調査レポート

米国植物工場事業の可能性(第二回)

拡大する市場

2016年2月「米国植物工場事業の可能性-動き出した巨大市場-」にて解説した米国における植物工場事業について、特にニューヨーク地区の最新の動向をお伝えする。米国市場で植物工場が受け入れられる環境は整っており、今後の日本企業の進出に期待したい。(2016年8月)

著者:有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー 早川周作
   有限責任監査法人トーマツ          林田俊哉

2016年2月に当ホームページ上にて、「米国植物工場事業の可能性」と題して、米国における植物工場事業の可能性について解説した。
その際は、野菜産地カリフォルニアの旱魃など供給側を背景とした要因や、Local野菜人気の高まりの需要側要因など、供給サイド、需要サイド双方からの要因による米国の植物工場の可能性について触れた。

米国における植物工場事業者は着実に増加しており、米国でも植物工場市場が拡大している。特に多くの人口を抱える大都市を中心に植物工場が進出しており、Local生産、無農薬栽培、高品質などを謳った植物工場野菜が市場での認知度を徐々に高めている。

先日、立ち寄ったニューヨークでは、大手スーパーマーケットWhole Foods Marketの店舗にて、Organic野菜コーナーの横にLocal野菜のコーナーが用意されていた。生産者の名前と共に、「店舗から5マイル」、「店舗から90マイル」など店舗からの距離が表示されており、Local生産であることを消費者に対してアピールしているのが印象的であった。ちなみにこれらのLocal野菜はオーガニック認証を取得していない。Local野菜には都市近郊の植物工場で生産されたものもあり、都市農業の一形態としての植物工場の可能性を示している例と言えよう。

以上を踏まえて、前回に引き続き、米国における植物工場事業の可能性について検証したい。
今回、ニューヨーク近郊の小売およびディストリビューターに植物工場野菜に関するヒアリングを実施したところ、植物工場野菜のコンセプトに関して前向きに考えているプレーヤーが多かった。
都市住民の間でオーガニックが浸透しつつある中でも、関係者からは「商品は必ずしもオーガニック認証を取っていいなくても、誰がどのように生産しているか分かるLocal商品の価値は高い」との声が多かった。
これまでカリフォルニアという農業生産の適地において、効率的な大規模農業生産を通じて安価で品質の高い野菜を全米に供給していた構図に変化が起き始めているのを感じる。

植物工場野菜については、安定供給についても、高い関心を示している小売やディストリビューターが多かった。その背景としては、農業大国の米国では、いくら不作の年でも野菜の調達が出来なくなることはないと言われているが、近年の気候変動によって、価格変動が大きくなっていることが一因として考えられる。例えば、アイスバーグレタス1カートン(24個入り)のNYターミナルマーケットでの価格は昨年15~35ドルもの幅で推移しており、変動が大きい。
安定した量を一定価格で仕入れることが出来るのは小売、ディストリビューターにとってもメリットが大きい。グリーンハウスで主に葉物栽培を行うBright FarmsがスーパーマーケットとPPA(Produce Purchase Agreement)と呼ばれる長期契約を結ぶような取り組みも始まっている。

また、植物工場野菜のアドバンテージである安全性に関しても、関係者の関心は大きい。米国では毎年多くの食品事故が発生しており、食品供給の公衆衛生向上を目的として、2011年に米国食品安全強化法「Food Safety Modernization Act」が成立している。米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)によると、米国内では毎年約4800万人(国民の6人に1人)が食中毒にかかり、そのうち46%が生鮮野菜によるものとの調査結果がある(※)。生鮮食品の消費量では葉物が多く、葉物の事故も多い。こうしたことから植物工場、水耕栽培のようなクリーンな環境で栽培された野菜への関心が高まっているという背景もある。

米国市場への参入時は、植物工場での生産品目について市場に合わせた戦略が必要であろう。日本ではあまり馴染みのないケールの消費量が多いなど、求められる品目は日本の消費者とは異なる。生産品目は日本よりも幅広く、レタス類だけでなく、フードサービス向けのマイクログリーンやハーブ類も検討すべき品目だ。

また、最近の米国のスーパーマーケットでは野菜の販売は消費者がすぐに食べられるようにパックされたものが多く店頭に並んでいる。特に葉物野菜に関しては、ハードなプラスチックケースに入っている”Clamshell”と呼ばれるパック野菜の人気が急拡大している。

以上のように、米国市場で植物工場が受け入れられる環境は整っていると考えられる。現地の植物工場プレーヤーも生産を始めているが、圧倒的なシェアを持つ事業者は出現していない。安定生産の実績を有する日本企業にとっては魅力的な市場だ。

一方、注意すべき点としては、米国では土地利用(ゾーニング)の規制が厳しいことが挙げられる。特に、植物工場という一般的にあまり馴染みのない施設を建設する際には、生産拠点に関して現地自治体の許可や、地域住民の理解を得ることが必要になる。

上記のような問題についてクリア出来れば、日本企業の参入の余地は十分にある。必要に応じて、適切な現地パートナーを見つけた上で、日本企業の米国進出について今後期待したい。

※:Estimating Foodborne Illness: An Overview(外部サイト:英語)

当該記事は執筆者の私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではない。
以上

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