調査レポート

地域農業振興計画の策定における観点について~生産構造の分析と産地モデルの類型~

農業振興計画を策定する上での基礎情報となる生産構造の分析の観点と、産地モデルの類型について述べます。

地域に活力を取り戻す「地方創生」が推進される中、農業を基幹産業とする地域は、農業者の高齢化や担い手不足の課題への対策を講じ、足元の生産高減少を抑え、将来に向けた産地の維持・生産高拡大の羅針盤となる地域農業振興計画を策定、実行することが必要となっています。本稿では、農業振興計画を策定する上での基礎情報となる生産構造の分析の観点と、産地モデルの類型について述べます。(2015年9月)

1. 産地の将来を捉える生産構造分析

著者:有限責任監査法人トーマツ マネージャー 尾高 智之
                       佐藤 峻介


地域農業の現場では農業者の高齢化や担い手不足が進んでおり、農業産出額に関してはピーク時と比べ約3.2兆円も減少している(ピーク:1984年11.7兆円、2013年8.5兆円)。農業を基幹産業とする地域にとって、雇用や産業の維持のためにも、産地としての農業の目指す将来像を描き、それに向け対策を講じることが急務となっている。

対策を検討するにあたり、まずは産地の将来を見据えた生産構造を捉えることが重要となる。

下記図表1は、ある産地において、高齢化による離農が成り行きで進んだ場合、5年後、10年後、農業産出額がどの程度減少するか、また、高齢化がどの程度進行するか、を行ったシミュレーションである。(図表の数値はイメージとなる)

図表1 産地の5年後10年後の生産構造シミュレーション

この産地では、10年後、主要品目A(露地野菜)の産出額が5.6億円減少し(約25%減少)、産出額全体の約70%を65歳以上の高齢農業者が担う構造になる。また、露地野菜の品目Bに関しても同様に、産出額の減少と高齢化が進む。一方、施設野菜の品目Cは、品目A、Bほど高齢化と産出額の減少が進まないことが推測される。

この例のように、将来傾向を品目毎に定量的に把握することで、「どの品目から優先的に、どのような対策を講じるか(例:高齢化の進行が著しい主要品目の場合、出荷調整や定植・収穫作業の共有化等の高齢農業者の作業負荷低減に係る対策を講じる等)」「対策を講じるにあたり、地域として、どのくらいの資源(ヒト、モノ、カネ)投入が必要か」を、数値を含め検討することが可能となる。

また、品目以外にも、エリア別、農業者の経営規模別に将来の生産構造を捉えることで、「地域農業を維持するために、どのエリアに注力すべきか、どの担い手に注力すべきか」も見えてくる。

現状構造の課題克服の視点のみで検討した場合、その場しのぎの対策となり、将来に一部課題を積み残す恐れがある。また実際に対策を講じる際は、品目や地理的特性、農業者の意向等を踏まえ実施する必要があるが、計画策定の最初のステップとして、5年後、10年後の生産構造を数値で定量的に捉えることで、“感覚”だけに頼らない検討を進めることに役立つと考えられる。

2. 産地の特徴を踏まえた目指す産地モデルの導出

前章の分析により、現状及び将来(成り行き)の生産構造を把握した後、目指す産地モデルを検討する。本章では、本検討を進める上での基礎情報となる、産地モデルの類型について述べる。

近年、ライフスタイル・世帯構造等の「消費構造」の変化に伴い、「産地から消費者までの流通の多様化」が進んでいる。
例えば、共働き世帯や単身世帯の「中食」の増加により、加工・調理済食品の市場が拡大し、それに伴い、産地と加工業者による契約取引も見受けられるようになった。また、消費者の「鮮度志向」を捉えた「産直」のような直販型の販売形態も増加傾向にある。

青果物における市場流通はその役割の重要性により、未だ多くの流通量を取り扱うものの、地域として、消費構造の変化で広がった市場流通以外の取引形態を推進することは、農業者の安定収益の確保や、新たな収益源の創出に資する重要な取組みと考えられる。

ただし、これらの新たな流通への取組みは、全ての産地が同じことを、同じように実施するのではなく、産地の特徴を踏まえた目指す産地モデルの枠組みとして実施することが重要となる。

