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FB(ファッションビジネス)の価値創造 第2回

【繊研新聞2017年1~3月連載】

テクノロジーや人材など、次世代の付加価値を生む源泉への投資が欠かせません。既存ビジネスの「ムダ」を徹底的に削り、投資の原資を生み出すことが重要です。アパレル業界においても、テクノロジーを活用した先進的な事例も出てきています。 また、UX発想の新たなビジネスを生み出すケースが増えており、従来では考えられなかったような価値を実現し、消費者の不満や潜在的なニーズに応えていくことが、アパレル業界の閉塞感を打ち破る一つのきっかけになります。

ムダを削り真に付加価値を生む投資を

市場環境や消費者の変化を捉えてそれに対応したビジネス、もしくは変化を先取りしたビジネスを実現するためには、テクノロジーや人材など、次世代の付加価値を生む源泉への投資が欠かせない。アパレル企業の中には低収益にあえぎ、新たな領域に経営資源を投ずることが難しいケースも少なくない。大事なことは、既存ビジネスの「ムダ」を徹底的に削り取り、投資の原資を生み出すことだ。

収益構造の徹底的な可視化による、不採算ブランドや店舗の整理はその一つ。ディベロッパーとの関係や店舗数縮小によるイメージダウンなどを懸念して徹底できていないケースも少なくない。昨今ではリアル店舗は削減しても、同時にEC化・デジタル化を推進することで売上やブランドのイメージを維持していくことが可能である。

原価も改善余地があり得る。(顧客が感じる価値に影響しない範囲での)オーバースペックの見直しやSKU(在庫最小単位)数の整理など、商品面の効率化は一つの切り口だ。また、調達先の見直しも改善効果を期待できる。調達先の管理に関わる社内の工数やリードタイムに伴う機会ロスなども費用として可視化し、調達先のポートフォリオを見直すことも一つの方法だ。

MD計画から販売までの一連の業務も効率化・高度化の余地が大きい。生産・仕入れ数量、初回配分量、店間移動、値引き幅とタイミングなど、意思決定に定量的な指標や分析を組み合わせ、粗利改善を期待できる。しまむらのように、こうした判断業務を自動化し、生産性向上を目指す事例も出てきている。

販管費も削減余地がある。業務の見直しや効率化、シェアードサービスやBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)活用による人員数最適化、購買コストの徹底的な削減などがある。

経理や人事などの間接業務や物流機能の外出しなど、踏み込んだ取り組みも考えるべきだ。例えば業界全体で物流機能を統合すれば、効率性を高めると同時に環境への負荷も減らせるなど、メリットも大きいのではないか。ECの増加に伴い物流機能の強化は必須だが、投資負担などの点からも個社対応は限界もあろう。食品・飲料のように他業界では競合同士が物流で相乗りするなど、業界全体で効率化を進めている事例もある。アパレルも、従来の考えにとらわれない発想で合理化が必要な時代だ。

FBの価値創造(2)
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AIが実現する業務効率化・高度化

MD計画の策定から企画、販売に至る一連の業務はアパレルビジネスの根幹だが、勘や経験、センス、度胸に依存する傾向が強く、非常に属人的なプロセスでもある。もちろん感性が極めて大切なビジネスであることは否定できないが、一方で近年のテクノロジーの進化は、そうした状況に確実に変化をもたらしつつある。

大量の情報を比較的安価に蓄積、高度に分析できるインフラが整ってきたため、生産・仕入れ数量、初回配分量、店舗やECの在庫配置、マークダウンのオフ率やタイミング、頻度等、これまで人が限られた情報に基づいて判断してきたことを、AI(人工知能)などを活用してより精度を上げて効率的に判断できるようになってきている。

実際、しまむらは初回発注、店間移動、マークダウンなどを自動化する取り組みを進めている。

こうした取り組みによって、これまでより精度の高い意思決定を少ない人数で実行でき、結果として粗利の改善、在庫や販管費の削減といった効果を期待できる。

MD計画策定から販売までの業務改革を実現するソリューションも登場してきている。(図)


■MD~販売業務の効率化・高度化事例(図) 
計画策定   仕入れ・生産・配分   販売・在庫管理
         
生産確保   価格体系最適化   上代設定最適化
店舗ポテンシャル分析   店舗格付け   プロモーション最適化
棚割り最適化 初回配分最適化 マークダウン最適化
店内レイアウト最適化   アソートメント計画   ファッションインテリジェンス
サイズ厚生最適化   配送最適化   廃棄計画
価格戦略策定   商品構成最適化    


クラウドサービスのためシステム導入コストが比較的安価で済み、かつ学習効果を備えているため、使用するにつれて判断の精度が高まっていく仕組みだ。

例えばマークダウンでは、各アイテムの売行き予測、価格弾力性や値引き効果などを踏まえ、最適な値引き幅、タイミング、頻度を自動的に計算、提示する。最終的な判断は人間が行う。英国などで多数の導入実績があり、10%前後の粗利改善を実現している。

