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スポーツの産業化促進に寄与するビジネススキーム

非営利法人のメリット・デメリット

スポーツ庁により推進されているスポーツの産業化、その活性化のための施策として注目されている「非営利法人」を活用した新たなビジネススキームの活用について、その活用事例やメリット・デメリットを非営利法人の説明と共に解説します。

1.スポーツ産業化の現状

スポーツ庁が旗振り役となり、推し進められているスポーツの産業化。
スタジアム・アリーナ改革や日本版NCAAの設立推進など、いよいよ動きが本格化してきているようにも見えますが、その具体的施策の多くは民間での知見やノウハウを活かした「収益化」に期待するものとなっています。

一方の民間側と言えば、スポーツ庁の呼びかけにさまざまなプレイヤーがスポーツ産業化に大きな興味・関心を抱いている状況ではあるものの、中長期的な戦略を持って新たな市場開拓・創造に本腰を入れて参入してきているプレイヤーはまだまだ限られているのが現実です。なぜなら、スポーツビジネス市場参入後の収益性を、内外に説明するには未だに高いハードルがあるからです。

その結果、現状においては、従来からスポーツに少なからず関わってきたプレイヤー達(協会、リーグ、クラブ、広告代理店等)が中心となり、限られた人的・経済的リソースと限られた情報のなかでスポーツビジネス市場の活性化に模索・奮闘しているのが実態と考えられます。

このような状況下では、スポーツビジネス市場に新しい資金の流れを生みだすことは難しく、いかにスポーツ庁がスポーツ産業化の旗を振ったとしても、スポーツビジネス市場の「収益性」を理由としてスポーツビジネス市場への新規参入を促進するのには限界があると言わざるを得ません。もちろん、新規参入不足だけが推進遅延の唯一の要因ではありませんが、大きな要因の一つであることは間違いないと思われます。

そこで最近、注目されているのが「非営利法人」を活用した新たなビジネススキームの活用です。このスキームを活用すれば、参入を志す民間企業側の説明責任が軽減されるばかりか、スポーツクラブの運営者側にとっては新たな資金調達の手段にもなり得るため、スポーツビジネス市場の活性化に繋がるものと考えられます。

2.非営利法人スキームの活用事例

つい先日、京都大学のアメリカンフットボール部が非営利法人として独立したことはご存知でしょうか。報道記事によれば、非営利法人として独立させ、資金の使途をクリアにすることで、新たなスポンサー獲得の可能性を広げることを狙ったものとされています。非営利法人は営利法人が前提としている「配当」という仕組みがないため、内部留保が基本的に主要事業に再投資されるという特徴があります。目的を明確化し、さらにそれを制度的に担保することで、資金の出し手の説明責任を軽減する効果を狙ったものとして注目を集めています。

また、非営利法人活用スキームの先駆的事例としては、Jリーグのセレッソ大阪の取り組みがよく知られています。セレッソ大阪は、トップチームの興行は収益性を追求することができるよう営利法人である株式会社が担い、育成・普及などの活動は、非営利事業としての自治体の支援や政府の援助を得やすいよう非営利法人が担う、という体制をいち早く取り入れて活動しています。実際に、totoの助成金の活用による施設の整備や、スクール事業への継続投資などにより、同クラブは継続して若年世代の優秀なプレイヤーを多く輩出しているという実績があります。

このような取り組みは、既にスポーツ先進国であるドイツで大きな実績を挙げているスキームでもあります。世界一の集客実績を誇るドイツのブンデスリーガではクラブの所有権の51%以上を非営利法人が所有しなければならないという、通称「51%ルール」という規制があります。ブンデスリーガに所属する各クラブは、一部の例外を除きこのルールが適用されており、その結果、各地における総合型地域スポーツクラブの運営を支える土台となっているという事実があります。文化や歴史の異なる日本において、ドイツのこの事例がそのまま当てはめられるかどうかは慎重な検討が必要ではありますが、先述の京大やセレッソの取り組み事例を見ると、十分に可能性はあるものと考えられます。

なぜスポーツ産業界に非営利法人スキームが有効なのか、理解を深めていただくために、日本における非営利法人の仕組みについて簡単に解説したいと思います。

 

