ナレッジ

企業内容開示制度の実効性確保に向けて(週刊経営財務2020年11月23日号)

第8回(最終回) コロナ禍で再認識される諸課題と今後の取組み

週刊経営財務(税務研究会発行)2020年11月23日号に、現行の企業内容開示制度における課題や今後の取り組み等についての解説記事が掲載されました。

有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 市川育義

はじめに

第1回から第6回までは,我が国の企業内容開示制度の実効性確保に向けた課題や取り組みについて,特に非財務情報充実の観点から解説を行い,第7回「総括」においては,現行の企業内容開示制度における運用面での強化策について,制度化から10年以上経過する内部統制報告制度(J-SOX)も含め,全体的な取りまとめを行った。

そして,最終回となる本号においては,前例主義にとらわれることなく,我が国の企業内容開示制度の実効性確保に向けて,今後の制度改正も視野に入れた検討を行うこととする。

これは,本企画を進めている途中段階において,新型コロナウイルス(COVID-19)が各国で猛威を振るうようになり,日本においては特に3月期上場会社の期末決算業務や期末監査業務を直撃したことで,従前より問題提起されてきた我が国の企業内容開示制度の諸課題について,改めてその重要性を認識するに至ったことによるものである。

今回の新型コロナウイルス(COVID-19)は,今後の産業構造や企業経営(ビジネスモデル,サプライチェーン,リスクマネジメント,テレワークの推進など)に極めて重要な影響を与えるものと考えられ,もはや元の社会に戻ることはないとの前提で,各社における経営戦略等の抜本的見直しは必至の状況にあるといえる。

こうした中,投資家においては,コロナ危機後の対応として,グリーンリカバリーなど,気候変動関連の社会的課題(代替エネルギーの開発等)の解決に向けた重点投資を加速させる動きが国際的に注目されており,我が国に対する風当たりは一段と増している状況にある。温暖化対策については,菅首相が2020年10月26日の所信表明演説において,2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標を明言したことは記憶に新しい。

また,監査人においては,国内・海外の出張禁止,テレワークの徹底,在外子会社のロックダウンの影響など,数多くの困難に直面する中で,資本市場におけるインフラ機能の維持に努めてきたものの,今後のさらなる環境変化に乗り遅れないよう,これまで以上のスピード感をもって,監査業務内容の抜本的な見直しを進めるべき状況にあるといえる。

このように,今回のコロナ禍は,財務報告のサプライチェーン関係者に極めて重要な影響を及ぼしていることから,これを契機として,今後,次なるステージに向けた様々なチャレンジが各関係者において想定されることとなる。

このため,企業内容開示制度においても,財務報告のサプライチェーン関係者間における建設的な対話をこれまで以上に制度面で全面支援する必要があり,コロナ禍を機にゼロベースで制度の見直しを検討すべき時期を迎えているものと認識される。

したがって,以下では,前号までの非財務情報の充実とは異なる観点から,企業内容開示制度の実効性確保に向けた課題と取組みについて解説することとする。今後の制度改正等における検討材料となれば幸いである。

なお,文中意見にわたる部分は筆者の個人的な見解であり,有限責任監査法人トーマツの公式見解ではないことを予め申し上げる。

企業内容開示制度の諸課題の再認識

1.二重規制の関係整理

我が国の企業内容開示制度は,主に,投資家向けの情報開示を求める金融商品取引法と,株主向けの情報開示を求める会社法の二本柱により支えられ,上場会社においては,今日まで二重規制の状況が継続している。

全ての会社は,その設立から会社法の規制を受けることとなっているが,上場会社については,投資家保護の観点から開示規制が強化されており,金融商品取引法の規制が追加して適用される関係にある。金融商品取引法においては,会社法における開示よりも,詳細かつタイムリーな開示が求められているのが特徴であるといえる。

