デジタル変革で「クール」で
「ハートフル」な製造現場
を創出

製造業を変革するスマートファクトリーの可能性

2019年12月11日から3日間に渡り、半導体デバイスの製造技術、材料に関する国際展示会「SEMICON Japan 2019」が東京ビッグサイトで開催された。1977年の開催から43回目を数えるエレクトロニクス製造サプライチェーンの総合展覧会で、カバーする範囲は半導体デバイスを製造する全工程から自動車やIoT機器などのSMARTアプリケーションにまで及ぶ。国内外から750社以上が出展する中、デロイト トーマツ グループは、半導体の製造分野における工場のスマート化「スマートファクトリー」を提案。Augmented Reality:拡張現実(以下、AR)を用いた工場のデモンストレーションを展示した。

これはタブレット端末によって製造ラインを体験できる、ユニークで楽しいデモンストレーションだ。タブレットの画面にはバーチャルな製造工程が表示され、模型のアヒルがラインを流れていく。来場者はARを介して、ラインの手順に習熟していない作業員のサポート、出荷前の不良検知、アセット稼働状況の可視化・故障予知、さらには工場全体の稼働状況をリアルタイムに確認できるコマンドセンターを体感した。

このデモンストレーションを通し、モノづくりの分野において特にコアな半導体分野で、ARやVirtual Reality:仮想現実(以下、VR)を活用し、工場のスマート化の可能性を示した。スマートファクトリーにおけるAR・VRやMixed Reality:複合現実(以下、MR)のポテンシャルは計り知れない。MRとは、バーチャルとリアルの世界を結び、デジタルとフィジカル空間を共存させながら相互に作用させるものだ。今回のデモで再現した工場のように、センサーやコネクテッドデバイスから得られた情報により、作業員はスピーディーなサポートや熟練した技術者のアドバイスなどを迅速かつ効率的に得られるようになる。

グローバルに進む第4次産業革命の真っただ中で、製造業もスマート化を迫られている。革新的なテクノロジーの活用によって進む製造業のデジタル変革――スマートファクトリーの趨勢と課題を解説する。

デジタル変革で製造業における競争優位は再び先進国へ

デロイトグローバルが米国競争力評議会(the Council on Competitiveness)と共同で行なった研究『Global Manufacturing Competitiveness Index (GMCI)*1』によると、21世紀をリードする製造業者は革新的なテクノロジーの活用により、すでにデジタル空間とフィジカル(物理的)空間を融合させつつある。そこでは先進的なハードウェアにソフトウェアやセンサー、データとデータ解析の組み合わせを実現させている。

フィジカル空間である工場では、ラインの稼働やシステムの状況をセンシング技術、ネットワーク技術によって収集し、デジタル空間においてAI、データサイエンスを駆使して解析。これによりスマートな製品やサービスが生まれ、顧客やサプライヤーとより密接につながっていくことができる。この一連のプロセスを含め、革新的なテクノロジーの活用によって得られた知見は、今後の自社の競争力を加速させる鍵にもなる。

デジタル空間とフィジカル空間の融合によって生まれるのは、これまでにない先進的な製品、そして技術サイクルの循環である。製造業の主戦場が高価値の先進製品、またはプロセスに移りゆく中、革新的なテクノロジーのプレゼンスは増す一方だ。その延長線上には、コスト競争力に優位性を持つ国々から、強固なテクノロジー開発基盤を持つ先進国にアドバンテージが移る未来像も描かれる。20世紀の伝統的な製造大国として知られるアメリカ、ドイツ、日本、イギリスなどの先進国が製造業の主役を取り戻す可能性は高い。

製造業のデジタル変革に立ちはだかる障壁

デジタル空間とフィジカル空間の融合が進む中、製造業者がテクノロジーを活用し、組織にデジタル変革を取り入れることはもはや不可避の課題だ。デロイトとMIT Sloan Management Reviewが行なったグローバル調査*2によると、回答者である製造業のシニアエグゼクティブの90%近くが「デジタルのトレンドが自分の業界を多かれ少なかれ破壊する」と予想した。その一方で、「デジタルによる破壊の到来に自組織が十分備えている」との回答は44%にとどまっている。またデロイトによる別のインタビューからも、製造業のデジタル変革はやや遅れていることが明らかになっている。

製造業はなぜ、革新的なテクノロジーの活用に後れを取っているのか。インタビューによると、変化や機敏性を阻害するなどの組織構造・文化的課題、基準や規制が市場のスピードに追いつけないという課題、技術者やテクノロジー人材不足といった課題が指摘される。そして、無視できないのが経営層のマインドセットだ。

