不確実な時代に求められるリスクマネジメント
「リスク」=危険ではない

パンデミック、戦争、カーボンニュートラル……、企業が直面するリスクは急増し、刻々と変化している。逃げてばかりはいられない。今こそリスクを知り、最善の対処に向けて一歩を踏み出さなければいけない。多くの企業を支援してきた2人の専門家が、リスクマネジメントの重要性を語った。

リスクとは逃げるものではなく「勇気を持って試みる」こと

──「リスク」は避けるべきというイメージがありますが、「リスク」の意味について教えてください。

岩村 私はもともと会計士をしていましたが、そのころから、日本企業の方とお話しすると、「リスク」という言葉に対して、正しく理解されていないということを感じていました。

岩村 篤

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー
ビジネスリーダー 兼 有限責任監査法人トーマツ包括代表代行
2000年監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入社。IPOや会計監査業務に従事後、ガバナンス、ファイナンスを中心に幅広いアドバイザリー業務をグローバル製造業やTMT企業に提供。21年よりリスクアドバイザリーのビジネス責任者。

桑原 リスクとは「不確実性」のことですが、日本人はどうしても「悪いこと」だと捉え、まず避けようとします。そのため、日本企業にリスクマネジメント部がある場合、組織の中の「ブレーキ」の役割になっていることが多いのです。

しかし、企業を前に進めるためには、ブレーキだけでなくアクセルも必要です。アクセルとは、リスクを理解し、チャレンジすることです。この両方を一体的に動かす組織にならなければいけません。

──リスクを恐れ、逃れてきたことが今日の日本経済の低迷を招いていると言えるとも感じます。そもそもリスクは避けるものという誤解は、いつから生まれたのでしょうか。

桑原 一番の出来事は1991年のバブル崩壊です。前のめりの状態から一転して、ブレーキをかけたのがリスク管理部門でした。以来、リスクは避けるという考えが染みついてしまいました。

それが変化したのが、2008年のリーマンショックでした。リスク管理の枠組みについての検証が進み、戦略目標を達成するために進んでテイクするリスク、いわゆるリスクアペタイトを明確化する実務が浸透し始めました。

岩村 リスクという言葉の語源は、大航海時代に見たこともない大陸を目指して海に出たことに由来しており、「勇気を持って試みる」という意味です。現代の企業は、様々な不確実要素という、まさにこれまで経験したことがない海へこぎ出すことが求められているのです。

企業が直面する複合的なリスクにどう立ち向かっていくか

──確かに、ここ数年で全く新しいリスクが次々と現れていると思います。

岩村 その通りです。例えば「サステナビリティ」においてもこれまでの企業は自社のこと、自国のことを主体的に考えて、自分だけが突出することを目指してきました。それが大きく転換し、社会の一員として、取引先を含めたサプライチェーン全体の最適化を考えなければいけない事態になっています。

ほとんどの日本企業は、海外と何らかの関わりを持って事業を進めています。これまで見えていなかった、サプライチェーンの末端においても何が起きているのかを知り、対処していく必要が生じています。

桑原 その上、個々のリスクは関連し合い、さらに複雑さを増しています。

現在の国際情勢により天然ガスが不足すると、温室効果ガスを多く発生する石炭火力発電が必要になりました。経営判断は、長期のトレンドだけでなく、瞬間ごとに変化する状況に対して優先順位を変えなければいけません。

桑原 大祐氏

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー パートナー
大手金融機関でデリバティブ取引、市場リスクマネジメント、経営管理業務などを担当し、コンサルティング会社を経て現職。金融機関に対するリスクアドバイザリーおよび非金融産業の金融ビジネスの戦略立案などに従事。

岩村 経済安全保障の問題もあります。グローバル企業がサイバー攻撃によって、1日に数百億円の被害を受ける事件も発生しています。国をまたいだサプライチェーンを構築している企業は、対策に頭を悩ませています。

桑原 これだけ不確定要素が複合的に絡み合っているシナリオは、どんなに過去のデータをAIで分析しても捉えることができません。

リスクに挑戦する経営判断を専門家集団がアドバイス

──では、その複合的なリスクに対して企業はどう取り組んでいけばいいのでしょうか。

桑原 結局、何が起こるかは予想することが非常に難しいということです。であれば、何が起きても対応できるフレキシビリティを持っておくべきです。経済安全保障の例で言えば、サプライチェーンの中から危険だと思われる要素を完全にシャットダウンするようなシナリオは、1つ持っておくべきだと思います。

──ただ、企業が単独でいくつものシナリオを考えるのは難しいことです。だから、外部のリスクマネジメントの専門家による助言が必要になるということですね。

岩村 デロイト トーマツ リスクアドバイザリーは、あらゆる業界のビジネスに精通したプロフェッショナルを国内だけで約2800人抱えており、グローバルのネットワークを生かして企業にアドバイスできる態勢を整えています。

経営者の判断に至るプロセスに寄り添い、見えていないリスクをアドバイスできることが私たちの価値ですし、お客様と見解が異なる場合でも、衝突を恐れずに、正直に意見をぶつけることが、私たちの使命であると考えています。

──今回、リスクマネジメントの書籍を出版されるとのことですが、出版に至った背景とどのような書籍かを教えてください。

岩村 「今の日本社会では経済成長のためにビジネス上のチャレンジ、すなわちリスクテイクが必要なのではないか?」という親交の深い経営者の方からの問いかけが契機でした。リスクマネジメントをビジネスとして推進し、その経営者の方と同じ問題意識を持つ我々にとって、私たちが考える課題や目指したい方向性を文字としてお伝えすることも意義があると考えました。

桑原 リスクマネジメントの考え方、戦略リスク、事業リスク、サイバーセキュリティリスクなど、リスクおよびリスクマネジメントに関し、全体をカバーしつつ、読者の方の理解が進むように、より具体的に示すことを意識した一冊となっています。この書籍がリスクマネジメント業務に携わっている方々のお役に立つだけではなく、不確実な時代の中でビジネスをされている皆様にとって「勇気を持って試みる」ことの第一歩となれば幸いです。

リスクマネジメント 変化をとらえよ デロイト トーマツ リスクアドバイザリー

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