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“¥”が円から元になる日

日本円と同じく「¥」の通貨記号で表される人民元。その元の貿易通貨としての存在感が急速に高まっている。中華圏での貿易拡大と中国政府による通貨の開放政策によって、国際化する可能性のある人民元の日本経済への影響と、今後の課題について解説する。

“¥”が円から元になる日

同じ“¥”でも人民元が貿易金融通貨で世界第2位に

日本円と同じく「¥」の通貨記号で表される人民元。その元の貿易通貨としての存在感が、急速に高まっている。国際銀行間通信協会(SWIFT)によると、昨年10月に、貿易金融(*注1)における人民元の通貨シェアは8.66%となり前年からほぼ倍増、ユーロ(同6.64%)を抜いて、初めて世界第2位になった。

背景には諸説あるものの、主なものとして中華圏での貿易拡大と中国政府による通貨の開放政策がある。SWIFTによると、貿易金融で人民元を使う国トップ5は、中国、香港、シンガポール、ドイツ、オーストラリアである。大半は香港・シンガポールと中国の貿易に使用されているが、輸出入で密接なつながりのある欧州や豪州にも拡大している事は注目される。もちろん外為市場よりずっと小さい貿易金融市場での話で、しかも同月の取引中81.08%を占めるドルには及ばないが、円(同1.36%)を引き離し、人民元は着々と主要通貨の仲間入りを果たしている。

(注1) 貿易金融
銀行が、輸出入業者に対して商品の輸出入取引に必要な資金を融通することや、信用を供与すること

人民元の扉を開いた中国の狙いは

人民元の国際化は今後も進むのだろうか。中国との貿易が拡大する可能性を考えれば、その可能性は高い。また2011年からは中国本土外で取引できるオフショア人民元(*注2)の取引を香港などの海外市場で本格化させたことからも、中国政府が人民元を国際的な通貨にする狙いを持っているのは明らかだ。中国政府は近年、人民元と他通貨の取引の規制緩和を進めていて、日本円などとの、ドルを介さない直接取引も始まっており、中国と取引のある海外企業では取引コスト削減や利便性のため、人民元による決済が徐々にではあるが、増えている。

それでは、ドルに並ぶ主要通貨になるのかと言えば、それにはまだまだ課題が多く、道のりは長そうだ。人民元は一部規制が解かれたものの、政府による資本移動規制が残り、海外の投資家にとってはまだ使いづらい。中国の貿易黒字は割安な人民元にあるとして、欧米では人民元の柔軟化(変動相場制への移行)を求める声が強いが、人民元の柔軟化はインフレ抑制につながる反面、これまでのような輸出をテコとした経済成長が難しくなることを意味している。さらに、世界最大の米国債保有国としては対ドルでの人民元の上昇によって為替差損を被る懸念も大きい。中国がインフレ抑制と成長確保のジレンマに直面して綱渡りの経済運営を強いられている現状では、積極的な為替改革へのハードルは極めて高いのだ。

それでも人民元の影響力は世界に広がっている。リーマンショック後の中国政府による4兆元(当時のレートで約57兆円)の財政出動は世界経済の回復を牽引し、米国主導の経済秩序に一石を投じた。ネパールなど周辺国では「自然に」元を使う動きも広がる。米ドルに対抗できる存在として、アジアでの貿易には人民元を使う場面が増えていく可能性もあるように思われる。

(注2) オフショア人民元(CNH)
中国国外で取引できる人民元。オフショアとは「岸から離れた」という意味で、非居住者向けに、国内の法的制約は受けず、比較的緩やかな規制や柔軟な課税方式を認める市場をオフショア市場という。人民元には、大きく分けて中国本土でのみ取引可能なオンショア人民元(CNY)と中国本土外で取引されるオフショア人民元(CNH)があるが、中でも香港オフショア市場で取引されるCNHは量が多く、同市場内では2013年にCNHが香港ドルの決済額を超えている。

複雑化するマネーの流れを読む

人民元の勢力が海を越えて広がっている事実は、日本にいるとあまり目につかない。日本企業の経営にどれ程のインパクトがあるかを、正確につかむことも実際には難しい。それがメリットになるかデメリットになるかも、各企業のポジションによって違ってくることだろう。

ただし、為替といえばドルを見て、円高になれば日本経済に悪影響と言って大騒ぎし、1ドル何円になると何億円、と為替感応度の表を頼りに企業業績への影響を測るのは過去の話にしなければならない。グローバルな経営の中では、それぞれの通貨が複雑にからみあって動き、もたらす影響も、一元的ではないのだ。

人民元が独自の動きを始めたらどうなるか。突然日中関係が緊張した場合、ビジネスにどう影響が及ぶのか。このような事態も想定し、既に一部の外資系企業では、オフショアの人民元を使って為替対策に取り組んでいる。万が一、アジアでの貿易取引が全て元に置き換わっても慌てないよう、我々も尖閣などの政治問題で「東シナ海波高し」と騒いでばかりいないで、金融市場におけるうねりを受け止めながら、将来のマネーの流れを読んで戦略的思考をめぐらす時が来ているのではないだろうか。

(2014.02.10)

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