく必要がありました」

もう一人。有限責任監査法人トーマツの鶴田侑子は2018年から2020年にかけてアメリカ・ミシガン州へ海外赴任した。アメリカでは主に日系現地ホールディングス会社の子会社を数社担当。繁忙期にはほぼ毎週飛行機に乗り、一人でアメリカ各地の子会社工場へ赴き、補助者のUSI(インドオフィス)を活用しながら監査現場責任者として働いた。2年目はホールディングス親会社の主要チームメンバーとして活躍した。
「私は大学を卒業するまで地元の名古屋から離れたこともなく、留学経験もありませんでした。それでも一歩踏み出したことでキャリアは一変したんです」

ビジネスの世界が一層グローバル化していく中で、日本のビジネスパーソンに求められる能力も国際的なものとなってきている。多くの若者たちが、国内市場にとどまらず、グローバルな舞台で活躍することを志向しているのも当然といえるだろう。この動向に応えるべく、海外経験の重要性を認識し、その機会を積極的に提供している企業も増えている。デロイト トーマツもその一つだ。
デロイト トーマツ「海外就労公募制度」
デロイト トーマツの海外就労公募制度を担う中村佐恵子は次のように話す。
「海外での経験は仕事の幅や質を向上させるだけでなく、自身の限界に挑戦し、新たな能力を引き出す貴重な機会です。そしてそこで新しいビジネスのエッセンスを取り入れたメンバーが日本の成長に寄与できると考えています」

デロイト トーマツでは、海外勤務を「辞令」だけでなく、新たに「挙手」できる公募制度をスタートさせた。通常の辞令と異なり、意欲的なメンバーが自身のスキルやキャリアアップを目標に、自ら手を挙げて海外勤務の機会をつかめる制度だ。デロイト トーマツが世界に展開している国のポジションを自身で確認し、エントリーできる仕組みだという。
実際に海外で働くことで、ビジネスパーソンは日本国内では学べない多くのことを体験する。異文化間での誤解や対立は避けられないが、これらを乗り越える過程で、より効果的なコミュニケーション方法や説得技術が自然と身につく。海外の同僚やクライアントとのプロジェクトを成功させる経験は、帰国後のキャリアでも非常に価値のある資産となる。
中村は「海外での成功体験は、確実に自信につながります。また、新しい環境での適応力や問題解決能力が向上することで、どのような状況下でも最良の結果を出す力が身につくでしょう」と述べる。これらの経験は、個人の成長を促すだけでなく、所属する組織の国際競争力強化にも寄与する。
デロイト トーマツは、こうした多様な学びと成長の機会を提供することを目指し、海外就労公募制度の積極的な利用をメンバーに広く推奨している。異文化を理解し、それを自らのビジネススキルに生かす方法を学び、国内外で輝くプロフェッショナルとして成長するための土台を築く。
求められる自分発信力「言わずとも誰かが見てくれている」はない
冒頭の2人、村上と鶴田はこの制度が始まる前から海外勤務を経験している。デロイト トーマツでは、制度以前も海外赴任という形で、海外勤務は積極的に行われてきたのだという。
村上は当時を「アムステルダムのオフィスでは、日本企業の営業窓口的存在でもありました。こちらから提案をすることもあれば、相談を受けることもある。内容は企業によってさまざまあり、オーダーメードの対応が求められました」と振り返る。
もともと幼少期にオランダで育った村上は、いずれは海外勤務を目指していたという。「ただ、自分の職務で一定の成果が出せなければ、海外勤務は実現しないと考え、まずは目の前の仕事に集中していました。そろそろかな?というタイミングで語学の勉強を始めていたころに上司からアムステルダムへ行かないかと声をかけられました」
もちろん、村上なりのアピールをしてきたこともあるだろう。当時小さな子どももいたが、家族間で事前に会話を重ねてきていたので、スムーズに家族帯同で海外勤務へと向かうことができた。では職場での苦労もなかったのだろうか。
「いえ、最初は苦労しかありません。業務は不定形で一つの部署で完結しないため、自分からオフィスの人たちと積極的に交流を図り、何かあった時に相談しやすい関係づくりをする必要がありました。また、これは日本とは異なるところかもしれませんが、『いいことをしていれば誰かが見てくれている』ということは一切なし。現地の上司にも、自分がどのような取り組みをしていて、それがどのような成果になっているかを細かく報告していく必要がありました」

