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日本のインフラ輸出と三角開発協力 第二編

本稿では、日本のインフラ輸出・投資セクターに適用可能な次の3種類のTDCモデルを提案します。

I. はじめに

本稿の前編記事である「日本のインフラ輸出と三角開発協力~第一編」では、日本企業による開発途上国でのインフラ関連事業の展開・プロジェクト受注の難しさと、その解決策となりうる政府開発援助(ODA)分野における三角開発協力(以降TDC〔 Triangular Development Cooperation〕)という概念について考察した。

前編を踏まえ、本稿では、日本のインフラ輸出・投資セクターに適用可能な次の3種類のTDCモデルを提案する。

(1)

「直接・間接参加モデル」(EPC(Engineering, Procurement and Construction)事業会社向けのモデル)

(2)

「キャパシティビルダーモデル」(O&M(Operations and Maintenance)事業会社向けのモデル)

(3)

「パートナーシップモデル」(スマートシティ等の多分野間の統合性・技術の高いインフラセクターにおけるEPC・O&M事業会社向けのモデル)


(1)と(2)は、EPCとO&Mそれぞれの事業に適用する概念的なモデルとなる。一方、(3)は、スマートシティセクターのように多分野間の統合性・技術の高いインフラセクターにおけるEPC、O&M事業に適用するモデルとなる。
以下の図1、2、および3は、上記各モデルにおけるステークホルダーおよびそのステークホルダーが提供する財・サービスを示している(ただし、代表的なステークホルダーや財・サービスを載せているため、必ずしも網羅的なものではない点に留意されたい)。これらのTDCモデルは、先進国である日本、中所得国となった開発途上国のパートナー国(以下「P国」と呼ぶ)および低所得国(以下「R国」と呼ぶ)の3者が、それぞれの強みと価値を補い、各国がwin-winの関係を保ちつつ、海外インフラプロジェクト等におけるコストとリスクを軽減・分担することを可能にする。その結果、これらのTDCモデルを通じて、日本企業は、直接にP国またはR国のインフラプロジェクトに対して機械、設備等の調達・輸出をするか、またはP国企業への出融資、マネジメント・技術等のキャパシティビルディングを通じて間接にR国のインフラプロジェクトに参入することが可能となる。また、日本企業にとっては、海外ビジネスの拡大、および既存のビジネスリスクの軽減のための有効なツールになり得ると考えられる。

II. 「直接・間接参加者モデル」~EPC(設計調達建設)事業会社向けのモデル~

(図1: 直接・間接参加者モデル 参照)

日本企業の鉄道車両、建設機械等を生産する技術は世界でも最先端であると知られている。しかし、コスト競争等が原因で、開発途上国における建設プロジェクトは、P国企業に発注される場合が多い。さらに、多くの開発途上国でのインフラEPC事業はリスクが高く、日本企業が許容可能なリスク範囲に収まらない場合が多い。このような課題を解決するための方策として、日本企業、銀行等が投融資を行い、機械・設備をP国企業に提供し、そこからP国企業が日本の資金、技術を活用してR国におけるEPC事業の入札に参加する手法が考えられる。また、日本企業は、特定の高度技術部品の提供、高度で専門的なEPC事業の実施、高度な技能を有する人材の提供等、P国企業が提供できないものを、R国に提供する余地もあると考えられる。つまり、図1のTDCモデルでは、日本企業は、P国企業が提供できない技術、サービス等が必要になっている場合に、直接的にR国に特定の機械・設備等を提供することも可能になる。

一方、独立行政法人国際協力機構(以降JICA)、株式会社国際協力銀行(以降JBIC)のような日本政府開発機関、世界銀行グループ傘下の国際金融公社(以降IFC :International Finance Corporation)および多数国間投資保証機関(以降MIGA)のような国際機関は、それぞれの政策目的に沿った援助・投融資を提供している。例えば、JBIC、JICA等は、P国に対して出融資あるいは財・サービスの輸出をする日本企業への輸出クレジットと海外投資保険(※1)、R国において日本企業が参入を望むようなプロジェクトへの円借款と海外投資保険を提供することが可能である。

また、JICAはR国におけるインフラプロジェクト実施機関に対して、技術協力プロジェクトにより直接的にキャパシティビルディングのための支援を提供することも可能である。一方で、国際機関に期待すべき役割は、ビジネス、財政等のリスクが高いR国に対して、他の民間金融機関の融資を引き出すための現地通貨建て開発投融資を提供すること等が考えられる。

