「Future of Audit」
デジタル時代に問われる
会計監査の価値提供

コロナショックによって加速した、従来型の会計監査からの大変革の必要性

事業のグローバル化やデジタル革新により、会計監査を巡る環境は加速度的に変化している。その動きはコロナショックにより、さらに加速したと言えるだろう。感染拡大を踏まえ、各国政府は生産活動に著しい制約を課している。多くの企業は自社社員の安全確保、リモートワーク/テレワークの導入やIT基盤の再検討といった対応に追われ、ビジネスにおける価値観も大きく変容した。

このコロナショックによって明らかになったことの一つとして、危機に対応し、しなやかに対処していくためのレジリエンスの重要性が挙げられる。今後の会計監査も、従来から求められてきた市場からの信頼の維持・強化だけではなく、課題を抱える企業への不断の貢献が求められていく。それらを実現するためにはテクノロジーを積極的に活用し、会計監査のあり方そのものを抜本的に変革していかなければならない。

企業が取り組むべき課題は広範であり、かつ日々変化していく。有限責任監査法人トーマツ 包括代表補佐 Audit Innovation担当執行役 稲垣浩二は、会計監査を変革するために「IT投資、テクノロジーを利活用できる人材の育成を進め、複雑な課題に取り組む企業に高品質で価値のあるサービスを常に提供し続けることが肝要」と捉えている。思い描く会計監査の未来、実現に懸ける想いを、稲垣が語る。

非接触型のコミュニケーションを前提とする会計監査への対応

コロナショックに伴う大きな変化の一つがコミュニケーション手段だ。長らく、ビジネスにおいてクライアントとの折衝、プロジェクト進行は対面のコミュニケーションを主としてきた。しかし、移動制限や在宅勤務の制約が生じたことで、会計監査においても、コミュニケーション手法は接触型から非接触型へのシフトを余儀なくされた。これにより、決算業務と監査業務に遅延が生じる可能性が高まり、確実な監査の遂行には大きな障壁が立ちはだかった。稲垣は「緊急事態に対処すべく、トーマツ監査イノベーション&デリバリーセンター(以下、AIDC)を含めて従前から取り組んでいたリモートワークへのシフトを徹底し、セキュリティを担保すべく体制を整えました」と対応を振り返る。

AIDCは、監査業務の変革と働き方改革の促進を目指す業務集中化拠点であり、監査業務の「標準化」に加え、テクノロジーを活用した多様な働き方を実現するための施策が進められている。次世代の監査を模索する上で、サイバーセキュリティを確保したリモートワークは不可避であり、AIDCのような代替デリバリーにおいても、そのあるべき姿を再考する成功体験となった。

稲垣は「コミュニケーション手段が非接触型になることで、CxOと対面で直接対話する機会も減り、これまでと同じ形でニーズの把握や洞察をご提供する機会は減りました。リモートでのコミュニケーションが通常になる中、いかに価値提供ができるか。いかにその仕組みづくりができるかにフォーカスしていかなければなりません」と語り、コロナショックがもたらした非接触型のコミュニケーションへの柔軟な対応を強調した。「以前の環境には戻らないものと考えなければなりません。会計監査の真の価値とは何なのかが、これまで以上に問われていくのです」――見据えるのは、ネクストノーマルで問われる会計監査の真価だ。

変革を推進するプロフェッショナル集団――Audit Innovation部

デロイト トーマツ グループの有限責任監査法人トーマツ(以下、トーマツ)はコロナショックの前から会計監査のデジタルトランスフォーメーション(以下、dX)に取り組んできた。第四次産業革命のデジタル社会において、多くの企業が複雑な課題に直面する中、トーマツも既存の概念にとらわれず、テクノロジーを取り入れ、監査の手法を進化させ、関わる人と組織をより深化させなければならないと考えたのだ。稲垣が目指すこのような会計監査の変革を、トーマツでは「Future of Audit」と呼んでいる。それは、会計監査のあり方そのものへの深い洞察が根底にある。「テクノロジーの進展によりデジタルでデータが常時つながる世界を見据え、未来の監査のあるべき姿を構想し、業界横断での変革を起こしていくことです」と稲垣が語るように、Future of Auditは大きなビジョンのもと、会計監査のあり方そのものを変革する動きとして進み始めていた。その歩みの一つが、2019年8月のAudit Innovation部の編成だ。

Audit Innovation部の編成に際し、稲垣は「ペンと紙の時代から何十年も大きく変わっていない監査実務が大きな転機を迎える、テクノロジー全盛時代の監査のdX」に思いをはせた。デジタル利用による監査プロセスの見える化は、企業のデータ・情報や業務プロセスをも可視化し、企業が抱える課題に対し洞察を提供する機会を与えてくれる。しかし、テクノロジーだけでバリューを生むことはできない。人間がテクノロジーを利活用した先にバリューがある。「今はデータアナリティクスによって全量解析が可能になる時代です。そこでは、可視化された解析結果から何を異常値あるいは不備と見るのか、なぜそれが発生しているのかの仮説を持つこと。企業や業界特有の事情を考慮して真の問題点を特定し、解決に導くための提言を行うという局面で、人間が本来持つ洞察力が問われます。AIをインテグレートしたアナリティクスの利用においては、更に高度な人間の判断が必要になります」と、Tech Savvyと人間力の双方の重要性を述べる。

