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航空運送業の収益認識と表示
航空会社の収益の認識及び表示方法についての日本基準上の主要な論点の所在、及びIFRS適用に際しての検討事項の所在
1.はじめに
本稿では、航空運送業における収益認識に関する会計処理と、それに関連した財務諸表上の表示に関する主要論点について検討していきます。なお、本文中の意見に関わる部分は私見であり、また会計処理は個別の状況に応じて異なる可能性がある点をお断りします。
2.航空運送業における主要な収益の内訳
昨今の航空会社を取り巻く環境は、LCC(Low Cost Career)等の新規事業者の参入や既存航空会社の業務拡大に伴う競争の激化、その競争に生き残るための航空会社間の提携(アライアンス)の拡充により、従前に比べて多くのサービス形態が生まれています。
ANAやJALといった、FSC(Full Service Career ; レガシィキャリアと呼ぶこともある)と呼ばれる航空会社においては、航空券を通じて個人旅客に輸送サービスを提供することによる収益や、貨物輸送収益が収益の大半を占めており、残りを構成する収益として、旅行事業におけるサービス収益、店舗や機内における物品等の販売収益などがあります。このうち旅客輸送収入に着目すると、マイレージサービス等を用いた顧客の囲い込みを実現するために、コードシェア便などのアライアンスを通じた共同サービス機会が増えており、自社の資源のみを用いたサービスの割合は従前より減少しています。
Peach AviationをはじめとするLCCにおいても収益の過半は航空券収益が占めていますが、FSCに比して航空券以外から生じる収益の比率が高くなります。LCCの収益構成のうち、航空券以外の収益の比率がFSCのそれに比して高くなるのは、LCCが航空券の対価の範囲に含まれるサービスの範囲を限界までそぎ落とすことで航空券の対価を可能な限り安価に設定しているためです。一方でそれらのサービスを必要とする顧客に対しては追加料金を課す形態でサービスを別途提供しています。
このようなサービス形態の多様化と、他社との共同での収益獲得機会の増加の結果として、航空会社の収益に関しては「収益をいつ認識するか」と「収益をいくらで表示するか」が主要な論点となります。以下では、想定される主要な会計上の論点につき、「収益をいつ認識するか」と「収益をいくらで表示するか」の観点から述べたいと思います。
3.収益をいつ認識するか
我が国においては、収益認識に関する特段の会計基準は設けられておらず、「企業会計原則」において、商品等の販売又は役務の給付によって実現した時点で売上を認識する(実現主義)ことが求められているに過ぎません。この実現主義は「財貨の移転又は役務の提供の完了」とそれに対する現金又は現金等価物の取得による「対価の成立」を要件としています。
航空会社が提供するサービスのうち、実現主義の観点から、収益の認識時点が議論となる主要な論点として、以下が考えられます。
(1) 自社航空券に係る収益
航空券の販売は、現在ではWebにおける予約販売が主となっていますが、その他、旅行代理店や空港窓口等でも航空券を販売しています。航空券の販売に際しては、販売時点で対価を現金による前受けとして受領する(窓口販売の場合)、ないしクレジット会社等に対する債権が生じます(窓口販売の場合及びWeb販売の場合)。
一方で航空会社は予約時点では顧客に対する輸送サービスを提供しておらず、将来のキャンセル、欠航等のリスクを負っていることから、「財貨の移転又は役務の提供の完了」の要件を満たさないため、予約時点では実現主義における収益の認識要件を満たしません。そのため「財貨の移転又は役務の提供の完了」の要件を満たす到着時が原則的な収益の認識時点として考えられますが、搭乗日と到着日は、ほぼ同一の日付となるため、搭乗時点で収益を認識する実務を用いたとしても、認識すべき収益の額に重要な相違は生じないものと考えられます。
また、旅客輸送に際しては、航空券の代価のみならず、追加手荷物料等の付随的な収益が生じることがあります。これらの収益は同一の航空サービスの提供から生じるものである場合、航空券に関する収益と同時に認識すべきと考えられます。
(2) 貨物輸送収益
航空会社は、郵便物等の貨物輸送サービスの提供を行っている場合もあります。貨物輸送サービスについても旅客輸送サービスと同様に「財貨の移転又は役務の提供の完了」は貨物の引き受け時ではなく、貨物の到着時となることから、到着時に収益を認識すべきと考えられます。
貨物輸送サービスの提供に際しては、通関手数料やフライト先の地域での陸上輸送サービスの対価を含んだ総額を航空会社が受領することがありますが、到着時においては通関手続に関するサービスや現地陸上輸送サービスの提供は完了していないため、原則として通関手数料等については、サービス提供が完了した時点で収益を認識する必要があります。一方で、業務上の便宜の観点から貨物輸送サービスの対価と同時にそれらの対価を収益として認識することの適否については、到着時と実際のサービス提供時の差異がもたらす影響額に関する金額的重要性の観点から検討が必要です。
