「働き方改革」の目的は
イノベーションの創出

本質的な働き方改革への3ステップ

働き方改革の推進に加え、COVID-19によって組織と個人のありようも変化が起きている。企業ではジョブ型雇用を導入する企業が増えているほか、個人も副業やテレワークなどに積極的になる動きも出てきた。デロイト トーマツ グループが発表した『働き方改革の実態調査2020』では、企業は働き方改革の必要性を理解し、取り組みを実施しているものの、施策内容と効果を実感している割合にはまだバラつきがあることが分かった。下図の3ステップが「働き方改革」の本質だが、ほとんどの企業が「コンプライアンスの徹底」を終えた段階で、一部の企業が「既存業務の効率化」を推進中の状態。まだ「イノベーションの創出」へは至っていない。

そんな中、デロイト トーマツ グループではCOVID-19禍でのオフィス出社率30%を前提としたリモートでのチームワークやスタッフマネジメント、業務プロセスの見直しを行い、ニューノーマル下でさらにイノベーションを生み出す組織づくりを推進・実践している。

イノベーション創造のための
コーポレート機能

デロイト トーマツ グループのようなファームにおいて最も重要な資産は人材だ。監査・保証業務、リスクアドバイザリー、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー、税務・法務のビジネス・ドメインがあり、国内で1万名を超える専門家が所属する。

「デロイト トーマツ グループは人以外の資産がありません。ビジネスの垣根を越えてグループに所属する人たちに、どれだけ貢献できるかが重要です」と話すのは、デロイト トーマツ コーポレート ソリューション(以下、DTCS)の代表職務執行者社長 和田稔郎だ。同社は2017年4月に設立され、グループ内の主要コーポレート機能を集約し、管理業務を通じた業務品質および生産性の向上、クライアントにサービスを提供するプロフェッショナルへのサポート拡充、グループ内の相互連携促進、グループ全体のサービス品質の向上とガバナンスの強化を目指している。「これまでコーポレート機能は、プロフェッショナルのいちサポート役と考える人が多かった。今は、コーポレート機能の人々もまたプロフェッショナルとして、グループ全体に貢献しようという動きになってきました」と変化を話す。

和田 稔郎 / デロイト トーマツ コーポレート ソリューション合同会社 代表職務執行者社長

DTCSはグループ全体を見渡せる場所にあり、フロント職とは異なる視点から社内の連携を促進するプロフェッショナル集団へと育ちつつある。和田は阪神淡路大震災で被災し、人は一人ではないと強く感じることができたと言う。「若い頃は自分一人で何でもできると思うこともありました。しかし、仕事でも被災時でも、今思えばたくさんの人との関わりで私自身が成長でき、また救われました。経済社会においても、一人でインパクトを与えられる範囲は小さい。さまざまなプロフェッショナルが集まったデロイト トーマツ グループ全体でインパクトを与えていくことが、社会全体の変革のきっかけになるのでは」と自身の体験談も重ねて、DTCSがグループの成長を加速させるギアとなる未来像を描く。

和田が率いるDTCSの取り組みの一つが、COVID-19以前からリモートワークを推進する環境構築だ。例えばグループが共通して使っているVDI(仮想デスクトップ基盤)は、デロイト トーマツ グループの求める高い安全性を保持しつつ、同じ作業環境にアクセスできる仕組み。VDIとオンライン会議システム、BYOD(Bring Your Own Device)などを組み合わせることで「仕事はどこでも」、「いつでも」、「PCでもスマートフォンでもできる」と和田は話す。在宅時の通信環境の品質向上も、キャリアと連携しネットワークの遅延を徹底的になくしている。「新しいものを率先して使うことで、新しい知見が手に入る」と積極的だ。

さらに、オフィスを拠点としない働き方も選べるように、経費精算システムにSAPのConcur(コンカー)を導入し、リモートでの決済・精算を可能にした。コーポレートカードと組み合わせて個人の一時的な金銭の負担もなくした。目指すのは「インプットレス」「ペーパーレス」「人間系のチェック作業レス」の3つのレスの実現だ。インプットレスでは、交通系ICカードなどの利用データの取り込みを視野に入れつつ、領収書画像データのOCR処理によるデータ化、配車サービスも含めた他クラウドサービスとの連携などを進めることで、申請時に入力する項目を限りなくゼロに近づける。ペーパーレスでは、コーポレートカードの利用に加え、電子帳簿保存法への対応により領収書の保管要件を緩和し、紙での提出を最低限に抑える。また、システム統制の強化とアナリティクス活用の促進により、人間系のチェック作業を限りなくゼロにしつつ、データ解析をベースに効果的なチェックでガバナンスを効かせていく。

