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「データビジュアライゼーション」ではじめるアナリティクス
データ活用の第一歩としての見える化
ケーススタディと実例を通じて、先進的アナリティクスが従来の分析方法をどのように一変させうるか、また、どのような領域で効果的に応用できるかを説明します。
はじめに
貴社内外にあるデータをビジネスに生かしたい、ただ、何からどうやって始めたら良いのかわからない、とお困りの方はいないだろうか。もしくは、既にデータの活用を推進してはいるのだが、難解な統計的アプローチが経営陣に理解されず、期待する効果が生まれていないという方はいないだろうか。そういった方にお勧めなのがデータビジュアライゼーション、すなわちデータの見える化である。データビジュアライゼーションは、全体像が分かり難いものを直感的に理解し易くすることに有効であり、現状の把握、パターンの発見、傾向の予測をすることによりビジネスの意思決定に大きな効果をもたらすものである。
本稿ではビジネスにおけるデータ活用を検討しているビジネスパーソンに向け、データビジュアライゼーションの導入の効果、および導入に際しての基本的なポイントについて紹介する。
データビジュアライゼーションとは
データビジュアライゼーションとはグラフや図などを利用して、データをわかりやすく表現するための技法である。以下の図は売上に関する情報を文章から表データに、さらにはグラフにした例である。文章では内容を捉えるのに時間のかかる情報を、グラフにすると一覧性が向上し、多くの属性について直感的に情報を捉えられる。さらに、文章や表では読み取りきれなかった洞察が生まれることも期待できる(E氏の異常性を表から読み取るのは困難であろう)。
図1 データビジュアライゼーションの効果
データビジュアライゼーションとは2
データビジュアライゼーションの歴史は古く、あのナイチンゲールがクリミア戦争で病院の衛生改善の必要性を説明するために、死者の内訳を下図のような円グラフを作成したというエピソードを聞いたことがある方も多いはずだ。
図2 ナイチンゲールによるデータビジュアライゼーション
データビジュアライゼーションとは3
ビジネスの世界でも既に表計算ソフトによるデータビジュアライゼーションは当たり前のように行われている。発表でグラフを活用された方も多いだろう。また数年前にBI(Business Intelligence)、データマイニングといった用語が流行ったように、会社規模で意思決定にデータを活用する一環で、データビジュアライゼーションも一定程度は浸透してきた。
近年、データビジュアライゼーションが再び注目されてきている。その背景にあるのは
- ビジネスフローのIT化推進による取得可能なデータの増加
- コンピュータ機器の低価格化による蓄積データの増大
により、データビジュアライゼーションの機会が増えたこと、さらに
- いわゆるBIツールの高度化およびユーザーインターフェースの改善
- R言語などのオープンソースにおけるグラフィック機能の充実
により、データビジュアライゼーションがより容易かつ高度になり、ビジネスに価値をもたらす機会が増えたことも挙げられる。ビッグデータ活用を推進する中で、データからの示唆を直感に訴えやすい形で提示することが、経営者の自信をもった意思決定を促進するものとして、ビジュアライズの価値が再認識され始めている。
データビジュアライゼーションのメリット
データビジュアライゼーションでアナリティクス(データ活用)をはじめる最大のメリットは、導入の容易さにある。多くの企業が抱えるアナリティクスの導入における障害のひとつが、データ分析に精通した人材の不足である。しかし、データビジュアライゼーションは統計分析などの専門知識がなくとも作成できる。
また、コストの面を見ると、高価な分析ソフトがなくとも表計算ソフトやフリーソフトでもはじめられる。さらに近年はBIツールも安価に購入可能であり、多様なデータビジュアライゼーションを行いたいという場合であっても投入コストは小さい。
ビジネスにインパクトが与えられるのか?
