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商社業界でのIFRS導入

商社業界でのIFRS導入状況とその影響

世界中でビジネスを展開する総合商社では、近年、新たなグローバル・スタンダードとしての地位を確立したIFRSの採用が加速しています。IFRSの日本及び世界での利用状況は日に日に広がっており、商社関係者のみならず、その投資家等にも、IFRSの知見が求められる時代となっています。今回は、商社IFRSの利用者の実務に役立てていただくため、IFRS導入が商社業界に与える主な影響を解説します。

商社業界でのIFRS導入

総合商社は、世界中でビジネスを展開し利害関係者も多岐にわたり、また入札等の事業目的上の理由もあり、その連結財務諸表は1970年代よりグローバル・スタンダードであった米国基準に基づき作成され、投資家や取引先に利用されるとともに、社内経営管理にも用いられてきました。近年、国際財務報告基準(IFRS)が新たなグローバル・スタンダードとしての地位を確立してきたことから、2011年3月期の住友商事を皮切りに商社業界でもIFRSへの移行が加速しています。
また、商社業界以外でも、2014年6月に自民党の日本経済再生本部がとりまとめた「日本再生ビジョン」にてIFRS任意適用拡大に向けた政策的な後押しの必要性が言及されたことに見られるように、わが国におけるIFRS適用拡大に向けた動きは再び加速化の様相を呈しています。
このような状況のもと、従来の総合商社のみならず、その子会社や専門商社においても、IFRS導入が進むことも想定されます。IFRSの日本での広がり及び世界での利用状況を考えると、投資家やリスクマネジメント部門等、IFRSに基づき作成された商社の財務諸表を利用する方々にも、高度なIFRSの知見が求められるものと考えられます。
本稿では、IFRSを利用する様々な関係者の実務に役立てていただくことを目的として、IFRS導入が商社業界に与える主な影響の概要を解説します。

1. 商社業界でのIFRS導入状況

IFRSを導入した商社毎の、移行時期及び移行前の会計基準等は以下のとおりです

2. IFRSへの移行における商社業界での主な影響

IFRSを導入した総合商社の移行時注記からは、IFRSと移行前の会計基準(日本基準又は米国基準)との差異が読み取れます。商社のビジネス特性上、差異は多岐に渡り、かつ金額的にも重要な差異も生じていますが、主な差異の例示として、以下のような項目が上げられます。

 

保有株式の売却損益及び公正価値評価の取扱い

日本基準及び米国基準では、保有する株式の売却損益や減損損失は損益計算書上認識され、また株式の公正価値評価に伴う評価差額は、保有目的に応じて損益又は包括損益を通じて認識されます。さらに、市場性のない持分証券(非上場株式等)は原則として取得原価にて評価されます。
一方、既にIFRSを適用済みの商社が早期適用しているIFRS第9号「金融商品」では、株式取得時の指定により、保有する株式の売却損益や減損損失、並びに株式の公正価値評価に伴う評価差額のすべてを、損益として認識することなく包括損益として認識することが認められています。また、市場価格のない株式であっても、原則として公正価値による評価が求められています。
商社は、株式投資を短期的な売買利益の獲得だけでなく、中長期的な商圏確保や権益取得等さまざまな事業目的で行っており、IFRSへの移行により財務数値に重要な影響が生じています。

固定資産の減損

日本基準及び米国基準では、固定資産の減損の要否について割引前将来キャッシュ・フローを使用して判断します。
一方で、IFRSでは、減損の兆候が認められた場合には、割引前将来キャッシュ・フローを使用せずに固定資産の帳簿価額と回収可能価額(使用価値(割引後将来キャッシュ・フロー)又は処分コスト控除後の公正価値のいずれか高い方)との差額を減損損失として認識します。
商社は、子会社等を通じて多額の有形・無形固定資産を有するため、当該基準差異により早期に減損が認識されています。

みなし原価の適用

IFRS移行時のみ認められる処理として、特定の有形固定資産や投資不動産について移行日の公正価値をみなし原価として使用する選択可能な免除規定があり、IFRSを適用済みの商社に採用されています。これにより、移行前の会計基準に基づいた特定の資産の帳簿価額をIFRSに基づいた帳簿価額に遡って修正することを回避でき、移行時の帳簿価額はより適切なものとなります。

在外営業活動体の換算差額のリセット

IFRS移行時のみ認められる処理として、移行前の会計基準に基づく為替換算調整勘定の累計額を移行日時点でゼロとみなし、全額を利益剰余金に振り替えることを選択できます。この処理は、IFRSを適用済みの商社において採用されています。
商社は、古くより多数の海外子会社等を通じて国際的なビジネスを行っていることから当該差異の金額的影響は大きくなっており、IFRS移行後に当該会社等を処分する場合には、その処分損益にも影響が表れます。

これらはあくまで一般的な差異の一例ですが、IFRSの導入は商社の財務数値に対して重要な影響を及ぼしています。このため、商社内部での計数管理や業績評価等の経営面においても重要な変化が生じるだけでなく、投資家や債権者等の利害関係者の投資判断にも重要な影響を及ぼすものと想定されます。商社がIFRSを採用することにより内外の環境に具体的にどのような影響が生じるのか、注目されるところです。

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