調査レポート

「植物工場」という名称についての考察

言葉が与えるイメージ

デロイト トーマツ グループで実施したアンケート調査の結果を基に「植物工場」という名称の持つイメージについて考察する。(2016年3月)

著者:有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー 早川周作
   有限責任監査法人トーマツ          林田俊哉

ここ数年で、「植物工場」という言葉はかなり普及し、多くの方が一度は聞いたことがあるものになりつつある。テレビ等のマスコミでも取り上げられ、無農薬栽培である点や、天候に左右されず年間を通して安定供給出来る点などが、「植物工場野菜」のメリットとして伝えられている。

「植物工場野菜」の良いイメージについて、弊社が消費者に対してインターネットアンケートを実施したところ、「価格が安定している」、「一年を通して買える」といった供給面での安定性を評価する点、「農薬を使っていない」といった安全性を評価する回答が上位に並んだ。特に高齢層で、良いイメージを持っているという回答が多かった。また、継続して購入している層も年齢別では60代、50代が多く、高齢層を中心に「植物工場野菜」が受け入れられていることが確認できた。

「植物工場野菜」のイメージが良いと思う点を教えてください。該当するものを全て選んでください。

その一方で、悪いイメージについて質問したところ、全体の約30%が「工場で人工的に作られているイメージがある」という回答をした。「価格が高い」との回答に次いで2番目に多い回答である。特に20代、30代の若い層での回答が多く、普段「植物工場野菜」を購入していると答えた50代、60代でも、「工場野菜」という名前については、良いイメージを持っていないことが明らかになった。

「植物工場野菜」のイメージが悪いと思う点を教えてください。該当するものを全て選んでください。

「植物工場野菜」は、既に一定の顧客層に受け入れられているものの、多くの日本人にとって「工場」という響きが、「人工的」という印象を連想させていることが分かる。ここでは、 “工場”ではない名称の可能性について考えてみたい。

一般的に「植物工場」のメリットとして言われるのは、無農薬、雑菌が少ない、年間を通して栽培が可能といった点である。屋内で栽培される野菜について、好き、嫌いは消費者によって分かれるところである。ただし、「雑菌が少ないレタスを食べたい」と思っている消費者が「工場」産であることを理由に、その野菜を買い控えてしまっている可能性がある。

業界は全く変わるが、金融業界で一つ例を挙げてみたい。金融業界では、信用格付けの低い企業が発行する債券で「投機的格付債」というものが存在する。格付けの高い「投資適格」に及ばないもので、信用格付けが低いため、投資家はその債券に高い利回りを要求する。「投資不適格債」や「ジャンク債」などとも呼ばれるが、同じものを「ハイイールド債」と呼び方を変えるだけで、投資家の反応は全く異なる。投資家にとって、ジャンク債(ゴミに近い債券)と呼ばれるよりもハイイールド債(高利回りの債券)という響きの方が興味が湧くのである。

以上の例のように、名称を変えるだけで、印象が全く変わってくる。つまりこの例では、債券の低い信用力に焦点をあて、ジャンク(ゴミ)という名称をつけるよりも、投資家にとっての魅力、つまりこの場合はハイイールド(高利回り)という点を押し出しているのである。両者は全く同じ物を指すにも関らず、買い手としては後者の方がイメージが良い。

また、別の例を挙げるとすると、チョコレートなど工場で加工される食品に関しても、「工場」産とは通常言わない。工場産と言われて、ほとんどの人が良い印象を抱かないだろう。

実際に消費者の「植物工場」野菜に対するコメントを見ても、「名前のイメージが悪すぎる」、「(さらなる普及には)人工物というイメージを払拭する必要がある」、「一番に名前が良くない。工場野菜というと抵抗を感じる」、「植物工場野菜と言う堅苦しい呼び名ではなく、もっと分かりやすく特徴を伝えるインパクトのある名称が必要」などが散見される。

新興国等で食の安全が確保されていない地域では「工場」という響きが逆に安全というイメージを与え、ポジティブに捉えられる可能性はある。しかし、少なくとも日本においては、「工場」というイメージが消費者の誤解を招いており、その魅力を十分に伝えているとは言いにくい。

当該記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではない。
以上

お役に立ちましたか?