さて、グラフを使い慣れている方には、本当にグラフだけでビジネスインパクトを与えるような分析ができるのか?懐疑的な方もいるかもしれない。ここではデータビジュアライゼーションはどのような効果をもたらすのかについて掘り下げていくことで、データビジュアライゼーションの可能性を探っていきたい。
データビジュアライゼーションの効果の1つに(1)多数で(2)多属性のデータの比較を容易にする点が挙げられる。例えば1個の100円100gのりんごaを、価格と重量の2次元グラフにプロットしたとしよう(グラフ1)。グラフに1点の点があるばかりで、何の意味をもたらさない。ここに100円50gのりんごbや、300円100gのりんごcを追加するとどうだろう(グラフ2)。各々のりんごの距離感がわかるようになったが、数値データのままでも、りんごbは小ぶりなりんごで、りんごcは高価なりんごであることは理解できる。
しかし、分析対象のりんごが多数になった場合、数値データだけでは比較が難しくなる(グラフ3)。さらに分析対象の属性が価格や重量に加え、糖度や品種、色、つやなど、多数の属性情報があった場合も然りである(グラフ4)。
図3 データ数および属性数増加とデータビジュアライゼーションの効果の関係
ビジネスにインパクトが与えられるのか? 2
比較を容易にすることでデータビジュアライゼーションは
- 分析対象となるデータ群全体の特徴をより捉えやすくする
- データ群の中の類似した特長を有したグループを捉えやすくする
- データ群の中で特異な特徴を捉えやすくする
など、データから情報や知見を読み取りやすくするメリットをもたらす。
上記のりんごの例だと、ある品種のりんごが高いことや、りんごは重いからと言って価格が高いわけではないこと、またあるりんごが1つだけ異常に重量が重いことを知ることができる。そこから、主婦であれば「品種aのほうがお買い得である」といった、有益な「洞察」を得ることができる。
ビジネスの新たな発見を与える
ビジネスでの活用例を見ていこう。例えば以下のビジュアルは小売業の各店舗の情報をバブルチャートにしたケースである。データを縦軸・横軸・描画点のサイズ・色・形などを活用し多次元の属性を1つの表に表現することで、これまでは気付かなかった様々な洞察をもたらした。例えば、賃料が高い地域は営業利益が低い傾向にあり、減損リスクが高まる恐れがある。こうした店舗を対象に、キャッシュフローの状況等を調べより深い検討を行ったり、収益性の改善に向けた営業施策の強化を実施するなど、経営施策実行の有益な示唆を生むだろう。
図4 ビジネスにおけるデータビジュアライゼーション活用の例
「とりあえずビジュアライズ」する前に
ここまで導入しやすさを強調しておきながらいきなり冷や水を浴びせるようであるが、「とりあえずビジュアライズしてみよう」と始める前に一度留まってほしい。データビジュアライゼーションの重要なポイントとして、初期段階で何のためにデータをビジュアライズするのかを明確にしておくことが挙げられる。
筆者も過去に経験があるが、何のためにデータビジュアライゼーションを行うのかを明確にせずに「とりあえず」でビジュアルを作成し始めてしまうと、「何かが違う」と何度もビジュアルを変更し続けるか、もしくは使われなくなってしまい、工数の無駄となってしまうことが多いからだ。
特に意思決定者からビジュアライズを要求される場合、彼らのビジュアライズやデータ分析に期待感があるからこそ要求するのであり、その期待と成果にギャップを生まないためにもますます目的の明確化と共有が重要となる。
これは私が経験した失敗例であるが、「小売業種の店舗データを全体感を把握したいので、とりあえずビジュアルを作ってほしい」という依頼を受けたことがある。しかし、作成したビジュアルは全く”刺さる”ことがなかった。地域別や店舗の体系など「全体感を把握したい」というと目的のようにも聞こえるが、把握した後にどのようなアクションを起こしたいのかが見えていなかった。たとえば不良店舗の整理のためにその存在や特徴を捉えたい、など、目的が明確で具体性があったほうがビジュアル作成の方向性が明確になり、より”刺さる”ビジュアルが出来上がる。
目的に応じた手法、ツールの選び方
目的が明確となった後データビジュアライゼーションに際して重要になるのは手法とツールの選択である。高度な技術を使えば使うほどより有用なビジュアルになるというわけではない。極端に言うと課題によっては新たなツールやコンサルタントを利用しなくても、表計算ソフトだけで有用なビジュアルを作成することができることもある。また、目的が「説明」なのか、「探索」なのかによっても手法やツールは変わってくる。さらに、利用者のスキルセットに合ったツールなのか、ということも重要である。ユーザーインターフェースに定評があり「ITスキルがない人間でも簡単にBIが作れます」と謳ったツールをユーザー部門に導入してみたものの、結局使いこなせずに定着しない、という例も少なくない。
