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REIT、私募不動産ファンド資産運用会社のコンプライアンスの現状と課題

コンプライアンスと規制

REIT、私募不動産ファンド資産運用会社のコンプライアンスの重要性が高まっている。不動産ファンドに限らず、コンプライアンスはあらゆるビジネスで求められるものではあるが、特にこの分野でコンプライアンスが問われるようになった背景や現状、課題について触れる。

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1.コンプライアンスの重要性

REIT、私募不動産ファンド資産運用会社におけるコンプライアンスの重要性が高まっている。不動産ファンドに限らず、コンプライアンスはあらゆるビジネスで求められるものではあるが、特にこの分野でコンプライアンスが問われるようになってきたのは、主に、次の要因によるものである。

(1) 市場型間接金融の発展
近年、グローバルに資産運用に対するニーズが拡大し市場型間接金融が発展してきた。それに伴い、不動産ファンド等の資産運用受託者がコンプライアンスを含む受託者責任を投資家等から厳格に問われてきている。

(2) 内部管理態勢等に関する規制強化
内部管理態勢に関する会社法の改正等により、運用会社はコンプライアンスを含む内部管理態勢強化を図ることが求められるようになった。特に、金融商品取引法の施行により不動産投資のエリアに金融規制が導入されたことの影響は極めて大きい。

(3) 取引の複雑化とコンプライアンス事案の顕在化
従来に比べて不動産ファンドに関する取引は複雑化している。そのため、取引に関する違法性の有無や、違法ではないとしてもコンプライアンス上の判定がとても難しくなってきている。また、そのような状況下でファンドビジネスに関して社会問題となるような行為が顕在化し、コンプライアンスの重要性が社会的に再認識されている。

一度コンプライアンス事案が発生してしまうと、問題を起こした会社とそれに関与した役職員が法的・社会的制裁を受けるのはもちろんのことであるが、より広く、REIT、不動産ファンドの市場全体に対する信頼さえも揺らいでしまう可能性がある。不動産投資市場の健全な発展のためには投資家の信頼を確保する努力が不可欠である。信頼を確保するために運用会社は公正かつ適切な事業活動を行うことが求められ、かかる観点から、各社、コンプライアンス態勢を構築し適切な運営に取り組んでいるところである。
 

2.コンプライアンスの現状

わが国で本格的な不動産証券化が始まってから10年以上が経過し、不動産証券化のビジネスサイクルが一巡したなかで、各社は多様な経験を積み重ねながら着実にコンプライアンス態勢の充実を図ってきた。また、この間、金融規制当局の証券検査や加盟協会の検査等の指摘事例が蓄積されたことから、REIT等に関するコンプライアンス上の留意点、課題等が相当程度明らかになってきたところである。現在、各運用会社では、一般的に以下のようなコンプライアンス態勢を構築し、健全な運営を志向している。

(1)組織体制
•コンプライアンス委員会
【特徴】
弁護士等外部独立の専門家を構成員としている。
利益相反取引などコンプライアンス上重要な取引を審議対象としている。
•コンプライアンス・オフィサー
【特徴】
社内の常設のコンプライアンス機能であり、強固な権限を有している。
主要な取引についてその経緯を含め詳細に把握し、検証・指導している。


(2) 内部規程
•コンプライアンス・マニュアル
役職員が業務上留意すべきコンプライアンス事項を行動指針として取り纏めて周知徹底している。
•業務マニュアル、チェックリスト等
物件取得・売却、資金調達等主要業務に関する業務マニュアルを定め、その中でコンプライアンス上の留意事項、チェック項目等を明示している。

(3) PDCAサイクル
•コンプライアンス・プログラム
コンプライアンスの方針、課題等を踏まえてコンプライアンス推進のための年間計画を立案し、組織的なコンプライアンス活動を推進している。
•コンプライアンス研修等啓蒙活動
コンプライアンス・チェック
利益相反取引等主要業務を中心に幅広くかつ詳細にコンプライアンスチェックを実践している。
 

3. コンプライアンスの残された課題:説明力の強化

(1) 金融当局の検査を契機とする説明力強化の必要性認識
上記のとおり、不動産分野の投資運用業者のコンプライアンス態勢は順調に整備されてきている。これは、運用業者を中心とした業界各社のコンプライアンス意識の高さの現れであり、具体的な取り組みの積み重ねの成果であると思われる。しかし、その一方で、金融当局の検査や内部監査等社内外の事後検証の結果から残されたコンプライアンス上の課題が浮かび上がってきている。それは、運用会社の「説明力」不足である。当局検査等の事後検証においては、コンプライアンス上の論点について運用会社が適切な対応をしていることを事後的に、第三者に分かるように、社内ルール及び証跡化された資料・データによる合理的な説明が前提となるが、十分な対応ができないケースがあるようである。例えば、資産運用会社の親会社が保有している不動産を投資法人が購入するような利益相反リスクの高い取引について、適切な価格・条件で購入したことを説明しようとしても、不動産鑑定会社を適切に選定していたか、不動産鑑定会社に必要十分な情報を提供していたのか、鑑定評価書の利用に当たって、その内容、妥当性の確認や自己査定との差異分析などを十分に実施していたかなどを、自社のルール・記録、担当者の記憶から説明できないということが起こりがちなのである。

