コロナショックで終焉を
迎える大企業の”オープン
イノベーションごっこ”

【シリーズ】 両極化時代のデジタル戦略

企業と企業が垣根なく手を組み、リソースを補完し合えば、新たなイノベーションが生まれる──。そんな期待で2010年代に盛り上がってきたオープンイノベーションだが、多くの企業が有効活用できないまま、コロナショックの広がりで活動自体の見直しに直面している。このような状況下において、新たな日常をつくることが求められるポストコロナは、新たなビジネスを生み出す大きなチャンスとも言える。提携ありき、出資ありきといった、目的を見失った形ばかりのオープンイノベーションから、顧客課題解決にフォーカスしたアウトプット重視の事業化アプローチ「ビジネスプロデュース」へ。企業の進むべき道を新規事業によって示す時代がようやくやってきた。

棚橋 智 / デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー
Monitor Deloitte Business Produce リーダー

コロナショックで本質が問われるオープンイノベーション

オープンイノベーションブームに乗り、新規事業創出をめざす大企業がベンチャー企業と手を組む例は増えているが、その多くが事業化に至らず頓挫している。イノベーションの共創のために始めたはずの多くのプロジェクトが、結果として大企業側の一方的な「プログラムやりっぱなし」「投資しっぱなし」で終わってしまっており、近年では有望なベンチャー企業の中には、大企業が次々に企画するアクセラレーションプログラムや政府プログラムから距離を置くと公言する企業も出てきている。これが、大企業の「オープンイノベーションごっこ」と揶揄されるゆえんだ。

そして、終身雇用カルチャーが色濃く残る日本企業の多くは、そもそも経営の重要な部分に外部リソースを起用することへの抵抗感が根強い。新しいビジネスのために異なるケイパビリティを持つ者同士が共働するというオーソドックスなビジネスのアプローチを、わざわざ「オープンイノベーション」と呼ぶことには、「外注」を聞こえのいい表現に言い換えたいという思惑もある。しかし、根本的なカルチャーが変わらなければ変革はおぼつかない。
こうした成果の見えなさに、コロナショックが追い打ちをかけている。デロイト トーマツ ベンチャーサポートが2020年4月に実施したアンケート調査では、「ベンチャー企業への投資を含むオープンイノベーション活動を昨年比30%以上縮小させる」と回答した企業が過半数にのぼった。
この状況を改善する道はあるのだろうか。それを考える前に、まずはこうした新規事業プロジェクトが失敗しがちな原因を整理してみよう。

原因① 自社を取り巻く「しがらみ」で決断不全に陥っている

オープンイノベーションによって事業アイデアが生み出されても、その実現を阻む大きな壁がある。真っ先に挙げるべきは、企業の「しがらみ」である。歴史と共に、顧客・従業員・サプライヤー・金融機関・地域住民・官公庁・業界団体など、ステークホルダーとの付き合いは深くなる。創業家・創業経営者が率いる会社ならばそれぞれのステークホルダーとの関係性を理解し付き合い方をコントロールできる可能性はあるが、大半の日本の大企業は頻繁に経営トップが交代するため、ステークホルダーとの根っこの関係性を把握・理解することが難しい。それ故に、長期的な目線やイノベーション・新規事業に対して、たとえ胆力があったとしても決断する力を持ちにくいのだ。それに追い打ちをかけるように「正しくあるべき」というコンプライアンスの要求が年々高まり、チャレンジする機運を削いでいる。

さらに、自社の提供するサービスやプロダクト、カルチャーはこうあるべしというコミットメントも、時代の移り変わりの中で弱みになってきた。多くの本業化した新規事業には、以前なら経営層から自社のカルチャーに全く合わない、理解できないと言われたであろうものが少なくない。
ソニーがゲーム業界に参入したときも、コマツが建設機械の位置情報を活用したKOMTRAX(コムトラックス)を始めたときも、「らしくない」という反発は強かったそうだが、いまではどちらも企業カルチャーを牽引する事業になっている。

身も蓋もない話だが、事業と自社カルチャーとの相性の良否は、これまで言語化されてきたカルチャーとの整合より「実際に儲かるかどうか」を基準に判断すると精度が上がる。自社のケイパビリティが生かせる事業なら儲かるし、持続する。それはすなわち、有しているカルチャーに合致しているということだ。

原因② 「Doer」の欠乏で「Thinker」だらけの組織体に

原因の2つ目は、Doer人材の欠乏である。実は、日本でオープンイノベーションブームが起こる前の1990年代~2000年代には大企業の中にもDoer人材はまだ一定数存在していた。しかしこの10年で、Doer人材の多くは自ら起業したり、より実力主義なスタートアップや外資企業に移ったりして、大企業からいなくなってしまった。また、起業のハードルが下がったため、「とりあえず新卒の就職活動では大企業に入社するべき」という機運も急速に薄れており、若きDoer人材にとって大企業で働くということは選択肢にすら入らなくなりつつある。
一方、ベンチャー企業はベンチャーキャピタルから調達した資金とストックオプションを活用してDoer人材の採用力を強めてきた。それ故、特に歴史の長い大企業において新規事業をリードするのに適したDoer人材が欠乏する事態になっている。