作っただけ、で終わらせない
どれだけ利用価値のあるビジュアルを作成しても、ユーザーに使われてそして何らかの意思決定(アクション)に影響しなければ価値はない。ビジュアルを作っただけに留めず、こまめにユーザーのフィードバックを受け、可能な限りメンテナンスし価値をもたらし続けるようフォローする必要がある。
ビジュアルが利用されなくなった背景には、わかりづらい、作成に時間がかかる、当初の目的を達成しないなど、様々な理由が考えられる。計画段階で詰め切れるのがベストではあるが、実際にビジュアルを作成してみて初めて気付く問題点もあるため、完成後のフォローが重要である。
一方でどれだけ利用されていても、陳腐化したビジュアルは排除する必要がある。環境が変化し必要となる分析の切り口が変わった、ビジュアライズ対象データが古くなった、などにより、価値がなくなったにも関わらず、惰性的にビジュアルが使用されるケースが考えられる。そのビジュアルから得られる示唆があるのか、定期的に見直す必要がある。
データを詰め込みすぎない
ビジュアライゼーションは、コミュニケーションの手段だという事を忘れてはならない。言葉や文章と同じで、冗長で余分な情報を含む複雑なビジュアルは、優れたものではない。
例えば図4のバブルチャートに属性を増やそうと思えば、バブルの線を属性によって実線、点線、波線、二重線と変える、もしくは軸をひとつ増やし三次元のグラフにする、などの方法で増やすことは可能である。しかし、グラフは今より読み取りづらくなってしまう。
よりわかりやすく効果的なビジュアルを作成するためには、ビジュアルの目的を明確し、可能な限り贅肉をそぎ落としたビジュアルを作成することである。数ある情報をあれもこれも、と増やしていくのではなく、目的に必要な情報は何かを突き詰め、減らしていく発想が重要となる。
適切なグラフや表現形式を利用する
データビジュアライゼーションは利用する表現方法によって見た目ばかりでなく、伝わる情報も変わってくる。そのため、効果的なグラフと表現を選択する必要がある。
棒グラフ、線グラフの2種類を例に挙げよう。いずれのグラフ表現できるデータであっても、目的やデータの種類やによってどちらを使うべきかは変わってくる。もし特定の月の販売員ごとの営業成績を比較したいのであれば棒グラフが適しているであろう。しかし過去1年の月ごと販売員ごとの営業成績推移を比較したい場合は線グラフが適切なグラフとなるであろう。
なお、グラフの選択方法について整理した資料として、例えばAndrew Abelaの作成したchart chooser diagramがある。こちらのダイアグラムは目的やデータの情報によってどのグラフを選択するべきかを整理している。
グラフが決定した後もそのグラフ上でどのように表現すべきかを適切に選ぶ必要がある。例えば利用する縦軸や横軸にどの属性を割り当てるべきか、色を利用する場合にどのような色使いにするべきかなど、表現上考慮すべき点は多岐にわたる。ビジュアルの目的に沿いつつ、試行錯誤して、定義していく必要がある。
作為的なデータビジュアライゼーションの良し悪し
例えば、軸の設定により、ビジュアルが与える印象は一変する。下記の例は同じ時系列データを別の角度から表現した例である。下表(1)では予算・実績共に同じ金額レンジで比較しているが、(2)では、より予算との乖離を明確にするため、予算を基準値として実績との差を%で表現している。
自らの意向を強く表現した効果的な表現を選択することは、時として必要であるが、過度な作為性を含む表現は誤った意思決定を促す可能性がある。ビジュアルに含まれる「メッセージ」を強調して意思決定を促進するためのビジュアルなのか、またはビジュアルの利用者によるコミュニケーションを通じて、「気付き」を生むためのビジュアルなのか。状況や必要に応じ、適切なビジュアライズを選択していくべきである。
図5 客観的な表現と意図的な表現の比較
終わりに
ここまでデータビジュアライゼーションを導入するメリットや注意点などを見てきた。シンプルなグラフであってもデータと視点によっては新たな発見が生まれることがある。データがあるのにどう活用すればよいかお悩みの方は、是非データビジュアライゼーションを検討いただきたい。
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