経済産業省・JAPEXが挑む脱炭素化

ネットゼロ社会の実現を目指す
北海道苫小牧における
カーボンリサイクル事業の可能性

 「2050年の温室効果ガスの実質ゼロ化」の宣言により、脱炭素化の取り組みが加速。カーボンニュートラルの実現のためには、再生可能エネルギーや水素の導入拡大によるCO2の削減だけでなく、CO2を回収して再利用する「カーボンリサイクル」が鍵を握る。そんな中、北海道苫小牧市でカーボンリサイクル事業の調査が始まった。このプロジェクトに携わる石油資源開発(JAPEX)、デロイト トーマツ コンサルティングと経済産業省にプロジェクトの可能性について聞いた。

CO2を資源として再利用
日本に強みのあるカーボンニュートラル政策

 「カーボンリサイクル」とは、文字通りCO2を資源として再利用(リサイクル)し、それによって大気中へのCO2排出を抑制する技術だ。産業界から排出されるCO2を分離・回収し、原料の一部として、ポリカーボネートなどの「化学品」や、ジェット燃料などの「燃料」、コンクリートなどの「鉱物」を製造する。気候変動の要因とされるCO2の排出量を減らすだけでなく、カーボンニュートラル社会における産業の原料として捉え直す考え方だ。

経済産業省
資源エネルギー庁
長官官房
カーボンリサイクル室長
土屋 博史氏


1998年に通商産業省(現在の経済産業省)入省。2016年、NEDOワシントン事務所所長として、米国におけるCCUS/カーボンリサイクルを含む最先端技術の政策動向等の分析や日米連携の強化に携わる。21年7月に現職。カーボンリサイクルに係る技術開発・実証の推進、国内外への情報発信や連携強化を担当。東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。

 「諸外国のカーボンニュートラル政策ではCO2削減に重きを置いていますが、カーボンリサイクルに着目しているのが、我が国のCO2対策の特色の一つです」と語るのは、経済産業省 資源エネルギー庁 長官官房 カーボンリサイクル室長の土屋博史氏である。

 日本政府は「2050年の温室効果ガスの実質ゼロ化(カーボンニュートラル)」を宣言し、その実現に向け、20年12月、経済産業省は「グリーン成長戦略」を策定した。この戦略の中で、再生可能エネルギーや水素の導入拡大に加え、カーボンリサイクルを「カーボンニュートラル実現のためのキーテクノロジー」と位置付けている。

 同戦略に基づき、経済産業省は21年7月に「カーボンリサイクル技術ロードマップ」を改訂し、カーボンリサイクルの社会実装計画を前倒しした。新たなロードマップでは、「研究・技術開発・実証」段階(フェーズ1)を経て、2030年ごろには高付加価値な製品の本格普及を目指し(フェーズ2)、2040年ごろには需要が多い汎用品の普及を拡大する(フェーズ3)という計画を描いている。

 土屋氏は、「カーボンリサイクルの社会実装を実現する鍵は、CO2の用途拡大と、活用のためのコストをいかに抑えるかにあります。海外では、スタートアップ企業による技術開発や、オープンイノベーションのためのエコシステムの形成が進んでおり、国際的な技術競争がスピードアップしています。我が国においてもオープンイノベーションによる社会実装の加速が求められるでしょう」と語る。

 これを実現するため、経済産業省では、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じた研究開発・実証の支援や、グリーンイノベーション基金による新技術の開発などを行っている。さらに、21年10月には3回目となるカーボンリサイクル技術の国際会議を開催。世界の産学官の叡智を集め、最新の知見の共有や社会実装に向けた取り組みに関する活発な議論を促している。

 また、「エコシステム形成の可能性を探るため、広島県大崎上島と北海道苫小牧に実証研究拠点を整備しています。大崎上島ではバイオ燃料・化学品・炭酸塩など多岐にわたる研究開発を行い、苫小牧ではカーボンリサイクルの実証研究に加え、産業間連携を活用したカーボンリサイクル事業の実現可能性調査も実施しています」と土屋氏は説明する。



石油資源開発の勇払油ガス田
石油資源開発が苫小牧市で運営する勇払油ガス田。資源として使いきれないCO2を回収し、油ガス田に貯留すると同時に原油の増産を図るEORの可能性も検討している

CO2のバリューチェーンが形成された苫小牧でカーボンリサイクル事業の実現可能性調査がスタート

 苫小牧で産業間連携を活用したカーボンリサイクル事業の実現可能性調査に取り組んでいるのが、国内外で石油・天然ガスの探鉱・開発・生産事業などを展開する石油資源開発(以下、JAPEX)と、デロイト トーマツ コンサルティング(以下、DTC)だ。

 両社は21年2月、NEDOが公募した「コンビナート等における産業間連携を活用したカーボンリサイクル事業の実現可能性調査」において、「苫小牧を拠点とする産業間連携調査」を受託した。

 このプロジェクトでは、苫小牧を拠点に、都市全体のゼロエミッション化に資する産業間連携によるカーボンリサイクル事業の組成を目指している。

 具体的には、地域内にある油ガス田、製油所、火力発電所、空港、製造業、バイオマス産業など、CO2や熱といった資源を排出する事業者と、それらを利用する事業者をつなぎ合わせ、産業間連携を促し、CO2の排出・回収・再利用というバリューチェーンを回す仕組みづくりに取り組んでいる。