そして,このような二重規制の状況を前提として,これらの開示書類に対する監査(四半期レビューを含む)が行われている。具体的には,下記の表に記載のとおり,金融商品取引法では開示書類の一部(財務諸表部分)について公認会計士等による監査が求められているのに対し,会社法では開示書類全般について監査役(監査役会設置会社),監査等委員会(監査等委員会設置会社)及び監査委員会(指名委員会等設置会社)による監査を基本としながらも,その一部を構成する計算書類については公認会計士等による監査が求められている。

※クリックすると拡大表示されます

(注1)上記以外に金融商品取引法の開示書類として「内部統制報告書」がある。なお,現行の内部統制報告制度(J-SOX)に係る課題等の解説については,第7回の記事をご参照いただきたい。
(注2)上記以外に会社法の書類として「計算書類の附属明細書」と「事業報告の附属明細書」があり,それぞれ株主及び債権者による閲覧請求等が認められている。

これらの法定開示書類(年次)は,株主総会の開催日を境にして,基本的に,会社法関係書類が事前開示,金融商品取引法関係書類が事後開示*1となっている。しかしながら,同様の開示内容がそれぞれの開示書類において記載されているなど,事前開示及び事後開示の両局面において,作成者側に負担を強いる割には,全体として,利用者側への有用な情報提供に結びついていないところもあるように思われる。また,法定開示書類(年次)については,それぞれ公認会計士等による監査が必要とされていることもあり,両監査が重なる年度末の監査では,毎年,会社法計算書類の監査を終えた後,または,一部並行して財務諸表(有価証券報告書)の監査を実施するなど,二重規制が現場の負荷を招いている状況は現在も続いている。

このような状況については,かねてより関係者において改善すべきとの共通認識があり,それに対する1つの対応として,2018年3月に財務会計基準機構(FASF)から「有価証券報告書の開示に関する事項‐『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた取組‐」が公表されている。

しかしながら,このような対応は,あくまでも二重規制を前提とした自主的な取り組みに留まるものであるため,その効果は限定的であると言わざるを得ない。

また,2019年12月に成立した令和元年改正会社法(70号)により,今後導入が予定されている株主総会の電子提供制度において,EDINET特例として,株主総会の日の3週間前の日または株主総会の招集の通知を発した日のいずれか早い日までに有価証券報告書を提出していれば,一定の事項(議決権行使書面に記載すべき事項は除かれる)については,電子提供措置は不要とされているが(会社法325条の3第3項),少なくとも現在の株主総会の開催スケジュールを見直さない限りは,このタイミングで有価証券報告書を提出するのは現実的ではないであろう。仮に株主総会の開催スケジュールを見直したとしても,EDINET特例によって計算書類及び事業報告の作成や監査自体が不要とされるわけではない。

したがって,今回のコロナ禍による現場への影響を踏まえると,全体最適の観点から,もう少し踏み込んだ見直しが必要と思われる。会社法においても金融商品取引法においても,開示書類の提供先は実質同一であることを前提に,両法における開示規制の関係を整理すべきでないか。

2.法定開示書類に対する監査役と会計監査人の関係整理

会社法によれば,株式会社の基本的な形態は,監査役会設置会社,監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社の3種類となる。この場合,大会社であることを前提とすれば,いずれの会社形態においても,株主総会,取締役,取締役会及び会計監査人の機関が設置されることとなる。

会計監査人の設置により,公認会計士等による会計監査が強制されることとなっても,会計監査については依然として,監査役会設置会社においては監査役が,監査等委員会設置会社においては監査等委員会が,指名委員会等設置会社においては監査委員会がそれぞれ実施することとされている( 会社法436条 2項)。

このため,会計監査の領域においては,両者の責任関係の整理が必ず必要となるわけであるが,会社法においては,会社法計算書類については専門家である公認会計士等が監査することから,監査役,監査等委員会及び監査委員会(以下「監査役等」という。)はその相当性を評価した上で,その結果に依拠する関係が実務上構築されている。事業報告については,監査役等のみが監査することとなっている。

