SDGs、ダボス会議で見えた
社会課題を事業機会にすべき
理由

ダボス会議からおくる日本への洞察

2020年1月21日から24日にかけて、世界経済フォーラム(WEF)の年次総会がスイス・ダボスで開催された(以下、ダボス会議)。今回で50回目を迎えるダボス会議のテーマは「ステークホルダーがつくる持続可能で結束した世界」。世界のリーダーたちが最も多く言及したキーワードは「気候変動」と「ESG(環境・社会・ガバナンス)」だ。地球環境問題や資本主義の再定義が議題に挙がる中、すべてのステークホルダーが恩恵を受けられる、持続可能な世界のあり方が模索された。

環境破壊によって人類文明の持続性に疑問符がつく一方、貧富の差の拡大で世界の分断が進む。グローバル化がもたらす歪みは無視できないものになりつつある。このような情勢の下、SDGs(持続可能な開発目標)、さらにはAI、DX(デジタルトランスフォーメーション)、IoTが社会に大きな影響をもたらす第四次産業革命(インダストリー4.0)の重要性は高まる一方だ。

デロイトはダボス会議に日本から参加した2人のリーダー(丸紅株式会社 取締役会長 國分文也氏、特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミー代表理事 坂野晶氏)を招き、現地からライブストリームを全世界に配信。モデレーターはデロイト アジアパシフィック ボード議長の松本仁が務めた。

SDGsや第四次産業革命を踏まえ、持続可能な経済成長を遂げていくために――日本企業はどのような課題を克服し、どのような未来を描くべきなのか。スイス・ダボスのセンタースポットから、社会課題に最前線で対峙するリーダーの洞察を交えての議論がライブストリームで展開された。

社会価値と経済価値の双方を創出するために

デロイト トーマツが本会期中に発表した「第四次産業革命における世界の経営者の意識調査(2020年版)」の結果によると、自社が最も注力する、または対応している社会課題は「気候変動」「資源枯渇」が筆頭に挙げられ、世界と日本で共通の認識となっていることが明らかになった。しかし、これら社会課題に取り組む理由について、世界の経営者の約40%以上が「収益創出」を挙げる一方、日本の経営者はこの点についてわずか1%の回答にとどまる。グローバルと比較すると、日本企業の経営層には、社会課題を収益創出の事業機会と捉える戦略視点が弱いことが浮き彫りになった。

この結果を踏まえ、ビジネスセクターを代表する國分氏は、日本企業の経営の根幹にはSDGsに近い考えがあるとしながら、「社会課題を日本企業は短期的にコストと捉え、グローバルではオポチュニティと考える視点の違いが影響したのではないか」と述べ、ビジネス上のコンフリクトが短期に存在するものも、長期の時間軸で考える重要性を述べた。

ソーシャルセクターを代表する坂野氏は、世界と日本の人口年代構造の違いに着目する。日本は急速に高齢化が進み、生産年齢人口も個人消費も減少へ転じている。坂野氏はそうした背景を踏まえ、「日本には『良いもの』をつくって買っていただくという考え方があります。今後は、市場が求めるその『良いもの』とは一体どのようなものなのか、企業内のコミュニケーションが十分に行われているかが、これまで以上に問われていくようになるでしょう」と提言した。日本企業の原点であるものづくりをいかに変容させていくかは、DX、第四次産業革命への攻めの企業戦略ともつながっていく。

日本においてサステナビリティの議論が空洞化するのはなぜか

モニター デロイトが手掛けた書籍『SDGsが問いかける経営の未来』(日本経済新聞出版社)には、サステナビリティの議論がどのような道筋をたどって世界に拡散していくのかが示されている。

同書によると、社会課題の顕在化の過程で大きなプレゼンスを発揮するのがNGOであるという。NGOはその活動対象地や専門課題領域に応じて、社会課題の現場で課題軽減に向けた取り組みに注力するが、時に、その課題を引き起こす政治的・経済的な構造の是正を図るべく、政府や企業などに対して政策変更や行動変容を求める「アドボカシー(政策提言・世論啓発)」を行うことがある。同書では、このアドボカシー系のNGOの声に意識を傾けさせる重要性についても説いている。アドボカシーが起きると、企業への批判といったアクションが起こり、世論として急激に熱を帯びることがある。この過程でさまざまなステークホルダーも巻き込まれるようになり、議論はさらに活発化。その結果、基準やルール、規制の制定につながり、企業が果たすべき責務として着地する。

このプロセスからは、社会課題がビジネス上の制約や機会として顕在化するにはいくつかのステップがあることが伺える。つまり、NGOによる注意喚起をはじめ、比較的早期の段階で社会課題の潮流を捉えることが重要になる。ここで社会課題をキャッチできれば、企業戦略の選択肢を増やせるからだ。しかし、日本ではソーシャルセクターとビジネスセクターのリンクの緩さもあり、サステナビリティについての議論が空洞化する傾向にある。日本企業の、そして日本社会の課題はどこにあるのかを、2人のリーダーが自らの知見を踏まえて提言する。

社会課題の現場でニーズや課題の抽出に直面する坂野氏は、ソーシャルセクターの視点から問題点を指摘する。

左:デロイト アジアパシフィック CEO Cindy Hook
中央:デロイト アジアパシフィック ボード議長 松本 仁
右:特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミー代表理事 坂野 晶氏

「私は徳島県上勝町でNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーを運営しています。上勝町は、2020年までにゴミをゼロにする「ゼロ・ウェイスト宣言」を日本で初めて行った自治体です。私たちは、自治体やローカルビジネスの方々と仕組みを創出しつつ、それをグローバルの仕組みの変化に貢献させていきたい、という思いで活動しています。

