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資産除去債務の計上方法及び小売業における留意点

小売業の会計シリーズ6

資産除去債務は、解体、撤去、処分等の有形固定資産の除去に関して、法令又は契約等に基づき要求される支出です。本稿においては、資産除去債務の範囲、原状回復義務の有無の判断、割引前将来キャッシュ・フローの算定方法について、実務上の留意点を含めて解説します。

1.資産除去債務の定義

資産除去債務とは、「有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいう」と定義されている(資産除去債務に関する会計基準第3項(1))。
資産除去債務は、「法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの」であるため、土地・建物を自社所有している店舗の解体・撤去に要する支出は、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)などに基づく義務が発生する場合を除き対象にならない。また、「有形固定資産の除去に関して」発生する支出を対象としているため、店舗で使用している什器備品の移設・搬出などに要する支出は含まれない。
小売業の場合、「法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの」の具体的なケースとしては、土地または土地建物を賃借している店舗について、借主側が原状回復義務を負っている場合などが考えられる。このような場合には、有形固定資産の除去に要する割引前将来キャッシュ・フローを見積もり、資産除去債務を計上する必要がある。 

2.原状回復義務の有無

次に、「原状回復義務を負っている」かどうかについて、不動産の賃借契約形態ごとに整理する。

(1) 事業用定期借地(借家)契約で、原状回復義務が明記されているケース
事業用定期借地(借家)契約で、土地・建物の明渡し時の原状回復義務を借主が負担することが契約上明記されている場合には、原状回復義務を負っていることになり、資産除去債務の計上が必要になる。

(2) 普通借地(借家)契約や、原状回復義務が明記されていないケース
普通借地(借家)契約の場合には、借主側が建物買取請求権(借地借家法第13条)や造作買取請求権(同第33条)を有しているため、借主は法律上の原状回復義務を負っていないとも考えられる。しかし、過去の実績等から、普通借地(借家)契約でも原状回復費について負担をしている場合には、実質的に原状回復義務を負っているため資産除去債務を計上することになる。
また、契約書に原状回復義務が明記されていない場合についても同様に、過去の実績等に基づき実質的に判断することが必要である。 

3.多店舗展開する小売業における資産除去債務の算定方法

原状回復義務を負っていると判断された店舗に関しては、資産除去債務の金額を算定することになる。
資産除去債務は、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引いた金額として計上する(資産除去債務に関する会計基準第6項)。
多店舗展開している小売業では、店舗ごとに将来キャッシュ・フローを見積もることは実務上困難な場合もある。そのような場合には、有形固定資産をその種類や場所等に基づいて集約し、概括的に見積もることが考えられる(資産除去債務に関する会計基準の適用指針第3項)。以下では、有形固定資産をその種類や場所等に基づいて集約し、概括的に見積る場合の方法を考察する。

【1】割引前将来キャッシュ・フローの見積り
店舗を業態、規模、地域等に基づいてグルーピングした上で、単位面積当たり原状回復単価に店舗面積を乗じて算定することが考えられる。また、単位面積当たり原状回復単価は、過去の除去に要した支出実績や業者からの見積り等を基礎として算出することが考えられる。

【2】義務等の発生確率
割引前将来キャッシュ・フローの見積りは、資産除去債務に関する会計基準第6項(1)において、以下の2つの方法が規定されている。

(a)生起する可能性の最も高い単一の金額
(b)生起しうる複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した金額

以下の設例のように、一定の条件を満たした場合のみ原状回復義務が免除されるような場合においては、上記(b)の発生確率を用いた割引前将来キャッシュ・フローの見積方法を採用することが考えられる。

(設例)発生確率を用いた割引前将来キャッシュ・フローの見積り例

【前提条件】
当社は、事業用借家契約を締結し、当該建物でスーパーを営んでいた。賃貸借契約終了時に借主である当社に原状回復義務がある旨明記されているが、次の借主が賃貸建物内の造作をそのまま利用(居抜き譲渡)する場合には、当該義務は免除される。
・撤去費用の見積額 10,000円
・居抜き譲渡の発生確率 40%

【割引前将来キャッシュ・フローの見積り】
原状回復義務の発生確率=100%-40%=60%
割引前将来キャッシュ・フロー=10,000円×60%=6,000円 

4.見積りの変更および履行差額の処理

割引前将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合には、過年度にわたり遡及的に修正せずに、当該見積りの変更による調整額を将来に向かって修正するように処理する。
また、資産除去債務が履行された時に認識される履行差額(資産除去債務の見積額と実際支払額との差額)については、原則として除去費用にかかる費用配分額と同じ損益区分で計上する。

なお、単位面積当たり原状回復単価に店舗面積を乗じて割引前将来キャッシュ・フローを見積もっているケースにおいては、閉店時に履行差額が発生しているかどうかを勘案し、履行差額が生じている場合には、見積方法の妥当性および店舗の資産除去債務の見積り方法の変更の要否を検討する必要がある。
具体的には、原状回復義務の発生実績額を継続的に把握し、面積あたりの発生原状回復単価について、見積りと実績の乖離原因を分析して、見積りの変更の要否を検討する方法等が考えられる。 

5. 敷金を支出している場合の簡便的処理

賃借契約に関連する敷金が資産計上されている場合は、前述した原則的方法に代えて、当該敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積もり、そのうち当期の負担に属する金額を費用に計上する簡便的な方法を採用することが認められている(資産除去債務に関する会計基準の適用指針第9項)。

今回掲載した内容については、『Q&A業種別会計実務6・小売』(中央経済社2013年 トーマツ コンシューマービジネス インダストリーグループ)にも掲載しておりますのでご参照ください。

※本文中の意見に関わる部分は私見であり、トーマツグループの公式見解ではございません。 

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