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中国の地方都市の攻略

右肩上がりの経済成長を続けてきた中国ですが、今後は中国政府の言葉を借りると「持続的な安定成長」の時代に入っていきます。こうした中、今後も中国で事業拡大を実現するには、エリア・顧客・チャネルなどの観点から成長セグメントを見極め、攻略することが必須となります。本稿ではエリアの観点から、地方都市の魅力や、中国で事業展開する消費財企業が今後開拓すべき地方都市をいかに選定し、攻略していくべきかを解説します。

地方都市の魅力

消費財企業にとって、中国における最重要市場としては沿岸部の大都市、特に上海、北京、広州が挙げられます。しかし、この三大都市が中国市場に占める割合をご存知でしょうか?中国全体のGDPや社会消費財総額に占める三大都市の割合は10%程度にしか過ぎません。そもそも中国は多極化した市場であり、沿岸部の大都市だけで商売をしていても、それは中国市場のほんの一部で事業展開しているだけなのです。加えて、近年の中国政府は、社会の安定化に向けて、地方都市の経済発展・都市化を後押しする方針を明確にしており、今後、地方都市は市場としての成長が見込めることは間違いありません。

筆者のクライアントにおいても地方都市を開拓し、成果を挙げている企業も増えています。また、家賃水準の低い地方都市は、中国における消費財ビジネスの最大の壁とも言える小売業者との取引費用が大都市と比較して低い水準にあり、売上拡大だけでなく、利益確保という観点からも魅力的な市場と言えます。

攻めるべき地方都市の選定

中国には直轄市・副省級都市・地級都市と分類されるクラスの都市が287もあります。今後の成長が期待できるのは地方都市だと分かっていても、経営資源が限られている中、攻めるべき地方都市を見極める必要があります。それでは、攻めるべき地方都市をどのように選定すれば良いのでしょうか?

まずは、基本的な情報として、都市別の人口動態や経済指標を収集する必要があります。中国では、省レベルの統計しかないと誤解している方が多いですが、実際には多くの都市が統計年鑑を発行しており、データの取得が可能です。また、「中国城市統計年鑑」という各都市の人口やGDP等の主要データを取りまとめた年鑑もあります。加えて、カルフールやウォルマートといった外資系ハイパー、国美や蘇寧といった家電量販店の出店状況も参考になります。こうした小売業者は、出店に際して、かなりの市場調査を実施しており、彼らの店舗があるということは一定の市場があるということに他なりません。

さらに、筆者としては、競合他社のエリア別の事業展開状況もしっかりと調査すべきと考えます。中国においては、インタビュー調査が可能で、かつ企業の取引先情報もあるため、競合他社の地域別の売上情報を一定の精度で把握することが可能です。競合他社が大きな売上を稼いでいる都市で競争する、あるいは競合他社が出ていない空白地帯を狙うなど、エリア戦略は各社各様となりますが、競合他社の動きをおさえておくことが戦略策定の前提になると考えます。

地方都市の攻め方

攻めるべき地方都市を選定した後、もう一つ重要な作業があります。それは、地方都市の攻め方を考えることです。中国の地方都市の攻略に際しては、沿岸部の大都市で展開したマーケティング手法を持ち込んでも、なかなか成功しません。例えば、広告宣伝の面では、地方都市では伝統的な媒体(TV、ラジオ、車体広告など)がいまだ根強い影響力を持ち、キャッチコピーについても、漢字を使い、基本機能を分かり易く強調する必要があります。また、店頭販促も、値引きや無料サンプルの提供など実利的な施策が好まれ、大都市と比べて娯楽が少ない中、イベント型キャンペーンが集客力を誇ります。さらに、公益活動と連動したキャンペーンを実施すると、地方の有力者が参加し、そこからビジネスが生まれるというのも地方ならではの特徴です。

地方都市では低価格品が好まれ、日系企業が販売する中高級品は売れないのではという不安を良く聞きますが、地方都市において今まで入手が難しかった機能を持つ商品の提供や地方都市に住む人が懸念を持つアフターサービスにおいて付加価値を訴求することが出来れば、その限りではありません。頼りになる代理店が存在しないという声も良く聞きますが、優秀な代理店がいないからこそ、そうした代理店を育成することが出来れば、競合に対して優位性を築けるチャンスであり、地方都市の攻略には、代理店の育成に労力を費やすという発想も重要です。

まとめ

筆者自身も、日々のコンサルティングの中で中国における地方都市を回っていますが、地方都市においては10年ほど前に上海や北京で感じた熱気があります。日系消費財企業からの依頼を受けて、欧米系企業のベンチマークをすると、既に地方都市の開拓に先行しているケースが多く、忸怩(じくじ)たる思いを感じることが多々あります。

もし、この記事を読まれた日系消費財企業において、売上の大半を沿岸部の大都市で稼いでいる、あるいは大都市では競合他社に負けていないのに中国市場全体の売上では劣っているという状況にあれば、是非とも地方都市に目を向けて欲しいと思います。

なお、本文中の意見や見解に関わる部分は私見であり、様々な論点や視点があることをお断りいたします。

(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 世界戦略室、シニアマネジャー 河原崎 研郎)

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