下記図表2は、「産地と消費地との距離」と「農地の面積拡大・集積のし易さ」の観点で整理した産地モデルの類型である。

都市外延地域に位置する産地は、消費地から遠い反面、農地の面積拡大・集積を図り易いという特徴を有する。当該産地では、露地野菜を中心に従来からその地にある主要品目を強化し、関東・関西圏等の大消費地の市場への安定供給に加え、大ロット生産の特長を活かした加工業務用向けを合わせて進めることで、農業者の収益の安定化を図る取組みとなりうる。また加工業務向けに関しては、農作業・出荷調整作業の機械化を図り易い品目を選定することで、高齢農業者の作業負荷を低減する取組みにもなり得る。

都市近郊に位置する産地は、混住化で農地の集約が十分に進まないケースが多く、規模を活かした大ロット生産には向かないため、単収を上げる施設野菜の振興や、消費地に近いメリットを活かした直売所での地産地消の推進が考えられる。

また、昨今スーパーマーケット業界では、他店との差別化を図るため、新鮮、産地直送、地産地消を武器とした青果売場をつくり、消費者を呼び込む戦略を重視する企業が多い。産地として、これらスーパーマーケットに対し、ニーズに応える品目を生産し、鮮度を保持し一定量供給するモデルを構築することも考えられる。

尚、当グループが農業振興計画策定の業務に携わる中、複数の主業農家から、「昔は市場に流し、相場で高いときもある、安いときもあるで経営が成り立ったが、今後若い人の就農を増やすためには、産地として安定的に収益を確保できる仕組みをつくることが重要」との声を多く聞く。

地域の農業生産高を維持するためには、一戸あたりの経営規模拡大とそれに伴う設備投資・外部雇用を進める必要があることからも、農業者の安定収益の確保は重要な課題となる。

産地の特徴を活かしたモデルづくりを進め、相場よりも価格形成し易い契約取引や、農業者が価格を決めることが可能な直販は、地域農業者の経営の見通し確保のための選択肢として、重要な取組みと考えられる。

図表2 産地モデルの類型

都市外延地域に位置する産地は、消費地から遠い反面、農地の面積拡大・集積を図り易いという特徴を有する。当該産地では、露地野菜を中心に従来からその地にある主要品目を強化し、関東・関西圏等の大消費地の市場への安定供給に加え、大ロット生産の特長を活かした加工業務用向けを合わせて進めることで、農業者の収益の安定化を図る取組みとなりうる。また加工業務向けに関しては、農作業・出荷調整作業の機械化を図り易い品目を選定することで、高齢農業者の作業負荷を低減する取組みにもなり得る。
都市近郊に位置する産地は、混住化で農地の集約が十分に進まないケースが多く、規模を活かした大ロット生産には向かないため、単収を上げる施設野菜の振興や、消費地に近いメリットを活かした直売所での地産地消の推進が考えられる。
また、昨今スーパーマーケット業界では、他店との差別化を図るため、新鮮、産地直送、地産地消を武器とした青果売場をつくり、消費者を呼び込む戦略を重視する企業が多い。産地として、これらスーパーマーケットに対し、ニーズに応える品目を生産し、鮮度を保持し一定量供給するモデルを構築することも考えられる。
尚、当グループが農業振興計画策定の業務に携わる中、複数の主業農家から、「昔は市場に流し、相場で高いときもある、安いときもあるで経営が成り立ったが、今後若い人の就農を増やすためには、産地として安定的に収益を確保できる仕組みをつくることが重要」との声を多く聞く。
地域の農業生産高を維持するためには、一戸あたりの経営規模拡大とそれに伴う設備投資・外部雇用を進める必要があることからも、農業者の安定収益の確保は重要な課題となる。
産地の特徴を活かしたモデルづくりを進め、相場よりも価格形成し易い契約取引や、農業者が価格を決めることが可能な直販は、地域農業者の経営の見通し確保のための選択肢として、重要な取組みと考えられる。

3.終わりに

産地の5年後/10年後の生産構造シミュレーションと目指す産地モデルを設定し、「目指す姿に向けたギャップをどう埋めるか」という観点で地域農業振興計画を策定する。

各産地の生産構造・地理的条件は様々であり、他の産地の“成功モデル”をそのまま踏襲することは難しい。地域で培われてきた特性・優位性を活かし、個々に特色のある地域農業振興策(or計画)を定めることが重要である。

最後に、当該記事は執筆者の私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではない。

以上

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