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インフラマーケットのビジネス機会と実務ポイント(2)

インフラ事業の財務モデリング

海外インフラ輸出やPPP(Public Private Partnership)を、財務の観点を中心に連載で解説。第2回はインフラ事業における財務モデリングについて取り上げたい。

I. はじめに

前回から始めたインフラストラクチャー(以下、「インフラ」)やPPP(Public Private Partnership、官民連携)を財務の観点を中心に連載で解説する試みであるが、第2回はインフラ事業における財務モデリングについて取り上げたい。財務モデリングはインフラ事業に限らず投融資検討の際に広く活用されることが昨今増えてきているが、インフラ事業の特徴とマッチする部分があり、当社へのお問い合わせを頂くことも増えている。

II.財務モデリングとは

本稿では財務モデリングを以下のように定義する。

  • 実施目的:一定の仮定のもとで実施される事業の投資採算性および財務安定性を検討するために行う。
  • 実施内容:(1)事業期間中の財務三表(BS,PL,CF)の作成、(2)投資採算性を検証する指標としてプロジェクトIRR(以下、「PIRR」)やエクイティIRR(以下、「EIRR」)、財務安定性を検証する指標としてDSCR(Debt Service Coverage Ratio)やLLCR(Loan Life Coverage Ratio)の算出、(3)前提条件を変更した場合の感応度分析を行うのが一般的である。図は作業フローのイメージ図である。 

財務モデリング 作業フローイメージ

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

III.PPPインフラ事業の特徴

PPPインフラ事業は以下の特徴を有する。

(1) プロジェクトの事業期間および入札期間が極めて長い
海外・国内案件に関わらず、インフラプロジェクトの事業期間は非常に長くなる傾向にある。通常15~25年、長いものでは30年を超え、50年に至るものもある。また、PPPの中でも近年交通セクターを中心に増加傾向にあるコンセッションは、入札期間も長く、投資可否の判定に膨大な時間と人材を必要とするため参加企業にとっては大きな負担となる。これは、特にコンセッションの場合、従来の業務委託に比べて委託範囲や民間事業者の裁量が大きいため、契約内容の複雑性から発注者である公共との協議(競争的対話と呼ばれる)等に時間を要するためと考えられる。

(2) 巨額の設備投資を必要とする場合が多い
民間資金の活用による財政負担や公的債務の軽減はPPP実施の目的のひとつであり、民間企業にとっては初期投資額・更新投資額ともに巨額となり、かつ回収に長期間を要するのが通常である。したがって、その投資見積額や事業期間中のスケジューリングが事業採算性や財務安定性を大きく左右する重要なファクターとなる。

(3) 公共性を有する規制産業である
インフラ事業は経済の基盤であるため、必然的に公共的色彩があり、一定の規制が掛けられている。このため、料金単価の改定を行う際に発注者の承認ないし許可等が必要となる場合があり、この点では収益のアップサイドを見込む余地が制限されることがある。一方で一定の独占事業であることが多いため、中長期的には安定した収入を見込むことができる。
例えば空港事業において、空港施設使用料は旅客一人あたりに課金できる使用料であるため感度が高く収入源になりやすいが、事業を受託した民間企業が収益最大化のために料金を無制限に上げることは利益者の不利益となるため認められない点は十分考慮する必要がある。

(4) 需要予測が事業収益性を大きく左右する
(3)のとおり料金単価改定に制限がかかる場合が多いため、収入の増減を決定づける最も重要なKPIは需要量となるのが一般的である。特に交通事業は利用者が存在するリテールビジネスであるため、上下水道事業や発電事業よりも直接的に需要変動リスクの影響を受けやすい。従って、交通量の予測が重要となる。

(5) 資金調達はプロジェクトファイナンスを用いるのが一般的である
巨額かつ長期の資金が必要となるインフラ事業では、多様なリスクが存在すること、スポンサーの信用力のみでの調達が困難であること、オフバランス効果があること(資金調達を実施するSPCが非連結対象であることを前提とした場合)等から、当該事業のキャッシュフローに着目したプロジェクトファイナンスないしそれに準じた手法を用いることが一般的である。

IV.インフラ事業の財務モデリングにおける実務上のポイント

上記の特徴を踏まえると、インフラ事業について財務モデルを構築する上での実務上のポイントは以下のとおりと言える。

インフラ事業の特徴

財務モデリングにおける実務上のポイント

1 長期にわたる事業期間および入札期間

初期段階での財務モデルの可変性の確保
事業期間や事業範囲の変更に適宜対応可能なモデルの構築が初期段階で必要となる。入札期間が1年超と長期にわたると、事業開始(もしくは終了)時期が遅れたり、事業対象を変更する必要に迫られ、それに応じて財務モデルの改良作業が発生することが多々ある。そもそも事業期間が長くエクセル上の作業が膨大になりがちで度重なる改良が後不可避である。そのため、度重なる改良があることを想定した財務モデル構造の設計を行うなどの慎重な対応が必要となる。