Future of Auditで見据えるのは、深い洞察を持つ監査人が存在感を増す世界だ。その世界を実現するためAIに代表されるデータサイエンスを活用して監査業務を高度化し、RPAなどによって業務の効率化、ヒューマンエラーの抑制を目指す。Audit Innovation部はツールの独自開発、積極的な導入を進めて業務を高度化・効率化し、公認会計士だけでなく、データサイエンティスト、ブロックチェーンなどのデジタル技術の専門家、ビジネスコンサルタントなどの多様な専門性を持つ人材を登用。監査にイノベーションを生み出すためのリソースを拡大してきた。テクノロジーの利活用の動きについて、稲垣は「短期損益重視ではなく、将来に向けたイノベーション投資の重要性を考えてきました。その取り組みは、図らずも今回のコロナショックにおいても力を発揮しています」と総括する。

コロナショックでさまざまな変化を余儀なくされていた2020年4月、トーマツは「Tohmatsu LINK」のサービスの提供を開始した。このサービスは、紙資料共有機能付きデバイス「Tohmatsu LINK」を監査先企業へ貸与し、監査人とのペーパーレス、高セキュリティ、高スピードな資料共有を実現するものだ。企業にとって必要な情報を監査人が速やかに共有し、最適な情報を提供することが可能となる。このサービスにより、監査業務の高度化・効率化をさらに加速させ、非接触型コミュニケーションの会計監査の実現にもつながった。稲垣は「コロナショックによってリモートワークが注目されましたが、それが未来の監査のあり方というわけではありません。企業の情報がデジタルデータとしてリアルタイムに可視化され、それが企業間においてもつながり合う世界を見据えるものに他ならないのです。Audit Innovation部の取り組みをドライバーにしながら、監査・保証業務の最前線のメンバーも一緒にこの変革の取り組みを浸透させていければ」と今後を展望する。Audit Innovation部はグループから突出したチャレンジにとどまらず、デロイト トーマツ グループ全体を巻き込み、Future of Auditの潮流を形作っていく。

Future of Auditを支えるイノベーションの風土

テクノロジーの進展により、無数のデータに容易にアクセスできる環境が整った。Audit Innovation部もこの環境変化を捉えるべく立ち上げた。しかし、情報の海から有用なものを抽出し、データをバリューに変換していくためには監査人の洞察が不可欠だ。Deloitte USのサーベイによると、米国のビジネスリーダーの多くは会計監査をビジネスの成長の機会を助ける、卓越した品質と価値ある洞察をもたらす戦略的ビジネスアセットとしてその価値を認めている。すなわち、エキスパートとしての知見の提供だけではなく、膨大な情報を価値ある情報に変換するための洞察を客観的な立場から提供する存在だ。この流れは今後、日本でも大きなものになっていくだろう。

監査業界の変化は激しく、非監査業務の提供について制限が強くかかる流れにあり、監査法人が独立性を維持していくことの重要性も増す一方だ。稲垣は「監査法人はパブリックインタレスト(公益)のために活動する重い責務を引き受けるが故に、関与先や資本市場、規制当局を含むステークホルダーからの尊敬と信頼を維持することが何よりも大切です」と述べ、そのためには、常に周りから見られているという意識が大切であるとして、不断の変革を進めるにあたっての指針を挙げた。それはデロイト トーマツ グループの企業風土の根底にもあるIntegrityとProfessional Behavior――2つのキーワードである。

・Integrity:率直、隠さない、道徳的で健全、そしてずるいことは決してしない。経済社会の公正を守り、クライアントの期待に真摯に応える行動規範(Code of Conduct)として根付いている。
・Professional Behavior:プロとしての行動や立ち振る舞いであり、品位や信用や名誉を重んずる行動。監査法人に所属するプロフェッショナルとして、一人ひとりが強く意識している。

Future of Auditへと歩みを進める中、会計士以外の多様な人材も参画し、テクノロジーの活用によって新たなイノベーションにつながるようなソリューションや仕組みの開発、働き方も盛んに模索されている。

他にはないバリューを提供していくために求められるもの

Audit Innovation部を牽引する中、稲垣の脳裏をよぎるのは米国駐在時代の記憶だ。「4年間の駐在時代には企業から選んでいただくため、何をなすべきかを学びました。私たちの事業は、商品やサービスを売り歩くような事業ではなく、エキスパートによる知見、知識を基に関与先と共に経営課題の解決に取り組み、社会に貢献する公共性の高いものです。だからこそ、関わる人々の不断の努力が重要になっていくのです」と、社会に貢献する監査法人の原点を語る。

「イノベーションはツールだけではなく、人の考え方、マインドセットでもある」というのが稲垣の信条だ。「デロイト トーマツ グループの一人ひとりがマインドセットを変えて挑まなければなりません。オープンでありながらも、時には厳しく、率直に意見を言い合うことも必要でしょう。そうしたイノベーションカルチャーをさらに醸成していきたい」監査・保証業務、リスクアドバイザリー、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー、税務・法務など、デロイト トーマツ グループが有する多岐にわたる知見やサービスを融合させたMDM(Multi-disciplinary Model)によって、デロイト トーマツ グループが一体となった取り組みを推進させ、経済社会・関与先に貢献していく気概を述べた。

社会や関与先との信頼関係、そして監査品質を守るため、Audit Innovation部はダイナミックに、そしてしなやかに会計監査の未来を創出していく。その先にあるFuture of Auditを、稲垣は「パブリックインタレストに貢献する会計監査の信頼を基礎とするファームだからこそ、通常のビジネスプロフェッショナルファーム以上の高度なガバナンス構築が求められるでしょう。しかし、その構築を果たすことで競合他社にない信頼を基礎にした価値提供ができるはずです」と展望する。

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