MDや販売業務以外にも、AIを活用したトレンド予測、アプリ等を用いたワントゥーワンマーケティング(無印良品の取り組みが好例)など、アパレルのビジネスは情報やテクノロジーを活用することによってまだまだ進化する余地がある。今後アパレルも「情報産業」化が一層進むだろう。

「EC=チャネル」発想からの脱却

ECはアパレル市場において数少ない成長領域だが、必ずしも期待通りの成長を実現できていない会社も多い。

その原因のひとつが、EC=販売チャネルという発想だ。もちろん有力な販売チャネルであることに違いはないが、そのことが逆にリアル店舗とECの対立を生み、ECの成長を阻害する要因となっている。店舗在庫があるのにEC上で欠品が生じている、店舗からECへの送客といった相互連携が不十分で機会損失が生じているなど、事業全体でロスが発生していることも少なくない。

こうした問題を解決し、ECのポテンシャルを最大限活用しきるためにはどうすべきか。大切なことは、リアル店舗もECも含めて、あらゆる顧客接点を通じていかにブランドとして顧客を囲い込むか、ファンに育てていくか、という発想を持つことだ。

消費者のライフスタイルや購買行動が大きく変化する中、雑誌や店舗、販売員といった従来型の顧客接点の組み合わせだけでは、もはや消費者のニーズには対応しきれない。ターゲットとする消費者の視点から、ゼロベースで顧客接点を見直すことが必要だ。

つまり、雑誌や店舗、販売員といった従来の顧客接点に加え、SNS(交流サイト)やECなど新たな接点も含めて、顧客接点全体を通じてどういった価値体験をブランドとして提供するのか、カスタマージャーニーを再定義する。その上で、各接点の役割や機能、提供する価値を再構築していくことが肝となる。

店舗もECもあくまで顧客接点の一つであり、ターゲットとする消費者のライフスタイルや購買行動に応じた役割や機能を果たすことが重要だ。言うまでもないが、最終的な目標はリアル店舗やECそれぞれの売り上げを伸ばすことではなく、ブランド全体を伸ばすことにある。

無印良品の取組みはその好例だ。MUJI passportというアプリを通じて、在庫検索や商品情報収集、来店、購入といったリアルとウェブ上のあらゆる顧客接点で生じるブランドと顧客のコミュニケーション履歴を取得し、そのデータを分析して店舗やECなど各顧客接点での提供価値、機能などを最適化して顧客のロイヤリティー向上につなげている。例えば、ウェブで商品を調べて実際には店舗で購入する顧客が相当数存在することが判明している。ECのカタログ的機能を強化し、リアル店舗の在庫状況を検索できる機能も追加した。

UXで切り開く新たなビジネス

UX=User eXperienceとは、顧客が体験する価値のことを指す。顧客は、企業やブランドとの様々な顧客接点を通じて、何らかの価値を体験する。現在では、このUXを起点に既存のビジネスを作り変えたり、新たなビジネスを生み出したりするケースが増えている。

ウーバー(Uber)を例にとって考えてみよう。ウーバーは顧客である利用者、ドライバーが従来抱えていた不満や問題を解決し、新たな価値体験を実現したサービスだ。

利用者は必要なときにすぐに移動手段を確保できる。他の利用者の評価を参考にしてドライバーを選べるため、安心して快適な移動を期待できる。支払いは登録したクレジットカードで済ませられるため、面倒がない。移動のルートは記録され、ドライバーの評価もできるため、信頼性が高い。

従来のタクシーだと、必要な時にすぐつかまらないこともあるし、ドライバーも選べない。毎回支払いもしなくてはならない。ドライバーにとっては、自分の車で空いている時間に稼ぐことができ、支払いを巡るトラブルもない。品質の高いサービスを提供すれば利用者からの評価も高まり、より稼ぐ機会を増やせる。

これまでは、どんなに丁寧な運転、サービスを心掛けてもリピートに確実につながるわけではなく、支払いの際につり銭がないなどの面倒が生じることもあった。ウーバーは、顧客体験価値=UXの観点から、タクシーにおける従来のサービスのビジネスモデルを作り変え、ライドシェアという新たなビジネスを実現した。

こうしたUX発想のビジネスは、アパレル業界でも見られる。
エアークローゼット(airCloset)やリープ(leep)など、顧客の好みに応じたコーディネートの洋服をレンタルするサービスは、まさにUX視点からの新たなビジネスモデルと言える。

自分自身で洋服をコーディネートするのが苦手な消費者にとっては、専属スタイリストがつくような体験ができ、非常に助かるはずだ。ある程度自分でコーディネートできる消費者にとっても、常にトレンドの洋服を着られることは願ってもないことだろう。

このように、顧客目線から従来のアパレル業界のビジネスモデルでは考えられなかったような価値を実現し、消費者の不満や潜在的なニーズに応えていくことが、アパレル業界の閉塞感を打ち破る一つのきっかけになる。

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