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不確実な時代に強みを再定義-「現場エコシステム」で確実なる底力

増大する不確実性の背景にある3つの世界的潮流に対して、日本企業はどのような強みを意識して新たな競争優位を構築するのか――。そのための3つの指針とは何か?


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第2の指針「最強のカタリスト」

iPhoneの進化に欠かせない日本製部品・素材

デジタル化が急ピッチで進み、競争環境が激変している。世界は「プラットフォーマーの時代」に突入。GAFAが圧倒的存在として君臨し、中国勢の台頭も著しい状況下で、日本企業のデジタル化は「周回遅れ」とも言われている。ここで求められるのが第2の指針「最強のカタリスト(触媒)」だ。一般にカタリスト(触媒)とは、変化を促す媒体を指す。日本企業は、現場エコシステムにおいて、自社の強みや特性を活かし、デジタル化がもたらす様々な変化を演出する不可欠な媒体として独自の立ち位置を築くことに全力を注ぐべきだ。そこでは何もGAFAなどメガプラットフォーマーと正面から競い合う必要はない。

「最強のカタリスト」には二つの方向がある。一つは黒子として、「現場」で蓄積された技術や知見を基にメガプラットフォーマーを支える「中核サプライヤー」、もう一つは、「現場」から得られる高精度なリアルデータを駆使して自らプラットフォーマーを演じる「リアルプラットフォーマー」だ。
まずは「中核サプライヤー」。中核的部品・素材のサプライヤーとして、GAFAのようなグローバルなメガプラットフォーマーの成長を後押しする「触媒」のことだ。メガプラットフォーマーと共存・共栄の関係を築くわけだ。メガプラットフォーマーは端末生産やクラウドサービス構築などに絡んで大量に部品・素材を消費している。アップルの看板商品iPhoneも日本製部品・素材が触媒になったからこそ、ここまで高品質化・高機能化してきたのだ。
例えば、村田製作所製の多層樹脂基板「メトロサーク」はiPhoneの高機能化・薄型化を支えてきた。必要とされているのはハードとソフトが一体化して高度にカスタマイズされた部品・素材だ。スマートフォンの進化に欠かせない「積層セラミックコンデンサ(MLCC)」でも同社は「擦り合わせ」によって競争優位性を維持し、中国・韓国勢の追い上げをかわしてMLCC世界一の座を守っている。
世界に通用する独自技術を有する日本企業は、電子部品や素材産業をはじめとして、裾野は広い。中核サプライヤーとして、メガプラットフォーマーや関連サプライヤーを組み込んだ現場エコシステムを率先して形成することで、最強のカタリスト(触媒)として圧倒的な競争優位を築くことが可能になる。

リアルデータが集積する現場、GAFAにまねできない

次に「リアルプラットフォーマー」。リアルデータが蓄積する現場をデジタル化し、自ら「触媒」になって社内外の現場関係者をつなぐプラットフォーマーのことだ。より現場に根差したニッチな分野に足場を置いているため、メガプラットフォーマーと正面衝突することもない。現場から得られる精度が高く正確なリアルなデータを、元来の強みを活かせるハードウエア内で処理できるようにソフトウエアと一体化するなどの方法は、メガプラットフォーマーとは一線を画する戦略的な立ち位置である。ハードウエアとソフトウエアの一体化、現場のリアルデータに軸足を置きながら、ネット上のバーチャールデータを繋ぎ合わせて価値を生み出す媒介としての役回りは、メガプラットフォーマーには真似できない最強のカタリスト(触媒)としてのもう一つの方向性である。
先述の「真のグローバル化」で取り上げたコマツも「リアルプラットフォーマー」として独自の存在感を高めつつある。デジタル化によって建設現場の省力化・無人化を目指す「スマートコンストラクション」を展開し、現場のプラットフォーム化に成功している。スマートコンストラクションでは現場全体が「見える化」している。情報化施工(ICT)建機やドローンなどのハードウエア経由でリアルデータが収集され、独自のアプリを通じて関係者全員で共有されているのだ。もはやコマツは単なる建設機械メーカーではない。リアルデータに裏付けされた現場エコシステムを築き上げることで、文字通り「リアルプラットフォーマー」への自己変容を遂げたのだ。同社以外にも、現場に固有の技術やノウハウを蓄積し、独自のやり方でプラットフォーム化している企業は少なくない。デジタル化への対応力が勝負の分かれ目になる。

「最強のカタリスト」は、現場エコシステムにおける自社の強み・特性を活かしながら、デジタル化がもたらす様々な変化を演出する。