なお、現地陸上輸送サービスの提供については、航空会社ではなく、第三者の運送会社が請け負っているケースが多いと考えられます。そのため、それらの陸上輸送サービスの対価の総額を収益として認識することの適否については、当該取引に関して自社が本人、もしくは代理人のいずれとして関与しているかの観点から検討が必要と考えられます。詳細は次章「収益をいくらで表示するか」をご参照ください。
(3) 旅行事業収益
航空会社は、自社の航空券をセットにしたパッケージツアーを顧客に提供していることがあります。パッケージツアーの提供に関する収益(航空券部分を除く)については、パッケージツアーの提供に関するサービスの本質をツアーのアレンジととらえるか、それともツアー中の現地案内等のサービスととらえるかにより収益を認識すべき時点が異なることが考えられるため、サービスの実態と、その提供が完了する時点はいつか、という観点から慎重に検討する必要があると考えられます。
4.収益をいくらで表示するか
前章で述べた収益の認識と同様に、収益の表示方法(いわゆる総額表示と純額表示)についても日本基準上では特段の会計基準は設けられていません。収益の表示方法については、会計制度委員会研究報告第13号「我が国の収益認識に関する研究報告(中間報告)-IAS第18号「収益」に照らした考察-」(以下、研究報告第13号)において、実務の参考となる考え方を示しています。研究報告第13号では、責任やリスクの所在に基づき本人・代理人のいずれに該当するかを判定し、代理人取引については純額で表示すべきとするIFRSにおける考え方が示されていますが、会計基準ではないことから強制力はありません。しかしながら、新規に生じる取引はもとより、既存の取引についても当該研究報告を参考に収益の表示方法の検討を行うことの意義はあると考えられます。
航空会社が提供するサービスのうち、本人・代理人の判定結果に基づく収益の総額表示と純額表示について議論となる主要な論点として、以下が考えられます。
(1) 共同運航(コードシェア)に関する収益
共同運航に関する収益については、(A)提携他社から顧客の紹介を受けるものの、自社の資源のみを用い、自社で全ての責任を負いながら事業収益を得る場合と、(B)提携他社と共同で顧客を獲得し、資源を出し合って双方で責任を負いながら事業収益を得る場合があります。(A)については、自社が明確に本人として行動していると考えられますが、(B)のように共同で事業収益を得ている場合は、自社が本人または代理人のいずれとして行動しているか、及び本人として行動している範囲について検討し、代理人として行動することで獲得した収益については、純額で表示することが考えられます。
(2) 燃油サーチャージ、空港使用料等に関する収益
旅客輸送サービスを行うに際して、顧客に対し、燃油サーチャージや空港使用料等として通常の航空券の代金のほかに追加の金額を回収する場合があります。当該追加の金額が、航空会社が空港やその他の第三者のために、代理人として回収を行っていると判断される場合は当該回収額のうち、回収手数料相当額のみを収益として純額で計上する必要があります。一般的に、燃油サーチャージの対象となるジェット燃料の価格変動リスクや、空港使用料については、その総額のリスクを航空会社が負うのに対し、各顧客には1名あたり一定額の負担を転嫁しているに過ぎないことから、どちらも本人取引として総額で認識する実務が行われていると考えられます。一方で、航空会社が総額に対するリスクを負わず、顧客1名当たり一定額の回収を代行しているに過ぎないような場合においては、顧客からの回収額のうち手数料相当額のみを純額で表示すべきと考えられます。
5.IFRS適用を検討する場合の留意事項
日本においてもIFRS適用企業が増加傾向にありますが、2014年7月末時点で公表済の有価証券報告書において、IFRSを任意適用している日本の航空会社はありません。今後、IFRS適用を検討する場合には、2014年5月に公表され、2017年1月1日以後開始する事業年度より適用(早期適用可能)されるIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の適用に関する影響を検討することが必要と考えられます。この新たな収益の基準書では、契約で合意された顧客への約束した財又はサービスの移転に関する収益の認識を、契約に含まれる個々の履行義務の充足に応じて行うことが要求されていることから、契約に含まれる履行義務の識別や対価の配分の検討が追加で必要になると考えられるほか、日本基準では存在しない新たな開示要求への対応も必要となることが考えられます。また、マイレージの会計処理についても当該新基準における要求事項に関する検討が必要と考えられます。