「DTCSはデロイト トーマツ グループのプラットフォームのような存在にしていく」と和田が話すように、これまで各社がそれぞれ導入していたバックエンドのIT投資なども統一・標準化していくことでコスト削減・効率化だけでなく、データを各社の垣根を越えて利活用したイノベーション創出も見据えている。「将来的には、プロジェクト経験や評価といったプロフェッショナルのデータを蓄積し組み合わせ、個々人または全メンバーのキャリア形成に資するインサイトを導いていきたい」と構想が広がっている。

ワーク・ライフ・チョイスで一人ひとりを価値創造への主体と導く

デロイト トーマツ グループでコンサルティングサービスを担うデロイト トーマツ コンサルティング(以下、DTC)は、経営のコンセプトに「メンバーファースト経営」「Talent Happiness」を掲げている。「顧客に最高の価値を届けるためには、人材を磨く必要がある」と話すのは、同社の執行役員/Chief People Empowerment Officer(CPEO)長川知太郎だ。DTCはコンサルタントの「自己実現」とファームの「戦略実現」双方を目指すことで、顧客に最高の価値を創出できると捉える。「DTCに所属する3,000人以上のコンサルタントが全員エースであってこそ、顧客に最高の価値を常に提供し続けることができます。そのために、ここ(DTC)を世界最高の職場にしていく必要がある」と人と組織が相互に高め合うことが、双方が求める価値につながることを強調する。そのための「メンバーファースト経営」「Talent Happiness」だ。一人ひとりのプロフェッショナルが幸せでなくてはいけない。それこそが強い個を生み出す源泉であり、良いチームを創り出す源泉であり、良いクライアントサービスの源泉であるという。

長川 知太郎 / デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員 CPEO

経営などに「Happiness」を導入していく「幸福学」の研究は盛んになっている。国内の 第一人者として知られる慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授は研究成果の一例として、幸せな従業員は不幸せな従業員よりも創造性が3倍高く、生産性は30%高いことなどをさまざまな場面で紹介している*1。だが、幸せであることが個人にとって重要なことは、調査結果を見るまでもなく私たち個々人が常に感じていることだろう。問題は、このHappinessをどのように生み出していくかだ。

DTCではコンサルタントに対するケアを積極的に行うだけでなく、子育て中のコンサルタントが早めに帰ることを促進し、それをチーム全体が支え合う。クライアントにも必要に応じて働き方を開示しながら、質の変わらないサービスを提供し続ける。こうした長川たちの丁寧な取り組みによって、DTCの離職率を前年度(2019年度)の14%から7%程度にまで減らした。長川は「COVID-19もあり、外部要因も含めて分析をしないと素直には喜べませんが」と話すが、半減の成果は大きい。事実、社内調査ではDTCで働くことへの満足度も10%以上も向上した。

長川は、チームワークを強化した点も大きいと話す。「個人の自己実現をしたい世界が大きければ大きいほど、一人の力ではなく複数の力で実現へ向かう方がゴールは近づきます。そのためにDTCでは顧客の課題解決において、異なる専門家たちがチームとなって向き合います。こうすることで、自分一人では解決できないことも、DTCにいることで解決 できると感じてもらえる。それがDTCにいる意味にもつながるのです」。

長川がこうしたDTCの取り組みの中で本質的に重視しているのは「選択性」だという。「個人の働き方、どのチームに参加するか、働き方はどうするか? 全て選べるようにしていきたい。選ぶということは、実はハードルが高いことでもあります。自由は不自由といいますが、本人に高い自律性が求められます。しかし、自律性が高まることでDTCのコンサルタントは一人ひとりが幸せとなり、最高の価値を提供していける集団になると考えています」。

長川は自身のコンサルタント経験の中で、若手時代にDTCのチームや顧客に育ててもらった意識が強くあるという。「デロイト トーマツ グループは社内外で相手のことを思いやる環境があり、先義後利を胸に刻んでいる人が多い。だからこそ、新しくメンバーになった人たちにもそれを実際に体験してもらいたいですね」。

ジャック・ウェルチは「ワーク・ライフ・バランスというものはない。あるのはワーク・ライフ・チョイスだ。あなたが選択し、その結果が得られる」(There’s no such thing as work-life balance. There are work-life choices, and you make them, and they have consequences.)という言葉を遺しているが、DTCが目指すゴールの一つを表しているようにも思える。

デロイト トーマツ グループはヒューマンキャピタルの領域においても自らを変革していくことで、プロフェッショナルサービスの人材マネジメントの新しいスタンダードをつくり上げる。高い自律性を持つプロフェッショナルが主体的にあるべき未来像を描き、課題解決に向けて連携することで、企業や社会の変革の熱量を上げ、強力に後押しをするカタリスト(触媒)の役割を果たしていく。

*1 『幸福学』(ハーバード・ビジネス・レビュー EIシリーズ)など。同研究は米イリノイ大学名誉教授の心理学者エド・ディーナー博士らの研究に依る。

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