※1:海外投資保険とは、日本企業が海外に有する資産(株式や不動産等の権利)を、外国政府による権利・利益侵害や戦争、テロ、天災といったリスクから保護するものである。「海外投資保険:概要」(独立行政法人日本貿易保険 (NEXI)HP)、http://www.nexi.go.jp/product/investment/[アクセス日:2015年2月9日]

図1: 直接・間接参加者モデル

出典:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

III. 「キャパシティビルダーモデル」~O&M(運営・維持管理)事業会社向けのモデル~

(図2:キャパシティビルダーモデル 参照)

日本企業はO&M事業に関する高度な専門的能力を有するものの、その多くは、高リスクの新興国市場進出に関する経験が少ない。現時点では、Siemens社、GE社等のような欧米企業が、R国のような開発途上国におけるさまざまなインフラO&M事業で存在感を発揮しつつあるように思われる。また、欧米のみならず、競合の韓国・中国企業も取り組みを強化している。従って、日本企業による海外でのO&M事業における地位の獲得は決して容易ではない。

こうした情況において、P国企業がR国における低中価格・技術のO&M事業に対する進出をする際に、日本政府や企業がP国企業に対してマネジメント・技術等のキャパシティビルディング、出融資等の支援を提供することによって、日本としても利益を得られるケースが考えられる。また、日本企業は、P国への投融資やパートナーシップを通じて、R国のO&M事業に間接的に参入することで国際経験を蓄積することが可能となる。

つまり、図2のTDCモデルでは、日本企業は、P国のO&M事業会社に対するキャパシティティビルディング、出融資等の活用を通じて、日本企業がプレゼンスを有していないR国のO&M事業に間接に参入することが可能となる。例えば、既にインド、トルコ等での空港運営コンセッションの経験を有するマレーシア企業のMAHB (Malaysian Airports Holdings Berhad)のようなP国企業は、開発途上国におけるO&M事業において日本企業より経験・実績を有するため、同社とのパートナーシップを通じて、日本企業は同社のO&M事業に係る経験・実績を有効に活用することが可能になると考えられる。さらには、その参入がその他の日本企業による参入へのきっかけとなる可能性がある。また、プロジェクトファイナンスについては、通貨にもよるが、国際機関がR国におけるインフラプロジェクトに直接的に現地通貨建ての投資ローン・保険を提供することも可能である。

図2:キャパシティビルダーモデル

出典:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

IV.「パートナーシップモデル」~多分野間の統合性・技術の高いインフラセクターにおけるEPC・O&M事業会社向けのモデル~

(図3:パートナーシップモデル 参照)

インフラ輸出セクターにおける日本企業の強みは、インフラに関する技術、多分野間の統合性、インフラプロジェクトの高度な実行性・効率性等であると考えられる。つまり、日本企業は、さまざまな分野のノウハウ、高度な技術を横断的に有している。一方、インフラセクターのコスト競争等の問題により、日本企業の高価格の技術等のみで、競合の外国企業と競争し、既述のとおり、インフラセクターのプロジェクトを受注することは困難となっている。

それゆえ、日本企業には、従来の道路、鉄道等のような一般的なインフラセクターよりも、革新的かつ多分野間の統合性・高い技術を求められる分野をターゲットとすることで、参入可能性が向上する。

例えば、日本、中国、インド、ブラジル等でまだ研究中のスマートシティセクターは、他のインフラセクターと比べると、送配電(スマートグリッドを含む)、水処理、情報通信システム、鉄道・道路等の交通インフラ、都市計画・不動産開発等のセクターに横断的かつ高度な技術的な統合性・効率性を求められる分野である。従って、日本企業の強みである都市計画、制御システムのEPC・O&M、廃棄物発電設備のEPC・O&M、都市鉄道兼不動産開発等のように高価格であるが高い技術・多分野間の統合性が求められる財・サービスを提供できる可能性がある。つまり、スマートシティに係るニーズが高まっているP国における同セクターのEPC・O&M事業に直接進出する可能性も考えられる。図3のTDCモデルは、EPC事業会社向けの「直接・間接参加者モデル」およびO&M事業会社向けの「キャパシティビルダーモデル」とのハイブリッドであり、スマートシティセクター等のように多分野間の統合性・高い技術が求められるインフラセクターにおけるEPC、O&M事業に適用するモデルとなる。

