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激変する日本のアパレル業界と勝ち抜く戦略
【繊研新聞2018年2~4月連載 第1回】
ファストファッションの拡大やネットプレーヤーの台頭、新しいビジネスモデルの創出など、日本のアパレル業界は大きな転換期を迎えています。本稿では、こうしたアパレル業界の構造変化の本質に迫り、企業が市場で勝ち抜くための戦略を考察します。
日本のアパレル業界は今、大きな転換期を迎えている。ファストファッションの拡大や百貨店の衰退などをきっかけに既存大手アパレルメーカーの苦戦が続く一方、Amazon.comやZOZOTOWNなどのネットプレーヤーが台頭し、更にはairClosetなど新たなビジネスモデルを掲げたベンチャーも続々と市場に参入している。ZOZOスーツのように、既存の業界の競争ルールを破壊しかねない、これまでとは全く異なる取り組みも始まろうとしている。本稿では、こうした日本のアパレル業界の構造変化の本質に迫り、激変する市場で勝ち抜くための戦略について考えてみたい。
業界の競争ルールが変わる
これまでのアパレル業界における主な成功要因は、ビジネスモデルにより異なるものの、総じて言えば、特色あるデザインなどのクリエイティビティ、市場トレンドを素早く取り込み短期間で安価に洋服を生産・仕入れるサプライチェーン、適正な消化率を実現する需給予測の精度、生産・仕入れた商品を売り切る販売力などであった。
成功したプレーヤーは、センスや能力に長けた人材、企画から店頭での販売まで一気通貫したサプライチェーンなどを武器にそうした成功要因を充足し、成長を遂げてきた。
しかしながら足元では、従来の成功パターンが通用しなくなりつつあり、競争のルールが大きく変わってきている。これまでの戦い方では、もはや勝ち抜くことは難しい。競争ルールの変化に気づき、適応した企業だけが生き残ることができるだろう。
アパレル業界における競争ルールの変化
テクノロジーで変わる運営モデル
具体的な変化の一例が、ビジネスの運営モデルの変化だ。これまでアパレル事業の運営では主に人がマニュアルで作業する業務が多く、経験や勘、センスに依存するところが大きかった。ところが、テクノロジーの進化が状況を大きく変えつつある。
帳票入力や定型の分析などは、ヒトの動きを真似てアプリケーションを操作するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用して省人化できる。需給予測や生産・仕入れ数量、店舗への初回配分数量の決定、マークダウンのタイミングや値引き幅の決定なども、AIを活用すれば必要な人員数はかなり少なくなる。
RPAやAIの活用は単に省人化のみならず、業務精度や意思決定精度の向上も実現する。つまり、ヒトに頼った従来の仕組みよりも、より少ない人数で正確な運営ができる可能性がある。
その結果、従来とは異なる収益構造のビジネスを実現しうる。より少ない人数で、よりプロパー消化率の高いビジネスを実現できれば、圧倒的に高収益のビジネスを実現できる。例えばその分原価を上げる、あるいは同じ品質の商品でも価格を下げる、あるいはより高い給与水準でクリエイティビティに富んだ才能豊かな人材を雇うことができれば、既存プレーヤーには太刀打ちできない超高コストパフォーマンスのブランドが誕生する。
実際、ネットフリックスが、映画やドラマ等のコンテンツビジネスにおいてそうした変化を生み出し、成長を遂げている。彼らは契約者の視聴情報や映画等の特性情報(主演、テーマ、ストーリー展開等)などをAIで分析し、よりヒット確率の高いコンテンツを生み出すモデルを確立しつつある。ネットフリックスの台頭は、ディズニーや大手映画会社、有力プロダクション等既存コンテンツプロバイダーが牛耳ってきたコンテンツビジネスの構造を変えつつある。
ものづくりから体験価値創造へ
もう一つの重要な変化が、商品で差別化することが今後ますます難しくなるということだ。
ファーストリテイリングのように、巨大な資本と研究開発から販売までの一気通貫したサプライチェーンを持ったプレーヤーや、極めて優れたクリエイティビティのある一部のプレーヤーは別として、多くのプレーヤーにとって商品だけでの差別化は困難だ。
では何で差別化するか。今後は、顧客情報をフル活用して、パーソナライズされた真に魅力ある顧客体験を創造できるかどうかが、極めて重要になるだろう。
テクノロジーの進化により、これまでより低コストでパーソナライズされた顧客体験を提供できるようになってきている。オーダースーツのDIFFERENCEや、airClosetのようなサブスクリプション(定額制利用料支払い)モデル、メルカリなどのCtoCサービスはその一例だ。こうしたサービスでは、今までより簡単にパーソナライズされた商品を買える、あるいは買わずに「利用する」という選択ができる、手軽に自分に似合うスタイリングの洋服を着られるなどというように、これまでのアパレルとは異なる価値を体験できる。
これからのアパレル企業の経営では、商品だけに着目するのではなく、どういった顧客体験を提供していくのか、そしてそのためにどのような情報やテクノロジーを活用していくべきなのか、という視点が求められる。
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【繊研新聞2018年2~4月連載 第2回】