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鉄道会社における不動産事業の進展

私募ファンド、J-REITから私募リートへ

不動産事業における不動産金融商品の活用に関連して、私募ファンド、J-REIT、私募リートの概要と比較、私募リートの課題を解説しています。

鉄道会社における不動産事業の進展

はじめに

不動産事業を行っている鉄道会社が多いようです。鉄道会社では、一般に、地域の開発等により沿線の環境等の価値を鉄道と一体化して高めることがミッションの一つとして位置づけられているようであり、そのため、鉄道会社が不動産事業に取り組むことはよくあることのようです。不動産事業の一つの発展的な形態として、クローズドエンド型の私募不動産ファンド(以下、私募ファンド)や、更に上場リート(以下、J-REIT)の運営事業に取り組んでいる事例があります。
最近では、非上場のリート(オープンエンド型私募ファンド(以下、私募リート))に関心が高まっており、すでに私募リートを運営している鉄道会社グループもあるようです。また、将来の私募リートの立ち上げを検討されている鉄道会社もあろうかと思います。
そこで、本稿では、これらの検討に資するべく、従来の不動産金融商品である私募ファンド、J-REITと最近登場した私募リートの概要、比較、さらに私募リートの主な課題についてご紹介いたします。
当該記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではありません。

 

従来の不動産金融商品と私募リート

3つの不動産金融商品のうち、まず最初にあらわれたのが私募ファンドです。バブル経済の崩壊によって膨らんだ不良債権処理の施策として1990年代終わりごろに普及しました。しかし、そのデメリットが広く認識されています。解約できない期間が長い、換金が自由にできない、投資期間が限られている、不動産マーケットの状況によってはリファイナンスが困難であるなどがその主なものです。

その次にあらわれたのが、J-REITです。2000年の投信法改正を経て2001年からJ-REIT市場が創設され、以後、多様な銘柄が上場されています。ここ数年、好景気を背景に続々と上場しています。私募ファンドと同じくクローズドエンド型ではありますが、私募ファンドとは異なり、上場商品なので流動性が確保されており、また、情報開示も充実しています。さらに小口投資が可能となっていて機関投資家だけではなく個人投資家にも不動産投資の道が開かれています。少額投資非課税制度NISAにあわせて投資口を分割することも行われているようです。しかし、上場商品であることから証券市場の影響を受けてしまいます。投資口価格が投資対象となっている不動産の価値だけではなく金利や株価など証券市場の要因の影響を受けるためボラティリティが高くなってしまいます。J-REITの中には積極的に高いレバレッジをかけているものも見受けられます。

リーマンショック後に上記のようなデメリットが顕在化する状況において、長期の安定的な運用を目指している年金基金等の投資家にとってはクローズドエンド型の私募ファンドやJ-REITを通じた不動産投資は難しいのではないかとの意見も聞かれました。

これに対して、2012年に登場したのが私募リートです。一般に私募リートには、高いレバレッジによるリファイナンスリスク等不動産以外のリスクをとることを極力抑えるようにして、賃料の変動や空室率などの不動産自体のリスクを中心にとるようにしているという特徴があります。また、投資評価に不動産評価に基づく基準価格を用いて証券市場の影響を排除しています。さらに、条件付ではあるものの持分の解約請求を行えるため、投資家の流動性リスクはある程度抑えられています。

以上のように、リスクを抑えながら、投資期間を無期限としているため年金基金等の長期安定運用というニーズには応えています。既に、米国、欧州など海外では多数の私募リートが組成されています。日本では、年金基金の運用資産のうち、不動産が占める比率は低水準に留まったままですが、長期安定運用という年金基金の投資スタンスに沿った私募リートの登場によって、今後、運用資産に占める不動産への投資割合の増加が期待されます。

私募リートの課題

上記のように、3つの不動産金融商品のなかで中間的な性格の私募リートは、多くのメリットを有しており、将来、大いに拡大が見込まれているものの、その一方で以下のような課題が認められています。

1.投資家への払戻し

上場商品であるJ-REITは市場で容易に売買できますが、私募リートは非上場であるため、容易に換金できません。投資家からの払戻要求金額が余剰資金を上回るような場合、投資物件を売却して払戻資金を捻出しなければならないこともありえ、その場合、払戻を要求してから実際に支払われるまで相当の期間を要してしまいます。年金基金等は高い流動性を求めているわけではないと思われますが、金融危機などをきっかけにして大規模な解約請求が起こった場合などを想定すると、それにどのような対処法をとるのか、換金性の確保をどのように担保するのか、私募リートにとって最大の懸念点になりえます。

払戻の要求から支払いまでどの程度の期間とするか、払戻金額の基礎となる基準価額をどのように算定するか、払戻の限度額をどのように定めるのか、投資家間における投資口売買の仕組みをどのように定めるのかなど、検討すべき要素がいくつも考えられます。

2.導管制要件

支払配当金の損金算入による税制上の恩典を享受するためには、導管性要件の具備が必要です。事業年度終了時に当該投資口が50 人以上の者によって所有されているか、または、機関投資家のみによって所有されていることが導管性要件のひとつとして定められています(租税特別措置法67 条の15)。運用期間を通して税制上の恩典を享受するために投資家募集の段階から制限することが必要です。ほかにも、90%超の配当や国内募集等の要件についても注意する必要があります。

3.ファンド間の公平性の確保

全くの新規で私募リートを立ち上げる場合は良いのですが、会社が運営している既存の私募ファンド、J-REITがある場合、それらとのコンフリクトにも注意が必要です。ファンド間で投資対象となる不動産の用途やエリアなどのクライテリアが重なる場合、どのように対象物件を各ファンドに振り分けるのか、慎重な制度設計及び運営が必要になります。

おわりに

不動産事業の展開にあたりJ-REITや私募リートを検討する鉄道会社も多いと思われます。また、実際にJ-REITや私募リートを運営している鉄道会社グループもあるようです。それぞれの不動産金融商品の特性を踏まえて多様な投資化のニーズを汲み取りながら不動産事業を発展されることを期待しています。

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