
苫東GXHUB構想:特別鼎談
「再エネ・水素・ CCUS」脱炭素3大インフラを包括的に提供する先進的な産業地域へ(後編)
デロイト トーマツ グループは国土交通省から受託した「苫小牧東部地域におけるカーボンニュートラルの推進等に関する調査業務」の一環として、「苫東GX HUB構想」を策定した。
苫東GX 苫東GX HUB構想は地産地消の再生可能エネルギーネットワークの整備に加え、水素サプライチェーンの構築、周辺地域におけるCCUS事業との連携強化により、苫小牧東部地域(以下、「苫東地域」)を日本のカーボンニュートラル実現に向けた地域産業のモデルケースとしていくことを提言したものだ。ここでは、前後編にわたって苫東GX HUB構想に関わる人々の声から同構想の描く未来を読み解いていく。
後編の今回は苫小牧市の岩倉博文市長、株式会社苫東の辻泰弘代表取締役社長に聞いていく。聞き手はデロイト トーマツコンサルティングのシニアマネージャーである榎本哲也が務める。
CCUS Leadership
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下田 健司 Kenji Shimoda
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パートナー -
榎本 哲也 Tetsuya Enomoto
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苫小牧市長に聞く、同市のカーボンニュートラルに向けた政策
苫小牧市では、2021年に「2050ゼロカーボンシティへの挑戦」を宣言した。ゼロカーボンシティを実現させるための第一歩として、同市における現状や課題を整理し、導入目標や取り組むべき施策の方向性を示すべく、2022年3月に「苫小牧市再生可能エネルギー基本戦略」を取りまとめている。こうした取り組みの背景を、苫小牧市の岩倉博文市長が話す。


苫小牧市市長
岩倉 博文氏
「気候変動対応は世界的なミッションで、苫小牧市としても避けては通れません。本市では、地球温暖化対策の一つとして、2008年にCCS(二酸化炭素回収・貯留技術)に関する地質調査も開始し、2010年に『苫小牧CCS促進協議会』を設立、2012年に苫小牧地点での実証試験が決定し、2016年4月から2019年11月にかけてCO2(二酸化炭素)圧入量30万tを達成しています。また、二酸化炭素を資源として再利用するカーボンリサイクルの取り組みも開始しています」
取り組みは着々と進んできた。
「当市では2021年にゼロカーボンシティ宣言を行い、2050年までに二酸化炭素の実質排出量ゼロを目指して多面的なチャレンジをしています。専門的な知見はデロイトさんに頼るところは多いですが、しっかりとした計画を立案、それに基づき町ぐるみで環境を整備していきたいと考えています」
デロイトも伴走支援する苫小牧市のゼロカーボンシティ政策、その取り組みの中で苫東地域の位置づけはどうだろうか?
「苫東地域のような開発可能なフラットで広大な土地は、日本のどこにもないでしょう。市としても日本の新しい成長、発展のために必要な地域と捉えています。すでに多くの太陽光パネルを並べ、都市の中でも圧倒的な発電量を持っており、まさにゼロカーボンシティ政策と結びつけられる地域といえるでしょう。実際、私どもも株式会社苫東と共に企業誘致に奔走していますが、ゼロカーボンをベースとした産業集積地という視点で同地域を説明すると多くの方々からご評価をいただいており手応えを感じています。最近では愛知県で説明をさせてもらいましたが、高評価をいただけました」
苫小牧市は愛知県から自動車関連をはじめ、物流など多種多様な企業が進出しているほか、苫小牧港と名古屋港はRORO船やフェリーの航路も結ばれている。
榎本は市長の話を聞いた上で、次のような問いかけをした。「苫小牧市はダブルポートを有することから、燃料分野での脱炭素化も必要になってくると思いますが、再エネ以外に実施しているカーボンニュートラルの取り組みついてはどうでしょうか」
「CCUSおよびカーボンリサイクルの推進に注力しています。足元ではCCUSに関する産業間連携検討会議がデロイトの榎本さんを中心に進められており、CCSからCCUSへの拡張性も踏まえた具体的な検討がなされています。この取り組みは空港・港湾へのゼロエミッション燃料供給にもつながり、我々の政策とも合致していることから、市としても最大限応援していきたいですね」と、市長は話し、デロイト トーマツに対して期待を寄せた。
苫東地域を立地するだけでカーボンニュートラルが実現できる日本初の産業基地へ
「私が株式会社苫東の社長になったのは実は二回目です。一回目の就任時は東日本大震災直後でした。日本でも再生可能エネルギーの重要性が多く検討され、苫東地域でもそれができないかという強い思いはありました。メガソーラーの設置には、平坦な土地で日射量が多く、かつ冷涼であり、そして電力系統との連携がしやすいという条件が必要でしたが、苫東地域はその点において適地です。ただ、当初設置されたメガソーラーはFIT制度をベースに計画されてきたため、FIT終了後にどのような展開ができるかが課題でした。今回の調査で提言された『苫東GX HUB構想』は、その解決策の一つと感じ、今年4月より私直轄の会社横断的な組織としてGX戦略推進室を新設しました。今年度から始まる3か年の次期中期目標で苫東地域を先進的なGX産業エリアの形成を目指していきます」

