ナレッジ

インフラマーケットのビジネス機会と実務ポイント(3)

インフラ事業の資金調達における留意点

海外インフラ輸出やPPP(Public Private Partnership)を、財務の観点を中心に連載で解説。第3回はインフラ事業における資金調達について取り上げます。

I. はじめに

インフラストラクチャー(以下、インフラ)やPPP(Public Private Partnership、官民連携)を財務の観点を中心に連載で解説する試みであるが、第3回はインフラ事業における資金調達について取り上げたい。

 

II.資金調達におけるインフラ事業の特徴

インフラ事業においては、当該事業の実施主体である事業会社等(以下、スポンサー)が中心となってプロジェクト実施のための特別目的会社(SPC)を設立し、SPCを主体として資金調達する形が一般的である。インフラ事業のもつ特性のうち、特に資金調達の際に主要な論点となるものは以下の5点である。

1.事業ごとの個別性が強い

インフラ事業は事業内容(空港、道路、発電所…)や事業段階(グリーン・フィールド/ブラウン・フィールド)等によってリスクやリターンの特性が大きく異なる。具体的な例として、事業内容によるリスク/リターンの異なりをJ.P.Morgan Asset Management が発表しているが、インフラ事業のなかでもPPP/PFIのような低リスク資産とマーチャント電源(長期固定価格ではなく、時価に基づく売電を行う発電所を指す)のような高リスク資産とでは、レバレッジ後のIRRに最大10%強の開きが生じうるとされている。


2.事業期間が超長期にわたる

インフラ事業はごく一部の例外を除いて、巨額の投資を超長期の運営から得る収入で回収していく事業であり、事業期間は10~30年、長いものでは50年以上となる場合もある。従って、当該事業実施のために調達する資金も必然的に長期のものとなり、例えばシニアデットでは完工後10~15年程度にてペイアウトするような形でファイナンスするケースが多い。また同様の理由から、スキームによっては出資者への配当が運営開始後数年間は行えないケースもしばしば生じる。


3.事業主体が極めて限定的である

太陽光発電等といった一部の例外を除き、インフラ事業はオペレーターの能力が事業収支に強い影響を及ぼす。しかしながら一方で、インフラ事業は極めて強い独占環境下で実施されてきたことから、オペレーションの能力と実績を共に有する事業者は限定的であるのが現状である。


4.事業規模が大きい

インフラ事業は案件によりかなりの差があるものの、一般的に事業規模が大きく、新規に事業を開始する場合に必要な資金は数十億から数千億円に至る場合もある。例えば、昨年に計画の発表が相次いだ11万kWクラスの石炭火力発電所では、付帯設備にもよるものの全体で概ね300億円内外の資金調達が必要となる。この場合、適正なレバレッジを掛けたとしても、エクイティとして100億円弱を調達する必要が生じる。


5.流動性が低い

先述したとおりインフラ事業自体が独占的な環境下にあったことから、インフラ事業への投資についてはセカンダリ市場が十分に広がっておらず、イグジット策/先は極めて限定的である。また加えて、案件によっては金額の大きさからイグジット先が一層限定的となる場合があり、他種のアセットと比較しても、インフラ事業に関する投資持分等の流動性は非常に低いといえる。

 

III.資金調達上の留意点

先述したインフラ事業の特徴を踏まえ、特に金融投資家からエクイティ性資金の調達を実施する際の主要な留意点は以下のとおりである。
 

1.リスク所在・対応策の網羅的な整理

対象事業の各フェーズにおけるリスクの内容およびその対応策(分担先、回避策等)を整理することが重要である。前章において述べたとおり、インフラ事業は個別性が極めて高く、リスクの所在や程度、対応策等も案件ごとに異なる。従って、当該時点で想定される内容を整理し、案件としての特性を明確にしておく必要がある(整理すべきリスクの例は割愛する)。


2.金融機関/機関投資家の嗜好の整理・把握

投資家側の嗜好を整理・把握した上で調達戦略を検討することも肝要である。我が国においては残念ながらインフラ投資に積極的な投資家が十分に存在しているとは必ずしも言えず、従ってインフラ事業への資金拠出の検討自体が手探りの中で行われていく場合も少なからずある。かかる環境下においては、それぞれの投資家におけるインフラ投資の位置付けや各種指標の目線感等を整理した上で、取組可能な形態を協調して構築していくことが求められる。

整理すべき目線感の具体例としては、Equity IRR等や投資回収期間といったリターンに関する指標に加え、最短/最長の償還年数やアベレージライフ等の期間に関する指標も挙げられる。また、指標ではないものの、求めるリターンの種類(キャピタルゲイン/インカムゲイン)や開発リスクの可否についても整理することが望ましい。インフラ事業への投資には、長期的な安定収益源として位置付けて早期の退出は好まない投資家などがいる一方で、(我が国ではまだ少ないものの)開発リスクだけを負担する形の投資家も存在するなど、多様なプレースタイルが存在するためである。


3.事業特性に合わせた資金調達スキームの検討

併せて、対象事業の特性に合わせたスキームを検討することも重要である。前章にて述べたとおり、インフラ事業は巨額の投資を行い、それを超長期にわたり回収していくモデルのため、特に事業運営開始後数期においては減価償却負担等に起因して株主への配当が困難となるケースが存在する。しかしながら、投資家によってはより早期での分配開始を求められる場合があり、その場合は資金調達スキームを別途検討する必要がある。

インフラ事業においては、(株主)劣後ローン/劣後債や匿名組合出資等による資金拠出を行い、会社法上の配当財源規制の枠外で金銭を授受することで、上記の目的を達成するケースがいくつか見受けられる。なお、これらのスキームは一律に適用できるものではなく、案件別に会計・税務・法務のそれぞれの面において精緻な検討が求められるため、適切な専門家の助言の下で行うことが望ましい。

IV.終わりに

以上、非常に簡単にではあるがインフラ事業の資金調達における主要な論点について解説を行った。既述のとおり、インフラ事業は事業ごとの個別性が強く、またその事業規模や必要資金も大きくなることから、円滑な資金調達の実現のためには、各調達先への早期のサウンディング実施とその後の綿密な情報連携が何より求められる。

我が国のインフラ事業に対する金融環境は諸外国と比較すると一層の発展余地があるように見受けられるが、過日のインフラファンド市場への上場申請に関する報道 等、多様化に向けた動きが着々と出てきているのもまた事実である。当該インフラファンドに限らず、今後エクイティ/デットの両面でセカンダリ市場が益々活性化すれば、これまでイグジット上の問題等から開発段階での資金拠出に積極的ではなかった投資家層といった、プライマリでの新たなプレーヤーの市場参加余地が生まれてくると考えている。インフラ事業の資金調達環境の更なる多様化を期待している。
 

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
インフラ・PPPアドバイザリーサービス
シニアアナリスト 大須賀 生守

(2016.04.28)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

執筆者 

お役に立ちましたか?