3.非営利法人とは

非営利法人と一言で表現しても、いくつかの形態があります。今回はその中でも代表的な法人形態である、NPO法人、一般社団法人(非営利型)、公益社団法人、一般財団法人(非営利型)、公益財団法人について解説します。どの法人形態を選択すべきかは、その法人を使って実施しようとする事業の種類や、目指すべき法人のガバナンス体制により決まってくることになります。

図表1 非営利法人の主な類型比較
※画像をクリックして拡大表示できます

なお、法人類型の際に使われる「非営利」とは、営利活動をするかしないか、という意味ではなく、「配当をしない」という意味での「非営利」であることをまずはご理解ください。つまり、よくある誤解として、非営利法人は営利事業を実施してはならない、というものがありますが、これは誤りです。非営利法人でも営利事業は基本的に実施できますが、法人形態により、一部その営利事業に制限がかかることがある、というものです。

そもそも制度上非営利法人は、営利事業で獲得した内部留保を非営利事業のために使用することを前提として、税務上の優遇や補助金などの受領資格者として認定されている法人です。その意味では、非営利法人も永続的な事業活動を実施していくためには収入源を確保する必要があり、その手段として寄付金や補助金などを募るだけではなく、自ら営利事業を行い、活動資金を確保することも問題ないということになります。

今回比較する各法人共に、機関設計は株式会社と類似しています。形態によりガバナンスの強度に違いはありますが、基本的に意思決定機関としての合議体が想定されています。法人全体の重要事項を決定する最高意思決定機関、法人の業務遂行を司る業務執行意思決定機関、その業務執行の状況を監督する監査機関がそれぞれ設置されます。そして明らかに株式会社と異なるのは、持ち分の概念が無いことです。

獲得した内部留保を持ち分に応じて配分することを目的とした営利法人たる株式会社とは異なり、持ち分という概念を持たず、残余財産を含め配分という行為が禁止されていることが非営利法人の最大の特徴と言えます。(その意味で、営利型の一般社団・財団法人は、今回の非営利法人の類型には含めていません。)

 

4.スポーツ産業における非営利法人のメリット・デメリット

【メリット】

非営利法人のメリットとしては、主に次の3点が挙げられます。

(1) 非営利事業への資金使途が明確になることで資金調達の選択肢が広がる
非営利法人では制度上、収益事業と非営利事業を区分経理することが義務付けられており、事業ごとの資金使途が明確になるという特徴があります。そのため、非営利法人側がきちんと自らの財政状態や活動状況をディスクローズすることで、資金の出し手側からすれば、拠出した資金がどの事業にどのように活用されているのかを内外に説明しやすくなるという効果があります。その結果、これまで資金拠出に二の足を踏んでいたような企業の資金拠出も促すことが期待されます。

(2) 非営利事業について税制面での優遇が受けられる可能性が広がる
非営利法人においては、法人税の課税方式が営利法人と異なります。株式会社のような営利法人では全所得課税方式が採用されるため、法人が営む全ての事業を対象に課税がされます。一方の非営利法人では収益事業課税方式が採用されるため、法人が営む事業のうち、法人税法で定められている34業種のみを対象として課税がされるという違いがあります。
そのため、法人が実施している事業の中にこの「課税34業種」以外の事業が含まれている場合、非営利法人においてはそれらの事業は非課税事業となるため、それらの事業により獲得された利益は全て内部留保となり、事業の運転資金や投資に充当できることになります。
例えば、スポーツビジネスにおいて特に注目される事業としては、育成・普及を目的としたスクール事業が挙げられます。「課税34業種」の中には、「技芸教授に関する業」が含まれており、当該スクール事業が技芸教授業に該当するか否かが問題となりますが、この技芸の範囲は法人税法上、限定列挙されており、スクール事業、いわゆるスポーツの指導はその範囲に含まれていません。したがって、スクール事業は、原則として、法人税の課税対象ではないと考えられています。