株式会社苫東 代表取締役社長
辻 泰弘氏
そう話すのは、株式会社苫東の辻泰弘代表取締役社長だ。同社は苫東地域の土地造成、分譲、賃貸、管理などを行っている。辻氏の期待感に榎本が応じた。

「辻社長がおっしゃる通り、2035年にメガソーラーは所謂卒FIT電源になることから、卒FIT電力を地域で活用できる仕組みを作ることで、地域の産業が安価なグリーン電力を活用できるようになります」
ただ、2035年までには10年以上の時間がある。
「そこでまずは太陽光発電所を新設し、自営線やコーポレートPPAによって近隣の需要家に供給していき、それらを接続していくことで大規模なマイクログリッドを段階的に構築していく戦略を描きました。構想している規模でマイクログリッドを組めれば、苫小牧地域のグリーン電力需要を大きく上回る電力を供給できることになります。余剰電力からは水素を生産し、CO2と合成し、合成燃料を作ることができます。苫東に立地する企業の多くは、電力だけでなく、化石燃料も多く消費しています。カーボンニュートラルの実現には再エネの供給だけでは不十分で、水素や合成燃料も同時に供給できるからこそ、立地するだけでカーボンニュートラルが実現できる日本初の産業基地となるのです」
苫東地域がそのような産業地域にある素地として、環境・地の利もあると辻氏は話す。

「苫東地域は脱炭素化の取り組みが早い自動車関連産業が多く集積していることから、脱炭素に向けた取り組み目標年を、卒FITの時期である2035年と合わせることが可能となります。苫東地域及びその近隣には、北海道における重要な産業インフラとして苫東厚真火力発電所、苫小牧港、新千歳空港、苫小牧工業集積などがあります。各々の事業規模が大きいため、事業の実証段階はもとより、ビジネス段階に移行するイメージがつきやすい地域でもあります。その上で苫東地域には約3200ヘクタールの緑地も有しており、今後脱炭素社会の実現に向けて、その位置づけがますます注目される可能性があるのではないでしょうか」
実際に企業などからの相談も増加傾向であり、それは立地企業に限らないという。
「苫東地域を含む苫小牧地域では、脱炭素社会に向けたポテンシャルの高さが認識されつつあると感じています。立地企業のみならず、新たに苫東地域において、GX関連事業を行いたいという相談が増えてきています。大切なのはこれら相談を相談として終わらせないこと。マッチングなどの側面支援を行うことで、ビジネスベースの話へ進むよう取り組んでいきます。そのためには、これまで以上に事業者ニーズの把握を行うと共に、苫東地域におけるGX事業を展開するうえで、キーとなる関係者との連携強化を図ることが重要でしょう」
中国とシンガポールの共同開発である「蘇州工業園区」では管理団体があらゆるサービスを提供しており、その中には投資、融資や人材や情報サービスなども含まれる。辻氏は同区の管理委員会のような存在を今後の苫東のあるべき姿の1つとしてイメージしていると話す。
「最近話題となっている次世代半導体企業といわれるRapidus(ラピダス)についても千歳市の進出候補地は苫東地域の臨空柏原地区からは比較的近い場所にあります。そのため関連業務を行う企業の方々からの相談があるなどの動きが活発化しています。私たちとしても北海道の再エネを活用した半導体関連産業を構築することなどで、半導体市場において、一定のポジションを早期に確保できるよう連携・協力していきたい。そのためには、私たち自身も大きく変化し、対応していく必要があります。そのために生まれたのが横断的な組織、GX戦略推進室です。苫東GX HUB構想のように点と点だったものを面で捉えるような取り組み方へ変えていきます」

今回の鼎談を通して、聞き手を務めた榎本哲也は苫東GX HUB構想について次のように話した。
「私たちは苫東GX HUB構想の他にも、苫小牧における産業間連携を活用したカーボンリサイクル事業でCCUSや水素利用の調査も実施しており、これらを有機的に連携させることが、使命だと考えています。当社の総合力をもって、我が国のカーボンニュートラル実現に貢献していきたいと考えております」
※取材は苫小牧岩倉市長は2023年3月、苫東辻社長は2023年4月に行いました。その時点での内容となっております。
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