デロイト トーマツ サイバーのチーフ ストラテジー オフィサー(CSO)桐原祐一郎は、「製造業では、5年前、10年前のビジネスモデルや成功体験をもとに組織運営をしているケースも見受けられる」と指摘する。しかし経営戦略は、5年先、10年先を見据えなくてはならない。このギャップを埋めるためにも、製造業の企業文化や従事者にもマインドの変化が早急に求められている。

テクノロジー活用の考え方は「Think Big, Small Start, Act Fast」

ではそうした障壁を乗り越え、今後の自社の競争力の源泉を獲得していくにはどうしていくべきか。それに対する鍵となる考え方が、「Think Big, Small Start, Act Fast——大きく考え、小さく始め、素早く行動すること」だ。

「SEMICON Japan 2019」のデモンストレーションを想起してほしい。人間は3次元で世界を捉え考えるため、デジタル環境を現実世界に置き換えて没入できるAR・VR・MRと親和性が高い。それらに加え、身体的なアクションをデジタルに起こすウェアラブル、機械装置がなくてもコミュニケーションができるジェスチャ認識技術などを含む「インターフェイス・オブ・シングス」は、パソコンなど従来のデバイスとは操作性、世界観が全く異なり、現場の作業員であっても直感的な操作、体感がしやすくなるのが特徴だ。そしてそこには、何より“ワクワク”するものがあり、そうした気持ちは変化を受け入れやすくする。今回のデモンストレーションでも工場関係者たちが楽しく、“ワクワク”しながら操作に夢中になる姿が見られた。

一方、経営層にもメリットがある。工場の稼働状況、製造実績はセンシング技術、ネットワーク技術によって可視化され、従来では見えなかった現場改善、経営判断の迅速化・最適化が可能に。工場の仮想化も視野に入る。また、稼働や生産性の予測により、工場設置前にコストをかけずシミュレーションが行えるため、投資へのリスクも軽減できる。

「Think Big, Small Start, Act Fast」の考え方をベースに、「インターフェイス・オブ・シングス」などの革新的なテクノロジーを活用することは、製造業における現場の抵抗や 大きなリスクを伴う経営判断などのネガティブファクターを覆せる要素となり得るのだ。

クールでハートフルな製造現場をもたらすデジタル変革

現在の日本では、少子高齢化による労働力人口の減少や働き方改革の推進も相まって、生産性の向上は喫緊の課題だ。それにはテクノロジーを活用した業務改革、デジタル変革が必須となるとともに、熟練工の技能伝承も無視できない課題として挙げられる。

今回「SEMICON Japan 2019」でAR工場のデモンストレーションの企画を担当したデロイト トーマツ コンサルティング マネジャー髙木良一は、「モノづくり企業に脈々と受け継がれてきた熟練工のノウハウや暗黙知は、これまで言語化・データ化が難しく、次世代への継承は容易なものではないとされてきましたが、最近ではARによる熟練工の動作トレーニング実施に向けた動きも出てきています」と現状について教えてくれた。

また、デジタル変革がもたらす生産性の向上は、現場のスタッフからルーティン作業を一掃する期待もある。捻出した時間を“ワクワク”するような新技術の開発、人にしかできない創造的な業務などに充てていくことも可能になるだろう。

実際に京都・宇治市のアルミ加工メーカーHILLTOPでは、現場の職人が培ってきた技術をデータベース化し、大きな成果を挙げている*3。受注から製造、納品までをIT化し、24時間の無人稼働を実現している。HILLTOPの職人が工場の機械の前で作業するのは就業時間の2割程度。残り8割の時間はデスクワークに従事し、さらなる生産性の向上、新たな付加価値の創出に挑んでいる。

このように、中小企業もデジタル変革により飛躍的な成長を遂げている現状がある。デロイト トーマツ コンサルティング アソシエイト ディレクターで約20年の製造業のコンサルティング経験をもつ平田真一郎は「現在の製造現場は『スマート』であるだけでなく『クール』で『ハートフル』であってほしい」と、執筆したレポートのコラムで綴っている。

「地域の若者が誇りとやりがいをもって、ワクワクしながら働ける場所であり、高齢者や主婦が我が町の工場として生きがいと愛着をもって働ける、そんな工場が生き残る工場だ」

平田のこの提言には、デジタルとモノづくりの現場、つまりフィジカル空間が融合し、“ワクワク”を生み出す製造業の未来がある。

出所
*1 Deloitte "2016 Global Manufacturing Competitiveness Index"

*2 MIT Sloan Management Review "Aligning the Organization for Its Digital Future"

*3 デロイト トーマツ コンサルティング『Exponential technologies in manufacturing テクノロジー、人材、イノベーション・エコシステムが製造業の未来を変える』

RELATED TOPICS

TOP

RELATED POST