このように,会社法における開示書類については,監査役等と会計監査人との責任関係が明確に整理されている。

これに対して,金融商品取引法における開示書類については,例えば,有価証券報告書については,事業報告や計算書類の記載内容と重なっているところがかなりあるものの,会社法の開示書類でないこともあり,現状では,監査役等が積極的に監査を行っているケースは少ないように感じられる*2。また,そもそも取締役会において,付議されていないケースもあるようである*3

近年,非財務情報の重要性が認識され,それを反映する有価証券報告書は,投資家との建設的な対話における重要なツールとの性格を強めているため,監査役等や取締役会の関与をこれまで以上に高めることが必要ではないか。このことは,前述した二重規制の関係整理と密接に関連している課題でもある。

3.監査役の監査と取締役会の監督機能の関係整理

株式会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)の機関設計は,株主総会と取締役の設置を出発点として,公開会社の場合には取締役会の設置が必要となり,大会社の場合には会計監査人の設置が必要とされている。そして,取締役会の設置と会計監査人の設置に対応して,それぞれ監査役の設置が必要とされ,公開会社かつ大会社においては監査役会の設置も必要とされている。

多くの上場会社においては,現在も監査役会設置会社(公開会社かつ大会社)の形態が主流であるといえるが,この場合,監査役の監査の範囲は会計監査に限定されることなく,取締役の職務の執行を監査することとされている( 会社法381 条1項)。監査役の実施する業務監査は,一般に適法性監査と称され,取締役の職務の執行が法令・定款を遵守して行われているかどうかを監査することとなる。この場合,法令には善管注意義務も含まれることから,実務上は,取締役の経営判断にかかわる事項についても,善管注意義務違反がないかどうかを監査することになるとの理解が一般的ではないかと思われる。

このように,監査役会設置会社(公開会社かつ大会社)においては,監査役が取締役の職務の執行を監査することとなっているわけであるが( 会社法381条 1項),一方で,取締役会は取締役の職務の執行を監督するとされており( 会社法362条 2項2号),現場レベルにおいて,両者の関係を実際どのように理解すべきか困難なところがある。

この点について,監査役による業務監査は,適法性監査であるとして違いを明確にしているところはあるものの,結局は経営判断にも踏み込んだ対応を求めているところもあり,やはり取締役会の監督機能との違いを理解するのは難しい。

しかも,コーポレートガバナンス・コードでは,「監査役及び監査役会に期待される重要な役割・責務には,業務監査・会計監査をはじめとするいわば「守りの機能」があるが,こうした機能を含め,その役割・責務を十分に果たすためには,自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でなく,能動的・積極的に権限を行使し,取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べるべきである。」(原則4‐4)として,監査役については,取締役会等との関係での活躍が期待されており,監査役と取締役会との関係は今後より密接なものとなろう。

このように,監査役会設置会社における監査役と取締役会の関係における運用上の曖昧さは,前述した金融商品取引法による開示書類の監査に対する関与度合いや,監査役が自らの守備範囲を狭くとらえる傾向にも表れているものと思われる。また,我が国特有と言われる監査役制度については,これまでも長い間対外的に説明を繰り返してきたかとは思われるが,依然として海外の機関投資家の理解に結びついてきたとは言えない状況にあるのではないか。

したがって,この機会にこのような状況を改善するために,上場会社の機関設計は,海外の機関投資家等にも分かりやすいようなシンプルなものとし,我が国上場会社のガバナンス機能の実効性を対外的にアピールできるものにすべきではないか。

4.株主総会の開催時期の集中

我が国の上場会社の多くは3月決算会社であり,株主総会は毎年6月に集中する状況にある。これは,株主総会で議決権行使できる株主は,会社法上,基準日現在の株主とされ,一般的には期末決算日を基準日として定めることが実務慣行化しているとともに,当該株主は株主総会において基準日から3か月以内に議決権行使しなければならないと規定されていることによるものである( 会社法124条 2項)。

