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店舗閉鎖に伴い発生する費用又は損失の会計処理

小売業の会計シリーズ8

多店舗展開を行っている小売業において、不採算店の閉鎖と新規出店を行う「スクラップ・アンド・ビルド」は、事業運営上重要かつ必要不可欠です。この「スクラップ」、すなわち、店舗閉鎖を行った場合に発生する費用又は損失の会計処理はどのように行うべきか、店舗閉鎖損失引当金も含めて解説します。

1. 店舗閉鎖に伴い発生する費用又は損失とは

店舗閉鎖に伴い発生する費用又は損失としては、一般的には以下の(ア)から(カ)が考えられる。
(ア)減損損失、固定資産除却損又は固定資産売却損
(イ)解体費用(移設費用を含む)
(ウ)撤去工事費用
(エ)リース解約違約金
(オ)賃貸借契約解約違約金
(カ)賃貸契約に基づく原状回復費用
これらは例示であり、各社の状況に応じて発生する費用又は損失の範囲が異なることに留意されたい。

2. 店舗閉鎖に伴い発生する費用又は損失に関連する会計基準

我が国における会計基準では、店舗閉鎖に伴い発生する費用又は損失そのものを規定したものはなく、それぞれに関連する会計基準に準拠した会計処理が行われるものと考える。

例えば店舗固定資産については、店舗閉鎖の意思決定により「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)等に準拠して耐用年数の変更を行うとともに、「固定資産の減損に係る会計基準」等に準拠して減損損失の兆候の有無の検討、認識要否の判定、及び減損損失の測定が行われる。また、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものについては、「資産除去債務に関する会計基準」(企業会計基準第18号)等に準拠した会計処理が行われる。

3. 店舗閉鎖損失引当金

「店舗閉鎖に伴い発生する費用又は損失に関連する会計基準」に記載のとおり、店舗閉鎖に伴い発生する損失又は費用は、それぞれ関連する会計基準に従い会計処理されるが、これらの費用又は損失のうち、以下の「企業会計原則注解【注18】」の要件を満たした費用又は損失については、引当金として会計処理される必要がある。

 引当金の計上要件(企業会計原則注解【注18】)
 ・将来の特定の費用又は損失である 
 ・その発生が当期以前の事象に起因する
 ・発生の可能性が高い       
 ・その金額を合理的に見積ることができる

現行の会計実務においては、店舗閉鎖の意思決定がなされたことなどにより、閉鎖に伴って将来発生が見込まれる費用又は損失に対して「店舗閉鎖損失引当金」等の名称で手当を行う事例が見受けられる※1。「店舗閉鎖損失引当金」を計上している会社の多くは、重要な会計方針の引当金の計上基準において「店舗閉鎖に伴い発生する損失に備えるため」と開示しているのみであるため、引当金に含まれる費用又は損失の具体的な範囲は、明らかとはなっていない。しかし、引当金として計上されていることから、店舗閉鎖に伴い発生する費用又は損失が「企業会計原則注解【注18】」における引当金の計上要件を満たした費用又は損失であることは推測される。

4. 店舗閉鎖損失引当金の対象となる費用又は損失

それでは、店舗閉鎖に伴い発生する費用又は損失のうち、具体的にどのようなものが引当金の計上要件を満たし、店舗閉鎖損失引当金の計上対象となるのか、「2.」の例示ごとに検討を行ってみよう。

(ア) 減損損失、固定資産除却損又は固定資産売却損
店舗において使用する固定資産については、閉鎖の意思決定が「固定資産の減損に係る会計基準」における減損の兆候に該当すると考えられ、減損の認識要否の判定及び減損損失の測定が行われると考えられる。また、減損の検討に加え、閉鎖意思決定時において耐用年数及び残存価額の見直しがなされ、見直し後の耐用年数及び残存価額に基づいて費用又は損失処理がなされる。固定資産除却損又は固定資産売却損はこれらの手当が行われた後に、実際に固定資産を除却又は売却した際に認識する損失と考えられる。これらの減損損失、固定資産除却損又は固定資産売却損は、一般的には引当金としては会計処理されないと考えられる。

(イ) 解体費用
店舗の建物や内装等の解体費用については、通常減損損失の認識・測定又は除却損の算定において加味されることから、減損損失等に含まれると考えられる。また、減損損失等が認識されない場合において、店舗閉鎖の意思決定を行ったものの、期末日までに解体工事等が行われていない場合は、一般的には、費用の発生が当期以前の事象に起因しているとは判断されないため、引当金の計上要件を満たしていないと考えられる。

