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2015年度運送業界の振り返りと今後の展望

公表されている決算情報等に基づき、日本の大手運送グループ会社3社の業績を比較するとともに、運送業界の2015年度を振り返り、今後の展望を紹介します。著者:有限責任監査法人トーマツ 航空運輸インダストリー 公認会計士 蕨 高明

1.2015年度運送業界の振り返り

(1)国内運送事業の業績概要

2015年度における日本の大手運送グループ会社3社の国内運送事業に係る業績は、次の表のとおり、増収増益、減収増益、増収減益と三者三様の結果となりました。
 

表1:国内運送事業セグメント収益

(出所:各社の決算短信及び有価証券届出書における次の報告セグメント情報を集計)

・日本郵政グループ…郵便・物流事業
・日本通運グループ…複合事業、警備輸送、重量品建設、航空、海運
・ヤマトホールディングスグループ…デリバリー事業、BIZ-ロジ事業、ホームコンビニエンス事業
 

宅配便市場

市場全般が縮小する国内において、唯一伸びているのがインターネット通販に伴う宅配便市場です。
国土交通省の「宅配便取扱個数の推移」によれば、取扱個数は継続的に右肩上がりの状況にあります。2014年度(平成26年度)は前年度を下回っていますが、これは、2013年度末における消費増税に伴う駆け込み需要によるものであり、この右肩上がりの傾向は今後も変わらないものと予想されます(図表1)。
この宅配便市場においてシェアが高い日本郵政グループ及びヤマトホールディングスグループの収益が増加しています。一方で、インターネット通販市場は、通販業者が送料無料をうたっていることや再配達など運送業者への負荷が大きく、取扱個数が増えても利益が増えにくいという構造的問題をはらんでおり、宅配便シェアが比較的高いヤマトホールディングスグループの利益が減少しています(図表2)。
企業間物流に強い日本通運グループは、2014年度における米国西海岸の港湾ストライキに伴う需要増加の反動により、航空セグメントの収益が減少していますが、燃料単価の下落により、複合事業(貨物自動車及び鉄道利用による運送事業)セグメントの利益率が改善しています。
宅配便市場を主戦場にしていない日本通運グループが、燃料単価の下落影響を比較的大きく受けているのは、燃料単価の下落効果が、街中の宅配よりもむしろ、高速道路を利用した長距離輸送において大きく表れると考えられるためであり、同グループがグループ内で保有する車両によって、この長距離輸送をまかなう割合が高いためです。この長距離輸送をまかなう割合の違いは、決算短信の連結貸借対照表において、車両の取得価額(車両の規模)を把握できる日本通運グループとヤマトホールディングスグループの2016年3月末における同数値が、おおよそ2,000億円弱と大きな差がないことから把握することができます。
 

図表1:宅急便取扱個数の推移(国土交通省調べ)

(出典:国土交通省「平成26年度宅配便取扱個数の推移」)

図表2:平成26年度 宅配便(トラック)取扱個数(国土交通省調べ)

(出典:国土交通省「平成26年度 宅配便(トラック)取扱個数」)

海外運送事業に係る業績比較

(2)海外運送事業の業績概要

海外売上高比率が比較的高い日本郵政グループと日本通運グループの海外運送事業に係る業績は、次のとおりです。
 

表2:海外運送事業セグメント収益

(出所:各社の決算短信及び有価証券届出書における次の報告セグメント情報を集計)

・日本郵政グループ…国際物流事業
・日本通運グループ…米州、欧州、東アジア、南アジア・オセアニア

日本郵政グループは、2015年度において海外の国際物流事業会社(Toll Holdings Limited)を買収したことにより、同社の収益及び利益が新たに取り込まれています。
また、日本通運グループは、主に米州の海運・輸入フォワーディングとトラック輸送の取引増加及び円安影響により、収益、利益ともに増加しています。
 

2.今後の展望

日本の大手運送グループ会社の業績を比較しただけでも、各グループのそれぞれを取り巻く経営環境に違いがあることが見て取れます。従って、各グループの今後の基本方針や基本戦略は当然に異なっています。

表3:各社の中期経営計画における基本方針や基本戦略

(出所:各社の中期経営計画より筆者作成)

ただし、いずれのグループも国内の運送事業を収益基盤にしていることで共通しています。

そして、国内の運送業界は、荷主から業務を直接引き受ける元請会社を頂点に、下請、孫請会社が存在し、すそ野の広いピラミッド構造を形成しており、業界の大半を占める保有車両数の少ない中小事業者の多くが営業赤字の状況にあります(図表3)。この原因は、宅配市場を除く輸送量の停滞、少子高齢化に伴う人材不足などであり、中小事業者の経営努力だけではどうにもならない要素が大きいと考えられます。

従って、運送業界における窓口としての元請会社は、中小事業者を含む運送業界全体の今後の持続性を考慮し、提供したサービスの付加価値に見合った対価を適切に収受することや、将来に向けた投資行動を取ることが必要となってくるでしょう。
 

図表3:車両規模別の経常利益率の推移(全日本トラック協会調べ)

(出典:全日本トラック協会「車両規模別の経常利益率の推移」

※本文中の意見に関わる部分は私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではございません。

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