「自分らしく輝けるTech領域」
活躍する3人の女性が今伝えたいこと

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  • 久保田 詩音 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ディレクター

日本の「Tech人材不足」を救うのは女性たち

現在Tech人材は幅広い業界で活躍している。IT業界を一例としてみると、2021年の女性ITエンジニア比率は21.9%だったが、2022年の同調査では23.2%に増加。*1女性比率は徐々に増加し、今後もその傾向が見込まれる。今Tech人材はIT業界にとどまらず、コンサル・金融などの様々な業界で女性人材が求められている。

「Tech領域の仕事では、他と比較して賃金の男女格差が比較的小さいと言われており、職種によっては在宅勤務も定着しています。日本は先進国で最低水準のデジタル競争力。これを引き上げる鍵は私たち女性です」

そう話すのはデロイト トーマツの久保田詩音だ。

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ディレクター / 久保田 詩音
大手コンサルティングファームを経て2014年より現職。Globalizing Digital Enterpriseユニットに所属し、製薬・医療機器業界を中心としたグローバル規模のデジタル変革をリード

久保田が話すように、賃金や労働環境面からもTech領域は女性が注目すべきフィールドだ。
IT業界でも今もなお男女間の雇用や賃金の格差が存在するが、男性の正社員の給与を1としたとき、女性の給与は0.8。金融保険業界は0.6 、製造業界は0.7と、他の業界と比べて男女間の賃金格差が小さい。*2 さらに、テレワークの実施率も主要産業で最も高く74%である。*3これなら働き方を柔軟に選ぶことができ、育児中でも働きやすいのではないだろうか。

「私は文系出身で、新卒時にTech系のバックグラウンドはまったく持っていませんでした。今では医療や製薬業界において、SAPをはじめとするグローバルなテクノロジー案件に幅広く関わっていますが、最初にSAPの領域を担当することになった時は戸惑いました。誰でも未経験なことや未知の体験をすることに不安を持つ気持ちもわかります。でも、今のビジネスはすべてどこかで必ずテクノロジーにつながっています。恐れる必要はないのです」

SAPとは企業の基幹システムであるERP(Enterprise Resource Planning)分野で世界一のシェアを持つ企業であり、サービス名でもある。ERPは企業全体を経営資源の有効活用の観点から総合的に管理し、経営の効率化を図るための手法や考え方のことだ。

「SAPは企業の経営を横断的に見ることが出来ます。これがとても面白い。Tech系の中でもこんなキャリアがあるということを伝えようとWomen in SAPという取り組みを始めました」

この取り組みでは、Tech領域に進出する女性の増加をミッションとする中で、SAPに関わる女性を増やすことに特化。日々クライアントのビジネス課題に向き合い、ビジネスの根幹を支える経営基盤や基幹業務に対するテクノロジー・デジタル導入を支援するだけでなく、SAPキャリアに特化したプログラム提供や啓発活動を行っている。

「SAPなら安心」無駄にならないキャリアはTech領域にこそ眠っている

SAPの日本法人であるSAPジャパンの常務執行役員でマーケティング本部長の重政香葉子氏も久保田同様、社会人になるまでTech系のバックグラウンドはまったく持っていなかったと話す。

SAPジャパン株式会社 常務執行役員 マーケティング本部長 / 重政香葉子
コンサルタント、オペレーション、社長室、営業企画など多種多様な業務を担当

「私の最初のキャリアは総合電機メーカーで、複写機(複合機)の海外営業部門の米国担当として出荷業務を含めた管理貿易業務を担当していました。そこでサプライチェーンのシステム導入をユーザー側で経験し、ERPというソフトウェアに出会ったんです。ERPは私が担当する業務の課題の解決にとても有用だと実感しました。テクノロジーとしてではなく、課題解決の道具として最初に向き合ったのが良かったのかもしれませんね。抵抗なく扱えました。なんて便利なんだと感動しましたよ。当時導入したのはSAPではなかったのですが、ERPの老舗といえばSAPであることを知り、SAPの門をたたきました」

重政さんは、SAPに関わる魅力は「広さ」と「深さ」にあるという。

「SAPは横断的に経営を見るためのツールとして捉えることもできますし、会計など一つの部分を専門的に扱うこともできます。プログラミングやアーキテクトにも携われます。つまり自分が関わってみて、経営を見てみたけど、プログラミングのほうが面白いなと思ったらSAPの中で仕事をチェンジできる懐の深さがあるんです。私もはじめはサプライチェーンのシステム導入でSAPに興味を持って転職しましたが、今はマーケティングをやっています。向き不向きがあっても、諦めたり別の道へ進まなければいけなかったりというわけではなく、SAPの中で自分に合った仕事を必ず見つけることができます」