このため,基準日を期末決算日でなく,その後の一定の日に設定することにより,現在でも株主総会の7月開催は可能なはずであるが,今回のコロナ禍においても,基準日を変更して7月開催を前向きに対応した会社は一部にとどまり,7月開催といった目立った動きは特に認められなかった。

しかしながら,投資家や株主との建設的な対話が求められている環境下では,コミュニケーションツールとして活用すべき有価証券報告書を株主総会前に開示するのが望ましいことは言うまでもないであろう。また,オンライン総会の開催が今後定着することになれば,株主総会に出席する株主は確実に増加することが見込まれ,対話の機会も増えることとなろう。

よって,今後,多くの株主が上場会社の株主総会に出席することが可能となり,また,議決権行使に当たり多くの株主が報告事項や議案内容を理解できることになれば,株式投資に対する個人投資家等の注目を集めることとなり,我が国資本市場の活性化にも繋がることになるのではないだろうか。

この場合,株主側の期待としては,開催時期の分散化や事前の開示内容の充実が重要なポイントとなるであろうが,両者は密接に関係している。すなわち,事前の開示内容を充実させればさせるほど,実務上の負荷等が顕著となり,株主総会の開催時期の後ろ倒しにより,分散化する傾向にあるといえる。

このため,今後,非財務情報の充実が期待される中で,会社法においても,事前開示の充実が求められるとすれば,会社法と金融商品取引法の開示書類間のギャップが縮小することとなり,最終的には一元化へ移行しても実務上支障のない状況が作り出され,株主総会の開催時期の分散化も進むこととなる。

したがって,上場会社が,現行の二重規制を前提として,これまでの慣行を大幅に見直すには相当のパワーが必要になるため,株主総会の分散化及び事前開示内容の充実については,制度面からも後押しするような措置が必要ではないか。

今後の取り組み

1.二重規制の一元化措置

開示規制が強化された金融商品取引法による開示書類(有価証券報告書)においては,会社法における開示書類(計算書類及び事業報告)に比べて詳細な情報を記載することとされており,新会計基準の設定による影響にとどまらず,コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コード等の影響により,非財務情報については2020年3月決算の有価証券報告書からさらなる内容の充実が図られている。

これは,これまでの有価証券報告書における記載が,どちらかというと過去実績の説明が中心であり,経営戦略等との関係や経営戦略等自体の説明が乏しいところがあるとの投資家の意見を踏まえたものである。今後は,投資家の関心の高いテーマ(ESG等の視点を重視した経営戦略など)が有価証券報告書に反映されることとなるため,有価証券報告書は投資家との建設的な対話に向けたツールとしての位置づけを制度としても明確にするものであると考えられる。

そうであれば,少なくとも上場会社においては,法定書類の提供先として,株主と投資家を区別する必要性はなく,実質的に同一であるとして開示書類を一元化することが考えられる。

開示書類の一元化により,株主総会において,非財務情報を充実させた有価証券報告書を活用することとなり,デジタル化の進展により,今後,多くの株主と経営者が直接対話することが可能となる中で,株主総会の活性化が期待される。

また,開示書類の一元化は,EDINET特例による電子提供手続の簡素化とは異なり,開示書類そのものの作成とともにそれに対する監査を不要とするものであり,管理業務等の大幅な生産性向上が期待される。このことは,今回のコロナ禍で大変苦労した決算作業担当者や監査業務担当者の働き方改革にも貢献するといった効果も大いに期待できる。

したがって,これまでの経緯から,開示書類の一元化を実現するハードルは高いとしても,早急に,会社法の開示書類である事業報告及び計算書類と金融商品取引法による開示書類である有価証券報告書の一元化を目指すべきである。具体的には,開示規制にとどまることなく,近年はコーポレートガバナンス・コード等で地ならししている段階でもあるため,そろそろ上場会社を規制する新たな法律(上場会社法等)の制定にまで踏み込んだ検討を行うべきではないだろうか。この場合,上場会社としてあるべき姿を明らかにし,日本の上場会社が変わるとの強力なメッセージを,海外機関投資家にも発信できるものを目指すべきであろう。

