調査レポート

東南アジアにおける農業ビジネスの可能性

東南アジアの農業ビジネスは今まさに転換点を迎えている。現地消費者の食の安全への意識の高まりや生活スタイルの近代化が見られる一方で、農業生産技術や流通インフラは未だ改革の途上であり、日系企業にとってもビジネスチャンスが潜んでいる。

生産分野における今後の可能性

生産分野においては、世界的に「機械化」、「ICT(情報通信技術)活用」、「バイオテクノロジー活用」等による生産性向上のための取り組みが進んでいる(図1)。東南アジアにおいても近年、これらの取り組みが官民あげて推進されているが、未だ途上であり、最新技術普及に向けた動きがより加速すると考えられる。

■機械化
作付面積の拡大や、都市化の進展に伴う農村部の労働力不足を背景に、東南アジアにおいても農機が急速に普及し始めている。(社)日本農業機械化協会によると、ミャンマーでは、政府の後押しもあり、耕うん機の普及台数が1995年度から2010年度にかけて約9.2倍に拡大している。
一方で、多くの生産者は収入水準が低く、かつ現地の金融機能も未成熟なため、自力での農機購入が難しい。そのような生産者に対して、農機メーカーは金融サービスを併せて提供することで、農機普及拡大を図っている。タイでは、日系農機メーカーが金融サービスを生産者に提供し、農機販売・シェアを拡大している。他の途上国においても、グローバル農機メーカーが金融サービスを提供する事例が増加している。

■ICT(情報通信技術)活用
機械化に加え、客観的データ・ノウハウといった「情報」を生産者に提供することも、生産性の向上策として有効である。農業技術、関連市場、気象等の情報を得ることで、生産者が「勘と経験」に頼った農業スタイルから脱却することが可能となる。そのような情報を提供するツールのひとつとして、携帯電話の活用が着目されている。東南アジアでは携帯電話の普及率が高いためである(図2)。
例えばインドネシアでは外資系企業が、タイでは現地企業が生産者に対する情報提供サービスを展開している。携帯電話のSMS(Short Message Service)を通じて、気象、農業関連ニュース・アドバイス、近隣市場での農作物取引価格等の情報を生産者に提供している。生産者はそれら情報を農産物の栽培・出荷に役立てている。グローバル情報通信企業各社は、同様のサービスをインド、中国、トルコ、ナイジェリア等の新興国・途上国において幅広く展開している。
また、フィリピンでは政府がタブレット端末による生産者への情報提供を目指している。資材価格等の情報提供に加え、GIS(Geographic Information System)と呼ばれる地理情報システムにより各地点の土壌に関する情報を提供し、適した肥料や水分量といった生育条件の判断を容易にすることが目標である。現在、安価なタブレット端末提供を実現するための開発パートナーを模索している。

■バイオテクノロジー活用
東南アジア特有の気候条件への対応や、収量増加ニーズへの対応方法として、バイオテクノロジーを駆使した品種改良が進んでいる。マレーシア農業開発研究所(MARDI)では、“Aerobic Rice”と呼ばれる耐暑性が高く、水分供給が少ない状況化でも生育する稲を開発し、2014年の収穫を目指している。通常の稲が収穫までに約110日要するのに対し、Aerobic Riceは90日程度に短縮でき、最大で年3回の収穫が可能との特長も備えている。マレーシア農業大臣は「2020年までに生産者の収入を30%~50%増加させる効果がある」とコメントしている。
現地法規制により、農業生産自体への外資系企業の参入は限定的であるが、育種市場は外資系企業の参入事例が豊富にある。今後も、バイオテクノロジーを活用した更なる生産性向上が期待される。 

図1:生産分野における今後の可能性(仮説)

図2:東南アジア主要国における携帯電話普及率(2012年)

