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第3回サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループの概要
金融庁金融審議会は2024年6月28日(金)に、第3回サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ(以下「WG」という)を開催しました。
事務局より示されたサステナビリティ開示基準の適用対象、適用時期の「基本線」
第3回サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ(以下「WG」という)では、第1回及び第2回WGの議論を踏まえ、有価証券報告書におけるサステナビリティ開示基準(以下「SSBJ基準」という)の適用対象と適用時期について、2027年3月期より、時価総額3兆円以上のプライム市場上場企業(以後「プライム上場企業」という)より段階的に導入する案が、WG事務局(以下「事務局」という)より「基本線」として示されました。
- プライム上場企業に対し、段階的にSSBJ基準の適用義務化を提案
- 時価総額3兆円以上のプライム上場企業は、2027年3月期よりSSBJ基準の適用を義務化
- 時価総額1兆円以上のプライム上場企業は、2028年3月期からSSBJ基準の適用を義務化
- 時価総額5,000億円以上のプライム上場企業は、2029年3月期からSSBJ基準の適用を義務化
- 時価総額5,000億円未満のプライム上場企業は、2030年代での適用義務化を提案
- 保証については、SSBJ基準の適用義務化の翌年から義務付け
図表1 サステナビリティ開示基準のあり方と適用対象・適用時期の方向性(イメージ)
出所:金融庁ウェブサイト 第3回WG 事務局説明資料(01.pdf (fsa.go.jp))P.2
第3回WGでは、SSBJ基準の適用対象と適用時期の「基本線」を示した事務局案に対し、ほとんどの委員から賛成意見が示され、引き続き開示や保証のあり方について議論を進めることとされました。
なお、SSBJ基準の導入時期を考えるには、保証制度の導入も考慮に入れることが重要であるため、第2回WGでは、先行適用であってもSSBJ基準と保証制度の導入を同時期に行う案と、保証制度を遅らせて導入する二つの案が事務局より提案されていました。第3回WGでは、開示と保証の一体的な適用よりも、早期に開示基準を導入することを優先すべきであるとして、SSBJ基準適用義務化の翌年に保証制度を導入する事務局案に多くの委員から賛成が示されました。
SSBJ基準の導入における主要な論点
■時価総額の算定方法
第3回WGでは事務局から、適用対象企業の判定にあたって必要となる時価総額の算定方法が提案されました。当算定方法は、IFRS財団が2024年5月に公表している各国が制度を導入する際の指針である「法域ガイド」を参考にしたものであり、適用となる期の直前までの5事業年度末の時価総額の平均値を用いるとされています。
図表2 時価総額の算定方法
出所:金融庁ウェブサイト 第3回WG 事務局説明資料(01.pdf (fsa.go.jp))P.5
委員からは、時価総額の算定にあたっては、予見可能性を重視することが大事であり、また複雑すぎないことが大事であるとして、事務局案の【算定例】に賛成する意見が複数示されました。一方で、5年間の平均というのは少し長い印象があるという意見や、日本の株式市場の市場区分の変更についても考慮する必要があるという意見もありました。
■二段階開示・同時開示の方法
国際サステナビリティ基準審議会(以下「ISSB」という)が公表している国際基準(以下「ISSB基準」という)では、財務諸表とサステナビリティ情報は同時に開示することが求められています。SSBJ基準の公開草案でも、原則としてサステナビリティ情報と財務諸表の同時報告を求めています。一方、現行の日本の開示実務では、サステナビリティ情報の詳細を含む統合報告書等は、有価証券報告書の提出から2~3ヶ月後に公表されており、また、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)によるGHG排出量の報告期限は、3月決算の有価証券報告書提出期日よりも後の7月末となっているなど、同時開示の実現には一定のハードルがあることが認識されています。
