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スポーツビジネス“ポスト2020”  東京オリンピック・パラリンピック後のスポーツ組織の生存戦略

市場環境の変化に耐え、成長するために

2020年東京オリンピック・パラリンピックに向け、我が国のスポーツ組織には多額の助成金やスポンサーシップが集まり、盛り上がりを見せています。しかし、今後のスポーツ組織の持続的成長のためには”ポスト2020”、つまりオリンピック・パラリンピック後を見据えた戦略を立てておくことが求められるでしょう。

I.はじめに – 東京オリンピック・パラリンピック後のスポーツ組織の課題

2020年東京オリンピック・パラリンピックに向け、我が国のスポーツ界が盛り上がっている。街にもメディアにも2020年絡みの広告が溢れ、スポーツニュースは代表候補選手達の記事で賑わっている。当社のスポーツビジネスグループも、日本のスポーツ界の発展に携わる者として大会の成功、そして日本選手団の活躍を願ってやまない。

図表1 中央競技団体経常収益計の推移 (FY2012-16)
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2020年東京オリンピック・パラリンピックに向け、受取補助金等や事業収益(スポンサーシップ含む)がドライバーとなり、競技団体経常収益は大幅に増加している

一方、大会が終わった後はどうなるのだろうか。スポンサードも選手強化も、2020年を目標に行われているため、大会終了後には目標が失われた状態になる可能性がある。笹川スポーツ財団の調査では中央競技団体の経常収益は2020年を前に約CAGR12%で急激に増加しているが、そのドライバーとなっているのが主に行政からの助成金(「受取補助金・負担金・寄付金等」)およびスポンサーシップ(「事業収益」の一部)である(図表1)。少なくとも行政からの助成金は”ポスト2020”にも同様の成長率で増え続けるとは考えづらく、大会後には成長が鈍化もしくはマイナスに転じるものとみられる。すると競技団体は従来通りの運営が続けられなくなる恐れがある。

それでは、“ポスト2020”にも本邦のスポーツ組織(ここでは競技団体およびプロスポーツクラブのことを指す)が持続的発展を遂げるには何が求められるのか、その処方箋を本稿では考えたい。

II.処方箋 – 東京オリンピック・パラリンピック後の環境変化に備えて

1.理念再定義 – スポーツ組織の意義とは

我が国では、スポーツは歴史的に、”体育”を中心として発展してきた経緯があるため、教育色が強く、競技力の向上や心身の鍛錬等が重視される傾向が強くあった。結果、スポーツ組織の運営においては競技力の向上や普及が最も重視されることとなった。そしてそれに賛同する行政や企業からの助成金・スポンサーシップを受けることができていたため、資金確保の理由からより一層競技力向上・普及に注力するというサイクルが回ってきた。

しかし、もう一つの結果としてスポーツの”娯楽”としての側面があまり顧みられず、エンターテインメント産業の一形態としての発展が阻害されることにも繋がってきた。また、”勝利至上主義”が蔓延し、日本ボクシング連盟や日大アメフト部等の不祥事となって表れたのは記憶に新しい。
 

不祥事等を通じて”体育”としてのスポーツの限界が見えてきた今、スポーツ組織には何を目指すのか、そしてどのような存在であるべきかが改めて問われている。仮に競技力強化が盤石だったとしても、引き続き不祥事が起こるような体質だった場合、社会からの支持を得ることは難しい。しばしば不祥事の当事者側からは”以前はこんなことは問題にならなかった”という言葉が漏れてくる。確かに以前は社会的に受容されていたことも多いのだろうが、世は変わり、ハラスメントや危険行為等に対しての社会の目は相当に厳しくなっている。スポーツ組織側がそれに合わせて変わることができない場合、まず選手が集まらなくなることが考えられる。次に硬直性に嫌気がさしたファンが愛想を尽かし、スポンサーもレピュテーションリスクを気にして手を引く可能性がある。現代社会で、スポーツ・エンターテインメント・アクティビティ等の選択肢が多様化していることを踏まえると、特定のスポーツに固執する必要性は低下しつつあると言えよう。よって、スポーツ組織の持続的成長のためには、長期的視野に立ち社会の変化に歩調を合わせながら、自分たちの存在意義を問うていくことが求められると言えよう。


