ポストコロナは
「両極化の時代」デジタルが
生む新しいつながりとは

DIAMOND Quarterly 4周年フォーラム 講演録

コロナショックから新たな日常が生まれつつある現在でも、企業を取り巻く環境は先行きの見えない大きな不確実性に包まれている。デロイト トーマツ グループのCSOである松江英夫氏は、「DIAMOND Quarterly 4周年フォーラム」に登壇し、この不確実性を捉える上で「両極化」という視点を提示した。相反する事象や価値観が増大し、広がっていくというこの時勢は、企業経営にとって一見ネガティブな要素に見えるが、むしろ構造変革のチャンスであるという。ポストコロナの経営にはあまねく変革が求められ、その構想において「デジタル」が重要なイシューであることは論をまたない。しかし、これまでのビジネスを単にデジタルに置き換えるだけでは、持続的な成長のチャンスを逃すことになる。重要なことはこれまではつながらなかったものをデジタル・テクノロジーでつなぎ、その接点に新しい価値を見いだしていくことである。ポストコロナにおける両極化の増大をチャンスに変えるデジタル経営の要諦を説く。

コロナショックが拍車をかける両極化を
どう融合していくか

コロナショックによるGDPの落ち込みは激しく、リーマンショックをはるかに上回る世界的な経済の落ち込みを余儀なくされています。それとともに浮かび上がってきたのが、「両極化」という時代の大きな構造変化です。ここでいう両極化とは、二極化を含むより広義の概念として、相反する力が同時に高まっていく現象を指しています(図表1)。


例えば、グローバル化が進展する一方で、近年はある種の保護主義や反グローバリズムが非常に大きな力を持ってきています。米中の対立などもその典型の一つといえるでしょう。今回の本題であるデジタル化についても、GAFAのような巨大なプラットフォーマーが登場する一方で、GAFA分割の是非や個人のプライバシー保護の重要性についても多く論じられています。

また、企業のソーシャル化についても両極化の現象といえるでしょう。株主の資本効率を高めるという経済価値を最大化していくことと同時に、企業は社会課題を解決することによって社会価値を高めることが求められています。ESG投資やSDGsへの取り組みが注目されていることにもそれは表れています。特にこの経済価値と社会価値をいかに高次元で両立させるかという観点では、日本企業が外資系グローバル企業に比べてとりわけ立ち遅れている部分といえます。デロイト トーマツが実施したサーベイ(第四次産業革命における世界の経営者の意識調査 2020年版)の結果を見て分かるように、日本の経営では、いまだに企業としての利益追求と社会課題の解決を別物と捉えられており、この両立が経営モデルとして組み込まれていません。

今回のコロナショックがこうした両極化の流れに拍車を掛けました。中途半端なものや無駄がそぎ落とされ、本当に必要とされるもの、つまり「本物」が残る時代を迎えつつあります。ポストコロナにおいては、両極化という時代の構造変化を念頭に置きながら、両極のどちらか一方を選択するのではなく、それぞれの必要性を認識しながら、どうつないでいくのかが問われます。それに合わせて、いかに経営のモデルを変えていくのか――。非常に難しい時代を迎えているといえます。

両極化の時代に求められる新たな経営モデル

この両極化の時代に向き合う新しい経営モデルを考える上で、3つのポイントが重要だと考えています(図表2)。


1つ目は、両極化が進み、先行きが読みづらい不確実な時代にあって、経営の時間軸をどう設定していくのか。これは全ての経営者に重要視されている問題です。

ご存じの通り、日本企業では、長期ビジョンを掲げつつも、実際には3年から5年スパンの中期経営計画がよりどころとなっているのが実情です。私は中期経営計画の存在自体を否定するものではありませんが、変化が激しく不確実な時代においては、中期経営計画一本やりのかじ取りでは、先行きが危ういと考えています。

では、例えば、シリコンバレーをはじめとする、海外のグローバルなスタートアップはどのように時間軸を捉えているかについて、デロイト トーマツではズームアウト・ズームインという考え方を提唱しています(図表3)。