このような実務上の課題を踏まえ、半期報告書など有価証券報告書以外の書類も用いた二段階開示(サステナビリティ情報の開示を遅らせる)を可能とするかについてWGで検討が行われています。第3回WGでは事務局から、ISSB基準で認められている適用初年度の経過措置を日本においても採用し、法定適用の初年度は二段階開示を容認し、2年目以降は同時開示とする案が示されました。これに対して委員からは、二段階開示に賛成する意見が複数示されました。また、経過措置についても、同時開示が大前提の中で特別な措置として議論すべきであるとの考えから、限定的に導入するべきであり、ISSB基準と同様に期間を1年に限るのが妥当として、事務局案に賛成する意見が多く示されました。一方で、2年が現実的との意見もありました。さらに、二段階開示を行う場合、EDINETでの閲覧可能期間が長い有価証券報告書を活用し有価証券報告書を訂正するほうが、半期報告書の活用より良いという意見がありました。
図表3 二段階開示の記載パターン
出所:金融庁ウェブサイト 第3回WG 事務局説明資料(01.pdf (fsa.go.jp))P.6
同時開示については、第2回WGで議論された案(同時開示ができるよう有価証券報告書の提出期限を1か月遅らせる)について、第3回WGでも検討され、サステナビリティ情報開示のために監査済み財務諸表の提出も遅れるのは、投資家にとって抵抗感があるという意見や、サステナビリティ情報と財務情報のつながりが重要であり、経過措置は原則通り1年とし、同時開示を早期に進めることを望む意見がありました。
図表4 同時開示と二段階開示のイメージ
出所:金融庁ウェブサイト 第3回WG 事務局説明資料(01.pdf (fsa.go.jp))P.7
■海外に向けた情報開示の本邦での開示方法
第3回WGでは、欧州CSRD等の海外制度に基づくサステナビリティ情報の開示を海外に向けて行った場合に、それを日本の開示に取り込む方法の具体案についても検討が行われました。事務局からは、日本の投資家に対しても確実な情報提供を確保することが重要であるとの観点から、当該開示を行った場合には、臨時報告書の提出を行うことが提案されました。また、この場合の記載内容や、日本語訳の必要性について、投資家利便と企業負担とのバランスを考慮してどのようにすべきか等について、検討を行いました。
委員からは、臨時報告書で開示することに賛同する意見がある一方で、臨時報告書は、重要事実発生時の提出書類であり、臨時報告書にCSRDに基づく開示をするのはそぐわないのではないかという意見や、CSRDで日本企業が開示したことを周知することを目的するのであれば、そのような報告を金融庁が受けて、リスト化して周知することも考えられるのではないかといった意見、サステナビリティ情報の虚偽記載に対する認識がまだ不明瞭で共通認識になりきっていない状況において、臨時報告書で開示することは、金融商品取引法上の虚偽記載のエンフォースメントによって企業の開示を萎縮させる可能性があるとの意見、臨時報告書で提出することに賛成だが、提出が必要な場合の要件を明確化したほうが良い、など、様々な意見が示されており、引き続き検討されるものと思われます。
保証制度の導入における論点
保証のあり方については、以下の5つの論点が第3回WGで事務局から示されました。任意の枠組みも含め今後の検討課題とされており、第4回以降のWGで本格的に検討されるものと思われます。
論点1 |
サステナビリティ保証の範囲・水準等 |
---|---|
論点2 |
サステナビリティ保証業務の担い手 |
論点3 |
サステナビリティ保証業務に関する保証基準及び倫理・独立性基準 |
論点4 |
サステナビリティ保証業務実施者への検査・監督のあり方 |
論点5 |
自主規制機関の役割 |
出所:金融庁ウェブサイト 第3回WG 事務局説明資料(01.pdf (fsa.go.jp))P.38
参考:
金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」(第3回)議事次第:金融庁 (fsa.go.jp)
サステナビリティ開示・保証の規制動向
日本・ヨーロッパ・南北アメリカ・アジアパシフィックにおけるサステナビリティ開示・保証の規制に関する最新動向を取りまとめています。