CXから、HXへ。
デジタルが当たり前の
世界はより「人間中心」に

dX時代のマーケティングトレンド、
主役は「人間」

デロイト デジタルに所属する世界中のコンサルタントの知見を結集した「2020 Global Marketing Trends」日本版が公開された。ビッグデータやスマートデバイス、AIなどの活用が進み、かつてないデジタル技術革新が進む。本レポートの主眼は、この第4次産業革命への対応だが、その主役はテクノロジーではなく「人間」だ。

本レポートの日本語版を編纂した、デロイト デジタル パートナー 熊見成浩は「今やマーケティングはCMOのみならず、全社的な課題です。当レポートを執筆したのは昨年末であり、現在(2020年4月時点)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が人命と経済に全世界的な影響を及ぼし状況は大きく変わっていますが、人類はこの状況を必ず克服し、もう一度トップラインを上げていくフェーズが来ます。その時、あらゆる企業は「顧客」から、より一層「人間」に焦点を当てた価値提供が求められ、またその準備が必要になるでしょう。このような前提でCEO、CMO、CHROをはじめとする経営層やマーケターはもちろん、あらゆる組織のリーダーに読んでいただきたい」と語る。グローバルトレンドの解説を交え、日本企業が今押さえるべきポイントを示唆する。

「Purpose-driven」な企業が今日のビジネスを本質から変えていく

本レポートの第1章のテーマである「Purpose(目的)」は、「なぜその企業が存在するのか?」という極めて重要かつシンプルな質問に答えられるかどうか、そしてその答えが、組織の意思決定のビーコン(発信機)となり得るかを問うている。

「Purposeとは、企業の存在意義であり、ブランドの根幹を成すもの。環境変化が速く、ボーダレス化が進むデジタル化時代においてはこれまで以上に重要なテーマになってきています」と、熊見もレポートの冒頭にPurposeを掲げた意義を強調する。そして、組織全体に研ぎ澄まされたPurposeを宿し、あらゆる戦略に浸透させていくためにはPurpose-driven(目的主導型)の組織であることが重要だ。SDGsが経営のキーワードになるように、社会の中での存在意義を体現するPurpose-drivenな企業でなければ、グローバルで多くの人々から称賛され、100年先まで残る企業にはなりえないだろう。

デロイトの研究によると、Purpose-drivenな企業は長期的なロイヤルティを得たり、顧客とより深い関係性を築いたり、人財を惹きつけたりするプロセスを経て、より大きな成果とインパクトを達成している傾向が見られるという。では、掲げたPurposeを実現するために求められるものは何か。熊見によると、それは「Human Experienceがどうあるべきか」という深い洞察である。

Customer Experience(CX)からHuman Experience(HX)へ

本レポートの第2章ではHuman Experience(人間としての経験:以下、HX)にフォーカスを当てている。HXは、ブランドと顧客だけではなく、従業員、ビジネスパートナーとの関係性、インタラクションの全てにPurposeを織り込むというものだ。

ここで最初に指摘されているのが、急速なデジタル化が生む「経験負債」だ。例えばメールアドレスを登録すると、商品・サービスを紹介するメールが必要以上に舞い込んでくる。あるキーワードを検索すると、関連する商品の広告ばかりが目につくようになる――このような経験はないだろうか。デジタル化により、意図しない結果が積み上がっていく。これが経験負債だ。熊見は「本来の人間らしい体験やコミュニケーションが阻害されるようであれば、企業のエンゲージメントが毀損されることもあるでしょう。デジタル化が加速化される中、本来のPurposeから外れ、むしろ経験負債が拡大しているケースも散見されます」と警鐘を鳴らす。

では、Purposeを宿し、かつ経験負債を減らすにはどうすればよいのか。それが「経験負債を返済し、人間としての経験『HX』を高める」という方法だ。自動化が進み、AIが進化を続け、人間の行動やジェスチャーを再現しようとする取り組みが進む。しかし、人間的な接触・共感をデジタルやテクノロジーが代替することはまだまだ難しい。企業の視座では、HXを高めることとは「顧客、従業員、そしてビジネスパートナーの全てが共通のPurposeに沿わせ、ニーズに応えていくこと」を意味する。

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー Deloitte Digital Japan Deputy Lead 熊見成浩

「顧客の経験(CX:Customer Experience)だけではなく、従業員の経験(EX:Employee Experience)、ビジネスパートナーの経験(PX:Partner Experience)を含めなければHXにはなりません。デロイト デジタルではこれを『CX + EX + PX = HX』という公式で表します」と熊見は人間的なつながりを結び、HXに帰結させることの必要性を説く。

