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海外展開の成長・拡大期における標準モデル構築の重要性

課題の解決策の1つとして標準モデルの構築とその活用の有効性について解説

食品、飲料、小売などコンシュマービジネス企業は海外進出の黎明期・成長期に位置づけられる企業が多く、これらの企業は「事業スピードの加速」「ガバナンス強化」「グローバル人材の制約」の課題に直面しています。本稿ではこれらの課題の解決策の1つとして標準モデルの構築とその活用の有効性について解説します。

1.日本企業が海外展開で直面する課題

日本のコンシュマービジネス系企業(食品、飲料、小売など)は海外進出のステージの黎明期・成長期に位置づけられる企業が多い。弊社のクライアントからは黎明期・成長期では「事業の展開スピードが上がらない」「ガバナンス/統制レベルが十分でない」「グローバル人材の制約に直面している」という3つに特に課題感を持っているという声が聞かれる。これらの課題に対する対応策の1つとして本稿では、海外標準モデルの構築と活用について述べてみたい。

a.事業の展開スピードが上がらない

事業の展開スピードについては、2つの事象が見られる。第1に、黎明期の企業における海外進出時の拠点立ち上げのスピードが上がらないケースである。第2に、成長・拡大期の企業における1つの拠点を立ち上げてもそのノウハウが横展開できず、買収先の企業の取り込みが上手くいかない、第二の進出先での事業が軌道に乗るまで時間がかかる等のケースである。

拠点立ち上げに際して必要なマネジメント体制、業務プロセスや情報システムを横展開せず、都度、構築しているケースが多いことがこれらの問題の起因の1つとなっている。

b.ガバナンス/統制レベルが十分でない

海外は日本国内から目が届きにくいこともあり、不正経理など会計周りの問題、コンプライアンスなどガバナンス/統制の問題が起こることもしばしばある。実際にある企業では、現地拠点毎に独自でガバナンス、決裁権限、承認プロセスなどの仕組みを構築していたため、本社が求める統制レベルとは程遠い状況となっていた。また、リスクマネジメントという観点でも、品質管理や安全管理などのオペレーションが統一されていないために、取引上の信用や労務管理面などにおいて致命的な問題が顕在化するケースもあった。

c.グローバル人材の制約に直面している

日本企業の海外進出のボトルネックにグローバル人材(海外進出を担える人材)が少ないことが挙げられる。そもそも人数が少ないことに加えて、業務プロセス、情報システムが各現地法人/拠点で、バラバラで非効率となっており、現地人のオペレーションミスのフォロー、チェックなどに忙殺されるため、戦略立案や攻めの営業、および生産効率を上げるための改善活動などに充てる工数がなくなってしまっているケースも散見される。例えばある企業では、日本国内で導入している大規模ERPを、数十人規模の海外拠点にもそのまま導入したために、導入までに時間がかかる・高コスト・使い勝手が悪い、という三重苦を生み出していた。

2.マネジメント体制

では、このような課題に対する解決策について考えてみたい。

問題の根本は、各拠点が体制、業務プロセス、情報システムをバラバラに各々構築しているために、人材が十分に活用されず、結果として展開スピードも統制レベルも上がっていないことだと考えられる。

欧米のグローバル企業の中には、本社主導で拠点のタイプや規模を踏まえた標準モデル*(図1)を整備している企業もある。その標準モデルを各現地法人にスタートアップ時点から適用することで、標準的な業務プロセスが統一的に適用され、人材活用のための業務分担や必要スキルレベルも明確化される。また多国間での業務のやりとりも円滑化され、本社からの当該会社のオペレーションの管理が容易となり、結果的にガバナンスも強化されることになる。このような標準モデルの活用は日本企業にも大いに参考になるのではないだろうか。

