最新動向/市場予測

2014年度下期運送業界の振り返りと今後の動向

運送業界の収益拡大への取り組みと今後の動向

2014年度下期の運送業界の動向として、収益拡大への取り組みや人件費問題、それに伴う今後の動きを紹介しています。  著者:有限責任監査法人トーマツ 航空運輸インダストリー 公認会計士 関 信治

1. 2014年度下期運送業界の動向

2014年度下期の運送業界は、企業収益が改善基調にあったものの消費税増税や円安による物価上昇により国内民間需要及び個人消費の回復が遅れ、トラック輸送における特別積合せ貨物(※)の輸送トン数及び宅配便取扱個数いずれについても前年同月並みに推移しました。また、2014年3月には2014年4月以降の消費税率アップ(5%から8%)前における駆け込み需要があったため、この3月は前年同月の水準を大きく下回りました。
(※)特別積合せ貨物運送(一般貨物自動車運送事業として行う運送のうち、営業所その他の事業場において集貨された貨物の仕分を行い、集貨された貨物を積み合わせて他の事業場に運送し、当該他の事業場において運送された貨物の配達に必要な仕分を行うものであって、これらの事業場の間における当該積合せ貨物の運送を定期的に行うものをいう。)により輸送された貨物のこと。
 

特別積合せ貨物

宅配便取扱個数

(国土交通省「トラック輸送情報」を基に筆者作成)

売上高利益率

また、費用面ではトラックドライバー不足の深刻化に伴う外注費の上昇傾向が続いているものの、原油価格の下落に伴う燃料価格の値下がりが続きました。
貨物及び宅配便の物量が伸び悩み、厳しい経営環境が続く中、上場会社における運送業の業界平均(※)の連結売上高成長率は4.2%となり、前年3月の消費税増税前の駆け込み需要の影響により売上が前年同月に比べて減少したため、上期(5.1%)に比べ低い水準となりました。しかしながら、次節に記載のとおり、物量の推移に比べると売上高は堅調な推移を示しているとも言えそうです。
また、同じく上場会社における運送業の業界平均連結営業利益率は3.3%となっており、上期の3.1%に比べると、燃料価格の下落による燃料費の減少等により利益率は改善している状況です。
(※)陸運業として登録されている上場会社のうち、鉄道・バス会社を除く36社平均
(各社有価証券報告書及び四半期報告書を基に筆者作成)
 

2. 運送業界における収益拡大への取り組み

国内における特別積合わせ貨物の輸送トン数及び宅配便貨物の取扱量も伸び悩み、受注獲得に向けた業者間の競争がさらに激化する中で、運送業界各社は収益拡大に向け上期からに引き続き収益性の高い付加価値のあるサービスの提供や適正運賃の収受による収益性の向上に取り組みました。また、新たな取引機会の創出を狙ったグローバルネットワークの拡大、M&A、そして他業種とのアライアンスなどの取り組みがみられました。

(1)グローバルネットワークの拡大
円安による収益の改善を背景に、我が国企業は海外進出や設備投資を積極的に進めていますが、近年はミャンマー・ベトナム・メキシコなど、展開する国・地域が広がってきています。これに伴って、海外に展開する企業から運送業界各社に対して国際間物流へのサポートのニーズが高まり、取引機会が増加してきています。このため、業界各社は新たな取引機会を狙って、企業の新たな展開先を中心に、グローバルネットワークの拡大を進めました。

(2014年度下期以降におけるグローバル拠点の拡大事例)

会社

展開国

主な目的

日本通運㈱

インドネシア

インドネシアにおける3PL事業を展開する

日通商事㈱

ミャンマー

メキシコ

日本通運㈱と連携して、商流・物流一貫体制を構築

ヤマトホールディングス㈱

メキシコ

ベトナム

日系企業の進出に対応

SGホールディングス㈱

ベトナム

ベトナムにおける総合物流サービスを拡大

山九㈱

中国 重慶

日系化学メーカーの配送センターの運営

(出所:各社プレスリリース)


日本企業は、今後も生産コストの抑制のため、人件費の安い地域への進出や投資を加速することが見込まれます。これに伴い、運送業界各社は新たな取引機会を獲得し収益の拡大を図るため、企業の動きに合わせた拠点の拡大や大型物流拠点の設置による企業の誘致といった流れがさらに加速していくと思われます。


 