ズームアウト・ズームインとは、経営のマネジメントサイクルにおける長期と短期、超長期と超短期をつなぐマネジメント手法のことです。ズームアウトでは、将来の時間軸として10年、20年、30年先を設定します。そこから読み解いたメガトレンドから自分たちの事業の在り方を考え、長期ビジョンを策定します。一方、ズームインでは、足元の3カ月から半年、1年先を精緻に捉えて柔軟な経営のかじ取りをします。

私が10年以上前に担当していた、ある外資系企業では、このズームアウト・ズームインを地で行く経営スタイルを取っていました。1年のうち半年は、20年、30年先のメガトレンドを読み解くことに費やし、残りの半年は目の前の6カ月、来年度の事業計画をどうするかを議論するというマネジメントサイクルを徹底していました。

この企業は半導体系のメーカーでしたが、ご存じの通り半導体業界は非常に変化の激しい世界です。一方で、大胆な長期的な投資も求められます。こうした環境におけるマネジメントとして非常に革新的でした。こうした長期と短期という両極をつなげる時間軸の発想が、まさに今、多くの日本企業に求められていると思います。

2つ目のポイントは、ステークホルダーとどうつながり、エコシステムをどう築いていくかです(図表4)。


従来型の経営戦略においては、同業他社を競合と見なしてきました。しかし、API(Application Programming Interface)エコノミーの進展に象徴されるように、これからは業種や企業の垣根を越えてサービスが展開される世界に向かっていくはずです。こうした環境やマーケットの変化を前提にしながら、自社のポジショニングや競合と見なすべき企業、また自社にとってのパートナーを再定義し、エコシステムを再構築していく。こういった戦略が経営上、非常に重要になってきます。

3つ目のポイントは、どのようなパーパスを設定するかです。パーパスとは、従来のミッションより、もう一歩踏み込んで、自分たちが社会にどう働き掛け、どのような社会を実現したいかを定義するものです。ひと言で言えば、社会に対して能動性を持った大義です。時間軸の長期と短期、また自社と他社をつないでエコシステムを築くには、「何のために経営をするのか」という大義、すなわちパーパスが必要になってきます。


パーパスは、社内で多くの従業員と絆を築いていく上でも重要な役割を果たします(図表5)。特にミレニアル世代やZ世代と呼ばれる若い世代には、自社の社会的な存在意義を重視する傾向があり、こういったメッセージを経営トップから直接聞きたい、もしくはそういう関係性を会社と築きたいといった意識を強く持っています。良くも悪くも、従来型の社内の組織編成やキャリアパスでは、従業員と経営層のエンゲージメントを築くには限界が来ています。

今後は、パーパスを一つのよりどころにしながら、従業員と会社、経営層と現場をつないでいく。そうした意識を持って、経営や組織を変革していかなければなりません。

DX(デジタル化)から
dX(デジタルを使った組織変革)へ

両極化の時代には、この3つのポイントでつながりをつくることが経営モデルとして求められますが、そこで重要になるのがデジタルというわけです。

現在、多くの会社でデジタルトランスフォーメーション=DXに取り組んでいます。しかし、多くの経営者から、DXで何をすればいいのか分からないという戸惑いの声もよく聞かれます。

そこでデロイト トーマツが提唱しているのが、「”D”X」から「”d”X」、「Digital Transformation」から「Business Transformation with Digital」への転換です。小文字のdにしたのは、デジタル化は目的ではなくあくまで手段であり、真の目的はビジネスの変革にあるというメッセージです。

コロナショックさなかの現在、あらゆる組織で変革が強く求められています。それは、単に需要が落ち込んだというだけでなく、ポストコロナにおいても、既存の事業が元通りに回復することはないという多くの経営者の見方によるものです。この危機感から、企業の事業構造そのものを変革する「ポートフォリオトランスフォーメーション」が非常にリアルな経営課題になってきています。