R国は、基礎インフラの開発が不十分であるため、一般にはスマートシティのニーズは高くないと考えられる。しかし、固定電話線があまり整備されていない低所得国国民が情報通信の先進技術である無線電話・高速無線LAN等を利用する事例、低所得国のオフグリッド(送電線網へのアクセスがない)の地方住民が太陽熱発電・蓄電設備などの高度技術を利用する事例などのように、スマートシティの長期的資本効率の高さは、R国の生産人口増加によるインフラニーズの増加に対して効果的な解決策となりうる。従って、このTDCモデルでは、日本企業は、主にP国に向けてのスマートシティに係る技術、機械等の提供・販売、キャパシティビルディングの供与を通じて、R国のスマートシティプロジェクトへ貢献することが可能である。場合によっては、R国のスマートシティプロジェクトに直接に高度技術・機械等の供与、キャパシティビルディングの提供をする可能性も考えられる。スマートシティの将来性の例として、2014年7月、インドのナレンドラ・モディ首相は就任の1ヵ月後、インドが先進の情報通信技術を備える100件以上のスマートシティを建設する予定であると公表している(※2)

なお、日本企業が、開発途上国におけるスマートシティセクターのEPC・O&Mに直接に関与していくためには、次の点が必要となると考えられる。

(1)

プロジェクトの「国際化」、すなわち、投融資コストの削減を目的とする国際機関、外国政府金融機関の投融資及び事業・政治・規制リスクの削減を目的とするIFCのような国際機関の関与が必要である。

(2)

他のプロジェクト関係者によるフリーライダー問題(※3)を防ぐための「ソブリンフック(※4)」を確保することが重要と考えられる。そのため、こうした権限を有しない民間仲裁・プロジェクト内部紛争解決措置よりも、世界銀行傘下の投資紛争解決国際センター(以降、ICSID)のような国際機関の関与が望まれる。また、それを確保するための厳正かつ独立した国際仲裁・その他国際解決紛争に係る条項をプロジェクト契約書に織り込むように求める必要がある。

 

日本政府は図3のTDCモデルにおいて、このモデルの事業等のコスト・リスクを削減・分配するという機能を強化する役割を果たすと考えられる。つまり、図3のように、JICAやJBIC等は、開発途上国のスマートシティセクターに進出する日本企業に対して円借款、海外投資保険を提供するとともに、通貨にもよるが、R国のプロジェクトに対して現地通貨建てロ ーン、投資等の保険の提供を通じて、TDCモデルにおけるパートナーシップを補完することが可能であると考えられる。

※2:Casey Tolan, “Cities of the future? Indian PM pushes plan for 100 'smart cities'”, CNN, July 18, 2014, accessed October 12, 2014, http://edition.cnn.com/2014/07/18/world/asia/india-modi-smart-cities/.
※3:フリーライダーとは、活動に必要なコストを負担せず利益だけを受けるアクターを指す。
※4:ソブリンフックとは、プロジェクトの状況変化に対し、被援助国政府の義務履行意思を確保することを指す。

図3:パートナーシップモデル

出典:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

V. 終わりに

本稿で検討したTDCモデルを利用することにより、日本企業がリスクの高い開発途上国でのインフラプロジェクトに必要な部品、機械、熟練人材等の輸出・供給を拡大することが期待できる。加えて、それらの国のインフラセクターへの進出に係るリスク・コストも、関係するステークホルダーとのパートナーシップを通じて削減・分担することが可能となる。また、日本政府・銀行等の、開発途上国でのインフラプロジェクト当事者への投融資・出融資の拡大により、日本企業が、ゼネコン・下請業者として開発途上国でのインフラプロジェクトへ直接参入することが可能になり、日本のインフラ輸出の拡大に寄与しうるものと考える。

本稿および本稿の前編を通じて、中所得国のP国、低所得国のR国の政府、民間等の各利害関係者とのパートナーシップにより、開発途上国に対する日本のインフラ輸出・投資が促されることを期待する。

なお、本稿における筆者の私見に対して、読者の方々からのご批判、ご意見を頂ければ幸いである。

本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。


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前項:日本のインフラ輸出と三角開発協力 第一編

[PDF: 153KB]
執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー株式会社
Raymond Weng Pong Woo

ODAアドバイザリーサービス

デロイト トーマツ グループおよびデロイトの専門性、経験、ネットワークを最大限活用しながら、日本政府拠出のODAを中心とした事業に積極的に取り組み、開発途上国の発展およびODAを通じた日本企業や日本の優れた技術の海外展開支援に携わって参ります。

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