サービス向上、収益の拡大

(2)M&Aの活用
運送業界各社は、グローバルネットワーク網の構築や高度なノウハウが必要とする事業のサービスレベルの向上を図るために、M&Aを活用する動きが上期に引き続き下期もみられました。
特に下期においては、顧客が生産拠点の移転を進めているアジア地域における中核的な拠点を確保するために、台湾、香港やオーストラリアで既に国際間物流事業を展開する物流会社を子会社化し、物流量が増加する東南アジア地域のハブとして自社グループのグローバルネットワーク網を広げる動きが多く見受けられました。
さらに、海外の大手国際総合物流会社を子会社化する動きもみられ、今後業界各社もグローバルネットワークの拡大を進める動きを加速させることが考えられます。

(2014年度下期以降における主なM&A)

取得会社

被取得会社

業態

日本郵便㈱

Renton Group

香港のグローバルな輸送・配送サービスを提供する国際物流会社

丸全昭和運輸㈱

日本電産ロジステック㈱

オーストラリアの大手国際物流会社

日本郵便㈱

Toll Holdings Limited

グループ会社向け国内外企業物流会社

鴻池運輸㈱

BEL

香港のフォワーディング会社

山九㈱

昭安物流股イ分有限公司社

台湾の物流会社

(出所:各社プレスリリース)

(3)他業種とのアライアンス
業界各社は新たな取引機会を求めて、他業種とのアライアンスにも積極的に取り組んでいます。他業種の会社とのアライアンスによって、アライアンス先の物流業務を一括して受託し付加価値の高いサービスの展開や新たな事業分野を拡大することで、収益の拡大を進めています。
       
(2014年度下期における他業種とのアライアンス)

物流会社

アライアンス先

目的

大和ハウス㈱

ファーストリテイリング㈱

ファーストリテイリング専用物流倉庫を建設し物流事業を受託

日本郵便㈱

楽天㈱

都内郵便局等で商品受取サービス及び受取ロッカーサービス

SGホールディングス㈱

ローソン㈱

店舗を起点とした顧客への配送等サービス

(出所:各社プレスリリース)
                                                                                         

運送業界各社とも他業種とのアライアンスは開始して間もない状況ですが、他業種の会社にとっても、物流業務を一括でアライアンス先である運送業界各社に委託することで物流コストの削減や顧客の利便性を高めることが可能になり、双方にとってメリットが大きいものと考えられます。2014年度下期においては、比較的親和性の高い小売業界とのアライアンスが目立ちましたが、今後は他業種とのアライアンスについても拡大していくものと思われます。

3. 運送業界の労働環境改善への動き

下期における運送業界各社の動向として、これまで収益を拡大する取り組みを紹介してきましたが、その一方で、運送業界全体としてドライバー不足による人件費及び委託費の高騰という問題に直面しています。ドライバー不足は、近年の物流量の増加により長時間労働が慢性化し労働環境がさらに厳しくなっていることが一つの原因とされています。この運送業界全体が直面するドライバーの長時間労働の問題に対して、「労働基準法等の一部を改正する法律案」が改正されたことを契機として、平成27年4月3日、国土交通省から「トラック輸送における長時間労働の抑制に向けた取組について」が公表されました。
この中で平成30年度までの4年間における長時間労働抑制に向けたロードマップが公表されており、その主な施策は以下のとおりです。

1. 学識経験者、荷主、事業者、行政(国土交通省・厚生労働省)などにより構成される協議会を中央及び各都道府県に設置
2. 長時間労働の実態調査、対策の検討
3. パイロット事業(実証実験)の実施、対策の具体化
4. 長時間労働改善ガイドラインの策定・普及
5. 長時間労働改善の普及・定着

運送業界において、近年のドライバー不足による人件費の高騰は、企業業績にも大きな影響を与えてきました。また、運送業界はe-コマースなどの生活の利便性を向上させる商流を支える役割を担っており、生活の利便性の向上にも支障が生じかねない状況にあります。この取り組みによってトラック業界の長時間労働の状況が改善すると、運送業界が直面してきたドライバー不足が解消することにより人件費や委託費の課題が緩和され、事業環境が改善しさらに事業が拡大することが期待されます。また、物流が進化を遂げることで生活のさらなる利便性の向上に繋がることが期待され、今後の日本の企業活動及び我々消費者の生活にとって有益なものとなっていくことでしょう。

※本文中の意見に関わる部分は私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではありません。
 

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