 

それでは、なぜ、J-REIT資産運用会社は、証跡に基づく合理的な説明が難しいのか。
まず、本業界を取り巻くルール自体が不明確であり、何をどのように遵守していればよいのか分かりにくいということが挙げられる。金融商品取引法やそれに基づく金融庁の監督指針や検査マニュアルがREIT等資産運用会社の業務の詳細までは具体的に規律していないのである。金融商品取引法が、幅広い金融商品を対象とする網羅的かつ柔軟な法律であるという性格から派生し、この業界では、各社が自らあるべきコンプライアンス態勢を構築し主体的に運営することが前提とされているのである。したがって、検査等により運用会社の適格性を判定するためには、法令や内部規定への準拠性を形式的に確認するというだけに留まらず、運用会社が自らそのビジネスモデル、リスク、ガバナンス・内部管理態勢等の整備・運営状況を説明するということが求められることになるのである。

次に、この業界では10名前後から40名程度の組織が多く、かつ、異動・転職が多いという特徴があることから、数年に一度の検査で過去の個別性の高い不動産取引等に関するコンプライアンス上の諸問題への当時の対応状況を十分には説明できないケースが多いということがあげられる。さらに、一度構築したコンプライアンス態勢も、その策定時に検討した法令等の理解、論点の検討経緯、運営上の留意事項など、社内規程の行間にこめられた様々な思いが、短期間に部署のメンバーの多くが入れ替わる状況から十分には継承されないということが起こるのである。

 


本業界のコンプライアンスを強化するためには、これまでの取り組み加えて、証跡化の推進と説明力の強化に取り組む必要がある。REIT、不動産ファンドの資産運用会社が求められる能力として、合理的な説明力を確保する必要があり、後日検証に耐えられるような説明のためのツール等を用意し、暗黙知の見える化を図る必要がある。つまり、日常業務の目的意識の明確化し、会社組織を合理化し、役職員の能力を向上し、投資家信頼を獲得することである。合理的な思考力、つまり、投資家のための最適判断能力と合理的な説明力、つまり投資家への説明責任の実践が必要である。説明力については、いつ、どのような場合に説明責任が発生するのか、ケースごとの説明責任の有無、軽重を的確に判断できる能力が求められる。また、何を説明するのか、どのような内容を説明すれば合理的に説明したといえるのかについて的確に認識できる能力も求められる。さらに、どの程度まで説明が必要なのか、どうしてそうしたのか、といった根拠の連鎖の終着点とすべき範囲を客観的に見極める能力も求められるのである。
 

(2) 説明力を強化するために;論点の理解と整合性の観点
REIT、不動産ファンド資産運用会社が当局検査等事後検証を想定し、説明力を強化するために、考慮すべきポイントが2つある。一つは、コンプライアンスに関する論点を理解することである。検査する側と担当者とでコミュニケーションが全く噛み合わないことがある。担当者は、なぜ、それを説明しなければならないのか、それが論点になっているのか、検査する側は何を問題視しているかが分からないのである。そもそも、社内で設定されている様々なルールやコンプライアンスチェックなどのポイントも、何らかの目的があって設定されているものであるが、時間が経過し、担当者が入れ替わる中で、そもそもの規律のポイントが理解されずにただ手順だけが残っているケースがある。そのような状況では、コンプライアンス上の論点について十分な説明をすることは困難なのである。担当者は決められた手順を形式的になぞっているだけで、コンプライアンス上の論点を意識せずに取引を進めているようであれば、事後検証で繰り広げられるコンプライアンスの「素朴な疑問」に回答できないのである。したがって、担当者は、規程、法令の背後にあるコンプライアンス上の論点を理解すべきである。

次に、取引を行うにあたって、それがコンプライアンス上妥当であるか否かを検討するときに「整合性」の観点を意識することが有用である。今年の対応と前年の対応や前々年の対応は整合するのか、各ファンド間、各物件間、当社と同業他社との比較の観点から妥当性を検討するのである。今、行われていることが、コンプライアンス的に本当に妥当といえるのかどうかを常に多角的に検討し、直接規律している法令が見当たらないからといって安易に先に進めてしまうことは、本来対応すべきコンプライアンス上のリスクを無視しているだけかもしれないという慎重さが必要である。あらかじめチェックすべきポイントが明確になっているとは言いにくい金商業者としては、そのような慎重な対応が必要であり、整合性の観点での検証は、事後的な説明力を向上させる効果があるのではないかと思料する。

なお、本稿に記載された意見に関する部分は筆者の私見であり、所属する法人の公式見解ではないことをお断りする。

以上
 

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