ERPの市場規模は伸び続け、そのなかでも世界シェア1位のSAPの需要は高まり続けている。扱える人材は常に求められている状態だ。その中で自分らしい仕事を見つけることができると言う。

久保田も重政氏の話にうなずく。「SAPキャリアと一言で言っても幅広い。だからこそ、自分にあわせて役割を変えることもできます。これは女性にとっては安心材料になるはずです」

キャリアもライフも、Tech領域で可能性が広がる

「結婚や出産で一度仕事から離れてしまうと復職が困難になってしまったり、パートナーの赴任などで海外や地方への移住が必要になったり、自分で自分のやりたいことを選択して仕事、家庭、子育てのバランスをとることが非常に難しい。そこで女性が自分自身で仕事や働き方を選択できるように、そして努力して築いたキャリアを諦めることのないようにしたい」

そう話すのは、女性のTechスキル向上を支援するMAIA代表の月田有香氏だ。月田氏も文系出身だが「最初のキャリアがコンサルティング会社でそこで研修を受けてテクノロジーに触れることになりました」と振り返る。「幸い研修プログラムがあり、未経験だった私も研修を受けることでTech系の世界を知ることができました。思っていたのと違って、経営課題の解決に使える道具なんだという印象を受けました」

MAIAではそのものズバリの「SAP女子」というプロジェクトを行っている。

株式会社MAIA 代表取締役CEO / 月田有香
全国の女性のデジタル人材へのリスキリングと女性のライフスタイルに合わせた多様な形での就労支援を実施

「SAP女子の代表的な例として、沖縄県糸満市にお住いのシングルマザーの女性がいらっしゃいます。彼女は二人のお子さんを育てながらワンオペで正社員として働いていましたが、SAP女子プロジェクトに参加されてからは、収入は以前と比べて2倍以上、さらに週5フルタイムから週3の在宅ワークへシフトできました。今では自分の体調や子どものことを優先できるようになったと喜んでくれています。また、神奈川県の女性は以前はSEとして働いていましたが、家事や介護に専念するために退職されました。SAP女子になってからはフリーランスとして色々な案件に参加され、なんと今はデロイト トーマツさんの子会社に採用されています」

Aさんはリスキリングの成功事例としてNHK「クローズアップ現代」にも取り上げられたという。

「私たちがいるから大丈夫」女性が自分らしい働き方を選ぶなら、Tech系

「Tech領域の仕事と聞くと男性のイメージを持っている方もいると思いますし、私もそうでした。でも、そんなことありません。実際、ITとは縁遠かった私たちのような人たちもいるので、安心して入ってきてほしいと思います。私も、重政さんや月田さんも最初から興味があってこの領域に飛び込んだわけではなく、機会があって触れた結果にテクノロジーの魅力に気づけたのですから」とデロイト トーマツの久保田が話すと、重政氏と月田氏もうなずく。

「それぞれの強みを活かせる機会は沢山あります。Tech領域に男女差はありません。個人の強みをそれぞれが活かせばいいと思います」と重政氏。月田氏も「男性だけとか、女性だけとか区分けするよりも、同じ思いを持って仕事に向き合っている人たちが集まっているほうが成果はでる」と同意する。

久保田は「新卒でSAPを担当するとわかったとき、経験もない自分に務まるのか不安で、泣いてしまったこともありました。私自身もそうですが、インポスター症候群ともいわれるように、周囲のバイアスによって女性は自身を過小評価してしまう事象があるそうです。*4でもそれを無理に直す必要はない。そんな自分を受け入れて新たな一歩を踏み出せばいい。私がもし今タイムスリップして昔に戻れるなら、過去の自分に大丈夫だよ、すごく面白い世界だよって言ってあげたい。今、悩んでいる女性たちがいれば彼女たちに大丈夫と伝え、背中を押したいです」

彼女たちが切り拓いているTech領域における女性活躍の土壌づくりは着々と進んでいる。これまでTech領域に縁がないと感じていた人も、彼女達のように、はじめの一歩を踏み出してみてはどうだろうか。

参考文献:

  1. *1  一般社団法人 情報サービス産業協会 「2022 年版 情報サービス産業 基本統計調査」
  2. *2  厚生労働省 「令和4年賃金構造基本統計調査」
  3. *3  国土交通省 「令和4年度 テレワーク人口実態調査」
  4. *4  インポスター症候群が女性に多いと言われているのは、女性個人の特性ではなく、周囲のバイアス等の環境が原因とされている。
    DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「女性の自己不信はインポスター症候群のせいではない」

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