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FB(ファッションビジネス)の価値創造 第3回

【繊研新聞2017年1~3月連載】

日本のアパレル業界が今後成長を目指すにはイノベーションが不可欠です。 イノベーションの重要な視点のひとつ、「AI(人工知能)などのテクノロジーをどう活用するか」をアパレル業界にあてはめて考察し、業界の将来を展望します。

IT技術と匠の技の融合が革新を生む

日本のアパレル業界では従来のビジネスモデルは行き詰まっており、今後成長を目指すにはイノベーションが不可欠だ。イノベーションの重要な視点の一つは、AI(人工知能)などのテクノロジーをどう活用するか、そして人間だからこそ生み出せる付加価値が何かを考え抜くことである。

アパレルビジネスもいずれ、ほぼ「無人」で運営できるようになるだろう。AIがSNS(交流サイト)やメディアなどネット上の情報を解析し、次シーズンのトレンドを特定。それに基づき生地やデザイン、パターンを落とし込む。同時にサンプル画像を作成。作成したサンプル画像をネットで顧客に提案し受注を行う。

SNSなどへの情報発信も、AIが適切なタイミングを見計らって展開。顧客の過去の購買実績などに基づき、AIがお薦めのコーディネートも提案する。受注状況を見つつ、生地や副資材の調達状況、工場の稼働なども考慮して、MD計画を策定する。一定以上の受注が見込まれる場合は、即座に増産できるよう、生地や副資材の追加生産や在庫確保、工場のライン確保も同時に行う。受注した商品のデータが工場に送信され、自動的に生地の裁断、縫製を行う。完成した商品は工場から購入した顧客に直接発送される。

一連のプロセスを通じて、ネット上の情報、自社や他社の販売情報等をモニタリングし、AIが毎日MD計画や生産計画を見直す。その情報は工場や生地メーカー、商社などに共有され、生地や副資材の在庫管理、生産計画の調整を適宜行う。販売状況に応じてAIがマークダウンを実施(完全受注生産にすればそれも必要ない)。最終的に粗利が最大化するよう、コントロールする。この一連の流れに、人手はほとんど不要だ。

このようなAIによる判断の自動化、バリューチェーンを通した情報共有・連携は、既に他産業では導入が進んでいる。一方で、職人の匠の技によるモノづくり、優れたデザイナーが生み出すクリエイティブなデザイン、独創的なブランド同士のコラボレーションなど、人間が生み出せる付加価値もまだまだあるはず。テクノロジーの活用で浮いたコストは、そうした付加価値創出を担う人材にも投資すべきだ。

テクノロジーと人間をどのように組み合わせて付加価値を最大化していくのか。そこにイノベーションを生み出すヒントがある。

FBの価値創造(3)
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アパレル産業の未来

いよいよ最終回。業界の将来を展望して終わりにしたい。

SPAモデルが当たり前になったように、今後はテクノロジーを活用してバリューチェーン全体を高度化・省人化するモデルが主流となる。AI(人工知能)による意思決定高度化、工場の自動化、情報連携によるリードタイム短縮や機会ロス削減などが当たり前になる。

店舗をたくさん構える必要もなくなり、ECとの組み合わせが当然になる。ECを前提に店舗を構えないブランドも増えるだろう。

SNS(交流サイト)上の画像のコーディネートに類似する商品を自動で検索し購入できるサービスや、ウェブ上の動画に登場する商品を購入できる技術など、消費者がブランドや商品を認知、購入するシーンも変わっていく。

ブランドが企画して大量に生産された商品を購入するモデルも変わる。レンタルはもちろん、自分のサイズや好みに合わせてカスタマイズされた洋服を手軽に購入できるようになるなど、洋服の購入体験そのものが多様化する。

こうした中、アパレル企業、特に既存企業は何をすべきか。まず、既存事業の効率化、収益体質強化を徹底すべきだ。不採算店舗閉鎖、EC拡大、AIなどを活用したMD~販売業務高度化による粗利改善、テクノロジー活用による効率化、原価低減、間接部門のシェアード化や一部業務の自動化など、改革すべきことに着手する。

一方で、今後の新たなモデルの実現を見据えた打ち手も欠かせない。外部連携やM&Aの推進だ。必要なテクノロジーや人材を既存のリソースだけで賄うことは難しい。特定の技術やサービスを持ったベンチャー企業やテクノロジー企業など、外部の活用の成否が今後の成長を左右する。

働く人々の意識改革も重要だ。テクノロジーの専門家になる必要はないが、その重要性や意味合いを理解し、アパレル業界の常識が変わったことを認識すべきだ。新たに必要となる知識やスキルの習得も必要。新しいテクノロジーをうまくアパレル業界に生かすためには、まずは意識を変えることが大切だ。

本来、アパレルは高収益で、「夢」や「あこがれ」を売るビジネスのはず。既存メーカーの多くは低収益にあえぎ、現場もかつてほど活気がない。人々が希望を持って働き、「夢」や「あこがれ」を売れる環境を再び実現するためにも、収益体質強化や新たなモデルへの挑戦は欠かせない。

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