その好例はスターバックスだ。ただコーヒーを提供するだけではなく、アルバイトスタッフを含む従業員一人ひとりが高いレベルの接客を提供する。その中で顧客を含めた全ての人たちにとって特別な空間を創り出す。それがスターバックスというブランドの源泉になっている。

「顧客、従業員、パートナーを含めた全員がスターバックスの価値観を高いレベルで共有していることで、都会的で上質な生活空間の提供までを実現している。だからこそ、ブランドが心地良いと感じられるのです。その空間づくり、空気感づくりを細部まで浸透させ、さらにグローバルレベルまで広げているのがスターバックスの強みです」

このように、HXとは、企業やブランドをより良い方向に導くため、オペレーションに携わる全ての関係者にとって欠かせないテーマに他ならない。

世界が嫉妬するプロダクト・サービスを日本から生み出すために

「2020 Global Marketing Trends」日本版では、「日本の視点」として、PurposeとHXの連動性に重点を置き、それを体現させるために何が重要なのかを他のトレンドとの関係性に即して総括している。熊見が挙げるのは「まず本物を創る」「本物を顧客体験の全てに宿す」ことだ。「コミュニケーションの接点がデジタル化する中、プロモーションで“化粧”することがますます難しくなっています。マーケティングミックスの4Pの中でもプロダクトとプライスがより重要になる中、特にプロダクトに改めて注目しています。私はそこで必要な要素として“Kill Value Proposition”という言葉を用いていますが、これは100社中で筆頭の1社に立つほどの、相手をKillしてしまうような卓越した提供価値を持つ本物のプロダクト・サービスでなければ、今の市場では勝てないと提唱しています。また、そのプロダクトは、単に商品性だけでなく、それを取り囲む顧客体験にまで範囲を広げて考えなければKill Value Propositionにはなり得ません。これらをHXの視点、つまりCX + EX + PXで徹底追求していくことが必要になります」と強調する。

本物のプロダクト・サービスを創り、顧客体験の全てに宿す。それは企業経営そのものであり、ビジネスの根幹だ。だが、デジタルテクノロジー、データ分析が高度になってきたからこそ見えた新次元もある。それは「テクノロジーを活用して、人間中心的解像度を上げる」「データドリブン型意思決定を行う」というプロセスだ。

「解像度を上げる」こととは、人間の根源的な欲求をより深く理解し、プロダクトやサービスを追求していくこと。デザインで言えばほんの1mmの違いかもしれない。しかし、顧客体験を細かい粒度で理解、設計できる解像度の高さとは、その細部において圧倒的な差異をもたらすだろう。人間中心的解像度を上げた開発が成功した先には、尖ったプロダクト、サービスが見えてくる。それは先述のKill Value Propositionに他ならない。しかし、多くの日本企業の事例を見守ってきた熊見は「その先では、データドリブンの意思決定が武器になる。これは日本企業こそ重要なポイントになります」と指摘する。

好例は、新エリア「ハリー・ポッター」を導入したユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)。著名なエピソード「2014年のUSJ」だ。当時、USJの年間売上は約800億円という規模ながら、新たに建設したハリー・ポッターエリアの総工費は約450億円に及んだ。その投資を実現させるため、少額投資施策を行いつつ、実データを示して投資の妥当性を証明。関西のテーマパークにとどまっていたUSJを日本全国区、そしてアジアに通用するエンターテインメント空間にブレイクさせる。

「大きな勝負をかける時、社内のコンセンサスを取るとサービスが実現できなかったり、プロダクトが中途半端になったりしてしまいます。定性的なものもデータ化しやすくなっている今、キラーコンテンツの登場を後押しするのがデータです」

確かに日本企業では調和が重んじられてきた。その中で、解像度を上げて尖ったプロダクト・サービスが社内の合意を取りまとめるのは容易なことではない。そこで、社内のステークホルダーを説得し、一丸にさせる可能性を持つのが定量的なデータ、顧客の真の声だ。データこそがコンセンサスの取りづらい意思決定をスピーディに実現させ得る。

「日本は課題先進国といわれますが、マーケットは一定の規模があるだけに、その中で研ぎ澄ませたプロダクト・サービスをグローバルに出していくという方法論は有効です」と熊見は提言する。本レポートでは「日本の視点」での解説を中心に、日本企業がグローバル市場で勝つための手掛かり、知見も取り上げている。

「HXの解像度を上げ、社内の意思決定含め組織のアジリティを高めていくことで、『世界が嫉妬するようなプロダクト・サービス』を輩出する日本企業の登場を願ってやみません」と語り、日本企業のさらなる躍進の一助になりたいと総括した。

Deloitte Digital Japan
https://www.deloittedigital.jp/

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