流通分野における今後の可能性

東南アジアでは、現在Traditional Trade(小規模小売店)の割合が高いが、経済成長に伴い流通の近代化が進んでいる。流通の近代化に伴い、特に「コールドチェーンの確立」「トレーサビリティの確立」「流通網の整備」の取り組みが求められている(図3)。

■コールドチェーン確立
Traditional Tradeでは、鮮度を維持するための冷蔵・冷凍設備が充実しておらず、生鮮食品等の流通エリアや鮮度管理に制約がある。また、Wet Marketと呼ばれる文字通り「床が濡れた」生鮮食品市場では、衛生状態が万全とは言えず、インドネシア等では安全性に対する懸念の声が出始めている。

■トレーサビリティ確立
食品への安全意識の高まりや規制・文化的制約への対応から、トレーサビリティの確立が求められている。特に、東南アジア産品を先進国に輸出する場合、自国より高い水準の検疫基準等を満たしていることを証明するために体制の整備が強化されると推察される。また、インドネシアやマレーシア等のイスラム教国では、宗教上定められた食品の原材料や製造工程の基準を満たしていることを証明する「ハラール認証」の取得が必要である。自国で抱えるイスラム教徒に加え、輸出も考慮すると全世界で約16億人のイスラム教徒への対応が必要となる。
例えばタイでは、輸出促進のために、政府主導でグローバル水準に耐え得るトレーサビリティ体制の構築を目指している。生産者から流通・小売業者に至るまで、生産農場、収穫日時、出荷時の気温等の情報にアクセスできるようにし、生産履歴を管理することが狙いである。上記体制の構築のために、タイ政府はグローバル及び国内情報通信企業と連携し、センサーやソフトウェアといったテクノロジーを活用している。東南アジアの他国においても、今後同様の流れを創り出すことが出来れば、大きなビジネスチャンスが生まれると考えられる。
Modern Tradeでは、店舗規模拡大に応じて取扱品目が飛躍的に増加し、取引先が複雑多岐に渡るため、調達先の確保・集約は避けては通れない。しかしながら、東南アジアでは前述の通りTraditional Tradeの割合が大きく中小規模の卸売業者が乱立しており集約化が進まず、Modern Tradeの拡大は容易ではない。
一方、自社ノウハウや現地企業のネットワークを十分に活用し、流通網をいち早く構築することができれば、Modern Tradeへの供給企業としてメジャープレイヤーとなれる余地を秘めている。例えば、日本の大手総合商社と大手流通メーカーは、協同でベトナムの食品卸企業を買収し、ベトナムの卸売事業に進出している。自社のコールドチェーン・効率的物流等のノウハウと現地企業の流通網を組み合わせることにより、強固な流通体制の構築を目指している。上記2社はベトナムでの流通網構築ノウハウを活用し、今後東南アジア全土への拡張を志向している。

■流通網整備
所得水準が向上し、生活スタイルが近代化するにつれ、Modern Trade(スーパーマーケット、ショッピングセンター等の近代的小売店)の拡大が見込まれる。 

図3:流通分野における今後の可能性(仮説)

写真1:Wet Marketの様子(2012年インドネシア)

写真2:Modern Tradeの様子(2012年タイ)

終わりに

以上で見てきたように、東南アジアの農業ビジネスは生産・流通分野共に未成熟であり、今まさに発展しつつある。しかし、東南アジアでは生産者個々の資本力が乏しく、設備投資に潤沢な資金を投資できない一方、急速な発展が求められているため、官主導で投資が行われる場合が多い。また、現地企業の有するネットワークを活用することで、現地生産者や小売業者と取引関係を早期に構築することができる。日系企業が東南アジアで農業ビジネスを拡大するためには、国ごとに異なる生産者の実態、流通構造、消費者嗜好等の実情を正確に把握した上で、東南アジアが必要とする高い技術力やノウハウを駆使し、現地企業や政府と協力関係を構築することが必要である。東南アジアの発展を機会ととらえ、日本の農業インフラ、流通インフラを拡大することが今後期待される。 

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