石油資源開発株式会社
常務執行役員
天野 正徳氏


東京電力株式会社を経て、2014年に石油資源開発株式会社に入社。福島復興支援事業の一つに位置付けられた福島県初のガス火力発電所(118万kW)のプロジェクトマネージャーとして、20年の全面運転開始までをリード。21年1月に電力事業に加え、カーボンニュートラル事業の担当役員を兼務。東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。

 「例えば、バイオマス発電所が排出したCO2を回収して製油所に送り、製油所はCO2を原料とするジェット燃料を製造して空港に供給するといった連携が実現します。苫小牧は、CO2のバリューチェーンを形成できる産業群が集積した港湾を有し、将来、全国規模や世界規模の事業に発展させるためのエコシステムの組成にふさわしい場所だと言えます」と語るのは、DTCの榎本哲也シニアマネジャーだ。

 また、「苫小牧では、当社が参画する日本CCS調査株式会社の実証試験センターで、CO2の回収・貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)の大規模実証試験を10年前から実施しており、地元の自治体や企業、市民の皆さまのカーボンニュートラルに対する理解が深いことも、実証の場の候補にふさわしかったと言えます」と語るのは、DTCと共に実現可能性調査に取り組んでいるJAPEXの天野正徳常務執行役員である。

 JAPEXは、苫小牧市内の勇払油ガス田で石油・天然ガスを生産しており、今回のプロジェクトではバリューチェーンを形成する候補企業の一つでもある。また、油ガス田から原油や天然ガスを輸送する自社パイプラインも保有しており、その経験とノウハウを生かして、地域内の産業間を結ぶCO2パイプライン網構築・運営の具体化にも参画する見通しだ。

バリューチェーンを回すための環境整備が不可欠

 天野氏は、石油・天然ガス開発事業を展開するJAPEXがカーボンリサイクル事業に取り組む意義について、「当社は21年5月、昨今の脱炭素の流れを受けて、2050年のCO2排出量のネットゼロ目標を掲げるとともに、カーボンニュートラル社会実現とエネルギー安定供給への継続的な貢献を柱とする『JAPEX 2050』を取りまとめました。JAPEXは日本のエネルギー安定供給を担う会社として、半世紀以上にわたり国内外で石油・天然ガス開発を中心とする事業に取り組んできています。そして、新しい時代の要請に合わせ、これまでの事業で培ってきた技術を、カーボンニュートラル社会実現に向けてさらに応用していきたいと考えています」と説明する。

 JAPEXは、苫小牧のプロジェクトにおいてCO2パイプライン網の構築・運営に加え、石油開発で培った地下調査や開発の技術を生かした、資源として使い切れないCO2を回収し、地下の油ガス田に貯留すると同時に原油の増産を図るEOR(Enhanced Oil Recovery)の可能性も検討中だ。



 複数の企業や事業体が参画してカーボンリサイクルのバリューチェーンを形成するという今回のプロジェクトは、世界でも例を見ない試みだけに模索中の部分も多い。大きな課題の一つは、複数にまたがる参画者の利害をいかに調整するかということだ。

 「バイ(2社間)で行うプロジェクトならすり合わせも比較的容易ですが、数十社にまたがるプロジェクトとなると、複雑かつ微妙な調整が必要です。この点については、DTCに担っていただいています」と天野氏は語る。

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
エネルギーユニット
海外・官公庁チームリーダー
榎本 哲也氏


苫小牧における産業間連携によるカーボンリサイクル事業のプロジェクトマネジャー。これまで10年以上にわたり、エネルギー業界に特化して150件以上のプロジェクトを実施。とくに低炭素化技術に関する政策提言や民間企業の研究開発戦略の策定、エネルギー事業者の海外事業戦略の策定に強みを持つ。慶應義塾大学理工学部卒業、慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了。

 産業間の調整役を担うDTCの榎本氏は、「欧米ではスタートアップ企業がスピーディにバイでプロジェクトを組成することがありますが、数十社の大手企業が参画する本プロジェクトではそうはいきません。合意形成のポイントは、まず当社側で事業化のためのビジョンや仮説を作り、それをたたき台として建設的なディスカッションを交わすことです。また現場の方々だけでなく、トップマネジメントの方々にもプロジェクトの意義を伝え、積極的にコミットしていただけるようにしています」と説明する。

 プロジェクトがスタートしてまだ1年足らずだが、既に37社が検討会に参加するなど、着実に前進しているようだ。

 経済産業省の土屋氏は、「カーボンリサイクルを推進するためには、技術開発だけでなく、コスト削減のための工夫や、バリューチェーンを回すための環境整備が不可欠です。苫小牧プロジェクトのような具体的なケースに期待をしているところです」と語る。

 また、天野氏は「カーボンリサイクルのバリューチェーンを回すためには、最終製品がどこで回収されたCO2を使って製造されたものかを認証することも必要です。苫小牧のプロジェクトでは、その仕組みづくりにもチャレンジしたいですね」と考えを示した。

 これについて榎本氏は、「DTCが属するデロイト トーマツ グループには、カーボンリサイクルの事業化を支援するコンサルティングの他、認証のフレームワークづくりを行う保証業務、バリューチェーンを回すためのIT基盤開発など、事業全体をカバーできるサービス体制が整っています。苫小牧プロジェクトでは、デロイト トーマツ グループ各社が参画し、構想策定から認証システムの開発まで、一気通貫で支援しています。この総合力を発揮しながら、我が国が取り組むカーボンリサイクルの社会実装を全面的に後押ししていきます」とその意気込みを語った。

経済産業省の土屋氏(写真中央)は、「苫小牧プロジェクトには大いに期待しています」と天野氏(同左)と榎本氏(同右)に語った


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