2 巨額な設備投資負担

感度分析による最適な設備投資見積額・スケジューリングの検討

  • 設備投資額(やその後の維持修繕費用)の見積もりは一般的に技術的な専門知見を必要とするため、テクニカルアドバイザーに依頼されるが、長期の予測というその不確実性の高さから総じて高くなりがちである。特に、民営化案件の場合は、過年度において公的機関(国)が民間と同等の水準で設備投資を実施しているケースが少なく、過年度実績に比べてプロジェクション上の設備投資額が増加する場合が多い。
  • インフラ事業では、公共性という事業特性を鑑みて多額の設備投資負担を良しとする傾向にあるが、財務指標(IRRやDSCR)をひとつの判断基準としてその妥当性を検証することも重要である。特に競争入札の場合は投資家や金融機関が必要とする財務指標の水準は最低限満たしておくべきと考えられる。
  • また、近年増加傾向にあるコンセッション契約においては、当初運営権取得価額は無形固定資産、更新投資部分は税務上の繰延資産として計上され、いずれも事業期間内での償却を求められる(国内の場合)。そのため、特に事業期間終了近くに大きな更新投資が嵩むと収益性を圧迫する要因となる(SPCを連結対象とする場合などには親会社の収益性にも影響)。そのため、財務モデルを構築する過程では、テクニカルアドバザーと綿密に打ち合わせを行い、技術上のみならず財務上でも最適な投資水準、実施スケジュールを策定していく必要がある。

3 料金単価等に関する規制

各事業の料金規制に応じた売上ロジックの設定
公共性から単純な従量制ではなく、ボリュームに応じた階層別の従量料金制となっているケース(電力・ガス事業や上下水道等)もしくは、交通事業のように移動距離や車体重量に応じた料金設定が良く見られる。また国内国管理空港のコンセッションでは、料金体系の変更に関する民間提案が認められるケースも出てきており、こういった場合では、料金単価と需要量の相関関係、いわゆる料金感応度をどう設定するかで大きく収益性は変化する。そのため、財務モデルに反映させる際には、とかく複雑な設計になりがちな部分である。財務モデル上は、規制もしくは新しい料金体系に応じた単価×数量のロジックを設定することとなるが、あまり複雑な計算式としないことも重要である。

4 需要予測

感応度分析によるストレスシナリオの検討
需要予測をどんなに精緻に行ったとしても、やはり将来であるが故の不確実性は避けられない。そのため、感応度分析は特に金融機関対策としては必須項目となる。変化させる度合いは個々の事業により異なるが、通常は需要量が10%~20%減少した場合(ストレスシナリオ)における財務指標の変化を検討する。また建設(新規整備や更新投資)を含むプロジェクトの場合には、完工時期の遅延リスクも検討することがある。
また、対象施設のキャパシティによる需要量のキャップ(上限)や、売上面だけでなく、コスト面(特に一定規模の需要量の増減に準じて増減する準固定費)も考慮が重要である。

5 プロジェクトファイナンスの組成

綿密なウォーターフォール設定が必要
プロジェクトファイナンスでは、通常、必要手元資金、設備投資額、大規模修繕費、債務返済等に対してリザーブを積むことが多い。これも金融機関などからの要請に応じたものである。口座管理もそうであるが、財務モデル上も当該ウォーターフォールを見える化させておく必要がある。特に調達トランシェが何層にも連なる場合には、優先劣後構造が複雑になる場合も多いため、ローン契約を始めとするプロジェクト関連契約との整合性を法務アドバイザーと連携して正しく理解し、適切に反映させることが重要である。

V.終わりに

以上、インフラ事業における財務モデリングの実務上のポイントについていくつか見てきた。インフラ事業は長期の将来予測に基づき、巨額の設備投資、料金規制やプロジェクトファイナンスといった観点も踏まえる必要があるため、財務モデルを活用する有用性は高い。ただし、単に財務面のみの3表モデル作りに終始するのではなく、技術、需要予測、規制、法務といった各種専門家・アドバイザーと綿密な連携を行うことがよりよい財務モデル構築の秘訣であるというのがこれまでの経験を踏まえた一番のポイントである。

 

本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

以上

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
インフラ・PPPアドバイザリーサービス
シニアアナリスト 野々村 朱乃

(2016.02.24)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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