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リアルワールドデータを活用した製薬業界の先進アナリティクス

デロイト トーマツ グループでは、製薬企業はじめライフサイエンス企業の「リアルワールドデータ」利活用を戦略立案からデータ分析まで幅広くサポートしています。

医療現場では患者に最良の効果が期待できる治療方法を選択するために、臨床実績をもとにしたエビデンスが利用されています。このエビデンスは製薬会社がレセプトなどのデータを収集、分析して情報提供するもので、当該領域においては次々に「リアルワールドデータ」の利活用が進んでいます。

本稿では、製薬企業はじめライフサイエンス企業のこのような取り組みに関して、戦略立案からデータ分析まで幅広くサポートするデロイト トーマツ グループの取り組みを、2人のプロフェッショナルへのインタビューに基づき紹介します。

―まず、製薬関連のプロジェクトを推進されてきたお2人から、製薬企業・ライフサイエンス業界における最新の取り組みについてお聞かせいただけますでしょうか。

阿部:
医療の現場では、「EBM(Evidence Based Medicine)」が浸透してきています。EBMとは、最新かつ信頼できる臨床データをエビデンスとして診療方針を定めていくアプローチです。どの薬が、どのような人にどのタイミングで処方されることで、どのくらい効果を出しているのか……最新の実績を知ることで、医師は的確な診療方針を定めることができ、患者は安心して治療に臨むことができます。

三枝:
昨今の医療の現場においては「エビデンス」が重要になっていると認識しています。特に希少疾患やがんの治療において、治療で最大の効果が見込める選択肢を見極めていくなかで、「エビデンス」は医療従事者にとっての貴重な情報源になります。

エビデンスは製薬会社が情報提供するものです。製薬会社は臨床現場が求める疑問(クリニカルクエスチョン)から、何を明らかにするのか目的を定め、試験や分析の計画や戦略を立てて情報をまとめていきますが、エビデンスに欠かせないのがデータです。レセプト、検査結果、健康診断結果をはじめ、多種多様なデータを収集して分析する必要があります。

阿部:
このデータの収集、特にリアルワールドデータの利用については、一筋縄ではいかない、というのがライフサイエンス業界にとっての課題と言えるかもしれません。


―「一筋縄ではいかない課題」というと、具体的にどのようなものでしょうか?

三枝:
ある程度のデータ量を確保できたとしても、寄せ集めで一元管理されていない、あるいは項目や情報量が足りないなど、質が十分ではないことがあります。例えば、ある患者の治療において、レセプトからは処方薬を変更した事実をつかめたとしても、変更時における患者の検査値や病状の変動が分かるデータがないと実態把握には不十分です。なぜ医師が処方薬を変更したのか背景や理由が分からず、適切な判断だったのか評価も難しくなります。あるいは患者が病院を変更したことで、診療履歴の連続性が途切れてしまうこともあるのが実情です。

阿部:
逆に質(あらゆる項目や連続性が揃うデータ)にこだわると、十分な量が確保できずに分析で得られる示唆が限定的になってしまいますし、ライフサイエンス業界、特に製薬企業は、エビデンスのためのデータ収集には課題を抱えているところが多くあります。

三枝:
さらに、こうした治療や健康に関わるデータは機微な個人情報の最たるものとなるため、データの受け渡しそのものにもハードルがあります。希少疾患領域になると患者が少ないため、データがなかなか揃わないことも多くあります。
 

―何を集めればよいかがわかっても、適切なデータが揃わないことがある、ということですね。このような取り組みを行っていく上で、製薬に関する知見とテクノロジーやデータ分析の両方に精通した人はそう多くいないのではないでしょうか?

阿部:
データ分析やDX(デジタルトランスフォーメーション)が少しずつ当たり前になっている世の中ですので、様々な企業様から問い合わせをいただいています。デロイト トーマツのライフサイエンスでは、製薬会社の課題に対して幅広いサービスを提供していますが、デロイト トーマツ グループは私のような業界の専門知識を持つメンバーと、三枝のようなアナリティクスやテクノロジーに詳しいメンバーが一致団結し、デロイトのOne Teamとしてサポートしています。今回のご紹介したような、エビデンスのための戦略立案からデータ分析のようなプロジェクト以上に、コンプライアンスや投資判断なども含めてサポートできるのが強みだと考えています。

三枝:
デロイトアナリティクスはデロイトがグローバルに提供しているサービス領域ですが、国内外に幅広いプロジェクト事例があります。データ分析ではデータの量や質が足りないところを技術や工夫で補う経験はありますし、必要に応じてデータプラットフォーム作りのサポートから行うこともあります。

一例として、ある対象疾患(がん)では、原則として化学療法をベースとするものの、他の療法との組み合わせの実態が不明確でした。そこでレセプトなどのデータを分析することで、実態が浮かび上がってきたケースがありました。最初の治療では化学療法のみと、化学療法に放射線治療や維持療法を組み合わせるケースに枝分かれし、再発後の2度目の治療では化学療法が多く占めるなど、枝分かれの分布状況が数値を伴い明らかになったことがありました。

 

図:Treatment Flowの例

Treatment Flowの例
※画像をクリックすると拡大表示します

―お話いただいたように、医療の進歩、高度化は今後も社会に求められるものであると考えられます。最後に、今後の取り組みの展望についてお聞かせください。

三枝:
デロイトアナリティクスは決して医療の現場への貢献だけを目的にした組織ではありませんが、今回お話したような取り組みは医療の効果を高めることに貢献していると自負しています。デロイト トーマツが有するデータ利活用やデータサイエンスの知見を応用し、ライフサイエンスの専門家と協力することで製薬企業ならびに業界に発揮して貢献することができると考えているので、よりデロイト トーマツ グループ内での連携も推し進めていきたいです。

阿部:
ライフサイエンス業界はデータ利活用の高度化やAIの利用でも先進的な取り組みをしています。デロイトアナリティクスとの協力で、ビジネス変革、デジタルトランスフォーメーションをさらに強く推進していけると思います。ステークホルダーの期待に応えるべく変革を望むライフサイエンス企業へ、変革の触媒として伴走していきたいですね。

 

プロフィール

三枝 聡 
有限責任監査法人トーマツ デロイトアナリティクス
マネジャー

大学院修了後、商社系SIerにて、DWH構築やBIシステム構築など情報系システムの開発から運用に至るまで経験。現職では、幅広い分野・業態に対してデータ分析を活用したアドバイザリー業務等に従事。近年は、ライフサイエンス領域を中心としたRWDを活用したDB研究の実行支援を担当しつつ、データ利活用組織の新規立ち上げやAI/データガバナンスに係るアドバイザリー業務へも注力。

 

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