では、ポートフォリオトランスフォーメーションとしてのdXの全体像をもう少し詳しくご説明しましょう。下記はdXをどのように展開するかを説明するためのフレームワークで、4+1の枠組みで構成されています(図表6)。


左上のA「社内業務の自動化(業務生産性向上)」は社内業務の自動化です。これをビジネスモデル全体、バリューチェーン全体に展開していくのが、B「バリューチェーンのデジタル化(業務付加価値向上)」です。現在デジタル化に取り組む企業の大半は、ここが目標になっていると思います。

しかし、dXの本質からすれば、それだけではまだ完成形とはいえません。図表右側のC「既存事業のビジネスモデル変革」の段階では、既存のビジネスの価値や顧客との接点の在り方にもメスを入れ、事業構造を根本から見直します。そして、さらにD「新規事業/イノベーションの創出」では、デジタルの力を駆使しながら新しい事業を生み出します。dXとはここまでが全て含まれるというのがデロイト トーマツの認識です。

以上の4つの実現には、プラスワンとして、E「企業文化のトランスフォーメーション」が必要になります。組織と人材のデジタルへの意識を強化し、企業文化そのものも変えていかなければなりません。

デロイト トーマツで3万人強を対象に調査(デジタル人材志向性調査)を行ったところ、世代や階層、組織といったところで、デジタル化を進める上での認識のギャップが生まれていることが判明しました。このギャップにおいて、データが共有されているか、また活用できているか、さらにはそういう環境が整備されているか、そのような観点から組織を見直してみれば、そこにはさまざまな課題が浮かび上がってきます。大勢で集まる会議やオフィスに縛られた働き方、年功序列的な制度、経営の意思決定におけるプロセスなど、こうしたものを変えていくのがデータの力であり、その解決を積み重ねていくことで企業文化の変革が実現するのです。

こうして経営からじかに現場の情報が見えるようになっていくと、dX全体がさらに加速します。デジタル経営の成否は、データをテコにしながら新しいつながりを生み、事業や組織、風土といったものをどう変えていくかにかかっているのです。そのためにはマーケティング、サプライチェーン、ガバナンスといった各領域において新たなつながりを生み出すためのデジタル化が必要となりますが、その具体的な方法については『両極化時代のデジタル経営』にてご紹介しています。一方で経営者は、dXの全体像を俯瞰しながら、自社が現段階においてdXの枠組みの中でどこに力点を置いているのか、さらには次に何を目指さなければいけないのか、目標とその道筋をしっかりと描きたいところです。

日本企業が持つ両極をつなぐ力とは

最後に両極化が進む時代は、実は日本企業ないしは日本にとって大きなチャンスであることをお伝えしたいと思います。なぜなら、二者択一ではない多様なつながり、階層を築いていく力は、日本の強みだからです。

言い換えれば、それはものごとを最適化する力です。さまざまなレイヤーで、こちらとは交友関係を結び、こちらとはまた別な文脈で関係を築く。そうして複層的な関係性をつくりながら、最適なバランスを保つのは日本の得意とするところです(図表7)。また、消費者と生産者という両極の間で、品質について折り合いをつけながら高い水準を保つといった課題に対しても、最適化する力が発揮されるポイントです。実際にその力を発揮してきた結果として、ジャパンクオリティー(日本品質)の確立に結び付いたのではないでしょうか。


日本企業はソーシャル化において後れを取っているということを最初に述べましたが、こうした日本企業が潜在的に持っている最適化する力を強みとして意識しながら、日本のデジタル経営を進化させていけば、経済価値を高めながら社会課題の解決につながる新たなビジネスを生み出すことが可能になります。課題先進国の日本において企業がデジタル経営を推進することにより、課題解決先進国として世界規模の課題解決をリードしていく。そんな姿を目指して、ぜひチャレンジしていきたいところです。

※当記事は2020年10月15日にDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー.netにて掲載された記事を、株式会社ダイヤモンド社の許諾を得て転載しております。

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