この点において先駆的な事例の一つが日本フェンシング協会だ。同協会は”変わらなければ生き残れない時代に突入した”と強い危機感を抱き、太田雄貴会長のリーダーシップの下、2018年に協会理念を策定。”突け、心を。”のキャッチコピーを掲げ、”勝利至上主義から脱却し、フェンシングを取り巻くすべての人々に感動体験を提供し、フェンシングと関わることに誇りを持つ選手を輩出し続ける”ことに方針を転換している 。エンターテインメント性を高めるため、大会を円形劇場である東京グローブ座で開催する等斬新な企画を次々と実行し、注目を集めている。

また、このドラスティックな方針転換を進め、協会理念を実現するにあたっては経験とスキルが豊富なビジネスプロフェッショナルの力が不可欠として、”副業・兼業限定”で戦略プロデューサーを公募・採用した点も話題を呼んだ。門戸を開いて外部の力を活用するという判断もさることながら、副業・兼業に限定することで、フルタイム雇用に派生するリスクやコスト負担を抑えながら、協会側も人材側も協業のメリットを享受できるこのスキーム自体が極めて画期的で優れたものと言える。


海外に目を向けてみると、英・プレミアリーグのCardiff City FCが興味深い試みを行っている(図表2) 。同クラブでは、”地域の子供達や若者に潜在能力をフルに発揮してもらうこと”をゴールに2009年に地域貢献活動を行うための基金を設立した。しかし、潜在能力を発揮してもらおうにも、地域は健康・教育・雇用格差等の課題を多く抱えていて実現は容易ではなかった。これを受け、”健康増進”・”学習・就労機会拡大”・”犯罪&再犯予防”への貢献を通じて状況を改善することにフォーカスを絞ったうえで、クラブに何ができるのかの棚卸しを行った。その結果、クラブのコアコンピテンシーである”コーチング”・”教育”・”メンタリング”が活かせるとの結論に至り、それらの分野において積極的な地域貢献活動を行っている。

例えば、学校へのスポーツ&健康教育を行う講師の派遣、学校教員へのコーチング研修、ファンへの健康教育、失業者への教育訓練、犯罪多発地域でのスポーツ教育、受刑者への教育訓練等だ。これらは一見、スポーツ組織の行うものの範疇を超えた活動に見える。しかし、これらの活動を通じてコミュニティが心身共に健康な人々で溢れれば、サッカー人口もクラブのファン数も増えるほか、クラブ自身がコミュニティから一層支持される副次的効果が表れるであろうことは想像に難くない。Cardiff City FCは地方の中小スポーツ組織が取り得る一つの道を示していると言えるだろう。

図表2 Cardiff City FCの地域貢献活動のイメージ
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英・プレミアリーグのCardiff City FCでは、クラブのゴールと地域課題およびコアコンピテンシーを踏まえ、従来のスポーツ組織の範疇を超えた地域貢献活動を行っている


2.ビジネスモデルの昇華 – ロス五輪モデルを超えて

先述のとおり、”ポスト2020”には助成金やスポンサーシップの伸びが一段落する可能性が高い。行政も企業もオリンピック・パラリンピックというメガイベントであればお金を出す口実にし易かったが、それがなくなれば理由が薄れるからだ。よって、”ポスト2020”の持続的成長のためには、スポーツ組織自らが稼ぐ力を強化する必要性が高まるものとみられる。

稼ぐ力を高める一つの手段として、スポンサーアクティベーションが挙げられるだろう。従来、スポンサーシップとは、ユニフォームやスタジアムにスポンサーの広告を掲示することで対価をもらう広告宣伝モデル(ロス五輪モデル)であったと言える。このモデルは、非常に直感的なモデルである一方、露出への依存度が極めて高いため、何らかの理由で露出が減ることがあるとそれに合わせてスポンサーシップも減少するというリスクを孕んでいる。例えば、JリーグクラブがJ1からJ2に降格した時などが該当する。また、昨今エンターテインメントやアクティビティの選択肢が増え、人々が特定のスポーツを長時間継続的に観ること自体が減り、露出そのものの意味合いが相対的に低下しつつあることもリスクと言えるだろう。これに対し、露出だけでないスポンサーとしての諸権利の有効活用による経営課題の解決等を通じてスポンサー企業の価値を向上させる活動がスポンサーアクティベーションである。単なる認知度向上を超え、企業課題解決につながる価値がスポンサーシップにあることを示すことが出来れば、その分投資を呼び込むことができる可能性がある。故に、スポーツ組織は広告宣伝モデル一辺倒から脱し、新たなスポンサーシップのモデル(課題解決型モデル)を提供できる体制を整えることが望ましい。