(ウ) 撤去工事費用(移設費用を含む)
店舗什器備品等の移設費用を除く撤去工事費用については、自社所有資産については(イ)解体費用と、賃貸資産については(カ)賃貸契約に基づく原状回復費用と同様の会計処理となると考えられる。
一方、移設費用については、期末日までに移転が行われている場合には未払金等として計上されるが、移転又は閉鎖等の方針を決定しただけで期末日までに移転が行われていない場合には、一般的には、費用の発生が当期以前の事象に起因しているとは判断されないため、引当金の計上要件を満たしていないと考えられる。

(エ) リース解約違約金
リース解約違約金は、オペレーティング・リース取引ではリース契約解約時点における未経過リース料の取扱いがリース契約書等において明記されていることが一般的であり、店舗閉鎖に伴い発生が見込まれる費用又は損失の金額は合理的に見積りが可能であることから、期末日までにリース会社に対して解約の旨と時期を通知した等の場合や店舗閉鎖の意思決定により、発生の可能性が高く、解約違約金が合理的に見積り可能な場合には、引当金の計上の要件を満たすと考えられる。

(オ) 賃貸借契約解約違約金
賃貸借契約解約違約金は、中途解約時点における残存賃貸期間に係る賃料相当額の取扱いが賃貸契約書において明記されていることが一般的であり、店舗閉鎖に伴い発生が見込まれる費用又は損失の金額は合理的に見積りが可能であることから、期末日までに賃貸人に対して解約の旨と時期を通知した等の場合や店舗閉鎖の意思決定により、発生の可能性が高く、解約違約金が合理的に見積り可能な場合には、引当金の計上の要件を満たすと考えられる。

(カ) 賃貸契約に基づく原状回復費用
賃貸契約に基づく原状回復費用は、「資産除去債務に関する会計基準」等に基づいて、通常一定の仮定に基づいて資産除去債務が見積計上されていると考えられるため、一般的には引当金の対象にはならないと考えられる。なお、店舗閉鎖の意思決定を契機に、原状回復工事等の内容がより具体的となるため、資産除去債務計上額の見直しを行う必要がある。

以上を踏まえると、例示した費用又は損失のうち、店舗閉鎖の意思決定等の時点で引当金の計上対象となる考えられるものは以下のとおりと考えられる。

区分

具体的な費用又は損失

引当金の計上要件を満たすと考えられる

(エ)リース解約違約金
(オ)賃貸借契約解約違約金

引当金の計上要件を満たさないと考えられる

(ア)減損損失固定資産除却損又は固定資産売却損
(イ)解体費用(移設費用を含む)
(ウ)撤去工事費用
(カ)賃貸契約に基づく原状回復費用

5. 店舗閉鎖に伴い発生する費用又は損失の計上区分

店舗閉鎖に伴い発生する費用又は損失に関連する損失は、それぞれ関連する会計基準及び財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則に準拠した計上区分により損益計算書に計上され、一般的には営業外費用もしくは特別損失に計上されていると考えられる。 
店舗閉鎖損失引当金の繰入額の計上区分は直接的に規定されてはいないが、同様に、営業外費用もしくは特別損失に計上されることが一般的と考えられる。多店舗展開を行う業態においては、「スクラップ・アンド・ビルド」が日常的に行われ、毎期一定数以上の店舗の閉鎖に係る費用又は損失が計上されるのであれば、営業外費用として計上することが適当と考えられる。一方、店舗数が少なく、店舗の閉鎖がごくまれな業態で、店舗の閉鎖に係る費用又は損失が金額的に重要であれば、特別損失として計上することになると考えられる。

※1. 2013年2月~2013年8月を決算期とするEDINETコードを有している会社の有価証券報告書を対象にすると、小売業全体330社のうち、約15%にあたる49社において「店舗閉鎖損失引当金」が計上されている(EDINET開示書類に基づきトーマツが集計)。

(参考文献)
・我が国の引当金に関する研究資料(日本公認会計士協会 会計制度委員会研究資料第3号) ケース20
・『Q&A業種別会計実務6・小売』(中央経済社2013年 トーマツコンシューマーインダストリーグループ著) 

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