*ここで言う標準モデルとは、マネジメント体制・組織、業務プロセス、情報システムの対象に拠点タイプ別・規模別に標準化し、本社側の海外拠点のモニタリング体制も標準化することを指している。

a.マネジメント体制~情報システムまでの一気通貫

第1のポイントは、マネジメント体制・業務から情報システムまで整合性の取れた一気通貫でモデル化することである。

これにより、本社/統括/拠点TOPのベクトルが揃う。これにより戦略実行の体制・業務・システムの整合性が取れたモデルが構築されるため、横展開が容易となり、事業の展開スピードも格段に向上する。また、少人数での効率的な拠点運営が可能となり、各拠点の統制レベルの均一化、ビジョン・戦略の浸透も容易となる。

b.拠点タイプ別・規模別での標準化

第2のポイントは販社系、生産系、統括系の3タイプ別に、拠点の規模を考慮した標準化を行うことである。言うなれば、「程よい粒度で標準化(各社の状況にもよるがベースとなるモデルは3~5程度)」することである。標準というと1パターンにモデル化する傾向にあるが、単一モデルの場合、現状とのギャップが大きくなりすぎるため業務自体が上手く回らなくなる。一方、あまりにも多くの標準モデルを作りすぎるとそもそも拠点ごとにバラバラの現状と変わらなくなってしまうため、注意が必要である。

拠点タイプと規模を考慮することで、各拠点の実態に合わせた無理のないモデル構築、および成長に合わせたモデルのブラッシュアップが可能となり、次の規模への事業が拡大する際のスピードが加速されることが期待できる。

具体的なモデルの考え方は、マネジメント体制・組織は、拠点タイプ別・規模別に分担体制のレベルを決める。小規模拠点は複数分担となるが大規模になるにつれて機能分化をより推進する。

業務プロセスは、小規模拠点は最低限の営業、生産、会計などのプロセスを対象にするが、拠点の規模が大きくなるにつれて標準化する範囲を広げる。例えば、ある企業の標準モデルは、販社(小規模)、生産拠点(中規模)の2タイプに拠点が分類されたので、業務プロセスは、品質管理、ブランド(ロゴ、コーポレートブランド/プロダクトブランド)管理、会計関連に集中化していた。営業・販売、調達・生産、労務管理、税務関連などは販社、生産拠点でそれぞれ標準モデルを整備し、各拠点に当てはめていた。

情報システムは、ある企業では大規模拠点は日本国内同様にSAP、中規模拠点は、Dynamics NAV、販社(小規模)はSAP Business One(B1)のように拠点規模にあわせて標準システムを決め、情報システムの乱立の防止による無駄・非効率の防止、要件定義の使い回しによる導入期間の短縮などを実現していた。

C.本社/統括のサポート体制

第3のポイントは、本社・統括会社がグリップした標準モデルの運用体制を構築することである。実際、このモデルのオーナーは本社の主管部門となり、オーナーがモデル自体のメンテナンス・ブラッシュアップを主導することが重要となる。なぜなら、リソース(人材、資金)に制約がある各拠点が単独でモデルの構築・導入・メンテナンスを担うのは現実的ではないからである。

本社/統括側としても、標準モデルを導入することで、限られた人材の有効活用が可能となり、スピーディーな複数拠点の立上げ・展開、および全社の求める統制レベルの早期達成などいくつかの大きなメリットを享受できる。

【図1】弊社の考える標準モデル

3.終わりに

本稿では、日本企業が海外展開で直面する課題の中で「事業の展開スピードが上がらない」「ガバナンス/統制レベルが十分でない」「グローバル人材の制約に直面している」の3点を解決する手段の1つとして、マネジメント体制~情報システムまでの標準モデルの重要性について述べてきた。各企業が本テーマへの取り組みを一歩でも前に進めるためのヒントとなれば幸いである。

なお、本文中の意見や見解に関わる部分は私見であり、様々な論点や視点があることをお断りしておく。

(著者: デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー 岡本 道晴、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー 大和田 悠一)

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