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TPPによる食品業界へのインパクト

TPP妥結に向けて日米はじめ各国が正念場を迎えています。このインパクトの大きさは、単に参加国の経済規模だけでは測ることができません。関税削減の議論に留まらず、サービス貿易の自由化、さらには規制・基準など、より広範なルールが対象とされているからです。グローバル企業はもちろん、国内に事業の主軸を置く企業もまた自社の競争力に決定的な影響を受ける可能性が高いです。本稿では食品業界へのインパクトを解説します。

1.はじめに

世界貿易機関(WTO)を舞台とした、世界約160カ国による貿易の自由化交渉が難航する中、特定の国の間で踏み込んだ貿易自由化と経済連携強化の実現を目指す自由貿易協定(Free Trade Agreement, FTA)・経済連携協定(Economic Partnership Agreement, EPA)(以下「EPA」という)の締結が加速的に進展してきた。特に近年では、環太平洋パートナーシップ(Trans-Pacific Partnership)交渉、東アジア地域包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership, RCEP)など、経済規模・人口・参加国数のいずれにおいても巨大な多国間での協議が進展しており、これらかつてない大掛かりなEPAに注目が高まっている。

これら広域経済連携の潮流のインパクトの大きさは、単に参加国の地理的・経済的規模だけでは測ることができない。モノの貿易の自由化(関税削減・撤廃)のみの議論に留まらず、サービス貿易の自由化に加え、競争ルール、投資ルール、政府調達ルール、知的財産ルール、規制・基準など、より広義の「非関税障壁」が対象とされているからである。EPAの締結が加速的に増加し、関税削減・撤廃がある程度進展してきたことに伴い、重要性の比重は今や「非関税障壁」に寄ってきていると言ってもよい。

さらには、上述の広域経済連携のみならず、欧米二者間において「非関税障壁」を主な交渉軸に据え、ハイレベルな貿易の自由化を目指す環大西洋貿易投資パートナーシップ(Trans-Atlantic Free Trade Agreement, TTIP)交渉が始動している。こうした広義の通商環境の変動により、世界にサプライチェーンを展開するグローバル企業はもちろん、国内に事業の主軸を置く企業もまた、自社の競争力に決定的な影響を受けることが想定される。 

2.看過できない食品業界へのインパクト

TPPの食品業界へのインパクトとしては、まず関税の削減・撤廃のインパクトが挙げられることは論を俟たない。日本の場合は、聖域5品目(コメ、麦、乳製品、牛肉・豚肉、甘味資源作物)を巡る議論が交渉の大きな争点となってきた。コメについては米国産の輸入量を増やす一方、関税は維持される方向で議論は沈静化したが、牛肉・豚肉については、依然日米協議における調整が続いている。TPP妥結に先立って、大筋合意に達したオーストラリアとの二国間EPAでは、牛肉の関税が現行の38.5%から20%前後に引き下げられることとなった。TPPでは、米国からの一層強い要求によって、冷凍ものなどの低価格品の関税が9-10%にまで引下げられる可能性がある。また、豚肉は、現状では輸入価格が安いほど関税が重くなる差額関税制度であるのに対し、一律の従量税に移行する方向となっている。これら、関税削減・撤廃によって輸入量増が見込まれる品目については、国内における市場競争が激化することは避けられない。他方で、日本向けに輸入しているような加工事業者・販売事業者には安価な調達の選択肢が広がる。

海外市場へのインパクトも重要である。TPPやその他のEPAによる関税削減によって、海外への市場アクセスが改善し、日本にとって条件のよい形で青果物や加工食品の輸出が可能となるなど、日本の農産物・食品の輸出拡大戦略にとって追い風となることが想定される。加えて、海外市場における競争が激化することにも留意しなければならない。世界最大の農産物・食品輸出国である米国からTPP締約国域内への輸出が増加し、例えば、飲料・菓子類などで米系食品メーカーが強く、平均年齢28.2歳と厚い若年層を抱えるベトナム市場において、米国の競争力が上がる可能性がある。

関税のほか、「非関税障壁」の削減・撤廃によって食品業界へのポジティブなインパクトが期待されるものとしては、例えば流通サービスの自由化がある。流通サービスには、卸売りサービスや小売サービス、フランチャイズ等が含まれる。これらサービスにおいては、TPP参加国の中でも、マレーシアなどは、外資規制やブミプトラ資本規制が依然色濃い。しかしながら、マレーシアでは、2010年の交渉参加を目前に、ハイパーマーケットなど一部を除きブミプトラ資本規制30%が撤廃されるなど、国内改革の動きも目立った。ハイレベルな通商交渉を国内産業政策改革のための外圧とすることによって、一部の国では、このような食品業界へインパクトのある規制改革が進展する可能性がある。

また、デジタル環境下の各種ルールを巡る議論も見逃せない。eコマースの文脈では、海外からのオンライン取引に関する制限の緩和や、個人情報保護やオンライン上の知的財産の保護(例:食品の特許)が進展することが期待される。チャネル構造に起因し海外市場で遅れを取っている食品企業にとっては、既存構造にとらわれない新規チャネルとしてのeコマース活用の魅力が増すだろう。 

3. 戦略的ルール対応を経営の要諦に

これらに加え、グローバルな食品関連の自主ルール(private standards)の動きもダイナミックである。食品業界では、自主ルールが数多く存在し、ハーモナイズ(統一)されていないことが、貿易の妨げとなっているとして問題視されてきた。主に一次産品を対象とする基準として広く知られるものとしては、欧州小売業協会によるGlobal G.A.Pがある。さらに、食品メーカーを対象とするものとして、食品安全認証基金による食品安全マネジメントシステムFSSC22000など複数ルールが存在することに加え、大手外資小売チェーンが独自に定めるルールなどが乱立している。一部ルールについては、グローバル食品安全イニシアチブ(GFSI)によって、多数の基準のハーモナイゼーションが試みられており、現在、10以上の基準・標準が認証スキームとして承認・運用されている。

この動きは、欧州・米国を中心として拡がってきたが、アジア各国によるG.A.P(例:China G.A.P、Thail G.A.P)も拡がりを見せる中、これらルールのハーモナイゼーションの動きは、食品業界にとって見逃せない動向である。

TPP、RCEP、さらにはTTIPなどの交渉は2015年妥結を目指して進められており、日本企業の事業環境に大きく影響してくる可能性が高い。2015年以降の中期経営計画は、こうしたグローバルルールの変化を前提としつつ策定されるべきである。

それでは、実際にこうしたグローバルルールの変化にどのように対応すべきなのか。通商ルールへの対応戦略の一つ目としては、関税分析アプローチがある。自社の物流において、既存EPAの使い漏れがないかチェックすると同時に、既存EPAの関税削減スケジュールの確認、将来締結予定のEPAのシナリオ分析を行い、最適なサプライチェーン構築を検討することが効果的であろう。

また、今後ますます重要となる「非関税障壁」への対応アプローチがある。EPAにより、基準や国内規制等へのインパクトが想定されることから、ルール変更へ事後的に対処するに留まらず、ルール変更を見据えた事前の準備、あるいはルール形成そのものへも関与していくよう戦略を考えていくべきである。戦略的ルール対応を経営の要諦に-戦略的ルール対応は、TPPをはじめとする激変するグローバルルール環境下で経営が持つべき視座となっている。

※本文中の意見に関わる部分は私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではございません。 

 

2014.07.15 

(著者:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー 羽生田 慶介、シニアコンサルタント 白壁 依里)

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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