2.金融商品取引法の開示書類に対する監査役等の関与

上場会社は,金融商品取引法の開示規制により,四半期ごとに四半期報告書を開示するとともに,年度末において有価証券報告書を開示することが求められている。そして,四半期報告書に含まれる四半期財務諸表については公認会計士等により四半期レビューが実施され,有価証券報告書に含まれる財務諸表については公認会計士等による監査が実施される。

金融商品取引法では,監査役等の監査に関する規定は当然ないものの,金融商品取引法における開示義務の履行は,取締役の重要な執行業務であるとすれば,本来,監査役等もその範囲では会社法上の監査責任を負っているものと考えられる。

しかも,今後,投資家との建設的な対話は経営者のみならず,ガバナンスの一翼を担う監査役等も当事者として対応することが期待されていることを考慮すれば,投資家に向けて開示されている情報については,これまで以上に関与することが必要な状況にあると思われる。

したがって,「1.二重規制の一元化措置」において指摘した一元化に向けた取組みが実現すれば,責任範囲も自ずと明確となり,監査役等の意識も自然と変わってくるものと考えられるが,現状においても,特に,公認会計士等による監査の対象外となる非財務情報については,投資家の関心も高く,監査機能を担う監査役等のみならず,監督機能を担う取締役会による関与度合いも高める必要がある。今後は,例えば,情報の信頼性担保のための開示プロセスの構築や,充実度と分かりやすさのバランスなど,投資家との建設的な対話に向けた新たな視点による取組みを期待したい。

ただし,監査役等としても,そのような監査責任を全うするためには,これまで以上にスタッフ機能の実装など,取締役会との連携も考慮した必要な措置を講じることが前提となるであろう。

3.監査役会設置会社からの移行

我が国で長い間続いてきている監査役会設置会社であるが,監査役が代表取締役の選任・解任権を有していないこと等の理由から,監査役会設置会社は,監査役がいくら運用面で活躍している場合であっても,ガバナンスが弱いと評価される傾向にあるように思われる。

外部からガバナンスの実効性を理解するためには,形式面での整備状況がスタートとなり,その後の対話で運用状況を理解する機会はあるとしても,整備状況そのものが理解できないと,いくら運用状況で問題ないと説明しても理解してもらえないことが多いのではないだろうか。特に,日本の慣行に馴染みのない海外の投資家であれば,自分たちが理解している機関設計によっている会社(例えば,指名委員会等設置会社)の方が理解しやすいというところもあり,形式面での理解がどうしても先行するのであろう。

このため,多くの日本企業も監査役会設置会社から他の組織形態に移行した方が対話しやすく,理解を得られやすいことから,コーポレートガバナンス・コードでも監督機能の強化を目指しているとされる監査等委員会設置会社,指名委員会等設置会社へ移行する会社が増加傾向にあるものと考えられる。

したがって,このような傾向に拍車を掛けるため,前述した上場会社法等の制定により,上場会社は,監査等委員会設置会社か指名委員会等設置会社によることとしてはどうであろうか。

監督責任と監査責任を別々の機関が担当するのではなく,同一の機関の中で分担するものとすることで,責任範囲の曖昧さが払拭され,理解しやすくなることで監査機能や監督機能の実効性確保にもつながるものと期待できる。

なお,会計監査人の選任権は監査役が有するものの,監査報酬の決定権は有さず,同意権に留まるといった問題(インセンティブのねじれ)は,監査役会設置会社だけでなく,監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社においても,同様である点は,いまだ未解決のままである。

4.株主総会の開催時期と四半期決算との関係整理

既に新年度がスタートしている中で,株主総会を6月から7月に延期することについては,多くの会社で抵抗感があるようだが,それでも株主や投資家との対話の実効性を確保するためには,7月開催が避けられないとする会社が今後増加することが期待される。

