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どうしてそれを知っているの? 消費者を不安にさせないパーソナルデータ活用 

ビッグデータ時代が到来し、消費者は自分のデータが自分に関するどのような情報を生み出し得るか、 その結果自分がどのような影響を被るか、想定することが以前と比較して困難になった。 こうした中で企業がパーソナルデータを預かるためのポイントを紹介する。

どうしてそれを知っているの?消費者を不安にさせないパーソナルデータ活用

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1. 自分のデータが分析されると何が明らかになるのか?

一挙手一投足がデータに記録される時代になった。ウェブサイトを閲覧しても、買い物をしても、移動しても、ジョギングしても、データが生成される。この状況はInternet of Things(IoT、モノのインターネット)で加速している。

これら個人情報とプライバシーデータを含む広く個人に関する情報をパーソナルデータという。パーソナルデータは断片的には小さな情報しかもたらさなくても、他のデータと組合わせることなどにより、従来では考えられなかったような価値を生み出すことがある。

例えば、テレマティクス保険と呼ばれる新たな自動車保険が注目されている。これは保険加入者の個人情報に加えて、車の速度、急ブレーキ・急アクセル、ハンドリングなどの運転特性や、運転距離・日時、位置情報、車両情報などを組合わせて分析することによって運転者ごとの事故リスクを算定し保険料率を決定するものである。より正確に事故リスクを算定し公正な保険料が設定されるため、強力な保険商品として市場でのシェアを伸ばしていく事が想定される。このようにパーソナルデータ活用は、企業にとって競争力強化の源泉となり得る。この事例の場合、安全運転が促進されるという意味で、交通事故の減少という社会課題の解決にも効果が波及するものと期待できる。

こうした新サービスの開発や新たな価値創出の可能性が市場をビッグデータやIoTに熱狂させる一方で、消費者は自分のデータが自分に関するどのような情報を生み出し得るか、その結果自分にどのような便益や被害をもたらす可能性があるのか、想定することが以前と比較して困難になっており、不安につながっている。また、自身のデータがいつどこで誰に収集されているか把握しづらくなったという側面も不安の一因となっているだろう。先のテレマティクス保険の例を消費者目線で捉えると、適切な保険料率や事故の減少といった便益が得られる一方で、位置情報など自身のプライバシーに関わる情報が保険会社やサービスプロバイダに取得され分析されるという意味で、不安につながることが考えられる。

2.持てる企業と持たざる企業の格差拡大

こうした背景で消費者からパーソナルデータを積極的に預けてもらえる企業とそうでない企業の差が顕著になってきた。データを積極的に預けてもらえる企業は他企業から見ても魅力的なため、他企業とのアライアンス等によってますます価値あるデータが集まり、このデータを活用した新サービスを開発できる。こうした相乗効果により競合を引き離してさらに競争力を増していくだろう。

では、これらの企業を差別化する要因は何だろうか。どうすれば魅力的なデータ活用企業になってビッグデータの恩恵を受けることができるのだろうか。総務省の情報通信白書によれば、「パーソナルデータをサービス提供事業者に提供する条件」は信頼と便益の二つに大別できる(図1、※1)。本稿では、魅力的なデータ活用企業となるための成功要因として、「信頼の獲得」(図1「情報の提供先が信頼できる場合」)と「便益の訴求」(図1「情報を提供することで利便性が向上する場合」、「情報を提供することで経済的なメリットを享受できる場合」)という二つの要素について考察していきたい。
 

図1.「パーソナルデータをサービス提供事業者に提供する条件」

(出典)総務省「ICT基盤・サービスの高度化に伴う新たな課題に関する調査研究」(平成25年) 

3. 「信頼の獲得」の要件とは

初めに、最も重要視されている条件である信頼の獲得について検討していきたい。消費者の「信頼」を勝ち得るためには、

  1. 透明性の確保
  2. 法令順守や安全管理の状況を消費者に伝えて不安を和らげること

の二点が重要と考えられる。

個人情報の利用に際してはビジネスモデルを法的枠組みの中でいかに実現するかの検討が必要だが、その過程では消費者に対する透明性の確保も考慮することが望ましい。また、個人情報の利用にあたっては社内利用、委託、第三者提供、共同利用など、利用方法に応じた消費者の同意と取扱いの検討が必要となる。これらは全て法務的な課題のように見えるが、システム制約を受ける課題でもある。例えばどこまでオプトアウト(※2)に対応するかという観点では、オプトアウトの単位を細かくすればするほど消費者のニーズには柔軟に応えられるかもしれないが、それがシステム的に可能かどうかも検討する必要がある。