(3) 非営利法人という器を活かした活動資金確保の選択肢が広がる
非営利法人が配当を実施しないという性質から、地方公共団体やその他の団体からの資金援助という選択肢の検討が可能となります。具体的には有名なtotoの助成金、ふるさと納税などを原資とした補助金、国からの交付金など、営利法人では受けることの難しい資金援助の選択肢が広がります。もちろん、法人形態のみでこれらの資金援助が受けられるわけではなく、しっかりとした活動実態が伴って初めて活用できる選択肢ではありますが、活動の収益性ではなく、活動の意義・内容によって資金を集められる選択肢があることは、育成・普及といった活動が必須のスポーツビジネスにおいては大きな武器になるものと思われます。

図表2 非営利法人活用のメリット
※画像をクリックして拡大表示できます

【デメリット】

非営利法人のデメリットとしては、次の2点が挙げられます。

(1) 内部留保の分配が制限される
前述のとおり、非営利法人は内部留保の分配ができないという性質を持っています。したがって、子会社のような位置付けで関連非営利法人を運営した場合でも、非営利法人に溜まった内部留保を資金として親会社等に還元することはできないということに留意が必要です。非営利法人の活動による効果の還元は、金銭的還元以外の形、すなわち、育成人材による還元や地域活性化による還元といった、間接的な還元に拠ることとなります。

(2) 資源の二重投資が発生する
既に非営利事業を営む営利法人が、非営利法人を設立して非営利事業を分割するようなケースでは、いわゆる資源の二重投資の問題が生じます。グループ会社といえども別法人であるため、会計・財務といった間接業務に関する人材と設備に関する投資が別途必要になることに留意が必要です。非営利法人の活動が、この資源の二重投資のコストを上回る効果を生まなければ、非営利法人活用スキームを利用する価値は無いことになります。

図表3 非営利法人化のデメリットおよび対応
※画像をクリックして拡大表示できます

5.非営利法人の活用のポイント

上記メリット・デメリットを踏まえつつ、非営利法人の活用のポイントを挙げると以下の2点に集約されます。

(1) 非営利法人スキームはあくまでも「手段」であることを忘れない
非営利法人の活用は万能薬ではありません。実施しようとする事業や、当該事業のグループ全体における位置付け、中長期的な事業計画に基づくグループ事業戦略との整合性等、多面的に検討を実施する必要があります。
スポーツ振興のための活動や人材育成、地域貢献活動等を効果的・継続的に実施していくための「手段」として、適切に活用していくことが望まれます。

(2) 非営利法人としての活動理念とガバナンスの整備を忘れない
非営利法人のメリットとして挙げられている税務上の優遇や資金調達の多様性ばかりが目を惹く非営利法人スキームですが、最も大事なのはその活動理念と、それを支えるガバナンスです。非営利事業を推進する大儀やストーリーと、それを着実に遂行する体制が整って初めて、非営利法人のメリットが享受できるということを忘れてはなりません。
一方で、非営利法人の活動理念やガバナンス体制が周囲に認められれば、事業主だけでなく、関連する多くのステークホルダーからの支援・協力をそのまま法人の経営資源として活用できる器となることは、スポーツビジネスの発展には大きなアドバンテージになり得るスキームでもあります。

6.おわりに

今回は非営利法人の特徴と、スポーツビジネスにおけるポテンシャルについて解説してきました。
スポーツビジネスは公共的意味合いが強く、試合を通じた非日常の体験、コミュニケーションの促進、する・みる・支えるスポーツを通じた学びの場の提供を通して、地域活性化や人々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)増進に資する部分が大きいことが特徴です。

これらの非営利活動をサスティナブルなものとするため、非営利法人スキームが活用できれば、スポーツビジネスの裾野はまだまだ広がっていくものと考えられます。スポーツの産業化は、スポーツで儲けることが最終目的ではなく、スポーツの活動をスポーツ自らの収益力を活かして発展させていくことこそが最終目的です。

非営利法人スキームは、その考え方と非常に親和性の高い「手段」であることを、多くの方に知っていただき、適切に活用いただく機会が増えることを願っています。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
スポーツビジネスグループ
シニアヴァイスプレジデント 里崎 慎

(2017.07.26)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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