「しがらみ」を乗り越えて新たな事業を立ち上げていくためには、Doer人材をベンチャー企業など社外にも求めること自体は有効である。しかし、自社内に欠乏している状態では彼らの良さを引き出して、自社の変革を実現する推進力につなげていくことは正直難しい。

原因③ デジタルに移行しても「鎖国状態」のまま

しがらみとDoer人材の不足だけでも説明がついてしまうのだが、もう一つ、デジタルでの鎖国状態にも言及したい。

デジタルを前提とした事業構想では、競争環境が大きく変わるため、自社のプロダクト、自社の組織、自社のケイパビリティに閉じないで着想することが重要だ。自社に閉じている限り、デジタルトランスフォーメーションといいながら単にリアルをデジタルに置き換えただけになりやすく、顧客に提供する価値が広がらないからだ。
ただし、実際にはこうした視野の狭いDXが世に溢れており(それ故にデロイト トーマツは「“D”X」ではなく「“d”X=Business Transformation with Digital」を提唱している)、短期的には成果も上がっているように見える。実際はデジタル市場の拡大の恩恵を受けているにすぎず、見かけの成果に喜んでいるうちに、グローバルのシェアや競争力が落ちていくという罠にはまりやすい。

この罠を回避するには、デジタル化により未来の顧客はどんなサクセスを得たいのか、から考えることが肝要だ。ショッピングがデジタル化することで、「顧客は製品を店の枠を超えて比較したいはずだ」「顧客は自分のことを心底知っているアドバイザーに似合うものをレコメンドしてほしいはずだ」というように、発想自体を変えていかなければならない。大企業における新規事業の意味は、単に収益源がひとつ増加することにあるのではなく、未来のメイン顧客を創造することに他ならないのだ。

コロナショックこそ事業を創出する組織づくりのチャンス

いま、世界がコロナショックという大きな不確実性の中にあるが、上記に挙げたような問題を解決するには、むしろまたとない好機ともとらえられる。意思決定プロセスを一から見直し、経営のスピードアップを図る改革に、いまほどステークホルダーの合意を得やすいタイミングはないからだ。

多くの経営者はコロナショックを危機とみなして守りを固めようとしているが、不確実性が高い状況だからこそ、新たなニーズを取り込んで社会価値やビジネスチャンスに変えていく攻めの視点が重要になる。シャープがいち早く液晶工場にマスク生産体制を築き、供給を実現したことは注目を集めた。どうやってあのスピードで実現できたのだろうかと筆者にも問い合わせが寄せられた。

ポストコロナの世界を正確に予測することは難しいが、社会全体で「ニューノーマル」を構想して、アジャイルにトライアルを繰り返し、実現していくことは多くの大企業にとっても、これまでの「自社らしさ」に縛られず、生活者の課題に向き合い自社の提供価値を再設計するチャンスになるはずなのだ。

オープンイノベーションからビジネスプロデュースへ

筆者は、オープンイノベーションという言葉を好ましくないと感じている。なぜならば、いまフォーカスすべきは、手段が目的化しがちなオープンイノベーションではなく、短期(たとえば1年以内など)での事業化というゴールに向かって走る「ビジネスプロデュース」であるからだ。オープンイノベーションブームのような言葉に振り回されず、ビジネスプロデュースとの違いを明確に捉えてほしい。

このポイントについて、オープンイノベーションとの比較によって表したのが図3である。目的、ヒト、マネジメント、目標、結果を軸に整理しているが、とりわけ重要なのはヒトの軸で捉えた「”聖域なき”社外活用」だ。つまり、「Thinker」中心で同質性の高い社内メンバーだけでなく、社外から起業家を含むタレントを広く集め、ベストチームを組むのである。

新規事業は「未来のコンセプトの卵」である。その卵が孵化し、成長するにともなって、既存事業や全社そのものに大きなフィードバックをもたらす。それ故に、「未来のコンセプトの卵」が実業に裏打ちされたリアリティのあるビジョンであれば、組織の旧態依然とした意識を変えていくことができる。そして、ビジョンに呼応した人が社内外で集まることで、推進力は加速度的に増していくのだ。

オープンイノベーションから脱却し、ビジネスプロデュースに取り組むことで、企業は未来の顧客の人生を豊かにするためのビジョンを打ち立てることができるはずだ。

※当記事は2020年8月14日にDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー.netにて掲載された記事を、株式会社ダイヤモンド社の許諾を得て転載しております。

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