それでは、このためには何をしたら良いのだろうか。我々は、スポーツの”ハブ機能”を活かすことがカギになるのではないかと考える。スポーツには色々な人や組織、そしてものごとを繋ぐハブ機能がある。この機能を活用することで、スポーツ組織自身がハブとなり、企業同士をつないでビジネス拡大の機会を新たに提供したり、人々を繋いで地域活性化に貢献したりすることが可能となる。特に、人・企業の大都市への集中が進行し地方衰退が社会課題となっている昨今、地元に根差し続けるスポーツ組織は地域の”希望の星”のような貴重な存在となりつつあり、地域内での”ハブ機能”が際立ったものとなってきている。これを活かさない手は無い。

例えば、当グループで企画・運営を受託している埼玉県のスポーツをテーマとした創業支援プログラム”埼玉 Sports Start-up (SSS)”では、協力クラブ・球団である浦和レッズ・大宮アルディージャ・埼玉西武ライオンズが核となり、新たなビジネスが生まれつつある。SSSでは、3クラブ・球団が出す”テーマ”に対してビジネスアイディアを募り、特に優れた提案を持つ応募者を対象に楽天大学学長・仲山進也氏が講師を務めるワークショップを半年間実施してきた。その結果、新たに出会った参加者同士やクラブ・球団との間でコラボレーションの動きが生まれ、実際にいくつかのビジネスアイディアが融合・進化しながら実現に向けて動きはじめている。このようなイノベーションを誘発するビジネスプラットフォームをスポーツ組織が提供し運用することは、スポーツの”ハブ機能”を活かしたスポンサーアクティベーションの形として大いに考えられるだろう。

III.終わりに – 激変するスポーツビジネス市場環境

少子高齢化が加速度的に進行する日本の市場環境は厳しく、2025年をピークに東京ですら人口減少フェーズに入る。また、単に人口が減った分顧客数が減少するのではなく、老衰によって観戦に来られなくなる人のように、顧客母集団から離脱する人の分も含めて減少するので、人口減少を上回るスピードでパイは小さくなっていく。これは、スポーツ組織間での選手・ファン・スポンサー等の獲得競争が年々熾烈になっていくことを意味する。また、他のエンターテインメントやアクティビティも競争相手になるという点がこれをさらに複雑にし、競争を一層激しいものとするだろう。

このような状況を受け、本稿で紹介したような先駆的なスポーツ組織では、既に自分達の存在意義やスポーツそのものの価値を問い直し、自らの生存を賭けて進むべき方向性を見出そうとしている。自分達にどのような意味や価値があるのかという根本的な点を再定義し提示することで、競争に打ち勝とうとしている訳である。

その一方、依然、目の前のことで手一杯となっているスポーツ組織が多くあることも事実だ。現在は過去の”レガシー”に乗っかる形で人気を維持できている組織や、行政からの助成金獲得でファン・観客数や競技人口の減少にも持ち堪え生き永らえている組織もある。しかし、そのような組織は、環境変化に耐え切れなくなる恐れがある。
スポーツ組織にも生命共通の理、進化論が当てはまると言える。環境変化に適応した組織が生き残り、できなければ淘汰される。2020を目標とした潤沢な助成金やスポンサーシップという恵まれた外部環境のおかげである意味曖昧になってきた勝ち負けが、その両者の伸びの鈍化または縮減という今後の環境変化を通じて明確になっていくのではないだろうか。

本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
スポーツビジネスグループ 

シニアアナリスト 太田 和彦

(2019.03.20)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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