世界経済フォーラムのレポートによれば、日本のユーザはプライバシーを侵害された経験が少なくても侵害されることへの不安が大きい。一方で、プライバシー保護について自ら対策を取ることは少ない(※3)。裏返せば、対策を企業に期待していると読み取ることができる。この期待が裏切られた、あるいは実際にはそうでなくても裏切られたと感じた場合に、大きな反発が広がる可能性がある。たった一つのインシデントであっても、それが事実であれ誤解であれ、ソーシャルネットワーク上で急速に拡散されていき、世論を形成し得る。これを防ぐために、企業は法令順守だけでなくそれが消費者に伝わるようなコミュニケーションを確立する必要がある。個人情報の第三者提供に関する一事例を紹介すると、企業の公式ウェブサイト上のプレスリリース、プレゼンテーション資料、ウェブページ、また、紙媒体の冊子という手段を用いて消費者に情報公開している。公開内容には、利用するデータ、分析の結果明らかになる情報、個人の特定を防止するための施策、オプトアウト方法等、消費者が不安に感じやすいと思われる項目が含められている。
 

4. 「便益の訴求」における留意点とは

前述の総務省の情報通信白書「パーソナルデータをサービス提供事業者に提供する条件」から読み取れる信頼の次に重要な要素が、利便性の向上と経済的なメリットである。例えば地図アプリでは、自分の現在地情報へのアクセスを許可することで、地図を読むのが苦手な人であってもきめ細やかなガイダンスを得ることができる。

Deloitte Analyticsにおけるパーソナルデータ活用による利便性の向上と経済的なメリット創出の事例として、リコール&セーフティ・アナリティクスを紹介したい。自動車業界において、リコールは多額の補償や市場シェア縮小のリスクをもたらすため、問題を早期に発見して迅速な対応を行うことが求められる。ここでは、自動車の走行情報、コールセンターの通信記録、ディーラーの整備情報、ソーシャルメディアの情報などを利用して、問題の早期発見を目指し品質向上と安全確保の二つの目的から先進的なアナリティクスを行っている。分析手法として、テキストクラスタリングとコンセプト抽出によりテーマを絞る分析と、確率分析とイベント履歴分析による異常検知が活用されている。

この事例では、製品の品質計画、テストデータ、国の規制情報だけではなく、あらゆるチャネルから集まる顧客の声や走行中の自動車から取得するパーソナルデータを含むデータ等を分析した。自動車の品質向上と安全確保は、企業だけでなくパーソナルデータを提供する消費者にとっても利便性の向上と経済的なメリットをもたらすといえる。
利便性の向上と経済的なメリットを消費者に訴求するうえで留意すべきポイントの一つは、どのような仕組みでメリットが得られるかを消費者にとって理解しやすい範囲において行うことである。例えば共通ポイントサービスに対しパーソナルデータを提供する場合、参加企業が多ければ多いほど消費者にとっては自分のデータが誰の手に渡ってどの店が自分にメリットをもたらすのかが見えにくくなると考えられる。このため、枠組みを明確化する丁寧な説明が必要であろう。

5. 終わりに

ビッグデータ時代が到来し、消費者は自分のデータが自分に関するどのような情報を生み出し得るか、その結果自分がどのような影響を被るか、想定することが以前と比較して困難になった。こうした中で企業がパーソナルデータを預かるために重要なのは「信頼の獲得」と「便益の訴求」である。2015年9月に成立した個人情報の保護に関する法律の改正法案(※4)では、匿名加工情報の新設を初めとするビッグデータ活用を後押しする規定が盛り込まれ、法的環境も整いつつある。今こそ企業はパーソナルデータ活用に挑戦するべきであろう。

※1 出典:「平成25年版情報通信白書」(総務省)第3章 第1節P.277より図表3-1-2-8
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h25/pdf/index.html
licensed under CC-BY 2.1 JP http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/

※2 オプトアウトとは、みなし承諾(積極的な拒否をしないことで同意とみなす)の撤回のことで、商品・サービスに関する広告などの受け取りなどを拒否することや、そのために用意された制度や措置のこと。

※3 出典:“The Internet Trust Bubble :Global Values, Beliefs and Practices”, World Economic Forum, 2014 
http://www3.weforum.org/docs/WEF_InternetTrustBubble_Report2_2014.pdf
を参考とした

※4 正式名称は「個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律案」。

 

Deloitte Analytics 数原 麻衣
(注)当該記事は執筆者の私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではありません。

 

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