私が現場で感じるのは言語の障壁です。世界の論壇での議論が英語などで進んでいることもあり、日本国内ではグローバルの社会課題が可視化されにくく、自分ごととして捉えられない傾向にあるのではないでしょうか。目の前の社会課題に対応してきたソーシャルセクター、NPOとしては、グローバルの社会課題が日本の社会になかなか行き渡っていない、という実感があります」

國分氏は、ビジネスセクターの視点から丸紅の活動も踏まえ次のように語り、日本企業の直面する課題を総括した。

「丸紅が、なぜ160年以上にわたり商社として生き延びることができたのか。それは、その時々の社会課題に真正面から向き合い、ソリューションを提供し社会価値を創出し続けてこられたからだと考えています。

例えば、私たちは2018年にコアビジネスである石炭火力発電事業からの撤退を決定しました。これは、現場から上がってきた意見を採用し、大きなビジネスの決断に至ったものです。利益が上がっている事業でも、現場の営業が時代の社会課題を感じ取り、率先して自己否定して進むことができる。時代のフォロワーになるのではなく、先取りしてアクションを起こしていくことができた事例だと感じています。

グローバルをはじめ、今、社会で起きていることへのセンサーをいかに鋭く働かせられるか。その結果として、時代の社会課題を先取りしていくことが、日本企業に求められるアクションではないでしょうか」

新たなリーダーたちが舵を取る2030年の未来像

ライブストリームでは、SDGsが期限としている「2030年の未来」にも議論が及んだ。2030年は、1980年代後期から90年代中盤に生まれたミレニアル世代、そしてスウェーデンの活動家グレタ・トゥーンベリさんたちをはじめとする、ミレニアル世代以降に生まれたZ世代がリーダーとして活躍が期待される時代だ。これまでと異なる考えで行動を起こす世代が経済、社会の中核を担う中、どのような変化が起こっていくのか。

自身もミレニアル世代である坂野氏は、世界人口の半数以上が27歳以下という現状を背景に、今回の世界経済フォーラムでも若いチェンジメーカーが多数議論に参加したことを挙げ、「若い世代の活動が社会課題の解決の一端を必ず担っていくでしょう」と、新しい世代のグローバルな活躍に期待を寄せた。

國分氏は、新しい価値観で世界を牽引するミレニアル世代にとどまらず、現リーダー世代とミレニアル世代をつなぐ中間層の重要性についても言及した。

丸紅株式会社 取締役会長 國分 文也氏

「2030年にはミレニアル世代が世界をリードしていくことは間違いありません。また、第四次産業革命による技術的な進歩(AI、DX、IoT)が明確に社会を変え、企業では人間の仕事をRPA、AIが代替するようになっていることでしょう。そこで日本企業は何をなすべきか。それは新しいビジネスモデルを創造し、新たな雇用、事業を創出していくことです。その礎をつくるのは私たち現リーダー世代であり、それを実施していくのはミレニアル世代です。ビジネスを持続可能としていくために、その両世代をつなぐ中間層、 40代の人材をエバンジェリストとして育成する施策を推進しています」

既出の「第四次産業革命における世界の経営者の意識調査(2020年版)」でも、日本の企業経営者の58%は「持続性の促進」を現世代の責任と回答している。世代を断絶させず、連続性を持って2030年を展望していくことが日本企業には求められているのだ。

持続可能な経済成長に向けた次のアクション

本論で日本企業の大きな課題として挙げられたのは「ソーシャルセクターとビジネスセクターのリンケージ」だ。ダボス会議ではパブリックセクター、ソーシャルセクター、ビジネスセクターが2030年の世界を見据えて活発に議論を重ねた。持続可能なビジネス、社会課題の解決を見据えて日本企業は何をなすべきか。

坂野氏は、新しいビジネスモデルではなく、新しい社会構造におけるビジネスを創っていかなければならない時代に突入していると指摘する。「その中で、自社のビジネスが果たせる役割は何で、誰とパートナーになり、どういった人たちを巻き込んでいけるのか? さまざまなアクターとマルチステークホルダーキャピタリズムを構想し、SDGsにおける役割を再定義していくことが求められるでしょう」と述べ、これから社会の中核になるミレニアル世代、Z世代も意識してパートナーシップを考えていく必要性にも言及した。

國分氏は、今後はビジネスとソーシャルのセクター間の垣根はますますなくなっていくとした上で、「企業にとっては、ビジネス、ソーシャルを超えた多面におけるステークホルダーとの密接なつながりは無視できません。その連携が社会価値、ひいては企業価値の増大をもたらすからです。そして、長期的な社会課題を先取りし構想していくためには、さまざまなステークホルダーと協働し、ビジネスモデルに落とし込んでいくことが欠かせません。そのために必須なのが、私が先ほど述べた、企業の『センサー』です。これからはセンサーを磨き続ける企業が、持続的な成長をしていく時代になるでしょう」と述べた。

両氏の見解はダボス会議のテーマ「ステークホルダーがつくる持続可能で結束した世界」とリンクし、新たな時代のビジネスを模索する日本企業への提言となった。日本企業がSDGsを経営戦略の観点から見つめ直し、自社のビジネスを社会課題と結びつけていくためには、価値観、知見、意識などをさまざまなステークホルダーと擦り合わせ、コンセンサスを取っていかなければならない。デロイト トーマツでは、自社でもSDGsについてさまざまな活動を行うとともに、グローバルな知見とケイパビリティを生かし、そのプロセスも含め日本企業の持続的な成長をサポートしていく。

以下より動画アーカイブをご覧いただけます。

Facebook:
https://www.facebook.com/Deloitte.Japan/videos/593077528136647/

デロイト トーマツ グループ Official Website:
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/about-deloitte-japan/davos.html

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