そのような会社が,懸念することとして,例えば,四半期決算との関係があると思われる。7月は3月決算会社の場合,第1四半期決算の真最中であり,第1四半期決算の四半期報告書を準備するとともに,公認会計士による四半期レビューも受けなければならないことから,落ち着いて株主総会を開催できる状況にはないと思われる。

また,監査人にしても,2020年3月期から有価証券報告書において監査継続期間の開示が始まったこと等もあり,最近,監査人変更の事例が増えている状況にある。この場合,監査人の変更議案が7月に承認されたとすると,新任の監査人は総会終了後直ちに四半期レビューを実施しなければならないこととなり,制度設計上,無理があると思われる。

したがって,ここで重要な点は,株主総会を7月に開催することにあるのではなく,あくまでも株主総会前の事前開示内容の充実にあることを考慮すれば,それぞれの上場会社が,個別事情を踏まえ,株主総会前における事前開示内容の充実に向けて前向きに取組めるような,健全な実務慣行の定着に向けた環境整備が必要となるであろう。この場合,制度面の支援として,例えば,第1四半期決算の公認会計士等による四半期レビューは免除するとして,上場会社の負荷を軽減することとしてはどうであろうか。この結果,監査人においては,新年度の初期段階において,重要な作業(リスク評価等の監査計画策定など)に集中することができるといった効果も期待できる。

おわりに

以上が,コロナ禍を契機として,企業内容開示制度の見直しを検討するに当たり,再認識すべき課題と今後の取り組みである。

会社運営における会社法の影響は大きく,監査役制度であるとか,基準日設定であるとか,株主総会の開催であるとか,実務家からすれば,これまでの実務をあまり変えたくないというのが正直なところであろう。

しかしながら,コーポレートガバナンス・コードにしても,スチュワードシップ・コードにしても,上場会社としてはマーケットの声を聞くだけでなく,それにしっかり応えていくことが求められているため,対応状況が評価に直結する環境にあることを十分認識する必要がある。また,現在,市場区分の見直しも検討されていることから,そもそも上場会社のままでいいのかといった存在意義そのものを問い直す機会でもあるのであろう。

いずれにしても,制度改正の最大のテーマは,金融商品取引法と会社法との関係整理にある。いつまでも課題先送りというわけにはいかない。本業界においても,早々に前例主義からの脱却が求められていると認識すべきではないだろうか。

*1 日本監査役協会『第20回インターネット・アンケート集計結果』(2020年5月18日)によれば,「有価証券報告書の提出時期」のうち,上場会社で定時株主総会前に提出している会社数(2019年)は,監査役(会)設置会社6社,監査等委員会設置会社4社,指名委員会等設置会社2社となっている。また,これらの会社のほとんどは,株主総会前10日以内に提出している状況となっている。

*2 日本監査役協会『第20回インターネット・アンケート集計結果』(2020年5月18日)によれば,「有価証券報告書の監査の有無」において,上場会社で監査している割合(2019年)は,監査役(会)設置会社72.1%,監査等委員会設置会社70.0%,指名委員会等設置会社68.6%となっている。

*3 同様に,「有価証券報告書の取締役会付議状況」において,上場会社で付議されていない割合(2019年)は,監査役(会)設置会社22.2%,監査等委員会設置会社22.4%,指名委員会等設置会社42.9%となっている。

 

<企業内容開示制度の実効性確保に向けて 連載一覧>

第1回   基本的事項の解説
第2回  英国の開示実務との比較と日本企業に与える示唆
第3回  有価証券報告書の開示改正を機会とした企業活動の改善
第4回  企業価値向上を実現する役員報酬ガバナンスと開示のあり方
第5回  法定開示書類とその他自主開示書類の関係整理について
第6回  公認会計士等の記述情報に対する保証への取組と課題
第7回  総括と展望
第8回  コロナ禍で再認識される諸課題と今後の取組み
 

お役に立ちましたか?