上司から不要とされれば、他の日本人メンバーに変えられてしまう可能性もある。村上は成果を出し、その成果をしっかりと説明していくことで評価を得ていった。
「日本では『語らなくても通じる』といったこともありますが、欧州でそんなことはありません。だからこそ、自分の存在意義や周囲への説明を意識的に行う必要がある。ただ、これは日本に戻ってきて結果的には日本でも重要であることを知りました」
加えて仕事に振り回されなくなったとも話す。
「赴任期間中の業務は定型的なものが少なく、何をもって現実的な業務目標とするかについて判断が困難なことがよくありました。赴任当初は精神面で落ち込むことも多く、試行錯誤していました。
ただ、業務は思い描いていた通りにいかないことが常ですし、その中で自分にできる最大限のことをするしかない、と開き直ることも必要だと感じました。これは関わっている人達のニーズを無視して独りよがりに業務を行うということではなく、自分なりの境界線を持って業務にあたり、関係者を満足させることを目的としてベストを尽くすということです」
海外勤務を経て、村上は設計図通りにビジネスを遂行するのではなく、どんな形であれビジネスとして成功できる形にマネジメントをしていく「俯瞰した目と行動指針」を持てたと話す。
文化も社会も異なるから想像を超える丁寧なコミュニケーションの必要性
鶴田侑子は海外経験ゼロの状態で、アメリカで現場責任者となった。
「子供のころから国境に縛られない働き方に憧れていました。ただ、世界で働くにあたり丸腰でいいのか? と感じてもいました。そこで得意分野を持つスペシャリストを目指し、私の場合はそれが公認会計士でした」
大学に入るにあたっても、鶴田は英語を学ぼうと考えてはいたのだという。「周囲に相談して、英語は独学で勉強できる。独学できない分野を大学で学ぶべきでは? とアドバイスをもらい、経営を学ぶことにしました」
その後鶴田は有限責任監査法人トーマツへ入り、「親しい先輩の海外赴任が決まり、いなくなる寂しさも感じつつ、自分も海外赴任へ手が届くのではと考えるようになりました」と話す。既婚者の女性は家族帯同のパターンが多いと思っていたが、単身で赴任する事例を目の当たりにし、何だってできると考えるようになったという。
そして2017年、鶴田は社内制度を使ってイギリスに1か月留学する。
「人生で初めて海外で過ごしました。ヨーロッパ各地のビジネスパーソンとのディスカッションを通じて海外で働く自分の姿が現実的なものに思えてきました。一方、英語力の不足も痛感し、英語学習も本格的にはじめました」
つまり鶴田は先に行動を起こし、そこで気づきや反省点があれば、それを課題とし、改善をしていったわけだ。そして2018年、アメリカへ。いきなり現場責任者として働くことに不安はなかったのだろうか。
「海外赴任といっても、同じデロイトなので使っているマニュアルなども同じ。単純にそれが日本語から英語になっているだけなので、いわゆる転職とはまったく違い、不安は少なかったです」
会計という専門分野を持ち、同じデロイトだからこそ海外での仕事でも大丈夫という思いがあったという。

「それよりも大変なのはコミュニケーション。インドオフィスとの連携はオンラインですが、コロナ禍前でお互い不慣れでもあり、当初は双方にストレスがありました」
鶴田は仕事を円滑にしていくために、オンラインでインドオフィスの相手に積極的にコミュニケーションをしていったという。「アイスブレイクでお互いのことを知るようにしたり、仕事以外でのコミュニケーションをし続けました」。
同じようにアメリカのチームともコミュニケーションを積極的に行った。
「Deloitte Universityの研修を受けているときも、仲良くなったメンバーと食事や飲み会でつながりを深めました。最初にアメリカに行ったときは孤独感もありましたが、言葉は違っても人は人なので自分を自己開示してオープンな姿勢で関わりました」
鶴田は海外赴任を経験し、日本国内で育っていては見えなかったことが見えたと話す。
「一般的に日本人が描く綺麗な英語を話す人はほんのひと握り。それ以外の人たちは下手でもなんでも思いを必死に伝えようとしている。うまく話せないから恥ずかしいとか、間違えたらどうしようとか思い悩んで行動しない人はいません。それなら私もそうしようと思えました。『他にも英語が話せて優秀なメンバーはたくさんいるし、私なんて』と考える人も多いと思います。私も自己肯定感は高いとはいえません。でも実際にやってみたら、思った以上になんとかなる。だからやらないよりは、やってみて、だめならだめでいいと、そんなふうに思えるようになりました」
私たちが、海外勤務について伝えたいこと
2人は口をそろえて「海外勤務は行った方がいい」と話す。鶴田は公募制度について「やる気のある人にチャンスを与えてくれる制度です」と述べる。

「私はいつもチャンスがあるような環境にいませんでした。そのせいか、チャンスはいつでもやってくるわけではないという思いが強いです。デロイト トーマツという大きなグループに身を置いているのだから、やってきたチャンスはつかむべき。それにより、自分の未来ががらっと変わります。海外赴任前はドメスティックな中小企業を担当していましたが、今はグローバル企業の担当をしています。どちらがいいというわけではなく、行く前と行った後では自分の選択肢の幅が大きく広がります。大きな転換点がいま目の前にあると思い、一歩踏み出してはどうでしょうか」
中村も「海外勤務制度」について「私たちはメンバーが海外で成功するために必要な支援を惜しみません。語学力の向上だけでなく、異文化理解に関するトレーニングを通じて、グローバルな舞台で活躍できる力を身につけてもらうためのプログラムを提供しています」と話す。「私たちは、グローバルな環境で活躍できる人材の育成を、約2万人いる全メンバーの25%を目標に活動しています。そのためには海外での実務経験が不可欠です。これからも、多くのメンバーがこの機会を活用し、自己の限界を超える成長を遂げてほしい」。
デロイト トーマツでは、海外勤務を経験したメンバーが帰国後にその経験を生かし、組織全体の成長に寄与しているという。中村は、この点について次のように述べる。
「海外勤務から戻ったメンバーたちは、得た知識と経験を日本での仕事に活かしています。彼らはグローバルな視野を持ち、現地で作られたネットワークを活かして国際的なプロジェクトでもリーダーシップを発揮しています。また、新たな市場の機会を見出す能力も高まっており、当社のビジネス拡大に貢献しています」
デロイト トーマツでの海外勤務は、個人の成長だけでなく、組織全体の持続可能な発展に貢献している。メンバーが国際的な経験を積むことは、彼ら自身のキャリアだけでなく、会社全体の未来にも明るい影響を与えている。
「私たちはこれからも、メンバーが国際舞台で成功するための支援を惜しみません。また、その経験がデロイト トーマツ全体に展開され、より多くのクライアントに対して高品質なサービスを提供し続けられるよう努めていきます」と中村は締めくくった。

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